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紅の真祖  作者: i-mixs
4/9

パートナー

冬休み


引っ越しと部屋の整理が終わった頃、一学年は冬休みに入っていた。


私は女子寮での知り合いも増え、この環境に何とか入り込めたようだ。休憩室で行われるお茶会も新鮮で楽しいのだが、慣れてくると安易に時間を潰すだけの井戸端会議に近い時も多く、私は少し距離を置くようになった。


私から見て人間は安易に流れやすい所があり、意識してするならまだいいが、ただ流されているのでは意味がない。


私が下手に長く生きすぎているというのも、そんな考えにいたる理由かも知れないが、それでも何かもっと意味ある過ごし方をしたいと思うのだ。


そんなことを思いながら、ノートパソコンを開き仕事を行っていると、美咲君からのメールが届く。


彼とはあれ以来も買い物につき合ってもらったり、メールのやりとりをしている。


先日、駅前の商店街で買い物をしていると、彼と少し年配の女性が歩いているところに遭遇した。

私は彼に挨拶をし、隣の女性にも頭を下げた。

女性は彼の母親だった。

顔のしわが深く、年齢よりも老けて見える。それはきっと彼女の経験が刻んだものと私は見て取れた。


彼女も私に挨拶し、横にいる彼を肘でこづく。話を聞くと、いつも息子が来るのでは面白くないので、自分がこちらに来たという事だ。


私はお世話になっている彼のお礼も兼ねて、彼の母の接待を一緒にすることにした。私にしてみれば彼女はずいぶん年下の女性だが、母という経験は私にはないこともあり、それだけでも私にはある種の尊敬に近いものがある。


私は彼を立てつつ、彼女と過ごした。

彼女は私の落ち着きに何かを感じたのか、私よりしっかりしてて息子にはもったいないわと言う。

彼は何か慌てているが、私は、生まれた環境の違いだけですよ、と笑顔で答えた。

彼女は夕方には再び電車で帰るということで、駅までお見送りをする。

彼女は改札に入り、ホームの階段に姿を消すまで終始笑顔だった。


彼女の姿が消えた事を確認してから、彼は私に、今更だけど本当にごめんと言う。彼から彼女の発言の意味を知った私は、多分少し紅潮していたかもしれない。


そんな彼からのメールには、もし良ければと、普段の彼には見られない低姿勢の文頭だった。


内容は、何かしらのパーティの面子が足りなくて、無理やり彼が人数に加えられたことと、女性も足りないらしく私を誘っても良いか?というものだった。


私は、別にかまわないけどドレスコードはどうなっているの?と返信をする。

パーティ用のドレスは数着は用意があるけど、どのような舞台かを知らないと彼に恥をかかせてしまうだろう。


すると彼からの電話の着信があった。

私が出ると、また低姿勢。そして、この集まり、合コンというものについて説明をしてくれた。話を聞いて私はやっとそれが意味するものを理解する。


「つまり、私は嫌々参加する美咲君のパートナーとして付き添えばいいのね?」

彼は、まあそんな感じだよと言い、服も私服でいいからと、加えて言った。


当日、夕方近くに寮の入口で彼と合流。

そして待ち合わせのファミレスへ向かうと、既に彼と同い年と思われる男性が三名、女性も三名が大きなソファー席に場所をとっていた。横にいる彼はあからさまにめんどくさそうな顔をしている。まあ、彼の性格からすれば当然だろう。


その場を取り仕切る男性が、座る位置へと案内する。男女交互で席に座らないといけないらしい。私は何故か美咲君と離され、知らない男性に挟まれた。

間の前にソフトドリンクの入ったグラスが来ると、互いにグラスを軽くぶつけて、自己紹介を始める。


男性たちはやはり彼と同じ四月に二年となる生徒で、女生徒も同じくでクラスは別々だった。彼らは寮生ではないようだ。

私も他の女性にならって自己紹介するが、男性の視線は余り好ましいものではない。昔、貴族のパーティに招かれたとき、私を真祖と知らない男性が私に色々と誘いの言葉をかけてきたことがあるが、それと似た視線だった。真祖と知ったとき彼らが引きつっていたことが懐かしい。


ある程度話を合わせつつ、私は彼を立てるようにする。それがパートナーとして私が努めることだ。

彼の周りの見知らぬ女性は、横にいる彼に対して色々と話しかけているが、彼は素っ気ない態度を見せている。そんな彼のフォローを私がすると、女性陣は機嫌を直すが男性陣は微妙な表情をする。


この場を仕切る男性が場所を変えようと言い、前に二人で行ったカラオケ屋へと徒歩で向かう。

前に二人で行った場所ねと私が彼に言うと、後ろを歩く女性がそれを聞いたらしく、会話に割り込む。

彼女もここでのカラオケは初めてらしい。


カラオケ屋に着くと、既に予約を入れていたらしく広い部屋に通される。


席は同じく男女交互のようだったが、私は先ほどの彼の居心地の悪さを察し、彼の横の席を先に陣取った。他の男性は不服そうだったが仕方ない。でも女性陣にはそのような顔は見られなかった。


男性陣は楽器をやたら派手に振り、せっかくの歌声も聞き取れないぐらいにテンションを上げる。場の盛り上げは確かに必要だろうけど、騒がしいだけでは子供の遊戯と同じだ。


私はそういった表情は極力出さないようにし、彼の歌声に拍手で応える。

歌の合間も会話が色々とあったが、私は彼と他の女性たちとよく話していたような気がする。


カラオケが終わり解散となると、何故か彼らは電話番号やメールアドレス の交換を始めていた。

他の男性が私にも同様に要求するが、私は、彼のパートナーだから彼を通してほしいと答えると、彼らは渋々引き下がる。それを見た他の女性陣は、目を輝かせて私に交換をお願いしてきたので、そちらは快く受け入れた。


彼も同様に女性陣からお願いされていたので、嗜みとして交換しておいたら?と言うと、彼は緊張しながらそれに従う。


彼は自分では気づいていないが、性格も容姿も悪くない。


彼の友人が無理矢理に彼をメンツに誘った理由も、彼自身は人数合わせとしか感じていないのだから、そう言う面で彼は鈍感としか言いようがない。

もう少し自分に自信を持てばとも思うが、それは彼には必要ない自信かもと一人思い、私は口に出せないでいた。


すると交換した女性陣の中にはあからさまに喜んでいる子がいた。それを見たとき、私のこめかみ近くが震えたような気がしたが、直ぐに治まったので気のせいだったようだ。


それぞれ帰路に就く。

私たち以外は駅の向こう側であったり、電車で数駅先らしいので、寮までの帰りは彼と二人きりだ。


彼は改めて、今日は無理なお願いをしてごめんねと言う。私はこれも良い経験になったからというと、私のパートナーの困った顔が少しほぐれたように見えた。


四月


二年の始業式になって、私は初めて校舎に入る。

クラス分けの表は既に張り出されていた。美咲君は2-A、私は2-Bだ。

眷属とした校長に同じクラスにしてもらう事も出来たが、これからのことを考えると、常に顔を合わせる事になるのは私が辛かったこともあり、隣のクラスとしてもらったのだ。


クラスの中でも私の赤い髪と容姿は目立つらしく、色々な人が私に話しかける。

私が日本語に達者なのを知ると、その人の輪がさらに大きくなった。


担任の男性が教壇に立ち、ホームルームが始まる。


教室に備え付けられたテレビに、眷属とした校長が映る。その舞台となっている場所は、体育館のようだった。


画面は姿勢良く並んだ新入生とその保護者に向けられてから校長の挨拶が始まる。

その話し方は慣れたものだ。これから自分たちが行うことについて、まるで他人事のように感じるような事務的な挨拶。


それが終わると、次は生徒会の挨拶だった。上級生、在校生の代表として並んで現れ、それぞれが新入生に向けて挨拶を行う。


挨拶が終わると会場から拍手があがり、それに合わせてテレビの放送も終わる。


担任の男性がこれからの流れを伝えると、新しい教科書が配布された。

本日はこれで終了のようだ。


私は配布された教科書を鞄に入れると、挨拶も片手間に教室を出る。すると偶然、美咲君と鉢合わせした。


彼は同じクラスになれなかったね、と残念そうに言う。私もそれは同じ気分だったが、それを彼に言うことは出来ない。私はこれから彼に嘘をつき続けないといけない。


私は今、一体どんな顔をしていたのだろう。


私には色々な顔がある。

真祖として気丈な顔、領主としての顔、彼の同級生としての顔、伊井御 リトスとしての顔。


今になって思うと、このときの私はどんな顔をしていたとしても、心の中では泣き顔だったはずだ。


何故、私は彼に泣き顔を見せていたのだろうか。


こんな時に泣き顔をする理由は本当は分かっている。私はそれを隠すために、私自身にも別の嘘を塗り重ねていく。


美咲君に聞くと、このあとは特に予定はないが暇だから書店でも行こうとしているらしい。そんな彼に対し私は、暇なんなら校舎の中を案内してくれない?とお願いすると、私が私がまだ校舎内を知らないことを思い出し、いいよと言ってくれる。


そして私は、彼を正門から外に出さないことに成功した。


校舎の中を案内してもらう最中、私は終始笑顔。彼の気持ちが外に向かないようにする必死な私の笑顔。


それは何より醜い笑顔だ。


私はこの人に、何故そんな顔をしないといけないのか?

私は自分が嫌になる。真祖として領主として、伊井御 リトスとして、女として。


私は嘘の笑顔を彼だけに振りまき続ける。瞳に薄い涙の膜を張って。


もっと他に方法が無かったのか?と、何度も同じ言葉を繰り返すのに私は疲れてきた。もう痺しても良いんじゃないかと自虐的になりそうになる。

そんな私を彼はどう思うのだろう?


私を慰めてくれるだろうか?

私を抱きしめてくれるだろうか?


今更私は気づく。

私は美咲君に守ってほしいのだ。

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