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紅の真祖  作者: i-mixs
7/9

ミヤ


私は携帯のアラームで目を覚ました。時間は六時。私は普段の起床リズムを設定したまま、アラームの解除を忘れていたのだ。習慣というのは恐ろしい。


ゆっくりと身体を起こした私は、いつもと違う部屋に一瞬戸惑ってから、ここが彼の実家と理解する。遮光カーテンを開け窓を開けると、こんな朝早くというのに、蝉が元気よく鳴いていた。


今日の天気は薄曇り。プールで肌をさらす事を考えれば、私にとっては幸いだった。


外出着に着替えた私が洗面台に向かうと、廊下の途中で、美咲君が寝ぼけ眼で横を通り過ぎる。


おはようと私が言うと、彼は思いだしたかのように振り返り、えっ?という表情で私を見たとたん顔が赤くなった。

「おはよう、いや家に伊井御さんがいることに驚いたというか、ちょっと新鮮で」

私は、何それ?ちょっと酷くない?と少し意地悪な感じで言うと、彼は子供のような顔でごめんと苦笑した。


そこにエプロンをつけた彼の母が現れ、あら二人とも早いのね、じゃあ朝食の準備するわね、と言いキッチンへ消える。

それを見た私は、しまったと思い、すぐに洗面台で顔を洗って髪を整え、彼女の手伝いに走るのだった。


そんな三人で過ごす朝食は、とても優しい時間に私は感じることができたのだった。


午前九時。これから私達は彼の家を出てプールへ向かう。その際、彼の母は私に、リトスちゃんまたいつでも遊びに来てね、とちょっと寂しい顔で言う。

はい、また来ます、と私が明るく言うと彼女は笑みを返してくれた。


待ち合わせはチケット売場ということだった。私と彼は駅から電車に乗り、一回乗り換えてから三駅駅目で降りる。

駅を出ると、直ぐ前に遊園地とプールが併設されたテーマパークが広がっていた。


私たちがチケット売場前で待っていると、彼の友人たちがやってくる。

彼らは、美咲君の中学時代の同級生という事だったが、前回の合コン時とは雰囲気が大分違い、そこに居ても不快感がないような人達のように見える。


来たのは四人。男性女性が半々、彼を見ると、よっ、久しぶりと屈託のない笑顔を向けている。そして彼らは彼の横にいる私を見ると、おおっと言った声を出し、なるほど美咲は国際交流に走ったのか、笑って言うのだった。


私から自己紹介をすると、彼らは私の日本語にびっくりし、これはどうもご丁寧にと、変な敬語混じりで自己紹介してくれた。


その後は、チケットを購入した私達はゲートをくぐり、それぞれの更衣室前で分かれる。私が手早く昨日購入した水着に着替えていると、他の二人の何やらおかしな視線が向けられた。


どうしたの?と私が彼女たちに聞くと、美咲君はそういう体型の女性がタイプだったんだと思って、とちょっとしょげた顔をしていた。

いや、そういう関係じゃないから、と私が言っても信じて貰えない。この水着は彼に選んでもらった、と先程言ってしまった私にも問題があったかも知れないけど。


今の私は外見年齢が幼くなっているとはいえ、全盛期程でないがプロポーションは整っている方だと思っている。でも日本の女性は他の国の同年代の女性と比べると幼く見えるのだし、体型のことでそんなに気にすることはないと、私は思うのだ。


着替え終わった私たちが出ると、プールの入り口で美咲君たちは既に着替え終わり待っていた。


美咲君以外の彼らは私達に視線を向け、おおっと声を上げた。美咲君は私と目を合わせた後にさっと視線を足先まで降ろしてから、顔を赤らめた。私の水着の選択は間違っていなかったらしい。


プールは家族連れやグループ、カップルなどで賑わっており、そこには大きな流れるプールや、スライダー、波のあるプールが見えた。


私達は、大きな浮き輪をいくつかレンタルし、流れるプールに入る。

浮き輪に腕を通した私は、ゆっくりとした水流に身を任せる。美咲君はそんな私の横で男友達と会話しながら、立ち泳ぎで流れに乗る。


お昼近くになり、私たちは売店で昼食を購入し、パラソルのあるベンチの空きを見つけてそこに座った。


焼きそばやフランクフルト、ラーメンなどをそれぞれ食べながら会話は弾む。

その途中、男友達の一人が美咲君を見て、おまえが元気で良かったよ、と言った。そうそう、中学の頃はお前は今にも消えそうでヒヤヒヤしたもんだと、もう一人の男友達が言う。

女性二人も、うんうんと頷く。


彼は、その当時は本当みんなには迷惑かけたよ、と困った顔で言った。


仲の良い友人たちだと私は思った。彼のことを本当に心配して、今も付き合いのある友人。

姉を失った当時の彼を支えきることはできなかったにしても、踏みとどまらせることはできたのだろう。


私は横に座る彼の顔を見ていると、女友達の一人が、本当に今は幸せそう、と言ってきた。何が?と言う彼を、私を含めたみんなが見て笑う。


午後二時、プールを出た私達は近くのファミレスでお茶をしていた。

それぞれの学校の話をしていたとき、伊井御さんて生徒会長代理なの?とびっくりされる。私は、流れでね、でも大変なときは美咲君に手伝ってもらっていると話すと、周りはからは、ほーと感心する声が出た。


美咲が生徒会の手伝いなんて想像できない、と言い始め、そりゃ彼女目当て以外に何があるよ、とか、なんか楽しそうだね、とか、私もそっちの高校行けば良かったかな、等それぞれ言い出す。


美咲君は、彼らの話を聞き終えると、一度息を吸って周りを見た。

「みんな適当なこというなよ、俺なんかが伊井御さんに相手にされる訳ないだろ。彼女に失礼だ」

彼らは言葉を失った。もちろん私もだ。


そして私は笑った。周りのみんなも笑った。

何故笑われたのか分からないのは、彼だけだった。


夕方になり、私達はファミレスで解散。

美咲君は実家に帰るため途中の駅で分かれることになったので、携帯を最新の秋モデルに変えたいので今度つき合ってとお願いをすると、彼は了解と返事をしてくれた。


私が帰りの電車の中で座って、プールの心地良い疲労を感じていると、一通のメールが入る。


差出人は眷属の校長だった。


内容は九月から新入生が入るという事と、その生徒が政府関係のものであるという事が書かれている。また添付ファイルが一つあり、それを開いた私は息をのんだ。


それは、青みがかった黒髪の少女の写真。彼女の顔を私は知っていた。

以前ミヤの探偵事務所のホームページに掲載されていた、狐の子の写真だった。


私は携帯を握る手が汗で滲むのを感じ、身体が僅かに震えている自分を自覚する。


ミヤが動き出した。


帰宅した私は、今後について考えないといけなかった。

暫く行動に移すのは避けた方がいいだろう。サンプルは集まったのだから、今のところは吸収する生命力の割合調整に時間を割くことにしようと考える。


ミヤは犯人を私だと、まだ気づいてはいないだろう。私は眷属に暫くは行動を移さないようにとメールをする。


ミヤという存在は、神に一番近い者と表現することができた。この世に存在する真祖や、それに値する者たちよりも長い時を生き、勝る力を持つ存在。


普通に戦って勝てる相手ではない。どうしたものかと私が悩んでいた時、美咲君からメールか入った。


メールの本文はなく、添付ファイルが一つだけ。

それを開くと、今日のプールに行ったメンバー全員が写った写真が表示された。確かファミレスでアルバイトの女性に撮って貰ったものだ。


そこに写るのは笑顔の私達。それを見た私の厚い真祖の化粧は、ただの涙で流されてしまった。

私は胸に携帯を抱えて、静かな寮の中で一人泣き続ける。


私は何をしているんだろう?何故泣いているんだろう?何でこんなに心が苦しくて仕方がないのだろう?


ミヤ、あなたなら私のこの気持ちが分かるのだろうか?私が進む道を知っているのだろうか?私を導いてくれるのだろうか?


でも、もう遅すぎる。

私は色々と嘘をつきすぎた。進む以外の道は私にはない。


私はもう一度写真を見た。


もし叶うなら、私は今を失いたくない。

そのためなら私は何でもしよう。この命さえ差し出してもいい。


私は深いまどろみの中へと沈んでいった。



八月の最終日、私は美咲君と二人で家電量販店の携帯売場の前にいた。


今日は、先日約束した携帯の機種交換をするためだ。


私は美咲君にアドバイスをもらい、必要な機種を選別する。

二つまで機種を絞ったが、スペックは両機種とも全く同じで、基本ソフトも変わらない。

そんな私に彼は、じゃあ好きな色がある方にしたら?と再びアドバイス。


なるほど、と私は鮮やかな赤色がある機種を選択した。


機種交換を終え、喫茶店で彼と話しながら、私は手早く新しい赤いスマートフォンに自分用のカスタマイズを始める。その速度に彼も驚いていたようだけど、こういうのは慣れているから、と流してしまう。


私は最後に、待ち受け画面の写真を選択した。


私は得意げに彼にその画面を見せつける。それはこの間のみんなで写した写真。


彼は、その写真気に入ったの?と聞いてきたので、私は、とってもと答えた。


私と彼との思いでの写真ほど、このスマートフォンにあったものはないと、私は考えたのだ。


そして、二学期の始業式を迎えた。

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