閑話:ある場所での会話1
これまでと少し様子が違います。
《塔》のある部署での会話をお送りします。
…………。
「さて、ここに一枚の書類がある」
「誰からだ?」
「破壊活動第一人者の賢人様だよ」
「またあの人かよ」
「先に言っとくが、もう出せる金が無いぞ。最近あれこれと出費が激しかったせいで、そんな無駄実験にまわせる分なんて消滅したよ」
「と言うわけで、ちょっとお前、何か案はないか?」
「…………いや、あの、何故私が……」
「お前も一応賢人様の弟子だろ。それに、計算速いし」
「計算速いの関係ないかと……」
「ともかく、借金返済のためと思って」
「……(ほっといてくださいよ)とにかく、どれだけの予算が回されてるんですか」
「ん?これだよ」
一枚の紙を渡される。
「な……なんて、なんて羨ましい金額が、泡のごとく消えていっている……(怒)。
分かりました。これ以上の出費は断固として許せません。ええ、絶対に、許してはなりません。鉄拳制裁ものですよ、この金額は。
……そうですね。一つ失敗するたびに、まわされている予算から一割ずつ差っ引きましょうか。ああ、一割は元の金額から変わらずの一割でいいですよね。一割程度、些細な額ですよ。
それに金は無限にあるわけではないのです。失敗し続けて、むしろマイナスになれ!一度は借金まみれになって思い知るがいいわ!!」
何が彼の琴線に触れたのか、ふはははは、と唐突に笑い出す相手を遠巻きに眺める意見を聞いた者達。
「……(私情入りまくりだな)」
「(そうですね。でも仕方ないでしょう。彼も色々と事情がありますから)」
「(あれ、あいつって借金持ちだった?)」
「(正確には彼の師匠の方がね。いや、幾分か彼も借金持ちだったかな。色々と複雑な事情も絡んでいる上に苦労性なんですよ)」
「(でもこれは効果的な案ですね。あの方も最近どこか遊んでばかり。それにこれといったものを提出してくれているわけでも無いので、仕方の無い措置ですよね)」
「「「という訳で、その案、採用!!」」」
「そうと決まったらこの書類、即刻突っ返してきますね」
「ああ、ちょっと待て。お前が行くより私が行ったほうがいいだろう。そろそろ引導渡してやりたかったからな」
「……(室長、相当ストレスたまってたんだな。笑顔が怖い)は、はい。どうぞ」
室長と呼ばれた男性が受け取った書類を持ってそのまま部屋を出ようとし、何かを思いついたのか足を止め後ろを振り返る。
「そうだ。君も一度は同行してみるかね。賢人を見たこと無いんだろ?」
声を掛けたのは、新人の年若い青年だった。
「へ?え、まあそうですが」
「勉強と思って来たまえ」
「ではお言葉に甘えて。賢人様ってどんな人でしょうね。噂だけは山ほど聞いているんですけど、一度も誰一人として会ったこと無いから楽しみだなぁ」
そんな会話をしながら二人が立ち去った後。
「……おい。あれ、大丈夫か?」
「夢破れて帰ってくるに50」
「私は怒り狂って帰ってくるに50だな」
「いやいや、そのどちらもだろうに50」
そんな賭けに盛り上がっている中、一人が笑い声を上げた。
「君達は甘いな」
「「なんだと!?」」
「室長が一緒に行っているんだぞ。室長を目標にがんばります、に100だ!」
「「「それだ!!!」」」