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紅の真祖  作者: i-mixs
9/9

告白

美咲君に付き合ってと告白した翌朝


昨日、私は力を使ったせいで空腹感に襲われていることに気づき、真っ暗な室内で目を覚ました。


この空腹感に私は意識が朦朧とする。気付くと私は、何故か昨日の衣装に着替え、口に加えたストローから生命力という食事を行っていた。


私の意識は自分自身を俯瞰し、遠くから見ている。

真祖という力が私の身体だけでなく、精神も支配していた。

これはいわば真祖の生存欲求だ。


すると、祖国のクラシック音楽が鳴り響き、私の意識は精神と身体を取り戻す。


音楽を奏でていたのは私の赤い携帯だ。私が着信番号を確認すると、眷属に渡した共通番号。


私が電話にでると、知った声の眷属の男性が、他の眷属の暴走が確認されたと報告してきた。


人数は三名。

私が日本で眷属にした三名だ。


一人は校長、残りの二名は一年と三年の生徒。


他には今のところはいないようだ。


私は考える。

原因の一つ目は、私が弱体化した時点で眷属にしてしまった対象だったということ。

二つ目は、昨日私は残り少ない力を使ってしまい、眷属への生命力への供給が一時停止しまったこと、が考えられた。


ただ、これは危険な兆候だ。


ひとまず大きな人数の確保が必要になるだろう。私は早急に手を打つことを伝え、彼に対象の三名の監視を依頼した。


私は昨日のミヤを思い出し、この件に手を出さないで欲しいと改めて願う。



私は締め切ったカーテンを開け、身につけた衣装から制服へと着替え、その上にエプロンを身につけた。


昼休み


私が片手に包みを持って、生徒会室へ向かう途中、先に頼んでおいた校内放送が流れ、美咲君と狐の子を呼び出す。


生徒会室に着いた私は机を移動し、場所を整えて彼らを待っていた。


暫くするとドアがノックされ、二人が入ってくると、私は笑顔で二人を出迎える。


私が一緒に食べる口実で二人を呼んだ事を伝えると、美咲君はがっくりし、狐の子は私を怪しむ顔をする。


彼女は美咲君から聞いた私の人物像が、今回の行動が噛み合わないと感じたようだ。そんな彼女に、私は最近忙しくて、ちょっと気晴らしがしたかったと伝えると、渋々納得したようだった。


私は早朝から、学校を囲むように時間式で発現する術式を配置し、もうすぐそれは作動する。またこの生徒会室には、外との空間と断絶する術式を配置し、その影響を遮断するようにしていた。


私はひどい女だ。


私は嘘の笑いを浮かべ、狐の子と互いに作ったお弁当の話題をきっかけに話題を広げる。


最初に気づいたのは狐の子だった。

すでにチャイムが鳴る時間なのに、鳴らないことを不思議に思ったようだった。


生徒会室の時計を今更のように見て、私は狐の子の話に合わせる。


ここからはもう説明はいらないのかも知れない。


------------------

私は生徒会室から出られない一人を演出し、他の生徒全員と教師に対して術式をかけたのです。


その後の私は、あなたも知っての通り全てをミヤに暴かれ、そして恥ずかしく今もまだここに生きながらえています。


私は、私と私の眷属のために、他の命を犠牲にしようとした女です。こんな私が今更何を言ったとしても、きっとあなたは私を許さないでしょう。


私はあなたにたくさんの嘘をつきました。


あの出来事から三日経った今、私の部屋に着てもらったあなたに、どんなに謝罪しても、決して許されるものではないとも分かっています。


本来私が謝罪する相手は、術式をかけた全校生徒だということも。


幸い、私の眷属はミヤに救って貰いました。だから、私はもうどうなっても構わない。あなたが私に死ねと言うのであれば、それに喜んで従います。


私は、私の最後はあなたに決めて貰いたい。


あと、こんな私が、あなたとつき合いたいなんて言ったことを何てお詫びしたらいいか分かりません。

------------------


私は、部屋に招いた美咲君に対して、床に膝付けて頭を床に着けるように下げた。


彼の表情は私は怖くて見られない。

私は、何て弱く恥ずかしい女なのだろう。


彼は私の前に立ったまま、何も声をかけてくれない。

その時間が私はとても長く感じる。早く私に罰を与えて欲しいと思っていると、彼はゆっくりとしゃがみ、床に着けた手の甲に彼は手のひらを重ねた。


「えっと、いいご、、いやリトスさん、俺にはよく分からない。君はとても強い吸血鬼の真祖なんだろ?そんな君がどうしてただの人間の俺に、そんなにも詫びようとするんだ?」

彼は多分戸惑っているのだろう。


「確かにリトスさんは酷いことをしたよ、でも被害者は全て目覚めて来週には登校できるようにもなるらしいし、彼らに死者も出なかったわけだから。

でも、リトスさんにしてみると、こっちに着てから眷属にした人を亡くしているんだよね?リトスさんにとっては家族同然の眷属を」

できるだけ言葉を選択して、文章を作る彼の手のひらは温かい。


「リトスさんの暴走した眷属は、君は救おうとしても救えなかった。それにリトスさんの眷属を殺したのは、君ではなく美夜さんだ。リトスさんは美夜さんを憎んでいる?」

彼の普段見せない淡々とした口調に、私は驚いた。


「いえ、ミヤのことは恨んでいません。彼女が暴走した眷属を殺さなければ、他の生徒への被害が出たはずです」

「なら、これが最善の結果だとなるよね。もちろん、最初から美夜さんを頼れば違っただろうけど、それは有り得ない仮定の論議に過ぎない。だって、リトスさんを取り巻く立場がまず許さない、ならあんな手段をとるしかなかったはずだよ」

そこには私の知らない彼がいるような気がする。これが彼の中にある別の姿なのだろうか。


「リトスさんは既に知っているよね、俺は中学の頃に姉を亡くしたこと。でも俺はその後、それに関わった五人を全員殺そうとして、その計画までしっかりと立てたんだ。まだ中学生の思考だから、今の俺なら笑ってしまう程、安直な策だけどね」

「殺そうとした?」

「うん。でもそれは結果として、美夜さんが代わりに果たしてくれることになったよ。あの時、もし彼らを殺していたら、美夜さんに食べられたのは俺だった」

彼の喉が鳴った。


「俺は人間がいう正義感ていうものをあまり持っていないんだ。それは今までの経験のせいだと思うけど、俺は選択の上本当に必要なら人の命を奪うのは仕方ないと思っている。美夜さんがリトスさんのために作ったあのシステムのように」

「あなたはミヤから、それを聞いているの?」

「聞いたよ。でも、それを聞いても冷静になった俺は、別段問題があるようにも思えなかった。政治や治安、国民思考、それがもたらす結果、俺も美夜さんの取った選択は最善だと思う。でもこれは美夜さんにしか出来ない選択だよ、リトスさんにはできない」

それはその通りだ、彼女と政府との長い関係があってできたこと。でも彼はミヤや私のような真祖ではない。思いの葛藤は本当にないのだろうか?


「俺は、多分人間よりも、美夜さんやリトスさんに近いんだよ。美夜さんやリトスさんたちは正義なんて言葉は使わないよね。それは正義なんて個々の思いこみを正当化したものと知っているから。それに正義なんて言葉を使うのは人間だけだ」

「だから、あなたは」

「うん、俺には正義はないんだ」

私は改めて理解した気がする。美咲 啓という人間を。


「話は戻るけど、俺はリトスさんに好意を向けて貰える相手とは思っていなかったんだ。俺の本質はこういう人間だし、君はとても綺麗で賢く、俺の手が届く存在じゃないから」

プールに行った日のファミレスでの彼の言葉が蘇る。


「今思えばリトスさんは、真祖であるのに人間に近い立場で俺に接しようとしてくれたんだよね?それはどうして?」

「それは、、、あなたが私を守ると言ってくれたから」

私が少し顔を上げると、彼はちょっと驚いた顔をして私の目を見ている。


「それだけ?たったそれだけのことで?」

「私は誰かを守る立場であって、守られる立場であることは許されない。そんな私にかけてくれたあなたの言葉は、下手なプロポーズの言葉よりも重みある、本当に心に届く言葉だったから、、」

私は少し口が震えている自分の背中を精一杯押す。


「私はあなたのことを好きになりました」


彼は暫く目を閉じ、何かを見つけたかのように言った。

「きっと俺たちは似たもの同士なんだ。人間なのに人と遠い俺と、人じゃないのに人に近い君と」

「あっ」

彼の両手が背に回る。


「ありがとう、俺も君のことが好きだ」


弱い私はまた泣いていた。でも今の私は一人じゃない。彼の温かみを全身で感じ、その中で私は泣いた。



コンコンッと後ろのドアの音がする。

振り向くと、そこにはいつから居たのか、制服姿の狐の子が無言で立っていた。


「リトスさん、ひとまずおめでとうと言わせていただきます」

「あなたどうして?」

「私のことは八重子で結構です、あなたは真祖なのですから。今日は、私は美夜様からの伝言をお伝えにきただけです」


狐の子は、何か一瞬考えたようだ。

「自ら死ぬのは許さないとのことです。もうリトスさんには必要のない言葉でしょうが」

流石にミヤは私の浅はかな考えを見抜いていたようだ。


「それと、お二人の関係を私も祝福します。でも、私も啓くんのことが嘘ではなく本当に好きです。ですから、リトスさんは私に取られないようにこれからも頑張って下さい」

それだけ言い残すと、八重子は一礼して帰って行く。


私は今更もう一つの彼の魅力に気づいた。彼は人間以外にとても好かれる性質を持った男性なのだ。


「ねえ、リトスさんはこれからどうするの?」

「ミヤには好きにしていいと言われたから、このまま学校生活を過ごしたいかな。私の二つある心臓の一つは壊れてしまってバランスが崩れたから、多分余り長く生きられないし」

「そ、そんなことって!」

普段の口調に戻った私は、彼のことを抱きしめて笑った。


「真祖としてはということ。私の寿命は、あなたの寿命と同じぐらいになったの」


その意味を彼は理解してくれただろう。

だから、私はこれから精一杯彼と生きると決意する。


健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、真心を尽くすことを。


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