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紅の真祖  作者: i-mixs
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模索

これは私の、伊井御 リトス(いいご りとす)としての始まり



私が美咲(みさき) (けい)と出会ったその夜、交換したアドレス宛に感謝の気持ちを改めてメールをする。


これは私の酔狂かもしれない。


もしくはホテル暮らしに飽きた、私のちょっとした暇つぶしだったのかもしれない。邪魔をされたくなくて、ホテルの最上階のスイートなんて選択しまった私への報いなのかもしれない。


とにかく私は変化を求めていた。


若いが落ち着きがあり、変化する世界に抵抗のない少年というのが、彼に対しての私の印象だった。ちょっと前の私なら気に入ってサクッと眷属にしていたと思う。


ただ、今の私には眷属を増やす気はない。今いる眷属たちを守ることで精一杯なのに、新しい眷属を作るなんて余裕は私にはない。


たった一度出会った少年に、ここまで考える流れに至るには、他にも理由がある。


彼からはほんの微かに香ったのだ。

血の臭いが。


彼の体に流れるヘモグロビンの臭いという意味ではない。体にまとわりつくという表現で伝わるか分からないが、彼は自分以外の血を糧にしてそこにいるという感じがしたのだ。


着信音に合わせ、メールの返信が来た。

差出人は彼だ。

内容は、ファミレスでの私の祖国の話が楽しかった旨が書かれている。

私はそんなやりとりが楽しかったのか、ちょっと調子に乗ってしまった。


"私はこの町に着たばかりで詳しくないので、良ければ次のお休みに案内をお願いできないかな?"と。


返信を済ませてから、安易にそんなことを書いてしまった自分に溜め息をしたが、すぐに彼からの"じゃあ、何処で何時に待ち合わせする?"という返信に私の溜め息は掻き消えた。


「さてと」

私はノートパソコンを開き、各種製品の売り上げなどをチェックする。現在自国には眷属以外の普通の人間だけしかいない。親子数代私に使えてくれたものたちを筆頭に管理を任せており、私はその決定なり詳細な指示をフォローするぐらいですんでいる。

新しい製品の画像もクラウド上にリンクされており、メールの受信容量に関係なく高画質でチェック出来た。


私はいくつか要望をメールに記載し、担当者に返信する。


仕事はひとまず終わりだが、画面を閉じるの何だし、少し気になったことを検索する。

「確か今は表向き探偵とかしているんだっけ」

私は遙か昔に会ったミヤの情報を調べる。彼女はこの国に居着いてかなり長い。一時別の国に居着いていた時期もあったと別の真祖とカメラチャットで話した際に聞いたこともあるが、今ではここに再び戻り定住するつもりなのだろうか。

「見つけた、これね。えっと、夏樹探偵事務所か。何よ、ミヤってこの国に合わせて日本名にしているんだ」

私はそのページへのリンクを開く。そこには飾り気もない未だHTMLだけで書かれたシンプルなホームページがあり、紹介のコーナーにはミヤ本人とアシスタントの少女の写真が掲載されている。


「珍しい、今度は気まぐれで狐の子なんて飼っているんだ」

私はアシスタントの少女について、目の色と髪の色から正体を察した。

ミヤは昔から思いつきのように何かをする。

時としてそれは世界の文化に大きく影響したこともあるが、彼女や私達が直接新しいものを作り出すことは出来ないため、結局は人間自身が作り上げたものになる。


このページには連絡用のメールアドレスもあるが、なんとプロバイダーのアドレスだ。

「何よこれ、ちゃんと独自ドメインぐらい取得しなさいよ」

何とも手抜きな内容に私は一人苛立つ。私はふと思い立ち、ブラウザーの別のタブを新しく開き、ある名前を検索した。ただの興味本位だし彼の名前がヒットする可能性はないが、それは別にどうでも良かった。


検索結果の項目には、彼が受賞した論文の記事がいくつか表示された。

「すごいじゃない、この歳の人間にしては着眼点も悪くないわ。構成もいいし、理論立ても申し分ないと。でも、この視点によくたどり着いたわね」


私は彼の実績の高さに正直驚いたが、それは年齢に対しての違和感も合わせて持つことになった。

検索結果の項目も後ろの方になったとき、表示されている内容は彼の名前から違う女性の名前に変わっている。

「何このリンク、別人の結果引っ張っているのかしら、でも参照内容に彼の名前もでているわね」


私が開いたそのリンクは、巨大掲示板のバックアップの内容だった。

そこには、今から数年前に起きた婦女暴行事件の内容と、被害者の女性の個人情報まで出ている。

「何よこれ、気持ち悪い」

私はまるで何もかも晒して楽しもうとする人間の悪意を感じ、気分が悪くなる。そして私は彼の名もそこに見つけた。


被害者の弟で、当時中学生だった彼の名前を。


その後に起きたの先の暴行事件の容疑者連続殺人事件において、彼は参考人として扱われていた。


「これは、ひどいわね」

私は思わず口に手をあてる。私とて人間の命を奪ってきたが、快楽で奪った記憶はない。このような事件は過去にも山のようにあった。

相手を傷つけたあげく、直接手を加えずに自ら死に至らしめる。

どんなにこのような事件が多く、見慣れていると言っても、それに不快感、嫌悪感を抱かないわけがない。


「彼もその被害者なのね」

私は美咲 啓の顔を思い浮かべ、その変化の仮定をトレースする。でも、そこには何かピースが足りなかった。

このような事件の経験者は先に言ったように山のようにいるが、その後の方向性の固まり方が極端であったのだ。

このときの私は、彼にミヤが関わっている事は知らなかったのだから仕方なかっただろう。


私はノートパソコンの電源をやっと落とし、不快感を流すことを目的にしたいのか浴室でシャワーを浴びる。


自国でも色々な事件はあった。普通の人間と力ある眷属との共存は、長い年月を経てお互いを理解し、共に同じ土地で生きることが出来るようになった。

どうしても利己的に動く人間、眷属がいなかったわけでもない、そこに対して私がこの力で解決したことも当然ある。

でも、出来る限りは同じ土台の上で、双方含めた全体で解決に努めてきた。


私は腰まである髪を必要以上に振るい、よけいな水分を撒き散らす。

正面の鏡には、濡れた赤い髪を垂らす青い瞳の少女が、私の姿が映っていた。

力の調整で鏡に映るようにするのは容易だ。でも、その映った顔は、じっとりとした疲労を蓄えている。


「私自身、これからしようとしていることに、本当は後悔しているのか」

分かり切ったことを鏡に映る自分に問うが、いつまで待っても鏡の中の私はその答えを出してくれなかった。


浴室を出た私はバスタオルで髪の水分をしっかりと取り、半乾きにならない内にドライヤーでしっかりと乾かす。

この長い髪を億劫に思う日もあったけど、ショートヘアは私の赤い髪は見栄えしないということで昔から変わらない。まあ、ストレートにしたり軽くウェーブをかけたりと多少はアレンジをしているけれども。


私はバスローブをまとい、ソファーに横になる。


私の計画はもう始まっている。計画書は既に眷属に渡され、それぞれが必要な役割を演じるために頑張っている。彼らは私のため、自分のため、家族のために必死だ。

私はそんな彼らを支えながら、私の、私の個人的理想であるだろう事を守っていく。


でも、時々不安になる。真祖と呼ばれる私がだ。


「せて、どんな服を着ていこうかな?」

私はこの部屋に持ち込んだ服と、最近購入した服をベッドに広げて悩む。


変に元の衣装で個性を出すよりは、今時の日本の服で私に合う服を選択するのが良いだろうか。


こういう時に次女がいないのは不便だ。

最近の私は、眷属の事と仕事の事しか頭にないせいで、こういう事にはなかなか頭が回らない。


私はいつしか私個人よりも、真祖を優先している。それが悪いことでは無かったと思う。


考えても答えが出ないときは、一眠りすればいい、と誰かが私に教えてくれたことがある。

私はそれに習い、ベッドに服を散乱させたまま、ソファーで深い睡眠へと落ちた。


翌朝


私が目を覚ましたのは、待ち合わせの時間の一時間前。待ち合わせ場所までは徒歩で二十分。


私には余り選択の余地は残されていなかった。


彼に遅れるとメールをするのは簡単だ。でもそれは私のプライドが許さない。

場所も時間も私が指定したのに、私が遅れる事なんてあってはいけない。


高校の正門前


私は時間丁度にそこに訪れる。

彼は既にそこに居て、視線は携帯へと向いている。

多分、時間とメールのチェックをしているのだろう。遅れるかもいう内容が来るかも知れないと思って。


海岸沿いの通りを歩いていた私は、横断歩道の前で赤から青に変わるのを待ちながら彼に向かい手を大きく振る。


彼は私に気づき、小さく手を上げた。


スリムタイプのジーンズに薄手のフリースを着た上に、黒いブルゾンを羽織っている。

お世辞にも良い組み合わせとも言えないが、大して気になることはなかった。


「ごめんね、服選びに難航しちゃって」

私は照れ笑いしながら私が言うと、彼は笑顔で私の服が似合っているという。


私はというと黒いワンピースに赤いダッフルコートという、何とも手抜きな感じだ。

私自身で選択したものを、手抜きでも誉めてくれることは私は嫌いじゃない。

ありがとうと私は彼に言う。


待ち合わせ場所にここを選んだのはそんなに深い意味はない。

彼が同じ高校に通っており、私が住む予定の特待生寮に住んでいると聞いていたからだ。


なら、ここを起点に行動するのが理にかなっているし、少し早く学生気分を味わえると思ったからでもある。


彼は私に、どこに行きたい?と聞く。

私は少し考え、彼に言った。

「美咲君のお勧めでお願いしようかな?」

彼は困った表情をする。そんな顔も出来るのかと私は新しい発見をした気分になる。


これが、彼と私の二日目の始まりだった。

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