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ゲーム・ダイバー  作者: 暇人
プロローグ
1/14

悪魔のゲーム

 「ぐはっ……」

 「くくく、もう後がないぞ人類最後の『戦士』よ」


 異形の者『闇の王』から放たれた業火は人間の戦士を焼け尽くす。立っているのがやっと、戦士の肉体は限界に近かった。


 (……”アレ”を使うしかないのか。しかし、そうなれば”彼女”との約束を果たすことは永遠に出来なくなる。

 どうすれば……いや、迷っている暇などない。他に方法は無いのだ)


 戦士は師匠から伝授された最終奥義である秘技『魂贄斬』を放つと決めた。


 『魂贄斬』それは自らの魂を神へ捧げる見返りとして死の間際、命が途切れる瞬間――その力を神の域まで辿り着かせる技。


 少しずつ戦士の存在が削られて行く。自分が何者なのかも不確かになるほどに。


 だが戦士は……人類の未来を、人々の笑顔を、何よりも愛する人を守る為。

 只々闇の王を見据え、剣を力の限り握りしめ、渾身の一撃を放つ。


 「なっ……まさか、お前……その技は……ぐ、ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!!!!」


 異形の者の体は真っ二つに切り裂かれ、灰のように散っていった……。


 同時。この世から切り離された戦士自身も、神の下へ……。







~GOODEND~







 「ハッ!! そうだ、ゲームの世界だったことを忘れていた」


 戦士は神の下ではなく、自宅のベッドで寝転がっていた。


 「くそ~、あと少しでトゥルーエンドに辿り着けたんだけどな~。ラスボス強すぎだろ」


 彼の名前は潜田遊輝。最近20歳を迎えた絶賛ニート中の男だ。


 遊輝は腕に取り付けられている腕輪型の装置、GDRゲーム・ダイブ・リングに触れて操作を加え、目の前に半透明でゲームのメニュー画面らしきものを出現させる。


=======================================


《クリア特典》


・職業『聖戦士』

 神からの聖なる祝福を受け、闇を討ち払う力を持った戦士。


・仲間キャラ『聖戦士エレノア』

 主人公と共に闇の軍勢との戦いを繰り広げた聖戦士の一人。次々と仲間たちが倒れて行く中、何とか最終決戦まで持ち堪えたが志半ばで闇の王に殺される。

 その後、自らを犠牲に人類を救った主人公と天の国で再会を果たすこととなる。


・スキル『自爆』

 自らのHPを1残して自爆攻撃を放つ。HPが高いほど威力は上昇する。


・DP『130』


=======================================


 「お、姫様はゲット出来なかったけど我が戦友『聖戦士エレノア』が手に入ったか。自爆は完全にネタスキルだが、職業聖戦士にDP130……中々の収穫だな」


 遊輝が確認していたのはゲームのクリア特典だ。


 先程から不可解な光景を見せる彼の行動。その原因は、数日前に遡ることで判明する。







 「あーやっちまった。これで俺も無職か……」


 スーツ姿で夕日を背に哀愁を漂わせている男、潜田遊輝。

 上司の嫌がらせに耐えきれず勢いで会社を辞めてしまった。今ならまだ間に合うかもしれないが、威勢よく啖呵をきってしまった手前恥ずかしくて二度と顔は出せない。

 そんな微妙にヘタレで冴えない男が彼だ。


 入社して一年ちょっと。こんな短期間で辞めてしまうなんて根性が足りないと遊輝自身、深く反省していた。

 しかし、今は何もやる気が起きず只々街を彷徨っている。


 「あれ、ここどこだ?」


 ぼーっと歩いていたせいで気付いたら見覚えのない場所に来てしまっていた。

 暗く狭く息苦しいような、人気のない路地裏。


 「なんか幽霊とか出そうな雰囲気だな。早く大通りに戻ろう」


 お化けの類も苦手なヘタレ遊輝は回れ右をして歩き出そうとした、が……視線の先に気になる物を見つけてしまう。


 「悪魔のゲーム屋?」


 不吉な看板を掲げた小さな扉が壁に設置されていた。

 いかにも怪しさ満点の雰囲気なのだが、ゲームやアニメ、漫画など二次元関連に目がない遊輝にとっては一期一会と言う四字熟語が都合よく思い出されてしまう程に不思議な魅力を感じずにはいられなかった。


 ついさっきまで幽霊が何だと言って怖がっていた感情はどこへやら、導かれるように真っ直ぐ扉へと手を伸ばす。


ガチャ……


 中に入ると予想以上に広い空間が拡がっており、辺り一面を所狭しとゲームソフトが陳列されていた。


 「おおっ……すごいな」


 その圧巻さに一瞬呆けていた遊輝だが、近くのソフトを手に取ってみると……。


 「ん? 見たことないパッケージだな。どのハードのソフトだ?」


 ゲームの知識にはそこそこ自信のある遊輝は自分が知らないパッケージのデザインに困惑と高揚を感じていた。

 まさにこれが運命の出会いなのかもしれない、と。


 色々と見て回った結果、これらが全てGDRと言うハードで遊べるソフトだと判明した。

 それはどこで買えるのかと尋ねる為に遊輝は店員を探していた。


 「あ、あそこがレジだな。店員は……見当たらないな」


 取り敢えずレジに向かい店員を呼ぶ。


 「すみませーん。いらっしゃいますかー?」


 すると目の前に突然黒いフードを目深に被った人が現れた。


 「うわっ!! び、びっくりした……」

 「いらっしゃいませ。何をお探しで?」

 「あ、えーと、GDRってどこで売ってるのかなと……」


 一瞬で現れた店員さんと言う超常現象はマジックか何かだと自分に言い聞かせ、先ずはゲームのことが優先だと質問を投げかける遊輝。


 「GDRをお求めですか。と言うことは初めての方ですね?」

 「え? その、たぶん」

 「では、こちらがGDRとなります。初回はお好きなソフトを無料で提供しておりますので御自由に一つどうぞ」

 「え? えっ?」


 遊輝は訳も分からず腕輪らしき物を受け渡され、硬直してしまう。


 「えと、あの、すみません。僕、勉強不足なもので……」


 そして、さっぱり分からないので店員さんに一から教えてもらっていた。


 説明によると、通称GDR、ゲーム・ダイブ・リングは指定のソフトを差し込むことでそのゲームの中に入ることが可能な装置だと言う。そして、そのゲームの主人公となりクリアを目指すのが基本的な遊び方。

 そんな夢の様なゲームが本当に存在するのか半信半疑になりながらも遊輝は店員の説明に耳を傾け続ける。


 さらにGDRで遊ぶことの出来るゲームはクリア時の状況により様々な特典が貰え、それらは他のゲームにも引き継ぎ可能。つまり、全ゲームに特典で得たものの相互引き継ぎ機能が搭載されていると言うことだった。しかも、ジャンル問わず。


 (おいおい、さすがに胡散臭くなってきたぞ。そんな画期的なゲーム聞いたことも見たことも無い。なんかの詐欺か?)


 「ただし、一つだけ注意が御座います。一度ゲームを始めたら中断することは不可能です。そして、ゲーム内での死は現実での死も意味します」

 「……は、はい?」

 「あ、すみません。別件で魔王様に呼ばれましたので失礼します」


 さらりと悍ましい発言を残し、聞き返す暇もなく立ち去って、消えてしまった店員。

 頭の整理が追い付かず再び硬直状態に陥ってしまった遊輝だが、取り敢えず一つは無料で貰えるのだからと適当に選び家路に着いた。


 ゲームの事で頭がいっぱいだった遊輝は路地裏からの帰り道、次元の狭間と現世の境界線を跨いだことには微塵も気付かない鈍感さを披露していた。


 そして、自宅であるアパートの一室で説明書を読みながらGDRを弄っていると実際にSF映画宛らのウィンドウ、メニュー画面が出現したり、メニュー画面で悪魔掲示板と言うゲーム情報のやり取りを行うサイトが覗けたりと想像以上の本格的な作りに感動し、勢いでゲームを始めてしまったところから遊輝のゲーム・ダイバー生活が幕を開ける事となった。


 最初にプレイしたゲームは王道RPG。

 本当にゲーム世界に入れたことに感動した遊輝だが、直後に自分の軽率な行動を悔いることとなる。


 ――モンスター。


 そう。RPGではお馴染みの敵キャラ、モンスターと遭遇してゲーム内での死は現実での死も意味すると言う言葉を思い出し、これまで全て本当だったことで真実味の増したその意味に絶句したのである。

 何とかその場はやり過ごしたが、悪夢は続く。


 やっとの思いで街へ辿り着くと何故か兵士に取り囲まれ、城へ連れて行かれ、状況に追い付けず流されるままに身を任せていると魔王と戦う勇者だと囃し立てられてしまっていた。

 あれよあれよと外堀を埋められて行き、逃げられぬ状況に涙しながらも何とか気を確かに持ち、仲間と魔王討伐の旅に赴く遊輝。

 次第に仲間との絆も生まれ、ここがゲームの世界だと言うことを忘れていった。


 そして、堅実にレベル上げを行い装備も最上級品を取り揃え、万全を期して挑んだ魔王戦。

 勝利を目前にして、魔王の命乞いに騙され敗北。BADEND。


 しかし、BADENDとは言え条件は満たせていたのでクリア判定を得ることが出来た。

 そのおかげで死ぬこと無く現実世界に帰還した遊輝はゲームをしていたことを思い出し、複雑な心境を抱く。


 余りのオーバーテクノロジー加減に一度は関わることを止めようと考えたが、無職で退屈な日常に刺激を求めて再び悪魔のゲーム屋を訪れてしまう。


 今度は危険の無さそうな恋愛ゲームでもやってみようと女の子たちが複数描かれたパッケージのものを購入しようとするが、値段が分からない。

 持ってきていたGDRの説明書を読み進めると、新しいゲームを購入するにはクリア特典で貰えるDP(ダイブ・ポイント)が必要だと記述されていた。

 そう言えば忘れていた、とGDRを操作しメニュー画面を開くとクリア特典としてDP『100』と『世界を滅ぼす御人好し』と言う称号を取得していた。


 手に持ったゲームは丁度100DPで買えると言うことで、例の不気味な店員さんに頼んで購入。


 自宅で再度ゲームの世界へ……。


 それが切っ掛けで遊輝は本格的にGDRへとのめり込む。


 今まで全く縁の無かった女性とのイチャコラ。経験出来なかった華やかな学園生活。

 これらは地味な人生を歩んできた遊輝にとって劇薬にも等しく、中毒と言っても良い程にハマってしまった。


 しかし残念ながら恋愛経験の皆無な童貞に女心を理解することは不可能で、ヒロイン全員と良くて友達と言う微妙な結果に終わり。NORMALEND。

 クリア特典はDP『110』と『恋愛対象外』と言う不名誉な称号。


 その後に購入したのが今回のゲームだ。姫様の容姿がクリティカルヒットして衝動買いしてしまった。

 GDRで遊べるゲームはある程度決まった法則の下に物語が展開されて行くが、それ以外の細かい部分や特に定められていないような部分に関してはプレイヤーの自由だったりするので、姫様とあんなことやこんなことが出来るかもとゲスな考えを巡らせていた。


 だがその前に、今回こそは良いエンディングを迎えたいと悪魔掲示板で情報を収集して臨み、最後で惜しかったがGOODENDを迎えることが出来た、と言うのが今現在までの流れだ。


 ちなみにクリア特典はエンディングの種類だけではなく、ゲーム内で満たした数々の条件と合わせて選別されるので掲示板でも把握しきれていない。

 クリアまでの道のりも様々なルートが存在しクリア条件も大まかなこと以外は曖昧だったりと中々に難しい仕様となっている。

 プレイ人数も然程多くはないようで、結局自分の力が頼りとなる。


 「さて、次はどんなゲームをしようかな」


 だいぶ慣れてきたのか最悪死んでしまう事などすっかり忘れたように次のゲームに思いを馳せる遊輝。


 「現在の合計DPは140か、後10DPあればちょっと高めのにも手が出せるんだが……」


 今まで遊輝が購入してきたゲームはどれも100DPだった。安いのは50から高いのは200、500もっと上まである。

 高い物を購入するにはゲームをプレイし、クリア時に貰えるDPを少しでも多くしてコツコツ貯めて行くしかない。クリアしたゲームは再度プレイ不可なので同じ物を繰り返して効率的に稼ぐことは出来ない。

 最低でもクリアさえ出来れば購入時と同等のDPは貰えるが、良いエンディングを迎えたり特定の条件を満たしたりすればさらに多くなる。


 「無難に安いのを買って地道に後10DP貯めるか」


 ゲームの中では世界も救った男がスケールの小さな独り言だ。







 「お、遊輝さんいらっしゃい。毎度有り難う御座います」

 「いえいえ、無職ですることもないですし」


 地味に面識が深まった店員さんと軽く会釈をし、50~100DPの棚へ足を運ぶ遊輝。


 「まぁ安いのはボリュームもクオリティも低そうだな」


 既にオーバーテクノロジーだ危険だと警戒していた当初の面影は無く、次世代機に慣れてしまった人の姿を見せている。


 「ミニゲーム集、釣りゲー、スポーツ……この中だったら釣りかな」


 遊輝がその手に取ったのは、釣りがメインのゲーム『島釣り生活』だ。最終的には伝説の魚を釣り上げるのが目的らしい。

 70DPと手頃だがクリア時の特典もそこそこ期待出来そうな値段だ。


 「じゃあ今回はこれをお願いします」

 「はい。ではメニュー画面を」


ブォン


 GDRを操作しメニュー画面を出現させ、DPの支払い項目にチェックを入れると70DPが引かれて残り70DPとなった。


 「確かに。では、私は別件がありますので失礼します」


 店員は毎度同じく一瞬にして消えていった。

 遊輝も毎度同じくゲームの事で頭がいっぱいで周囲の異変などなんのその。むしろ気付いたところで今更ゲームを止められはしないだろうが。







 「さてと、掲示板で粗方情報は調べたし……行くか」


 遊輝は切符ほどの小さなゲームソフトをGDRにある差込口へ入れる。

 次第に意識が薄れ、ベッドの上で眠る様にゲームの世界へ誘われて行く……。







 『島釣り生活』≫≫DIVESTART



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