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COLLAPSAR  作者: 檀敬
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三、BH重力圏に宇宙客船が捕捉された

 COLLAPSAR・その三『BH重力圏に宇宙客船が捕捉された』

 【第二回犯罪が出てこないミステリー大賞・参加作品】

『美しい虹が輝く降着円盤への遊覧・シグナスXー1・スペーストラベルツアー』

 これが、アンが勤務している『スペースライナー社』のトラベル事業部である「スペースライナー・トラベル」で一番の人気であるスペーストラベルツアーで、それがスペースライナー・トラベルの売りでもあった。


 地球からおよそ九千光年の位置にあるシグナスXー1。

 宇宙でも稀なほど美しい降着円盤を持つブラックホールと青色恒星の連星系だ。主星からブラックホールにガスが流れ込み、美しい渦を作り出す。それが降着円盤だ。降着円盤の美しさは本当に見事なもので、特にこのシグナスXー1の主星が青色巨星であるために蒼いガスが重力による赤方偏移で徐々に青色から緑色、黄色、橙色、そして赤色へと変化しているところが人々の心に感動を催すようだ。大昔に地球上の海というところで観光されていたという「ウーズシオ」を連想させるといわれている。

 その渦の中心にシグナスXー1、つまりブラックホールがあるのだが、渦の中心近くで流れ込んだガスが赤黒くなり、その内側は黒い闇に閉ざされている。そこは強力な重力のために光さえも脱出できない領域であり、その領域をカール・シュヴァルツシルトが導き出したことから「シュバルツシルト面」とも呼ばれている。宇宙で一番、最も黒い色を呈した部分。俗に『スペースホールブラック』などと呼ばれている。この漆黒の闇を見たいがためにこのスペースツアーに参加する方々も居るそうだ。


 スペースライナー社は、このスペースツアーのために専用遊覧宇宙客船を何隻か建造した。その船名も旅行商品を連想させるように「シグナス」と命名、末尾に連番を付けて運行管理を行っていた。

 強力なX線を防ぐための防御シールドを何層も施し、ブラックホールの重力に捕らわれないように高出力のブースターを必要以上に装備もした。新宙式でお披露目された「シグナス号」は、その装備の凄さに当時は話題になったほどだ。

 船内は、大昔に海という惑星の水面に浮かんでいた『豪華客船』を模して作られた。超豪華な宿泊施設と楽しいエンターテイメントを含んだ娯楽システムがフル装備で備え付けられた。もちろん、宇宙船なのでオーシャンビューな部屋などはなく、船体の外殻に近いほど料金は安く、船体の中心にスィートルームが設定されていたりするのだが。

 アンは、この「シグナス4」でアテンダントをしており、宿泊部門のコンシェルジュを担当していた。船内での生活について乗船しているお客様の相談を受け付けるのが仕事だ。

 また、現在運行中である八隻のシグナス号のうちで「シグナス4」はサービスで一番評判がよく、またこの船だけは進宙式以来、無傷の無事故だったのだ。だから、この先数回の運行は予約で埋まっているほどだ。


 そんな優秀でトップセールスの折り紙付きであった「シグナス4」のスペースツアーでこの事故が起きた。


 シグナスXー1の降着円盤を左舷ポートに見ながらボーマン軌道で通過していたシグナス4は、相対速度で光速の四十パーセントという高速で飛来してきた小さなデブリを避けるために軌道を修正をした。

 こうしたデブリ回避は日常茶飯事であり、何の問題も無いはずだった。ただ、デブリの速度が速かったことは否めなかったし、その速度に回避システムが対応し切れなかったことも否めなかった。ただ言えるのは、シグナスXー1の高重力の影響下で、正確に操船が行われたかどうかは現在でも調査されていないのが現状だった。

 そのデブリはシグナス4の右舷スターボードをかすった。そう、シグナス4に触れたのだ。それが原因で船体外殻が損傷し、その損傷はブースター燃料が流出するほど酷かった。おまけにスターボードからの外力を受けたために軌道が変わり、シグナス4はシグナスXー1へとますます近づく軌道となってしまったのだ。

 通常ならば、その段階でブースターの噴射を行い加速して重力を振り切るのだが、ブースターの燃料が流出してしまった状態のシグナス4では噴射時間が足りないことが判明した。

 シグナス4のキャプテンはすぐに遭難信号を発信したが、最寄りの航路にこの事態の打開を図れるほどの大型宇宙船は運行されておらず、またレスキューが到着した頃には既にシグナス4は赤方偏移を帯びていた。


 アンの配偶者であるヒロのところに、アンが乗務する「シグナス4」が事故に遭遇、ブラックホールで遭難したことが告げられ、シグナス4の乗客と乗務員の全員が絶望だと伝えられたのは、彼の乗る貨物宇宙船が海王星にあるカーゴドックに接舷する直前、管制センターと交信した時だった。

 お読みいただき、ありがとうございます。

 『第二回犯罪が出てこないミステリー大賞』の公式企画サイト、及び「てきすとぽい」の『第二回犯罪が出てこないミステリー大賞』企画サイトにも是非お立ち寄りください。

 拙作よりも素晴らしい作品が貴殿をお持ちしていることでしょう。

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