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COLLAPSAR  作者: 檀敬
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八、巨大企業には巨大企業の理屈がある

 COLLAPSAR・その八『巨大企業には巨大企業の理屈がある』

 【第二回犯罪が出てこないミステリー大賞・参加作品】

 我々スペースライト社の企業論理は以下の通りだ。

『まずは福祉、然る後に正義』

 最初の「福祉」とは何か?

 それは次の二点に集約される。第一に『利益確保』である。第二に『企業存続』である。まずは「企業ありき」なのだ。企業が存在して初めて成り立つ。企業が存続して様々な事柄が成り立つ。企業は永遠でなければならない。

 その後の「正義」とは何か?

 それは『お客様へのサービス』であったり、それは『従業員への福祉』だったりする。いわゆる企業業務のことである。企業が存在し企業が存続して初めて出来ることでもある。人々が企業から受ける恩恵のことでもある。我々企業が人々を生かしているのだ。

 それを踏まえておいて欲しい。


 では、ここからは具体的な話をしようではないか。


 我々スペースライト社は惑星間及び恒星間航路の運用をしている。お客様の荷物を運び、お客様自身を運ぶことが仕事だ。我々は可能な限り、迅速に確実に破損することなく運送することをモットーとしている。しかし、それは百パーセントを保証している訳ではない。どれだけシステムや物流を改善しても、ごく稀な確率で「事故」は起きてしまうモノだ。もちろん、それをゼロにする努力を我々企業は決して怠ってはいない。けれども、それはどうしても避けることが出来ないことなのだ。しかし、安心して欲しい。我々はそのリスクをもキチンと測定しているのだ。


 今回の遭難事故は不幸だった。

 原因が全くの外因であるからだ。我々のシステム、我々の体制、我々の管理が及ばない領域での「事故」だった。それでも我々は「旅行興行者」としての責任を果たさねばならない。そのためには極めて厳しい判断もしなければならないのである。

『乗客及び乗務員、全員の死亡(暫定)』

 それが我々スペースライト社の決定だった。

 下手な救助を行えば、二次的な損害は言うに及ばず、それに掛かる経費も馬鹿にならない。なにしろ、相手は「ブラックホール」だ。途轍もないリスクを背負うのはまっぴら御免だ。

 しかし、我々企業にもメンツがある。それ相応の社会的立場がある。世間体や評判もある。そのためにも、我々はキッチリと儀礼を尽くことに関してはやぶさかではないのだ。充分な補償をしようではないか、損をしない程度に。時間をかけてゆっくりと「説得」をしていくつもりだ。

 ただし、我々にもチャンスが欲しい。これこそ我々の望んできたチャンスなのだから。それはどんなチャンスかというと「従業員の刷新」である。

 こんな時にしか思い切った人事などは出来ないからだ。我々は過去何百年と事故の度に刷新を行ってきた。今回もその精神を貫きたい。過去に行ってきた通りに取捨選択したいのだ、ロボット化人間を。そのために我々は従業員に「コピー・ブレイン」を義務付けているのだ。


 それがだ。

 爬虫類の姿で、今にも我々を捕まえて喰ってしまいそうな異形の異星人が、我々の宇宙客船を助けてくれただと!

 それも「友好の証」だとか抜かしおって。 

 冗談じゃない。


 乗客については問題はない。

 死亡したと思われていたのだから。死んでいたと思われていたのが生きて戻ってきたのだから。まぁ、我々が供した保証した金は戻ってこないかもしれないが。

 従業員が問題である。

 だが、それでも「死んだと思われていた従業員」についてはまだ問題はない。こちらも死んだと思われていたのが生きて戻ってきたのだから。

 一部の従業員が問題なのだ。 

 その一部の従業員とは「生還させた従業員」のことだ。なにしろ、同じ人物がこの世に二人も存在することになるのだから。


 我々スペースライト社は、この遭難客船の乗客と乗務員を全て死亡と認定した。その上で「使える乗務員」だけをピックアップして「生還」させた。正確に言うならば「生還」ではなく、こちらで「再生」したのだが。だから、脱出したと思われていた乗務員もちゃんと遭難客船に載せておいたのだ。そして、乗務員が使った脱出ポッドも同客船に使われている同じモノを使用したのだ。


 それなのに、あの札付きのジャーナリストがスクープで発覚させたのだ、ある夫婦の証言を基にして。旦那一人に同一な女房が二人の、この夫婦によって。

 その報道は、我々の足元を大きく揺さ振った。

 だが、我々にとってはさほどの問題はない。

 ジャーナリストなどは息の根を止めなくても簡単に圧し折ることが出来る。

 夫婦の方も問題はないだろう。なにしろ、奴等は我々の手の内、駒ロボットに過ぎないなのだから。


 それにしても、企業論理を貫くのは実に大変なことだ。

 お読みいただき、ありがとうございます。

 『第二回犯罪が出てこないミステリー大賞』の公式企画サイト、及び「てきすとぽい」の『第二回犯罪が出てこないミステリー大賞』企画サイトにも是非お立ち寄りください。

 拙作よりも素晴らしい作品が貴殿をお持ちしていることでしょう。

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