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《塔》の地下遺跡



 さて。

 今回は《搭》のもう一つの場所を紹介しよう。


 それが地下遺跡《メドゥ=ラクリオル》。



 もともと地上にあったはずなのだが、何らかの原因で地下にもぐってしまった場所である。

 そもそもこの場所が発見されたのは、ただの偶然だった。

 とある日、地面を掘り起こしていた街の人間が、偶然にも地下へと至る穴を掘り当ててしまったのだ。

 それだけであれば別段問題は無かったのだが、その穴から魔物の群れが現れたから大変だ。一時は街全体が悲鳴に包まれたが、目の前に優秀な魔術師達が居る場所があったので事態はすぐさま収束した。

 そのときに発覚したのが、地下にもまだ遺跡があった事。

 もともとこの《搭》は、古代の遺跡を掘り出して使っている場所。それがまださらに地下もある事を知った人々は、調査する事に臨んだのである。

 魔物が存在する事は先の一件でよく理解出来た事なのだが、入り口近くの魔物はほとんどが地上に出てしまったので入り口付近は問題なかったし、現れた魔物達はどれも容易く討伐出来たのである。地下の探索もそれほど問題なく行えるに違いない。

 そう考えた人々は、幾班かの調査隊を組み地下へと向かわせたのだった。

 地下に踏み込んだ人々が目にしたのは、見たことも無いほどの巨大な空間。

 そして地上にいるものとあまり差異の無い魔物や魔獣達。中には初心者でも討伐出来るほど容易い魔物もいた。

 だが、それは見た目だけだった。

 後に調査に出た者で帰ってきたのは約半数以下。さらに帰ってきた者のその誰もが満身創痍で、容易い仕事と侮った代償をその身で払ったのである。

 後に帰ってきたものから話を聞くと、地下に住む魔物達の力は地上にいる魔物達とは比べ物にもならないものであったとか。侮ってかかってその爪の餌食になったのも何人もいた、と語った。

 地下で完全に隔離されたがゆえに独自の進化を遂げていた、というのが後の調査で分かった事だ。

 だがそんな事で諦めるには惜しい、と思ったのが研究者達だ。

 調査隊が行けたのは地下2階まで。

 さらに下があったそうだが、それ以上は魔物の強さも格段に違っていたため諦めて引き返してきたという話だ。さらにいえば、その広さも驚くほどのもので全様を把握するのは無理だったとか。

 だが地下2階だけといっても、そこから持ち帰られた品々は地上に存在するどの遺跡からは見つかった事の無い品ばかりだった。

 危険だらけの地下遺跡だったが、長い間人が足を踏み入れていなかったここには貴重な過去の資料や遺物がたくさん埋もれていたのである。

 そんな様々なロマンの秘められた場所だが、地上とは一線を画した強さを秘めた魔物たちの脅威は恐ろしいものであった。

 完全に封印すれば魔物たちはこの地上に現れる事は無くなるが、そうすれば宝の山が埋もれている地下には手出しが出来なくなる。

 意見が対立し皆が頭を抱えて悩んでいると、ある日ふらりとある人物が現れた。

 彼は言った。

「そんなに地下に行きたいなら道を作ってあげよう」

 そう言って《搭》の中の一部屋に、地下に通じる陣を書き上げたのである。

「これは地下の入り口に近い場所に道をつないだ。行く行かないは本人の自由。そして忠告を一つ。君達も身を以て知っただろうが、地下に住む魔物は閉じ込められていたせいか特殊な進化を遂げている。今回出てきた魔物にしても、あれはほんの一部にしか過ぎないという事をしっかりと念頭において挑んでもらいたい」

 そう言って去ろうとした彼を、その場にいたある一人が聞いた。

「何でそんな事をしてくれるんだ?」

「これ以上あの出入り自由な穴をそのままにしておくと、さらに被害が拡大するからね」

 それに、と言って一呼吸おいた後言われた言葉に皆は青ざめた。

 なぜなら彼は、にっこりと笑いながら言ったのだ。


「死体の後処理は大変だからさ」


 彼が去った後、皆は考えた。

 今回街に出てきた魔物たちが容易く倒せたのは、地下から出てきたために突然の環境の変化に対応しきれなかっただけ。それに今大丈夫なのは、おそらく静観しているだけ、というのもあるのだろう。いや、様子見か。

 だがこんな状態は長くは続かないのは確かな事だ。

 あの穴をそのままにしておけば、いずれ魔物達は大挙して出口のあの穴にやってくる。そうなれば、前回ほど容易く倒すことは不可能だ。地上の魔物とはまったく異なる強さを秘めている上に、今度は確実にそのままの強さを奮って地上を血に染めるだろう。

 結果、彼の言った通りの状態になるのは目に見えていた。

 危険を冒すこと無く地下に通じる道は目の前に出来たので、あの穴をふさぐ事に反対するものは誰もいなくなったが、その道の先に危険があるのは何も変わらない。

 だが危険を冒してでも行けば、それ以上の価値あるものが得られるのも確かだった。

 それに今回侮った事で手痛い教訓を得た冒険者達もまた、再びここに挑む事を望んでいたのである。


 その後。

 《搭》の依頼を受けて地下を探索する者達。

 特殊な環境下で進化を遂げた魔物を研究する者達。

 地下から持ち帰られた品を調査する者達。

 様々な人間が集い、ここを中心に冒険者達が集まる場所が出来たのである。

 それに伴い《搭》の内部でも、教育の内容が魔術ばかりではなく剣術やそれ以外の知識も教える事になっていったのは仕方の無い話だった。




 どれ程の年月が経ただろうか。

 数多くの人間が幾度と無く地下遺跡を目指し挑んだのだが、未だ遺跡の全様は解明されていなかった。

 それには尋常ではない魔物の強さもあったのだが、それ以外にもまだもう一つ原因があるのだが、それはまたの話でいいだろう。






 蛇足として、後に幾ばくかの物好きが地下に住み込み始めたのは、これもまた別の話である。



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