大漁大漁
四話の最初、ウンディーネの見た目に関する文章に
『それを惜し気もなく曝け出し、大事な部分だけ隠すように水の揺らめく印象の模様が肌に直接描かれている。』を付け足しました。
島以外は世界全てが海で構成された、そんな広大過ぎる海を生まれたその時から目的もなく泳ぎ続けている者がいた。
ただ自身を釣り上げてくれる者の為に。
待てど暮らせど訪れないその時に疑問を抱くこともなく、自分の生まれた意味を求めて只管に泳ぎ続ける姿は寂しく映る。しかし一方、使命を帯びたその瞳は生命力に溢れ、王子様の到来を待つ乙女の如く。
今日も何千、何万と繰り返してきた同じ日常を送る。はずだった――。
チャポンッ
「大物来たーーっ!!」
「くっ……これはでかいぞっ!! ウンディーネも手伝ってくれっ!!」
「分かった……んんっ!!」
遊輝、エレノア、ウンディーネの三人は海で生活していた。
海は裏ステージ扱いなのを掲示板で知った遊輝は湖よりも先に海を攻略してしまおうと計画したのだった。
既に海での生活は5日目を迎える。
そして、現在は大物が掛り三人で釣り上げているところだ。
「うをぉぉぉぉおっ!!」
「で、でかいっ!!」
「……大きい」
その姿は一つの島と呼べるほどの大きさを持ち、辺り一面を影が覆う。
存在感の大きさで圧迫死できてしまうぐらいだ。
『島鯨』
まさにその名の通り、それ以上に風格のある海の王者。
激しい地響きを起こし、大地へ降り立つ。
「海釣りコンプリーートっ!!」
この島鯨を持って海で釣れる魚?はコンプリート。魚図鑑の後方が全て埋まり、残りは前半部分のみになったので遊輝はそう判断した。
さらに成長度も溜まり竿は『達人の釣竿』へと進化を遂げた。
そうして盛り上がっていると島鯨が盛大に潮を吹き、大きな虹が発生。
その虹は端の方から遊輝の持つ竿に吸い込まれていった。
「また竿が吸収……した?」
「そのようだな」
虹魚と同じ現象に不思議がる三人だったが、どこか良いことのように思えて警戒は解除する。
「記念にもう一釣りするかな」
遊輝はゲームも後半戦に入っていることを感じ取り、恐らくこれで最後の海釣りになるであろう一振りを放った。
力強く、景気よく、どこまでも遠くまで届く様に放った一振りは――彼女の心を射抜くこととなった。
変化の無かった毎日にやっと、心から待ち続けていた王子様の迎え。
胸が弾み、体は熱くなり、心が幸せに包まれて、そのお誘いを決して逃さぬようにしっかりと掴む。
その一方、余り抵抗の無い引きに軽く釣り上げた遊輝は予想外の大物を釣り上げてしまったと驚嘆した。
「んなっ!! ここ、これはっ!!」
「なっ……ユウキ……またか」
「……誰?」
色の抜けたような明るい金髪は一本一本が絡まることなくサラリとしていて、腰ほどの長さを持つ髪の前髪部分はかき分けるようにして顔を見せている。その綺麗な顔はどこか可愛らしい印象を抱く表情を浮かべ、澄んだ青色の瞳は夢見る乙女そのもの。豊かに実った胸と女性らしい丸みを帯びた体を持つ絶世の美女。しかし、下半分が普通の人とは違うものだった。
一つ一つが宝石の如く煌めきを見せ、光を反射する綺麗に透き通った薄い水色の鱗。魚の体。
上半身は人間で下半身が魚のその姿。そう――彼女は人魚だった。
そんな人魚の彼女は釣り上げた勢いのまま遊輝に熱い抱擁をお見舞いしていた。
「に、人魚さんだ……人魚さん釣っちゃったよ」
まさかの獲物に驚き、美人に突然抱き着かれたことに喜び、頭が混乱している遊輝。
反対に人魚の彼女は絶対に離さないと強い意志がこもった抱擁を継続している。
そして、遊輝の女を引き寄せる体質に若干の呆れと称賛を送るエレノアとウンディーネであった。
彼女は人魚。それが数時間かけて導き出した答えの全容である。それ以外は謎。
掲示板で調べてみたもののウンディーネのように隠しヒロインと言う訳でもないようで、逆に魚図鑑で調べると最後の欄が追加され『人魚』という項目が増えていた。
そこで、要するに釣りのための獲物として創られた隠し要素的存在なのかもしれないと遊輝は考えた。
そして、エレノアとウンディーネの二人はいつまで経っても抱き着いたまま離れない彼女に嫉妬が生まれ始めていた。話すことが出来ないようで言葉ではいまいち伝わらないのだが、無理に引き剥がそうとしても離れまいと必死なので中々大変。怪我をさせてしまいそうなので強く引っ張れずお手上げ状態だった。
「ほ、ほら。そろそろ離れて」
「そうだぞ。ユウキを独占するな」
「……順番、守って」
三人の説得にも動じない人魚。何故か物欲しそうな表情で遊輝を見つめる。
何だろうか。エレノアやウンディーネがエッチなおねだりをしてくる時の表情に似ている、と股間センサーが反応する遊輝。もしかしたら離れさせることが出来るかもしれないが、その為には先ずエレノアとウンディーネの許可を一応とっておく必要があると考え二人にとある申し出をした。
仕方ないと二人は納得してくれたが、この借りは今晩しっかり返してもらうと遊輝はキツク釘を刺されていた。
むしろ嬉しい限りな遊輝はその申し出を快諾し、再び人魚の彼女に顔を向ける。
最近は男として多少自信のついてきた遊輝だが、やはり初めて出会った女性に対しては一歩引いてしまう。
どこか自信無さげに恐る恐る唇を近づけていく。すると、待ってましたとばかりに満面の笑みを浮かべ目を瞑る彼女。少し唇を突き出している様が余りにも可愛らしくて遊輝も緊張が和らいだ。
チュッ
啄むようなキスを終えた遊輝が彼女を見ると、初めてキスをした少女のように顔を真っ赤にさせてイヤンイヤンと身悶えていて自分まで恥ずかしさが伝染してしまうと思った。
彼女にとって遊輝は永遠に解けることのない呪縛から救いだしてくれた白馬に乗った王子様。
唇が触れ合うだけで心臓が破裂しそうなほどにドキドキしてしまうのだ。だけど、まだ足りない。やっと出会えた王子様ともっともっと愛し合いたい。彼女のピンク色した頭の中は遊輝で埋め尽くされ、乙女フィルターのかかった遊輝の格好良さに心酔していた。
控え目に、しかし分かりやすく、再度おねだり光線を放つ彼女に遊輝も根負けしチュッチュッっと気が済むまでキスを続けた。
そして、甘い時間を過ごした後トロンとした表情を浮かべ満足した様子の彼女は遊輝の拘束を解いた。
……が、傍を離れることはなかった。
こうしてまた新たな仲間を迎える事となる。