3話 入学式3
体育館を出て、広く長い廊下を進んだ先に学生棟があった。
その右手側には学生らしく、部活棟と言う物もあり、それぞれの能力に合わせた物を部活動にて高めようという狙いの様だ。
その反対側には最初に説明された各種施設が有り、見ただけでも壮観だった。
何と言ってもココだけで生活の全てが行えるのだから。
そして、勿論仮想犯罪者と言えるバトル空間もヴァーチャル街という空間に作られており、そこで空間掌握系の能力者が作った、能力者と犯罪者との仮想バトルを体験できるらしい。
他にも技術棟という、マシン開発専門の能力者用の施設もあり、それらの使用ID作製も今から行く説明の途中で行えるらしい。
さらに奥には個人宅と学生寮が有り、今から行くはその手続きをしに行くらしい。
裕也は一応個人宅だが、汐音が何時でも様子見(監視ともいう)が出来るように、汐音が住む教職員の居住街のすぐ近くにある家に成っていた。(裕也は既に決められていて、手続きの必要が無かった。)
だが、一応全ての生徒は同じスタートラインにと言う事で、全ての生徒は学生寮、個人宅の両方を見て、もし要望があるなら、個人宅を事前に通達していた者でも、学生寮に。
学生寮にしていた者でも、個人宅に変更が可能という物らしい。(これも、可能であると言うだけで、個人宅の者に成るには、相応の実力が必要だ。現に予め可能と言われていた者は、何処で調べたのか、各クラス入試トップ10の者たちばかりだ。)
勿論、浩太と麗菜の兄妹は二人な分、一人の者よりは手狭になるが、それでも学生寮よりは広い。
そして、この個人宅のシステムの魅力は勿論、門限がない事だ。
しかも、その主の許可と、端末での生徒会、教官のOKさえあれば他人のお宅に宿泊も可能だという事。(これで手を出すなと言うのも酷な話ではあるが。)
全て男に襲えと言う様なシステムだが、如何いう訳か裕也が汐音に聞いたところ、今まで一人もそう言う行為に至った者は現れてないらしい。(当然の事ながら監視カメラで見張っているためだ。そう言う行為が成されようとした場合、センサーが反応してベルが鳴り、お邪魔をしている未成年は強制退場に成る。勿論、二人とも後日懲罰部屋行き。)
そして、今目の前で学生寮の手続きをしようとしている生徒が、汐音に向かって何かを言っているのだが、その内容は。
「スマンな。去年の事でスッカリ忘れていた。まあ、この場で良いだろう、皆腕の端末を出せ。その中の学生番号認証と言う項目で己の予め渡されている学生番号を打ち込めば直ぐに私の持つこれにそれぞれのIDが提示される。由って打ち込んだ者で、私に名を呼ばれた者からIDを送るから私の所へ来い。…さ、やれ」
「はーい」
どうやら本来は教室で机の中の端末の本体から各人IDを読み取ってココに集合だったらしいが、汐音が忘れていたようだ。
それから、数分後皆がIDを受け取り、学生寮の手続きをする間、裕也は汐音と個人会話だ。
「どうだ?裕也。ここは面白そうだろ。特に、お前なら先ほどの実演の際に金髪の子の胸位は拝む位の事は出来たんじゃないか?角度のよってはモロに見えたからな。」
「…まあ、出来たけど…麗菜には言わないでよ?ガードが固くなったら嫌だし。才能は分からないけど、状況判断の能力とポテンシャルの高さは相当だと思うからね。俺が義母さんに扱かれた位の訓練をやってあげたら今の状態からでも3年は無理でも2年生くらいの、さっきの武井さん?位の実力には直ぐに成ると思うから」
「それで手取り足取り教えようって事か?家に連れ込むなら私に一言言えよ?私なら隣で監視しているから異常事態が有れば直ぐに掛けつけてやれるからな?」
「何の心配をしてるの、何の」
「それは…教官の私には言えない事だ」
「義母さん…」
汐音の返答に思わず額を押さえる裕也。
そこへ丁度手続きを終えて帰って来た麗菜と浩太が心配そうに顔を覗いてきた。
「どうしたんだい?裕也君。風祭教官、何かあったんですか?」
「さあ?色々と話をしてたら急に額を押さえだしてな?どうしたんだろうな?」
あからさまにそんな事を言う汐音に何か言おうとする裕也に対し、麗菜が手を出して裕也の額に触れてきた。
一瞬の事でビックリする裕也だが、その後の体調の変化に更に驚いた。
何と、水を防御用にするだけでなく、触れた相手の治療もする事が可能らしい。
「…どうですか?一応、私は治療の方が得意なんですけど。未だ痛みは有りますか?」
「いや…もう大丈夫だけど、さっきの実演の時は如何してあんなに治療の効果が中途半端だったんだ?確かに普通よりは回復が早いと思ったが、この位回復できるなら、さっきの場合だってもっと効率よく出来たんじゃないか?」
裕也は思った事を言ったのだが、どうやら麗菜の能力は未だそこまで万能ではないらしい。
「いえ…確かに同じ程度に行使で来たら良いんですけど。まだ私の力では水のセミオートガードと治療を同時に使う事は難しいんです。今はこの人数が居るので解除してますから、治療に専念できる分、回復も早いですけど。戦闘中はどちらか片方の能力しかまだ出来ないんです」
「それにな、裕也。ここで言って良いかどうか分からないが、守りと治療は同じようでいて全然違う物だ。だから、この場合両方出来る水守が結構優秀な部類と言えるんだ。…皆の中で水系統の能力者は居るか?」
汐音が皆に尋ねると、26人の中で5人程手が上がった。
「うむ。その中で更に治療と守りの両方出来る奴は?それとあまり居ないと思うが、序に攻撃もこなせる奴は居るか?」
「はーい!僕全部齧ってまーす。全部多少ですけど」
見れば、さっきの霧上野原が手を上げていた。
「お前はさっきの奴か。確か野原だったな」
「うん!覚えててくれて嬉しいよ。それでさっきも言った通り、僕は剣術道場の娘だからね。その関係で獲物を自分の水で作って長さを自在に操作できるしって言っても、未だ2メートル位が限度で、回復も自分の体限定。守りも意識して更にコンマ数秒のズレがあるから、これからの訓練次第なんだけどね?」
そう言って、野原は手を前に出して握り拳を作ると、そこから水が出て来て、刀の様な造形を作りだし、長さ1・5メートルの長さの獲物になった。
しかも、結構透明な水で構成されており、見る者を惹きつける物があった。
そう思う者は多かった様で、野原が手にそれを作った瞬間、周りに女生徒が群がってきた。
やはりこういう物は女性の方が興味を持つのだろうか?
「わぁ~綺麗な色ですね~。これ、名前は有るんですか?」
近くに来た赤い髪の女生徒が尋ねると、野原は自らの刀を見つめながらその銘を伝えた。
「うん。僕が感覚で命名したんだけどね?【水鏡】の太刀っての。まあ、太刀って割には太くないんだけどね?」
そう言いながらペロッと舌を出す仕草は、男にとっては可愛いと思える物だったようで。
「何か代表の水守さんも良いけど、彼女も良いな。名前はなんて言うんだ?」
「さあ~、お前聞けよ」
「いや、お前が聞いてくれ」
そんな問答の後、汐音が流石に煩くなったと思ったのか、声を出して騒ぎを鎮め。
「うるさいぞ!貴様ら。名を聞く位で何を躊躇しとるんだ!?…おい、お前の名は?本来端末で解かるが、馬鹿な奴らの為に教えてやれ」
「はーい♪僕は霧上野原でーす。一応胸はあんまりないけど、女の子なんで悪戯はしないでねー?スパッツは履いてるから下は捲っても意味ないよー?」
「そんな余計な事は言わんで良い」
ガン!っと汐音のゲンコツが野原の頭を叩いた。
「はーい(涙)。ごめんなさーい」
シクシクと嘘泣きをする姿は微笑ましいが、この野原も訓練次第では上級生に張り合える逸材に成りそうだ。
「他には居ないか?」
「…はい、私。一応…両方…使える」
次に手を上げたのは、小学生にしか見えない女の子だった。
黒髪黒目の日本人の典型的な容姿だが、所謂日本人形的な可愛らしさが有る子だ。
「…ふむ、名は…来栖紗枝か。能力がどの位か聞いて置こうか?嫌だと言っても明日の能力授業では全員の測定をして、その能力に応じた鍛練プログラムに成るからあまり意味はないが?」
「…分かり…ました」
汐音の説明で不承不承と言った感じで頷くと、先ず麗菜の様に自分の周りに水の膜を張る。
しかし、凡そ20秒ほどで消えてなくなった。
「防御は…これが限界。…次は回復…だけど…誰か…怪我…できる?」
ちょこんと小首をかしげる仕草に、愚かな男子は何人か倒れ込み、ついでに地面に頭を打った。
「痛っ!」
「あたっ!」
そのお馬鹿な光景を今度は汐音が額を押さえて見ながら、呆れた風に叱り付ける
「何をやっとるんだ!馬鹿者共!…まあいい。そいつらの治療をしてやれ。いい実験材料だ。」
「…分かりました…」
言いながら紗枝は二人のうち一人の男子の方に近づき、頭に手を添えて目を閉じた。
そして、数秒後…
「おお、少し痛みが和らいだ!スゲエ!」
「ほ~、少し時間が掛かる様だが、痛みが少しでも引くなら十分使えるレベルだな。来栖は…?実技入試百位?筆記が55位か。可もなく不可もなくと言った所か…。まあ、今のを見れば、もう少し筆記を頑張れば2年に成る頃には総合でも30位くらいには成るだろう。それを目指して頑張れ。」
「…ハイ…」
「それから、貴様らには言って置くが実技の試験と言っても2種類ある。それは各々が使用できる能力の上限を数値で把握する物と、体術を織り交ぜた、より実戦的な、先ほど水守がやった実演の様な物だ。そして、男子にも女子にも言えるが、実技の実戦の方では今もそうだが、水守が破れた制服の下に着ているこのスーツを着て貰う」
そう言いながら汐音は麗菜のスーツを指で掴んで弾力性などを見せる。
「この様に、非常に弾力性に富み、衝撃に強く、刃物などにも耐性は有るが、それでも限界は来る。その場合勿論破れるのだが、授業の途中では替えはフィールドの外に出ないと一切支給されない。そして、フィールドの外に出れば勿論負けに成る。それがどういう事か分かるか?」
「…では、フィールドでの授業中はもしスーツが破れても、外に出て負けを認めないと破れたままで続けるしか無いという事ですか?…では、もし仮想の犯罪者にそういう事態に追い込まれたら、どうなります?」
「その場合は勿論、そこで負けとして扱われるが、実際にはどうなるか考えれば嫌でも気絶はしたくないだろう?女生徒は特にな?」
「…ええ…」
汐音の言葉に女性陣を代表した麗菜の頷く声が響く。
流石に訓練の仮想犯罪者ではそこまではしないが、やはりそれでも女性陣にはキツイ場所だという事だ。
しかも、スーツ自体も今みた感じ、肌にピッタリ張り付いた所謂インナータイプだ。
恐らく真矢が言っていた特殊スーツはこれよりも更に対犯罪者用に成っていて強力なのだろう。
あの副会長が言ってたように、実際に犯罪者と戦うのもあるが、実力が上の生徒会メンバーは、それだけ過酷な現場に行かされるだろうから、より強力な装備が必要でもおかしくない。
だが、これだけで訓練や現場に行くには少々目のやり場に困るだろうから、他にも何かしらの装備は有るのだろうか?
「あのー?」
「ん?なんだ?裕也。質問か?それとも気になる子に告白か?それなら大勢の前よりプライベートの方が良いぞ?」
「質問です!」
「なんだ、詰まらん」
裕也の返答に本当に詰まらなそうに返す汐音。
それに対し、またも額を押さえながら唸る裕也。
流石に今回の裕也の頭痛の原因は分かっているので、先ほどの様に麗菜が心配する事も無かった。
「…で?なんだ?」
「そのスーツだけで訓練や実戦をする訳でもないですよね?幾ら衝撃や刃物に強い素材でも、相手は一般住宅に居る奴らです。こんなインナーの様な服だけでは一般人から奇異な目で見られ兼ねませんよ?実戦を重視する学校がそれではおかしいでしょう?」
「お!?良い所に気付いたな。流石我が息子。それでこそ今までこってり絞った甲斐があったと言う物だ」
そう裕也を褒めた後で、周りの生徒に説明を始める汐音。
「これは明日の授業からでもよかったが、折角質問が来たんだ。今少しだが、説明しておこう。裕也が言ったように、訓練で使用する服は確かにある。しかも、刻一刻と進歩中だ。それは今も先ほど来る時に通った技術棟で開発専門の能力者たちが、より良い物を開発中だという事だ。彼らは戦闘には直接参加は出来ないが、他の面で皆と同じように、いや、ある意味皆以上にプレッシャーと戦っている。それがどういう事か、少しでも察しが付く奴なら分かると思うから、私からは言わん。もしあいつ等をそう言う面で罵る奴が居たら、私ならここから追い出す位の酷い行為だとだけ言って置こう」
「分かりました。肝に銘じます」
「うむ、分かれば宜しい。」
汐音がそう言いながら裕也に微笑むと、今度は今まで黙っていた浩太が汐音に話しかけた。
「教官、少しいいですか?」
「なんだ?炎堂。質問か?それとも妹の落とし方か?それなら生憎私にそっちの趣味は無いから他を当たってくれ」
「いえ、それも知りたいことですが、今は別の事です」
「…お前はノリが悪いな…。裕也の方が面白いぞ?お前もある意味面白いが」
「ありがとうございます」
(義母さんと張り合ってるよ、浩太の奴。凄まじいな。隣で麗菜が恥ずかしがって俯いてるのに気付かないのか?)
そんな裕也の思いとは関係なく、浩太と汐音の話は続く。
「僕が聞きたいのは、勿論妹の落とし方もそうですが、ここでの決闘の説明です。僕はどうしても今からそこの裕也君の実力を見たくなってきましてね?妹が代表の時点でそこまででないのかとも思いましたが、さっきから見ていると隙が全くない。これでも僕は、麗菜と同じエレメントでは無いにしても、その傍流です。しかも、傍流なだけに全てを熟さなければならない本家と違って、僕は体術なら下手なエレメント本家にも勝てると自負しています。その僕が隙を見出せないのが教官の息子の裕也君ですから。ハッキリ言って今うずうずしてるんです。戦いたくて」
「…その眼はマジな様だな。…よし、良いだろう。実は私も裕也がこの一月私が居ない間にどれだけ成長してるか気になっていたんだ。お爺さんには鍛えて置いてくれと言ったが、私が離れた時にはもうお爺さんでは相手に成らなかったからな。…だが、今は未だだ。今日はこれから手続きを済ませた寮の場所の確認…はやったから、個人宅の確認と、各種施設の簡単な説明に眼を通して貰わんとイカン。その説明の時に決闘の事も載ってるから、その時にやらせてやろう。…それでどうだ?」
「それで十分です。ありがとうございます」
「なに、私も見たいから、気にするな。」
それから皆が手続きを済ませているか、端末で確認し、OKだったのを確認すると、汐音は再び移動を促す。
「よし、これで皆の入寮手続きは完了だ!由ってこれから個人宅のエリアに向かう!とは言っても少し歩くだけだ。そこでこの中にいる、特殊系の能力者のトップ10の発表を行い、そこから更に今しがた要望のあった我が息子裕也対炎堂浩太の決闘を行う!これは必見だぞ?!何と言っても双方、特殊クラスの中のトップ10…いや、この際だから言うが、実技ではトップ5だ。皆も気づいている奴はいるかもしれんが、今日は家の用事が有ってどうしても遅れて来てる奴が居る。そいつを含めて実技トップ5の内、4人は内のクラスだ。誰がそうだかは今は言わないがな?」
「ホントですか!?」
「何か内のクラスってスゲーんじゃねえか?」
「鎮まれ!」
再び騒ぎ出した生徒を喝で鎮めながら汐音は続きを話す。
「今も言った通り、このクラスは実技の成績が良いのが居るのは確かだが、逆に言えば、それだけ馬鹿が多いのも事実だ。誰かは言わんが、この中で全新入生中筆記最下位の奴が居る。誰がそうかは自分が一番分かってるだろうから、そいつには今後期待と言った所だ。…では、個人宅の住宅街へ案内する。付いてこい!」
「はい!」
そうして、裕也達は個人住宅街に来た。
しかし、そこで見たのは…恐ろしく巨大な集落だった。
確かに結界で囲まれてる事もあるのだろうが、ここまで能力者に便宜を図る必要があるのか怪しい位の親切だ。
その内容は、一軒につき庭が20メートル四方位の広さがある物だ。
これなら、個人が外で自己修練をしてでも十分に活動が出来る程の広さだ。
しかも、説明に由ればその庭の設定も多少のネット操作で弄れるらしい。
流石に今は誰が使うか分からないので、全面ネットをカットしてるが、明日には色々と操作が可能に成るらしい。
その他にも調べれば色々と出てきそうだ。
「よし、裕也はやっているから水守と炎堂はそこの住宅管理人の住居で登録を済ませてこい」
「「はい!」」
そう返事をし、二人が管理人の家に入ったのを見て、汐音が続きを話す。
「という事で分かるように、このクラスで今年度の特殊系の入試、実技筆記の総合でトップ10だったのはあの2人と、遅れてくる1名と我が息子の4名だ。これはある意味異常な事だ。何といっても各クラス20のクラスが有る中、トップは10人。常識で考えてクラスに一人いたら良い方なのが4人も居るんだからな。他のクラスの事は言えないが、異常だと言うのは言って置こう」
そう前置きしてから数分待ち、帰って来た二人を交え、汐音は肝心の肝の部分を説明する。
「そして、ここからは皆も聞け!この個人宅は今の段階では入試トップ10しか使えないが、季節ごとの中間、期末成績発表の時に出た順位で入れ替わりもある。だから、もしかしたら貴様らの誰かが、今決まっている奴らを押しのけてこの住宅街に来れるかもしれんという事だ。それは皆にチャンスが有り。皆が学生寮に入れられる可能性も秘めている。由って、ここに入って気に入った奴は下に追い抜かれない様に死ぬ気で成績を死守しろ!寮が気に食わんで、ココに入りたい奴は死ぬ気で成績を上げて押しのけろ!ココでは成績が全てだ。実力が全てだ!」
そこまで言った汐音は少し間を開け、生徒たちの反応を見て、意識が上がった者が半分くらいだと知ると、少し肩を竦めてから気を取り直して次の説明をした。
「更に言えば一年の最終に発表される成績でワースト100だった者達は、教官からの地獄の扱きがある。これに耐え切れずにここを飛び出してしまった軟弱者や途中に違反や罰則をさせられ、それが元でここを飛び出し、後に犯罪者となってココでの仲間に捕えられた奴も何人か居る!由って、いい方はきつい様だが、貴様らには私がそうならない様に最初から地獄の扱きをしてやる。私の扱きに耐え抜ける者なら、ワースト100は有り得ん。それは断言しよう!犯罪者に成ってかつての仲間に捕まりたくなかったら死ぬ気で付いてこい!…では、次にお待ちかねの決闘を行う施設について説明する。付いて来い!」
☆
そして、今度は予定通り戻って先ほどのヴァーチャル街の、仮想犯罪者を捕まえる訓練をする為の施設にやって来た。
外観は色々な街の風景や個人宅の中の風景が次々と入れ替わっているモニターが映し出されている巨大スクリーンだ。
見れば、そのスクリーンの映し出されている下の方に学校の門と同じような作りのゲートが有り、そこに観客席と決闘用席という二つの入り口があった。
恐らくここも他に被害が移らないような特殊なフィールドに成っているのだろう。
そして、裕也が辺りをキョロキョロと見ていると、汐音が説明を開始した。
「よし、ここでお前たち二人の腕の端末を見ろ」
「こうですか?」
そう言って、裕也と浩太は互いに端末を汐音の前で見る。
「ああ、それでいい。皆も聞け!今後何回かは決闘もやることになるだろうが、今からやる手順でないと決闘は無効だ。そして、全てが私闘に成って見つかれば男女の別なく下着姿で校庭を一周してから懲罰部屋に行かされ、そこで教官の扱きがある。あそこはハッキリ言ってお薦めしない。その為、今から言う手順をしっかり覚える事」
「「はい!」」
一応、今から当事者に成る裕也と浩太は素直に返事をし、指示を待つ。
「いいか?やり方は至って簡単。先ず端末にある能力向上希望の項目を選ぶ。そして、座学と実技が有るから実技。そして、実技の項目に野外と屋内が有り、野外で戦闘訓練を選んで決闘を選ぶ。…ここまでやってみろ」
「「はい」」
(…能力向上…実技…野外…戦闘訓練…!決闘、これか!)
操作しながら決闘まで辿りついた裕也は、そこからいきなり画面がカメラモードに切り替わって焦る。
しかし、同様に浩太も同じ現象に成っていたみたいなのでこれでいいと安心した。
「出来たようだな。それでお互い相手をカメラに収めて、バトラーがその相手か?という質問にイエスと答えれば決闘受付完了だ。そして、今から行く場所には二つ入り口が有る。
一つは観客用。
一つは決闘者用。
一応会場の入り口にプレートで別れているから分かるだろう。男女別にもなっているからそこで専用スーツに着替える。
後、端末で色々と場所の選定が出来る。例えばスクリーンに映っている個人宅を想定したフィールドや、郊外、住宅街を想定して物など様々だ。どれにするかはお前らが好きに決めろ。私としては、観客である我々が居る分、最初は闘技場が有りがたいがな?対犯罪者向けではないが、障害物が無い分、生徒の体術や能力のみを見る事が出来る。条件付きのフィールドでは能力で差が出てしまうからな。…そう言えば、ルールはどうするんだ?」
「ルール?」
義母の言葉に裕也は疑問で返す。
「ああ、一応決闘という事でルールはキチンと存在する。大まかにはポイント制とダメージ制。
ポイント制は特殊なフィールドによって痛みは皆無だが、それぞれの端末にダメージポイントが表示され、100に成ったら負けだ。
ダメージ制はポイントが無い代わりに実際の痛みを伴い、気絶した時点で負けだ。
しかし、偶に気絶寸前まで追い込んで再起不能にする容赦ない奴が居るから、脳波が負けを認めた場合はその時点で負けだから注意しろ?負けを認めた瞬間だから、結構際どい判定に成る。それでよく問題にも成ってるんだ。…何故だかわかるか?」
「認めた心算は無いという生徒が相次いだ…とかですか?」
義母の質問に裕也は当然かな?という感じで応える。
「その通り。しかし、これは仕方ない事だ。根性やらが有るかも知れんが、特に女性がそう言う場合に成ったらハッキリ言って危ない。端末や脳波は特殊フィールドで守られているから壊れることは無いが、それを逆に利用する奴も居る。その為の措置だ。…分かったか?解ったら、私が今回の決闘の立会人を務める事になるから、後で分かる事だが一応申請しておいてくれ。」
「どうする?」
「どっちでも良いよ?」
汐音の説明に二人で相談する裕也と浩太。
そこに麗菜が口を挟む。
「あのー?良ければポイント制にしてくれませんか?どちらも怪我をされてはいけませんし」
「おー!流石僕の愛しい妹だ。そこまで兄の事を心配してくれるとは…、しかし悪いな、僕としては未だダメージがどういう割合でポイントに成るのか分からない現状では、ポイント制では納得できない。さっきはどっちでも良いと言ったが、裕也君がどちらでも良いならココは僕の欲求を満たすためにダメージ制にしてくれないか?」
「…分かった。浩太がどうしてそこまで拘るのか知らないが、俺も浩太の疑問には興味がある。…悪いな、麗菜。そう言う事でダメージ制にするわ」
「…分かりました。お二人とも、お気を付けて」
「「うん、ありがとう」」
3人の話し合いが終わり、汐音に説明をすると、汐音は全員に向かって
「では、これより観客である皆と立会人の私は観客席から入る。二人は決闘用から入り、個別のロッカールームで置いてある決闘用スーツのダメージ制用と書かれた場所のスーツと、戦闘用特殊スーツを着て舞台に入ってこい。我々は上で見せて貰う。…一応お前らの攻撃は結界に弾かれて観客席までは届かんから、安心して能力を使え。その様子は観客席の大型モニターで見る事が出来るから、無いとは思うが、もし危ないと判断される能力を使う場合は立会人権限で止める。…以上だ。逝って来い!」
「義母さん何か響きが違うけど?」
「気の所為だ!」
「裕也君、気にしたらダメだ。気楽に行こう」
「…了解…」
汐音たちが見守る中、二人は決闘に赴いて行くのであった。