五、異星人が人類に友情の証を明示する
COLLAPSAR・その五『異星人が人類に友情の証を明示する』
【第二回犯罪が出てこないミステリー大賞・参加作品】
『我々太陽系政府は、異星人との友好的なコンタクトに成功いたしました』
そんな声明文を太陽系政府は流し続けている。
報道関連もメディアも同じように、連日このニュースを垂れ流していた。
それは、非常に異形な異星人であった。
菱形をしたウロコ様の皮膚。互いに向き合った三本指。腕は恐らく四本、そのうちの二本は他の二本よりも長い。指も長く、指と腕、そして指の先までの大きな膜を持つ。脚は二本、しかしそれに匹敵する尾があって三点支持で起立する。頭部は大きく、脳量も多いが、口も大きい。目は四つ。側部の左右と前面に二つ。音や匂いはウロコ様皮膚から直接に感じるのだという。
彼等の文明は人類の少し先を進んでいた。既にノンタイムラグの航宙方法を確立している。なんでも『ディメンション・イフェクト・エンジン』とかなんとかという名称らしい。このことだけでも太陽系政府は涎が出ているに違いないのだ。要するに太陽系政府はこの技術が欲しいだけなのだ。彼等の、種族としての、いや生物としての倫理観は人類とは異なる微妙な印象で、その方面では得るものが殆どない。いや、得る必要性は何処にもないという言い方が正確だろう。
彼等とのコミュニケーションの確立は視覚的情報によるものだった。要するに『筆談』に似たものだ。ただし、それに使われた言語は数学であったのだが。これはこれで正解であったろうことは容易に想像できる。
何にしても、誤解する前に、すれ違う前に、そして殺し合う前に、意思の疎通が出来た。それだけで充分な価値観に値するものだろう。太陽系政府はそう判断したのだ。
しかも、それだけではなかった。彼等は、実に魅力的な提案をしてきたのだった。
『縮退星に捕らわれている貴生命体の遭難宇宙船を引き渡したい』
そう申し出てきたのだ。その遭難宇宙船とは『スワン二世号』のことだった。太陽系政府はその提案に飛び付いた。
スワン二世号といえば、数年前にブラックホールに捕らわれ、救出できずに放置された宇宙客船のことである。太陽系政府の技術的な、財務的な、政治的な力では、乗客はおろか乗務員の誰一人として助け出すことが出来なかったのだが、スワン二世号の運行を管理するスペースゲート・トラベルカンパニーがのちに乗務員の何人かは脱出したことを発表したという、何とも後味の悪い事故でもあった。
だからこそ太陽系政府は、事故当時から乗客の安否を非常に気にしていたのだ。それが異星人という外部の力を借りたとはいえ、乗客の命が戻ってくるのである。これほど喜ばない訳はない。そして拒否する理由は何一つない。
太陽系の人々はそのスクープに大騒ぎした。失われた宇宙客船が戻ってくる。死亡したとされた乗客と乗務員が戻ってくる。友好関係を結んだばかりの異形の異星人が友情の証としてサルベージしてくれるという美談に、太陽系はそれだけで盛り上がっていた。
一つの企業を除いては。
素直に喜べないのは、スワン二世号を運行していたスペースゲート・トラベルの親会社「スペースゲート社」だ。スペースゲート社のメンツは完全に潰された形だからだ。
あの事故によるスペースゲート社の損失は相当なものだった。利益もそうだが、人材的損害もそうだし、一番の痛手は「スワン」の運行を停止せざるを得なかったことだ。それは、ドル箱で儲け頭だった「スワン・スペーストラベルツアー」をふいにしたということだからだ。
スペースゲート社は、極秘裏に「C・S・F[私設宇宙軍]」に命令して破壊工作まで行おうとしていた。しかし、これ以上の不名誉と損失を避けるという懸命な「企業倫理」が働いて、攻撃だけは内部圧力で抑止された。
ただ「ある案件に関連する事項」については、前項とは違う「企業論理」が働いて命令が遂行されたようだが。
太陽系政府は、異星人に曳航されてきた『スワン二世号』を天王星スペースドックにて引渡しを受けた。そして、乗客の家族らが盛大にそれを出迎えた。異星人との友好的コンタクトを華やかに演出するには、この上ないシチュエーションであった。
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拙作よりも素晴らしい作品が貴殿をお持ちしていることでしょう。