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第1章  1月(6)

「星杜学園1年 波原小春 168㎝ 60㎏。 けっこう大食い!」の続編となっていますので、本編ではわからない話しなども出てきたりします。ご容赦下さいませ。


今日のこの話は、なにげないエピソードのようですけれど……、なんとなくでも記憶に残しておいて頂ければ、と^^。

 本日の放課後は、グランドを使用する部活を中心に、候補者の男子生徒を見にいく事で麻莉子がすでに予定を組んでいる。持つべきものは、おせっかいな友人という感じなのかもしれない。

「うーーーーん、まだまだ候補者はいるからぁ~、もう少しピッチをあげて回らないとぉ、小春ちゃんに候補者全員を紹介するのは難しいかもぉ」

 念のために付け加えておくけれど、私は、麻莉子から候補者を紹介して貰っているわけではない。麻莉子と2人で、遠目から拝顔の栄によくしているだけだ。

 その時、麻莉子のそんな独り言を聞いて、私の脳裏にほよんと浮かんだものがあった。

「そういえばさ、星杜新聞の『黒猫大福の独り言占いコーナー』って、まだ続いてるの?」

 さりげなく麻莉子に問いかける。

「え? あぁそれがねぇ~、残念なことに惜しまれつつもそのコーナーは無くなっちゃたのよぅ。小春ちゃんを仕掛けるためのコーナーだったもんねぇ、今は普通の星占いコーナーだよぅ」

(あたしを仕掛けるためだけ……って、どれだけ全校規模で動いてたわけ??)

 改めて、私が入学してから12月24日の創立記念前夜祭までに動いていた、『学園全体で1年かけて映画を作る』というその伝統の持つ力の凄さを思い知る。

「で。麻莉子はさっきからスマホで何を見てるの?」

 先ほどから麻莉子は、自分の持つスマホの画面を見ながら、候補者周りの予定を検討しているように私には見える。

「あっ、あぁこれねぇ、星杜新聞サイトを見てるところなんだけどぉ」

「星杜新聞サイト?」

「そそ、記録を残すというのは大事な事でしょぉ? 発行されてきた新聞そのものが、新聞部が存続してきた歴史であってぇ、意義でもあるわけでぇ」

「ふんふん」

「部が創立されて以来の星杜新聞を、デジタルで保存させるという近年の恩恵によって、新聞部ではこれまでの星杜新聞を保存する作業に取り組んでいましてぇ」

「あ、うん、それはいい事なんじゃない? でも、その事と、今麻莉子がスマホで見ている事とがどう繋がるのか、あたしにはよく分からないんだけど」

 と、麻莉子は自分が見ていたスマホの画面を、私の目の前にどーんと差し出した。私は、その画面を一生懸命に目を凝らして見る。そんな私の様子を見ていた麻莉子は、わかったでしょ?みたいな感じで、「ねっ!」っと同意を求めてくる。

「え、えっと」

 ピンときてなさそうな私の顔を見て、麻莉子の表情がくもった。

「小春ちゃんは星杜新聞、ホントに見てないんだねぇ……」

「う、ま、まぁ」

「先日の新聞には、バレンタインチョコレート祭の候補者一覧が載ってたんだよぅ~。でもぉ、星杜新聞も、チョコ祭も、どっちも小春ちゃんには興味のない事だったねぇぇ~」

「えっと、そういうことなのかなぁ」

 確かに私は、あまりそういった事には興味はなかった。

「麻莉子は今ぁ、新聞部のサイトからそのデータを見ているというワケなのでぇす」

「そのデータ? あ、そっか。麻莉子が見ていた名前の一覧表みたいなのって、候補者の一覧なんだね?」

 相変わらず反応の悪い私の様子を見ると

「いいの、いいのぉ。小春ちゃんは、この麻莉子の後をついてきさえすればぁ、間違いなく学園生活をエンジョイさせてあげられるんだからぁ~。なんたってぇ、人生は楽しんだもの勝ちぃ」

 そう言って、私の肩をポンポンと叩いてくる。

「う、うん。よろしく頼むよ、麻莉子」

 それ以外、私には返事のしようがない。

「小春ちゃ~ん、すべてはこの麻莉子にお任せぇ~。さ、今日も張り切って行くよぉ~」

「はいはい。さっ、それでは麻莉子の後をついて行くことにしましょうかね」

「本日のノルマは5人! レッツゴーだよぅ」

 2月13日のチョコ投票締め切りまでは、まだしばらく、同じような放課後は続いていくようだ。



 そして、ある日の体育の時間のこと。いつものように、更衣室でジャージに着替えていた私。

「えぇぇーーーーーっ!? 麻莉子、今、なんて言った? 今日の体育はソーシャルダンスって!?」

 思わず着替えの手を止めて麻莉子を振り返る。麻莉子はすでにジャージに着替え終わっていた。麻莉子、意外と要領はいいようだ。

「だからぁ、麻莉子、いつも言ってるじゃないよぅ。小春ちゃんさぁ、ちゃあんとカリキュラムは調べておかなきゃねぇ~」

「マジでぇぇーーーーーーー!!! がっくし……」

 体育全般、一通りどれとってもトップクラスに入る事に疑いが無い私にとって、体育は一番好きな授業なのだ。きびしい座学の合間に組み込まれている体育、それが私の心のオアシス。それなのに、それなのに、ソーシャルダンスって、ソーシャルダンスって……

 え? ソーシャルダンスって、いったいナニ?

「小春ちゃんさぁ、ソーシャルダンスだからって落ち込んだみたいだけどぉ。ホントはどんなダンスなのか、分からないんじゃないのぉ?」

 流石は麻莉子、私の事はよく分かっている。

「えへへ」

 ちょっと照れ笑い。

「エアロビとかジャズダンスとかヒップホップとかなら、どんとこいって感じなんだけどさ」

「ソーシャルダンスは、社交ダンスのことだよぅ。星杜学園ではぁ、社交ダンスのワルツ部門が必須なのぉ」

 しゃ、しゃ、しゃ、社交ダンス!? じじばばが、老後に楽しむという、あのダンス!?

 あっ、ここはきちんと訂正しておこう。社交ダンスは、老いも若きも隔てなく楽しむことのできるダンスです。競技として社交ダンスを楽しむ人も多いのです。――と、麻莉子がその後で説明してくれた。

「っかーーーーーーーーー……。一番あたしに似合わないダンス……」

 この高い身長と、この立派な広い肩幅と、このたくましい太ももと。

「似合わない、似合わない、似合わないっ!! 誰がどう考えても似合わないじゃないの!」

 私の大好きな体育の時間が地獄に変わるだろう事が、容易に想像できた。

「それとねぇ、小春ちゃん、知らないと思うから教えておくけどぉ。ステップが踏めるようになったら、次はぁ男子と合同体育になるらしいよぅ」


 ぼんっ!!!

 

 頭の中で音がした。波原小春、爆発・炎上。



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