第2章 2月(1)
星杜学園1年 波原小春 168㎝ 60㎏。 けっこう大食い!」の続編となっていますので、当小説で直接的にはわからないエピソードなども出てきます。ご容赦下さいませ。
いよいよ2月に入りました。
小春と麻莉子の候補者回りは忙しいですし、そして友哉の不思議な行動の意味は……?(笑
まぁそんなこんなで私の毎日も過ぎてゆき、気がつけば日付も1月から2月へと変わっている。チョコの投票締め切りまで2週間を切り、そろそろ本気で投票相手を決めなきゃならないような焦りも出て来ている。
友哉の昼休み図書館行動やら、学食での友哉と桐生の一触即発事件やら、体育のソーシャルダンス事件?やらと、なにやら気になる事がちまちまとあるし、教室での友哉と桐生の間の空気はサイアクのままだ。無事にこの1学年を終えることが出来るのか、はなはだ心配ではある。
そんな時に、また気にかかる事件が振りかかってこようとは。
遡ること、数日前の放課後。
麻莉子が、友哉が図書室で独り秘密裏に行っている手芸が、『タティングレース』なるレース編みの一種だと教えてくれた時のこと。
「レース編み?」
「そうなのよぅ。友哉くんが手に小さな変な形のモノを持って操っていたのぉ、小春ちゃんも見たでしょぉ?」
「あ、うん、覚えてるよ。でもあんなの、あたしは始めて見たな。だいいち編み物って、普通はかぎ針とか棒針とかを遣うもんなんじゃないの?」
波原小春が、かぎ針とか棒針とかっていう単語を知っていただけでも誉めてもらいたい。
「それがねぇ小春ちゃん、その変な形のヤツねぇ、シャトルって呼ばれるものでぇ~、そのシャトルってのにレース糸を巻いてぇ、その糸を編み込んでいくんだってぇ。ほぉら小春ちゃん、これ見て見てよぅ。タティングレースの作品画像たちだよぅ」
麻莉子がスマホの画面を操作して、画像の羅列を私に示す。
「う……わぁ、なかなか見事なものだね。こんなに繊細で可憐な作品が出来上がるんだ」
手芸作品なんかにはたいして興味のない私だが、タティングレースなるものの優雅さはその画像を一目見ただけでも充分に理解できた。
「それにしても友哉……なんで秘密にしてタティングレースやってるんだろ? あたしがやってるよりも、ずっとサマになるし似合うと思うんだけど」
「えーーー。小春ちゃんさぁ、自分で自分の事をそんなふうに言っちゃうのはぁ、女としてどうなのかなぁ~って麻莉子は思うよぉ~」
すかさず麻莉子に突っ込まれる。
「もしもし麻莉子クン? キミには、あたしにそんな事言える資格があるのかね?」
私もすかさず切り返す。
「あっ……えへへ~、そうだねぇ~」
「えへへ~じゃないよ、……ったく」
麻莉子と私程度の女2名が集まったところで、友哉にはちっともかなわない。というのが、それなりに哀しかったりもするわけで、別に私たちは女を捨てたワケではない。
「で?」
「で?、ってぇ?」
「いや、だから、疑問そのイチ。なんで友哉は、誰にも知られないようにまでしてタティングレースに取り組んでいるのか?」
「そのイチぃ。友哉くんはぁ、なんで麻莉子たちにもナイショにしてるのかぁ」
「そのニ。他人には知られたくないモノを、なぜ校内で、しかも昼休みの時間まで潰して取り組む必要があるのか?」
「ニィ、なんで寸暇を惜しんでまでぇ、友哉くんは取り組んでいるのかぁ」
「そのサン。果たしてその最終目的は?」
「サン、麻莉子たちにもナイショにしなければならないその最終目的はぁ」
そこまで話すと私は麻莉子に念を押す。
「今回の麻莉子のミッションは、今の疑問を解き明かす事!」
「えー、……まぁ麻莉子にかかればぁ、そんな事すぐに調べはつくよぅ。なんたって相手は友哉くんだしぃ」
「ねっ、じゃよろしく頼むよ、かわいい麻莉子ちゃん」
と、麻莉子が小首をかしげて私の顔を眺めている。
「でも……小春ちゃん、どうしたのぉ?」
「へ?」
麻莉子の反応は、いつでも私の斜め上を行く。
「なんかぁ、麻莉子、小春ちゃんらしくない気がするなぁ~」
「どこが?」
「だってぇ、小春ちゃんはぁ、他人にはあんまり興味は持たない人だしぃ、本人が好まないことに首を突っ込むようなタイプじゃないって、ずーーーっと麻莉子は感じてきてたけどぉ?」
「え……」
麻莉子は意外と鋭いところがある。甘甘な口調だから騙されそうになるが、決して一筋縄ではいかない存在なのだ。
「そう言われれば……たしかに。あたしは他人に興味なんてないし、ましてやわざわざ他人の秘密を探る趣味なんてものもない」
「でっしょぉ~?」
「んん、あれれ? あたし、どうしちゃったんだろ。仲良し3人組の友哉だから気になってる、のかな?」
麻莉子に指摘されても、自分の気持ちをちゃんと説明する事が困難だった。
「ふぅん……?」
麻莉子の鋭い視線が、私の瞳を覗きこもうとしてキラリと光った。
「小春ちゃんさぁ~、それってぇ~」
「それって?」
「もしかしてぇ~」
「もしかして?」
「友哉くんの事が気になるって事だからぁ~」
「んんん?」
「小春ちゃんさぁ~、友哉くんの事、好きなんじゃないのかなぁぁ~?」
「えぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!??」
声が思わず裏返ってしまう。
「ないない! そんな事、あるわけないよ!! な、な、なんで、あたしが友哉の事を?」
全力で否定する。
「小春ちゃあん、そんなに全力で否定しなくたっていいよぅ~。いいの、いいの、麻莉子、いつだって小春ちゃんの味方なんだからぁ~」
麻莉子ったら、すっかり嬉しそうににこにこしている。
「あーーぁ、友哉くんの気持ちもぉ、ここにきてようやくぅ……」
麻莉子は一人で納得して、頭を上下のコクコクと頷かせている。
「は?」
「大丈夫、大丈夫。麻莉子ねぇ、こう見えてもけっこう口は堅い方なのぅ~。友哉くんには言わないから、小春ちゃん安心してよねぇ~」
(言わないって……)
麻莉子の口を堅いと言うなら、この世に柔らかいものは存在しない……と私は思う。
というような事があり、それからの数日間、今日の今に至るまで、私はずっと悩み続けているのだ。
(あたし……友哉の事、好きなんだろうか)
(だから、友哉の行動が気になるんだろうか)
(友哉はいいヤツで、間違いなく好きだけど……その好きってのと、麻莉子があの時に言ってた好きってのとは、同じ好きなんだろうか)
(そもそも好きという概念がよく理解できないし)
(あたしが友哉を、あたしが友哉を、あたしが友哉を……)
変に意識してしまって、友哉といつものように気楽に話したり、接したりすることができない。気恥かしすぎる。
(それもこれも、みんな麻莉子のあの一言のせいだよ!)
こういうのを逆恨みっていうんだろうか。
ところが私の身に、もっと大変な事が降りかかることになろうとは……いや、降りかかるというよりは、私自らが飛び込んだ、という方が正確だろうか。『もしかして友哉、好きかも事件』に続く、『波原小春、制御不能事件』が勃発する直前だった。