表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/5

4話入学式4

漸くチートバトルの一端が出せます。

 決闘用入り口に入り、個人ロッカーへと辿り着いた二人は、そこで一旦別れる。


「じゃあね?お互い頑張ろう」


「ああ、言っとくがそっちは手加減するなよ?」


「うん?その言い方だと、君はまるで本気に成らない様ないい方だね?」


 裕也の言い方が気になった浩太が、眉を顰めながら聞き返す。


 それに対して裕也は口をニッと歪ませてから


「ああ、俺はなんたってあの義母さんに扱かれて育てられたからな。ハッキリ言って、実演の時の5人のスピードは…って言うよりあの武井って先輩の動きもそれ程凄いとは思わなかった。流石に大泉先輩のスピードは桁が違うと思ったが、それでも集中すれば見れないスピードでも無かった。言ってみればそれだけあの人の指導がけた違いに凄まじいって事だ。その指導に耐えてきた俺の攻撃が浩太にどれだけの影響が出るのか、俺も分かるまでは本気が出せない。出さないんじゃなくて出せないんだ。ここに来るまでは俺は能力面では他人任せだから俺自体がそれ程強いとは思わなかったんだがな?」


「ふ~ん?」


 裕也の説明を聞いて、少し考え込む浩太だが、それならと


「じゃあ、僕が君が本気を出せると思う位の実力なら、君も本気を出してくれるって事だね?」


「ああ、そうなるな」


「なら良いや。僕も君の本気が見れるように頑張るだけだ」


「おう、お互いな」


 そう言って、お互い拳をコツンと重ねてから、互いの眼の前にある個室に入った。



 ☆



 ロッカールームの中は結構平凡で、普通の中学や高校の更衣室を少々狭くしたような造りだった。


 それでも、色々と戦闘関連の小道具もある事から、流石に普通の学校とは違うと思い知らされたのだが。

 そして、裕也が手じかな辺りを物色していると、何故か足元に小さい子供が入ってきていた。


 しかし、ここは個人用のロッカーの筈。


 入る時に鍵は閉めたのだが、どうやって入ったのだろうか?


 そして、裕也は注意しようとして…思い留まった。


 なんせここは超能力者の学校だ。


 見た目子供でも実は大人と言うのは十分に考えられる。


 しかも、特殊な系統の能力の中には簡単に鍵を開ける事の出来る能力も確かに存在する。


 もしかしたらこの人はそう言う人で、裕也達の前に決闘を行い、忘れ物をしてそれを取りに来ただけかもしれない。


 そう思って裕也は先ず、相手を先輩だと思って応対する事にした。


「あの~?何かお探しでしょうか?」


 そう尋ねると、思いのほかフレンドリーだったのか、その子供はニッコリと笑顔で頷き。


「ん?うん。私のパンツを見なかったか?確かこの辺りに置き忘れた筈なんだが…」


「…パンツですか…」


 その探し物に思わず眉を顰めてしまう裕也。


 しかし、子供はそんな裕也の反応に興味ないとばかりに続ける。


「うむ。あれはお気に入りでな…。勿論替えはあるのだが、手持ちは数が後20着しかないばかりか、この学校では仕入れてないと言うのでな?無断外出はダメだし。パンツの生産、販売を行っているのが私の変わり者の友人で近くの店には卸さないと言うし。買にいこうにも遠くて外泊の許可が要るは、届を出そうにも高がパンツ如きで外泊の許可を取るのも恥ずかしいのでな?置き忘れに気付いて慌てて取りに戻ってきたと言う訳だ。って事で一緒に探してくれ」


「…まあ、良いですけど。色は?」


「紺だ」


「了解」


 そうして子供とパンツ探しを始める事数分。


 探しても無いのでロッカーとは別の、出入り口の方へと顔を向けてみると…、有った。


 しかしそのパンツはどう見ても女物。


 しかし色は紺色で合っている。


 しかし女物。


 これは何かの幻か?と目を擦るが現実は変わらず、最後の希望に子供に尋ねてみたのだが…


「あの~?もしかしてそこにあるのがそうですか?」


「ん?何処だ?」


「そこの入り口に落ちてる紺色の女物の奴です」


 そう言いながらその方向を指差す裕也。


 そして、裕也の指示に従って指の先を見る子供。


 すると…


「おお!正しくあれだ!良かった~。助かったぞ、新入生。…っと、自己紹介が未だだったな?私は4年の身体強化系の総合5位、実技1位の菊池光きくちひかるだ。…まあ、光って名前とこの外見では判断できんだろうが、私は女性だ…が、それではこのロッカーを使った理由が分からんだろう?」


「え…ええ」


(ホントに何でだ?後から来るやつへの嫌がらせか?)


「フフフ…それには深ーい理由がある。それは…」


「それは?」


「そこにくたばっている生意気な下級生に実力の違いを見せつけてやるためだ!」


 ドーン!という効果音が出る位のドヤ顔で指を向けた先に、一人の生徒、色を見る限り2年だ。


 その生徒の体のあちこちに打撲や裂傷、骨折の跡が見られる。


 ハッキリ言って酷い有様だ。


「こ、これは?」


「ああ、そいつが実力の違いも分からず、ココにもう1年も居るのに関わらず見た目だけで人を判断した言動を言うからの?決闘で決着を付けた後、ココに性別を能力で変えて、忍び込んで待ち伏せしていたと言う訳だ」


(…え?そんな、性別を変えるなんて出来るのか!?)


「あの~?性別を変えるなんてマネ出来るんですか?」


「?なんだ?知らんのか?」


「…ええ…」


「なら教えてやろう。勿論普通は無理だ。しかし、貴様も先ほどの入学式でちらほらとオリジンと言う物を耳にしているであろう?

 あのオリジンと言うのは言うなれば段階を経た能力。第一は一々付けんが、第2第3の能力には発現順に番号を付けて呼ぶ。まあ、今まで発動出来た者でも第4までが最高らしいがな?

 そして、能力は負荷を与えながら使えば、それだけ強くなるのは知っての通り。そして、私は身体強化系の能力。普通は身体強化の能力でも性別を変えるなんて芸当は無理だが、私はこのセカンドオリジンが発現してから更に強くなった。

 私のセカンドオリジンの名は【ホルモンバースト】。この力で急激に男性ホルモンを活性化し、この施設のフィールドさえも誤魔化せる位の性転換を行える物に成った。肉体の強化も普段とは比べ物に成らない位にな。…勿論、唯見た目を変えるだけなら5年生くらいの身体強化系の者ならトップ10なら殆どが可能だ。…しかしその程度の力ではこの学校のフィールドを誤魔化すことは出来ん。

 莫大なエネルギーを使ったセカンドオリジンなればこその芸当だ。

 どうだ?凄いだろ?」


(要は身体強化を極めれば男の願望が叶うって事か?しかし、それだけの事の為に死ぬ思いをするのも馬鹿らしい。)


 裕也は自分の考えをそう結論付けて、ずれた話の修正を試みる。


「…えっと、その話とその先輩の繋がりは有るんですか?」


「大いにある!」


 物凄い大真面目に言われてしまった裕也だが、自分もこの後決闘が控えてるので早めにしたいと結論を急がせる。


「どういうことです?」


「うむ!その男、私の見た目がこんなだからと言って、ガキなどと言いおった。そして、私が見た目に騙されるとは下っ端だな?と言ってやったら『ガキに下っ端呼ばわりされる筋合いはねえ!こうなったらガキに世の中の厳しさを教えてやる。決闘だ!』と言いおったのだ。その後今の姿で決闘して、勝負が付いたから目が覚めてそいつが着替えたロッカーに戻る前に、予めこいつが使っていたロッカーを知っていた私は男に性別を変えて待ち伏せして何処から見ても男らしい時の状態と戦闘時の今の状態を交互に見せてやって、恐怖で慄いている間に天誅を下してやったのだ。今の状態は一番きつい状態で、訓練には良いからな。性別もどちらとも誤魔化せる状態だし。意外と便利だぞ?」


 その言葉を聞いて、確かに今の格好は女の子とも男の子ともどちらともとれる容姿だ。


 まるっきり子供と言うのも原因の一つだろう。


「それなら、他にどのような姿に成れるんですか?」


「ん?激しすぎない変化ならどうとでも可能だぞ?…っと、私の用は済んだし、ここが幾ら時間の経過が緩やかでも遅くなれば心配される。…ではな?貴様も決闘頑張れよ?」


「あ、…はい!」


「うむ。いい返事だ!ここでは常にいい返事が求められる。それは犯罪者に相対した時の想定だ。まあ、言わなくても分かるだろうがな?」


 そういうと、光と名乗った先輩は出口に向かって行き、出て行った。


 あの姿のままで…


「まあ、あの姿でもここならあんまり不思議には思われないかな?…って、なんでパンツを忘れたのか聞いて無かったな。まあ、想像は出来るから良いか」


 そして、改めてここでの目的を開始する。


 先ずは地肌に付ける麗菜たちが着けていた様な特殊スーツを装着させるブレスレット。


 これは直ぐに見つかった。


 そして、端末と同じ側の腕に邪魔に成らない様に着ける。…そして、展開。


 すると、ブレスレットの中から黒い生地が液体の様に、それでいて粘着性のある物のように纏わりついて体に密着する。


 そして、体全体を覆った時には、体のラインが全てわかる様な、もし女性が付けたらある意味ライダースーツに見える物だった。


 下着が必要ないのは分かったが、これはこれで恥かしい気がする。


 そして、ふとブレスレットを見ると、何かしらのメーターが、さっきは最大だったのが、今は0だった。

(これは恐らく、このブレスレットに内包されていた黒い生地の成分の量だろうな。義母さんが言っていたように、これが無い状態では体を覆えず、液体が無い状態では修復も出来ない。外部からの補充では邪魔になるし、嵩張らない様な量なら今の状態が限界か。)


 そう迄考えた裕也は今度は戦闘用スーツに眼を移す。


 こちらは結構探すのに時間が掛かった。


 それと言うのも、それらしい物が見当たらない。


 そして、仕方ないので端末を使ってどういう形状か調べたら、漸く見つかった。


 こちらはルール別に戦闘用のスーツも分かれており、ポイント制は急所の部分が赤くなっていて打たれた部分によってポイントが違うようになっていた。


 逆にダメージ制は特徴のない一見私服に見えるスーツがズラーッと並べられていた。


(いや、これは本当に私服じゃないのか?)


 裕也の考えの通り、どう見ても私服だ。


 流石に男の更衣室だけあってワンピースやスカートなどは無い物の、前時代の学ランや騎士服。


 果ては導師服まであった。


 この分では女性用ロッカーでは水着なども有るかも知れない。


 裕也はその中で自分の獲物を隠せるポケット類のあるジャケット式のスーツを上に着て、下には女性が身に付けるガーターベルトの様なベルトを装着する。


 そして、内側にアーミーベルトを巻きつけ、それに手近にあった手頃な武器を入れ込み準備完了。


 そうして出口の扉を開けると…、既に浩太がお待ちかねだった。


「やあ、随分遅かった様だけど、色々あり過ぎてどれにしようか迷ったかな?まあ、実は僕もだけどね?よくもまあ、あれだけの服を揃えたと思うと感心するけど、あれも考え様には正しい措置だね。相手は犯罪者だ。どういう状況で、如何いう場所でやり合うか分からない敵に、決まった服装ではこちらの素性を知られるだけだ」


 浩太がうんうん言いながら頷いている。


 確かにその通り。


 今浩太が着ている服にしても、一見すると普通の青年の服装にしか見えないが、もしかしたら内側に武器を隠せるタイプの服かも知れない。…ただの服の可能性もあるが。


「しかし、この服も恐らく裕也君の服もそうだろうけど、見た目からは想像できない位に丈夫な素材だよね。触ってみてビックリしたよ。弾力も反発力も対刃加工も市販の物とは大違いの上、多分だけど、色んな能力に耐性が有る筈だよ。さっき試しに火を鞭状にして服に絡ませて見たんだが、実演の時に制服が破れていたりボロボロに燃えていた筈なのに、この服は少し煙が出る位だった。恐ろしく耐久性に富んでいるよ。…これでこの服が破かれたりしたら、それはもう間合いの測り間違いと実力の差だと思うしかないよ」


 そうなのだ。


 今浩太が言ったように、この制服は凄い性能に溢れている。


 更に下の特殊スーツにしても多少の攻撃には耐える素材だ。


 これで服がボロボロに成るって事は、相手に滅多打ちにされるくらいしかない。


 それか至近距離で身体強化系の能力者の攻撃を直接喰らうか。


 見た目が普通だから裕也はそこまで見ていなかったのだが、浩太に言われて触ってみるとハッキリ分かった。


 伊達に体術が得意だと自負しては居ないようだ。


 見るべき物は見ているらしい。


 その点は裕也の負けだ。


「さあ、そろそろ皆お待ちかねだ。舞台の設定はさっき僕が闘技場にしといたから、皆も分かり易くていいと思う。…裕也もそれでいいでしょう?」


「ああ、構わない」


 どちらも納得した所で、遂に入場する二人。


 そして、背後にその二人を静かに見守る人影が二つ。


「さあ、お手並み拝見だな」


 人影の一つがそう言うと、もう一つもそれに習い


「ええ。もし、いい人材なら我が組織にスカウトしようかしら?」


「まあ、それも今回のトラブルを乗り越えた場合だ。今回程度の事を乗り越えなければ到底我らの配下には出来ん。足手まといだ」


「…それも、そうか。私としては金髪の子は好みなんだけど?」


「お前の好みは聞いて無い。…それに、金髪の方はエレメントの小娘の関係者だぞ?迂闊に手を出せばこっちが危険に成る。取り込むなら黒髪の方だ」


「あっちは今朝の話じゃ、風祭教官の息子っていうじゃない。それこそ無理でしょ」


「なら、諦めるか?どちらにせよ、これで死ぬようでは駄目だから結果待ちだ。じっくりと見物させて貰おう」


「そうね」


 そう話し合いながら、影はスゥーっと闇に紛れて行った。




 ☆



 舞台に着いた裕也達は、その広さと、仮想空間ならではの映像に驚いた。


 それは何故か。


 目の前の円形の大きなコロシアム風の舞台(100M四方)は分かるのだが、その上側の観客席の様子がハッキリ言って滅茶苦茶だ。


 何故か映像とは思えない位の、人間そっくりの観客が大勢見ているのだ。


 それも多種多様な人種。


 一言で言えばファンタジーの住人達と、現代の一般人の融合。


 どういう考え方で流されているのか疑問に思う位の映像だ。


 しかも全員マジで応援してるような感じで、手にトトカルチョの券を持ってるのが裕也には見えた。


(嗜好を懲らし過ぎだろ、これ。もし、この中に犯罪者が紛れてたらどうすんだ?)


 実際は有りえないと分かっていても、脳内でそう叫びたくなる気持ちは浩太も同じで、裕也が微妙な顔で上を見ている横で、浩太もまた微妙な顔で上を見ていた。(浩太の場合は妹を探しているのかも知れないが)


 二人の脳内がどうあれ、この場に来た以上は決闘は行われる。


 そして、進行は立会人である風祭汐音がすることになる。


「『それでは二人とも良く聞け。今回貴様らは新入生で初の決闘を行う者として重要な役割が有る。それは新入生の力量でも、万が一の場合があることを開発系統の能力者に教えてやることだ。毎年新入生の初めての決闘者はその実験を兼ねたモニタリングをすることになっている。本来は各クラスのトップの中で厳選して選び、明日の放課後位に全校生徒の前で実演される事だったのだが、今回は私の独断と炎堂のたっての希望で貴様らが行う事になり、それを先ほど学校の各関係者に申請し、OKが出た所だ。光栄に思いながら新入生の実力を装置開発関係者に見せ付けてやれ。…以上!』」


「だってさ?何かハードル何段も上がってない?」と浩太がやれやれと言った表情で裕也に聞いてきた。


「確実に10段は上がってるな」と裕也も同様な表情で返す。そして


「どうする?」と、今度は裕也が浩太に質問する。


「やるしかないけど、ああ言った以上、恐らくこの映像は何処からか流れて学校中に配信されるんじゃないかな?…困ったな…。出来れば最初から目立った実力は見せたくないんだけど…」


「それは俺もだよ。…下手に注目されて、喧嘩っ早い家系の奴らに難癖付けられたら面倒だ。」


「確かにね」

 

「『何時までもくっちゃべってないで、さっさと始めろ。もう映像は流れているぞ!』」


 即行で突っ込みが汐音から入ったので、二人とも顔を見合わせて苦笑しながら互いに向き合う。


 そして、浩太のみ初めから構えを取った。


 浩太の構えは何処となくカンフー映画の構えに似ている。


 裕也は宣言通り、最初は自然体で様子見の様だ。


「本当に、最初から本気で良いんだね?一瞬で終わっても知らないよ?ヘタしたら教官に扱かれるんじゃないの?」


 その浩太の挑発的な言葉にも、顔色一つ変えず、裕也はニヤリと口を歪ませて


「後悔させてみな?出来るもんならな?」


「言ったね?では、さっそ…く!」


 言い終る直前には、浩太は動きだし、二人に有った十数メートルの距離を一瞬で詰めてきた。


 その速さは、実演時の武井と言う生徒の能力を使った最初の動きに近い。


 しかし、その動きを完璧に見切れる裕也は、ホンの少し体をズラし、足を引っ掛けるようにしてやる。


 すると、案の定。


「うわー!?」


 勢い任せで突っ込んできた浩太の勢いは止まらず、そのまま足を引っ掛けて盛大にズサーっとズッコケ地面にダイブした。


 そして、その様子を見ていた観客の反応はそれぞれだが、浩太の失敗を咎める様な者は一人もいなかった。


 ☆ 観客席




「今、炎堂君って何時移動したの?」


「さあ?私はイキナリ風祭君の横に行ってズッコケた様にしか見えなかった」


 見ていた生徒が疑問を言葉にすると、教官である汐音が実力不足を指摘し、麗菜に説明をさせる。


「それは貴様らが、今の動きに眼が付いて言って無い証拠だ。しかも、奴はまだ能力は使ってすらいない。これがどういう事か分かるか?水守」


「はい。能力を使ってない状態で、我々新入生の目に見えないスピードが出せるという事は、すでに兄様は生身で新入生の中でもトップクラスの身体能力だという事です。そして、動いては居ませんが、裕也さんも恐らく、同じでしょう。それでないと、動きを見切って足を引っ掛ける様な芸当はできません」


「正解だ」


 合格!とばかりに頷いた汐音は、視線を舞台へと戻すと、観客として見ている生徒に向かって忠告してやる


「皆、良く見て居ろ!同じ歳で、能力を使わなくてもこれだけの動きが出来るという事を今から奴らが教えてくれる。そして、炎堂の実力次第では我が息子の実力の一端が見れるだろう。そして刻み込め。己の脳内に!目標とする高みを!超えるべき目標を!お前らには無限の可能性が秘められている!それを肌で感じ取れ!」


「「はい!」」


 教官の言葉に、生徒たち皆が一斉に返事をし、同時に舞台を見やる。


 そうとは知らずに舞台では、まるで教官と生徒の指導的な格闘訓練戦が繰り広げられていた。


「覇!」


 浩太がスピードを落とさずに右の正拳を放ち


「甘い!」


「ぐっ!」


 裕也がそれを左手でガードしながら右手で腹を抉る


「ほれほれ、もっとスピード上げろ。そんなんじゃ何時まで経っても本気何か出せないぞ?能力を使っても良いから俺に少しは攻撃を当てて見ろ」


 チョイチョイっと右手を開いて指を折り曲げ、コイコイという感じで挑発している。


 普通なら怒りで考えも鈍って特攻するところだが、そうはしないのが浩太の冷静な所と凄さだ。


「…ふふ、わかったよ。君の動きが丸っきり僕には付いて行けない物だという事は分かった。これからは僕は能力も使わせて貰うよ。そして、君を本気にさせてみせる!」


「おう、させてみな!?」


 そう言いながら裕也は犬歯をむき出しにして微笑む。


 いかにも楽しそうだ。


「ふふ…では、行く…よ!」


 言葉と同時に地面を蹴って移動しながら、腰に差していた筒の様な物を引き抜いて、二つに分けて両手で持つ浩太。


 そして、その筒に力を篭めると…


 二本の炎の鞭の様な形状になった


 そして、その二本の炎鞭がまるで別の生き物のように裕也へと襲いかかる。


「へ~、…っと、結構…不規則に…出来る…もんだな…っと」


 右から左、左から右。


 かと思えば違う方の鞭が下から上へ、上から下へと縦横無人に襲いかかる。


 しかし、それを裕也は悉く躱しながら話の余裕まで有る様だ。


「へ~、…それが…浩太の…武器…っと、って事か?」


「うん。本来は道具を使わずに能力だけで発現するんだけど、ロッカーで試した出来たからね、便利だと思って使おうと思ったんだ。…これで僕の本領を見せられるよ。…って今も見せてるけどね?」


「はは、違いない。」


 そして、ここから更に特殊系統の能力者の本領が発揮される。


 特殊系統が何故特殊と呼ばれるのか、それは放出系統や身体強化系の様な、力を外に出すのと、力を自身に纏わり付かせる事のように、本来なら同時に出来ない事を同時にできるからだ。


 今の浩太の場合、筒の様な武器を持ってして鞭を形成している傍ら、足に履いた特殊なブーツで、移動も熟すのが彼の戦闘スタイルだ。


 そして、徐々にスピードを上げる浩太。


 もう、観客が視認できる炎鞭の数は数十に達している。


 しかし、それを目にも留まらないスピードで裕也は躱し続ける。


「よっ、…っほ、っと…流石にこれは能力を使わないと駄目かな?」


 だが、流石に躱し続けるのも限界の様だ。


「…流石に僕もこれ以上はスピードを上げられないけどね。それでもこのままだと裕也君も反撃が出来ないんじゃないの?…それに、今観客には裕也君の姿は何人にも見えてる筈だよ?ここまでして、実力を隠すもなにも無いと思うけど?」


 そう言われて「う~む」と考え込む裕也。


 そして、炎鞭を躱しながら数秒後、決心したのか顔を浩太に向けると、ニヤッと笑って


「じゃあ、俺の能力の一つを見せてやろう。括目しろ!ここ風に言えば、第一オリジン。【大演武】」


 裕也はそう言いながら服の中の武器を全て空中にばら撒き、それに己の能力の糸を付けていく。


 これら全てに意志を持たせ、操るのが裕也の能力。


 現在操れるその数、5。


 しかし、ただ浩太の倍という問題ではない。


 浩太の場合は起点として腕が有り、浩太の動きが掴めてさえ居れば、その場所を見て鞭を見てからその延長線上の先端を躱すことは裕也にとって難しいことでは無い。


 しかし、この裕也の【大演武】の場合、糸は彼の能力であり、眼には見えないもの。


 それにより場所を特定することは不可能。


「さあて、浩太。何処まで逃げられるか試してやる」


 何故か躱しながら偉そうなセリフを言う裕也に浩太は苦笑を禁じ得ないが、そこはもう裕也だからと割り切って話をすることにした浩太。


「…その状態から何が出来るか知らないけど、受けて立つよ裕也君!」


 そう、今の状況は観客からすれば炎鞭の群れの中で武器を落としてしまった対戦相手にしか見えない状況。

 ココからどうなるのか、浩太でなくても興味の出る所だ。


 実際、鞭を自在に操っている今の浩太は何処にも死角が無い様にみえる。


 ココからの起死回生の一手が果たして有るのだろうか?


 そういう状況にあっても顔色一つ変えず、裕也は淡々と軽快なステップで全ての鞭を躱しながら、既に自分の能力を取り付け終わった武器を見てほくそ笑むだけ。


 観客もまた、その表情とこの状況のギャップに戸惑いを隠せない。



 ☆ 観客席



「あの~、教官?」


「なんだ?」


 目の前の戦いをボー然と見ていた女生徒が躊躇いがちに汐音に尋ねる。


「息子さん…裕也君は如何して武器を捨てたんですか?今まで避けられてたのに、態々拾わないといけない分無駄に成るんじゃないですか?」


「それに、この状況で笑ってますし、如何いう意図があるのか分かりません」


 戦いをボー然と見ていたと思ったが、一応分析はしている様な野原と麗菜の二人に微笑みつつ、しかし結果を見てのお楽しみだと言った感じで汐音は応える。


「まあ、裕也の能力を知らない者からすれば確かにおかしな行為だが、実際はあの状態で次の攻撃の準備は整っている。それを今からアイツが証明するだろう。…まあ、じっくり見ていればいいさ」


「「はい!」」


 そうして、決闘は最終段階へと入って行く。



この後主人公のチートが明らかに!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ