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COLLAPSAR  作者: 檀敬
2/10

二、ウラシマ効果で数年越しの新婚さん

 COLLAPSAR・その二『ウラシマ効果で数年越しの新婚さん』

 【第二回犯罪が出てこないミステリー大賞・参加作品】

「それじゃ、行ってくるよ」

「行ってらっしゃいませ」

 凛々しい男が優しく声を掛け、美しい女が笑顔でそれに応える。

「君も一緒に出掛けないのかい?」

「わたしはあなたを送り出した後で」

 男は女に微笑みかけ、女は男にうなずいた。

「そうか」

「えぇ」

 女に手を振る男と男に手を振る女。

 幸せそうな二人の顔。

 彼等はまだ結婚したばかりだった。

 会社が提供するマンションを新居として新しい生活を始めたばかりだ。

 真新しいダイニングセット。

 真新しいソファ。

 そして真新しいキングサイズのベッド。

 彼等は人生の最初の頂点に居た。

 生活は充実していた。


 男の名前は『ヒロシ』という。

 彼の職業は「スペースカーゴシップ・パイロット」だ。

 女の名前は『アンジュ』という。

 彼女の職業は「スペースクルーザー・アテンダント」だ。

 ヒロシもアンジェも職種は違うが同じ会社に勤めていた。

 その会社は『スターライナー社』だ。

 宇宙をその領域として事業を展開しているスターライナー社。

 その事業は恒星間航路や惑星間航路の運行管理を主な業務としている。

 それに付帯する宇宙事業を展開して、既にナンバーワンでオンリーワンの存在だ。

 それらの貨物輸送はもちろん、観光にも力を入れている。

 ヒロシが所属しているのは、スターライナー社のカーゴ事業部。そこでスペース・カーゴシップ(貨物宇宙船)のパイロットをしているのがヒロシなのだ。

 アンジュが所属しているのは、スターライナー社のトラベル事業部。そこでスペース・クルーザー(宇宙客船)のアテンダントをしているのがアンジュなのだ。


 同じ会社といっても、部門も違うし事業部も違う。

 全く別々の仕事だと言っていい。

 ヒロシは宇宙船を動かすのが仕事。

 アンジュは宇宙船の中で接客を行うのが仕事。

 しかも乗務する航路は全然違う。

 ヒロシは専ら短距離恒星間航路に従事しているが、アンジュは観光星系間航路に就いている。

 そんな二人がどうやって出逢ったか?

 それはスターライナー社の「社内合コン制度」があるからだ。

 一種の「お見合い」のようなモノといえよう。

 社内のデータベースから独身者をリストアップして無作為に呼び出す。

 強引に顔合わせをさせて出逢いを創出するというシステムだ。

 賛否両論があるが、この方法でかなりのカップルが成立しているのは事実だった。

 あながち否定されるシステムでもないだろう。


 宇宙の開拓が始まって数百年。

 近年、グラヴィティ・エンジンが実用化された。

 とはいえ、光年単位の距離を飛躍するにはそれ相当の時間が必要だ。

 まだまだ「ウラシマ効果」を無視できるまでには至っていない。

 これは乗り物のせいではない。

 相対的にどうしても地上での時間経過が早くなり過ぎるのだ。

 アンジュが仕事としている『遊覧航宙旅行』を例にして説明しよう。

 この宇宙旅行で宇宙船に搭乗している時間は数週間である。

 しかし、地球上では既に十年足らずといった時間が経過しているのだ。

 これが「お手頃な時間経過」であるかどうかの判断については明言を避けたい。

 だが、ヒロシとアンジュの二人にとっては何の問題も無い。

 ヒロシとアンジュは、お互いに恒星間航路で働いているからだ。

 上手に仕事の内容とスケジュールさえキッチリと調整を行えば、それでいい。

 アンとヒロの年齢差が開くことはなく、共に歳を重ねることが出来るのだ。


「ただいま」

「お帰りなさい」

 ヒロシは自宅の玄関ドアを開けて声を掛ける。

 アンジュはキッチンから玄関へ駆け付けて声を掛ける。

「お疲れでしょ?」

「君は大丈夫かい?」

 ヒロシとアンジュはお互いを気遣う。

「わたしは全然平気よ」

「それは僕も一緒だよ」

 ヒロシとアンジュはお互いの無事を喜ぶ。

「夕食が出来てるわよ」

「それは丁度いい。腹ペコなんだ」

 まるで日常会話のように。

 実は、これが数年を経て逢う新婚さんだとは全く思えないほどに。

 まだまだ数十年もの間、ヒロシとアンジュの蜜月ハニームーンは続きそうだ。

 お読みいただき、ありがとうございます。

 『第二回犯罪が出てこないミステリー大賞』の公式企画サイト、及び「てきすとぽい」の『第二回犯罪が出てこないミステリー大賞』企画サイトにも是非お立ち寄りください。

 拙作よりも素晴らしい作品が貴殿をお持ちしていることでしょう。

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