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ゲーム・ダイバー  作者: 暇人
島釣り生活
9/14

人魚の苦悩

 『ミウ』


 遊輝は人魚の彼女をそう名付けた。海で出会ったからウミ……ミウと言う安直な考え。

 しかし、ミウにとっては王子様が自分自身に宝物を宿らせてくれたような感覚で小一時間舞い上がってしまうほど嬉しいものだった。


 そんなミウは遊輝の予想通り釣りの獲物として用意されただけの魚の一つでしかない。設定も然程加えられていないので始めは感情も思考も持っていなかった。しかし、隠し要素として珍しい魚を加えようと考えた製作者が人魚として創ってくれたおかげで長い年月を生き、次第にミウという個性を確立させていった。


 自分に与えられた使命、生まれた意味、それは自分を釣ってくれる者に出会うまで生き続けること。ただ果てしなく広大な海の中を泳ぎ続けること。何となく頭に浮かんで離れないソレは呪縛として彼女を拘束し続けていた。だが疑問を抱くこともなく、当たり前のように染み付いてしまっているので自分ではどうすることも出来ない。

 ただ同じ日常を繰り返すのみ。


 そんな時に自分を救い出してくれたのが遊輝。まさに乙女が夢見る王子様そのものだった。

 故に彼女、ミウは遊輝を愛し、自らも愛してもらおうと必死だった。


 だが、毎日一緒に過ごしていれば自分よりもエレノアやウンディーネの方が遊輝に愛されていると薄々勘付いてしまう。ならば自分との違いは何なのか。単純に見た目なのだろうか。しかし、エレノアとウンディーネの見た目は対照的。自分が特別醜いとも思わない。

 だったら性格だろうか。それも答えとは違いそう。


 ミウは自分と二人の違いを日々観察し、二人と同じように行動した。

 同じように釣りを手伝い。同じように寝食を共にした。その効果は上々で次第に距離が縮まっているのは確かだった。

 なのだが……何かが足りない。もう一歩先に進む何かが……。


 「どうしたのミウ? そんな難しい顔して、ご飯美味しくなかった?」


 遊輝はミウが何やら渋い顔をしているのを見て自分の料理が不味かったのかと思った。

 基本的には焼いたりするだけなので失敗はないはずだが、と。


 ミウはここ数日で意思疎通がスムーズに出来るようになった。

 遊輝のジェスチャーを交えた言葉に意味を察し、急いで「美味しい美味しい」と表情と動きで伝えた。

 遊輝を悲しませることは絶対にしたくない。


 現在は湖へ戻ってきて四人で生活をしている。後は残りの魚を釣り上げてしまえば完全クリアは目前と言う状況だ。

 そして、今は夕食時。釣った魚と森で採れた野草や果実などの献立。


 四人とも綺麗に食べきった。


 「ふぅ~満腹だ~」

 「ご馳走様だ」

 「……美味しかった」


 三人に倣い手を合わせ感謝の意を示すミウ。


 そして食後はみんな小屋に入りまったりタイム。

 遊輝は筋トレしたりメニュー画面で掲示板を見たりしている。メニュー画面は個人魔法のステータス画面と似ているので特に奇妙には思われていない。

 エレノアは遊輝を眺めたり、遊輝と会話したり、遊輝とイチャイチャしたくてウズウズしたり。

 ウンディーネは遊輝を眺めたり、遊輝と会話したり、遊輝とさり気無くイチャイチャしたり。


 そんな和やかな空間でミウも一緒に安らいでいる。

 温かな雰囲気に包まれて睡魔に襲われ始めたミウは魔法『水塊』を応用して作った水のベッドに包まれるようにして眠りにつく。







 ……。


 「寝たようだな。さ、さぁユウキ」

 「……しよ?」

 「う、うん」


 三人は最近ミウが寝静まった後にハッスルする。まだミウに対してどう関われば良いのか決めかねているのだ。

 ミウは遊輝に好意を抱いているようなので夜の仲間に引き込んでも問題ないだろう。しかし、見た目に反して無垢な少女のように穢れを知らないミウにこんなショッキング映像をお届けして良いものだろうか、と。

 さらには三人も相手にして大丈夫だろうかと遊輝を心配、と言うより自分たちの取り分を考えてしまう淫らな女性陣。

 遊輝は自分なら全然平気だと思うぐらい持久力には自信がある。ただ、一つ心配なことが……。


 ミウはゲームをクリアしても一緒にいられるかどうか。

 ウンディーネは掲示板情報によると特典として獲得できるようなので一先ず安心なのだが、ミウは恐らく遊輝が初めて遭遇したか掲示板に書き込まれていないだけか、どっちにしても情報が足りない。

 もう関わってしまったので出来るだけ見捨てるような事はしたくない……が、ずっとこの世界で暮らすのかと言われると悩んでしまう。

 もし、もっと深く関わってしまったら選択肢はなくなる。


 三人はそんな思いからミウに見つからないようコソコソ事に及んでいるのだ。


 隠し事をしているみたいで複雑な心境になりながらも、いざハッスルし出せば気持ち良さと幸福感で何となく良いかと思ってしまい毎晩このパターン。

 今宵も三人はミウを起こさないように静かに、しかし激しく、愛し合った。







 ――潜んだ視線に気付かずに。







 「おおっ!! 新種だっ!! これで残り三匹……」


 今日も釣りに勤しみ魚図鑑は残り三匹でフルコンプリートという段階まで来ていた。

 その内の一匹がゲームクリア条件となっている伝説の魚だ。隠しステージ、裏ステージも攻略は完了しており隠しヒロインとも関係を最大まで深めた。加えてフルコンプリート状態でクリアすればTRUEENDを迎えることが出来るだろう。

 伝説の魚は条件を色々と満たさないと釣れないので誤ってクリアしてしまう事はない。


 「長かったようで短いような……最初にユウキと再会した時と比べると随分関係も変わったな」


 前のゲーム世界ではこの世界よりも長い時を一緒に過ごした。しかし、この世界での生活はそんな時間の長さよりも遥かに色濃く充実したものだったであろう。

 まさかこんなにも早くイヤ~ンな関係になれるとは思っていなかったとエレノアは神に感謝する。


 「……少し……こわい」

 「そうだな。伝説の魚を釣り上げた時、どうなるか……」


 そんな充実して幸せな思い出が詰まっているからこそ、もしもの事を考えるとエレノアもウンディーネも平常心ではいられない。

 遊輝が何か終わりに向かって進んでいるのは見ていて分かる。その終わりの先も離れることはないと言うことも何となく分かる。なのだが、やはりこわい。自分たちでは想像もつかないことなのだから。

 そう思えば思うほどより強く遊輝を求め、昨夜も異常なほど激しく乱れてしまった。


 そのため、ミウの視線に気付くこともなかったと。


 ミウは見てしまった。三人の荒々しく乱れ狂った卑しい姿を。

 初めは怖かった。普段の姿とは全く違う三人の様子と、その過激な行為がミウの心を深く抉った。怖くて気持ち悪くて身動き一つ出来なかった。

 只々そこから目を背けることが出来ずに、金縛りにでもあったかのように静かに見続けた。

 しかし、その光景に怯えながらも一番驚いたのは羨ましいと感じている自分。

 綺麗に彩られた自分の心を、思い描いた微笑ましい幸せを、理想の王子様を、土足で蹂躙していく光景に嫌悪を抱いていたはずなのに……何故か自分もその中に混じり、全身を遊輝の存在で穢し尽くされたいと望んでしまった。

 そんな自分がとても醜いものに感じられ涙さえ流した。だが、それこそが自分とエレノア、ウンディーネとの違い。遊輝から愛されていると実感するために必要なもの。

 そう考えたミウは今夜、とある計画を練っていた。







 それはいつものように夜、三人で愛し合った後に起こった。


 既に三人とも寝静まっている。すると……。


 「んん……な、んだ?」


 遊輝の耳にどこからか歌声が響いてくる。

 流れるように美しく、この世のものと思えない不思議な音色。その歌声の素晴らしさに眠気など吹っ飛んでいた。

 しかし、エレノアとウンディーネは聞こえていないのか眠ったままだ。


 「あれ? ミウがいない……もしかして」


 遊輝が普段ミウの寝ている定位置を確認すると、そこに姿は見当たらなかった。

 この歌の招待はミウなのか? そんな思いと、不思議な音色の美しさに体が自然と外に向かっていった。


 辿り着いた先は湖の近く。

 月夜に照らされた水面がキラキラと神秘的な輝きを放ち、そよ風に揺れる木々の音だけが響く静寂。

 歌声と相まって夢の中に迷い込んだようなフワフワとした感覚になる。


 そんな中、湖の前にミウがいた。

 口から綺麗な音色『人魚の歌声』を紡ぎながら。


 「……ミウ」


 遊輝はそのミウの姿に見惚れていた。



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