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COLLAPSAR  作者: 檀敬
7/10

七、焼けたロボットが三体も火災現場に

 COLLAPSAR・その七『焼けたロボットが三体も火災現場に』

 【第二回犯罪が出てこないミステリー大賞・参加作品】

 辺りはプラスチックの焼け焦げた臭いで充満していた。

 足元は水浸しだったが、崩れ落ちた倉庫の所々からは煙がまだ立ち昇っている。

 真っ黒で細くなった柱の中からは白い煙が夜の闇に垂直に白い線を描く。

 そこへ消火ロボットが的確に適量にシュッと放水する。

 たちどころに煙が雲散霧消していく。

「こちら、消防〇一。鎮火を確認。撤収を開始します。二二時四四分」

『こちら、消防本部。鎮火及び撤収の件、了解した』

 消防車からの通信音声が、火事場の喧騒の中でも一際ハッキリと辺りに響き渡る。

「撤収作業中に現場検証が終わってくれねぇかな。残火処理なんてしたくねぇからな」

 ホースを巻く消防隊員が呟く。

「延焼規模は大きいけれど、負傷者はいないから早く終わるんじゃねぇか?」

 巻いたホースを手際良く消防車に詰め込むもう一人の消防隊員が答えた。


 消化ロボットが撤収を始めた頃、白と黒のツートンにカラーリングされたワンボックスカーが赤色灯を廻しながらその火事現場に到着した。

 鑑識官マスターがそこに降り立った時、現場の雰囲気に悟るモノがあった。

「何かを感じないか?」

 マスターの言葉に鑑識助手アナライザーが首を傾げる。

「いえ、私はロボットですから何も感じませんが」

 鑑識器具を装備しながら、アナライザーはアッサリと答えた。

「ただの火事だ、さっさと帰れ!」

 制服を着た若い警官が大きな声でやじ馬たちをけん制している。

 当然のごとく、私服の刑事などは出動していない。夜間は無人になるという倉庫が全焼しただけの、事件性が全く無い火災だから。もし、捜査する必要性が出てくるとすれば、鑑識が何かしらの証拠を探り当てた時だ。

「さてと。始めるか」

 マスターはアナライザーに話し掛けた。

「はい」

 返事をしたアナライザーは、焼失した倉庫のほぼ中央に立ち、ラウンド型マルチセンサードカメラを頭上高く伸ばしてクルクルと回し、火災現場の映像を撮影する。様々な波長の強力な光が三百六十度回転した。

「延焼方向を報告します。左手手前の事務所の配電盤から出火。火は倉庫中央方向へと燃え伝わり、倉庫中央にて保管されていた何らかの有機溶剤に引火、爆発したものと思われます」

「うむ。それは僕の初見と同じだ」

 アナライザーの報告に同意したマスターはうなずいた。

「詳細な分析を開始します」

 アナライザーは焼け落ちた倉庫の残骸を除けながら、火災の原因となったであろう証拠を検分し始めた。マスターもライトで照らしながら辺りを探った。

「臭いと延焼の様子から判断すると、どうやら爆発は『n・ヘキサン』系の接着剤だな。それが爆発性混合ガスを形成し、漏電のスパークで引火、爆発した。その延焼で連鎖的にガソリンや灯油等の可燃危険物に燃え移ったようだな」

 ガサガサと足で探りながら、マスターが呟いた。

「はい、おっしゃる通りです。有機溶剤と複数の可燃物を検出しました。サンプルの採取は終了しました」

 燃えカスに指を突っ込んでいたアナライザーは立ち上がって、マスターに報告した。

「しかし、無許可にも程度があるぞ。どれだけの有機溶剤や危険物を置いてたんだろ……ん? 何だ、これは?」

 爆発の中心付近に、なにやら「H」のような形や節のような屈折部分がある金属棒などが意味有り気に散乱しており、それらにかなりの量の化学繊維がもつれていて、更に細かい電子部品が散乱している場所が三カ所ほど、点在していた。不思議そうに見つめるマスターを尻目に、アナライザーは即答した。

「これは『ロボット』が延焼した跡ですね。私のような」

 アナライザーの返答にマスターはうなずく。

「……そうか……」

 マスターは立ち上がって、その場を立ち去ろうとした。

「調べなくていいのですか? これは事件かもしれませんよ?」

 アナライザーはマスターに問い掛ける。

「ロボットだろ? 今の世の中じゃあ、そいつ等は『モノ扱い』だ。係わるんじゃないぞ」

 マスターは言葉を吐き捨てた。

「まだ識別番号が読み取れますよ!」

 アナライザーは電子部品の端子に触れていた。

「止めろ! 触るな。これは命令だ!」

 マスターはアナライザーを厳しく制した。

「了解、マスター」

 ノロノロとした動作で、アナライザーは渋々立ち上がった。それを見たマスターがアナライザーに指示を出した。

「漏電による有機溶剤への引火、爆発、そして可燃物への延焼。倉庫所有者に有機溶剤や可燃危険物への管理運用義務の厳重注意だ。しかし、人的損害は幸いにして無かったと。これで報告書を書く。資料を集めておいてくれ」

 そう言い切るとマスターはワンボックスカーに乗り込んだ。

「了解、マスター」

 アナライザーはロボットの痕跡がある辺りを振り返ってから、ワンボックスカーへと乗り込んだ。

 お読みいただき、ありがとうございます。

 『第二回犯罪が出てこないミステリー大賞』の公式企画サイト、及び「てきすとぽい」の『第二回犯罪が出てこないミステリー大賞』企画サイトにも是非お立ち寄りください。

 拙作よりも素晴らしい作品が貴殿をお持ちしていることでしょう。

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