第1章 1月(3)
何かが起こりそうな予感がしてきますした。
この先に、いったい何が小春を待ちうけているのでしょうか^^。
少しずつお楽しみ下さいませ♪
麻莉子にそう言われてみれば、創立記念前夜祭で、中庭の巨大クリスマスツリーに下げられた装飾用の玉(生徒会から全校生徒に一個ずつ配られ、ツリーに各人が下げる。その玉の中には、次のミスター・ミス星杜にふさわしいと思う生徒の名前を男女1名ずつ書いて入れる)の結果発表に、桐生と友哉の名前が確かに出てきていた。
(まぁ桐生はわからなくもないけど、友哉が……。いや、待てよ。友哉も確か華道部では上級生のお姉さま方から大人気なんだって、麻莉子が言ってたっけな)
世の中、私の考えでは及びもつかない事がなんと多いことよ。
そんなこんなで、麻莉子と「人気男子学生ベスト3」を選ぶバレンタインチョコレート祭に参加すべく、私の候補男子学生を巡る巡礼がスタートしたのだった。
数日後のお昼休み、私と麻莉子は2人で購買のパンを食べている。
「でね、小春ちゃん……むぐっ、えぐっ……とにかく、今日は早くお昼ご飯を食べちゃって……ぐぅ……」
麻莉子が目に涙を浮かべて、パンを丸飲みしようとしていて、でも喉つまりをおこしそうになっていたりする。
「麻莉子、麻莉子ってば。そんなに急いで食べてたら喉つまりして死んじゃうよ!?」
「だ、だ、だってね……い、一分でもはやく食べ終わって……おえっ」
「麻莉子は……」
「こ、小春ちゃんは食べるの早いから、麻莉子が急がないとぉ……げっ、がっ」
麻莉子は基本、ゆっくりと味わって食べる子なのだ。見た目は、かわいい女の子なのだ。なのに、そんな麻莉子が、目を白黒させて大きな口を開けて、なるべく早く食べきろうとしている様子はあまりにも痛々しいというもの。
「麻莉子、落ち着きなってば! 麻莉子が急いだところで、いつもとそう変わらないんだから! っていうか、むせてる分、いつもより遅くなるよ!」
「でっ、でっ、でもぉ。小春ちゃんを連れていきたいところがあるからぁ……ぐぅう」
麻莉子は、どうしても私に見せたい光景があるらしい。
「そんなわざわざ見なくたって、口で説明してくれるだけで……」
「だ、だ、だって、ぐえっ……麻莉子もまだ見てなくてぇ……ごほごほっ……友哉くんがぁ」
「え?友哉の事?」
「う、うん、そうなんだよぅ……ぐぇ……情報通の麻莉子がねぇ……あぐ……」
「分かった、分かったから麻莉子、とりあえず死なない程度に急ぐことにして、食べることに集中しよ?」
それからなんとか食べ終わった麻莉子に私が連れられてきた場所は、図書室だった。
「友哉ってば今まで昼休みは図書室通いしてたんだ? っていうか、図書室にあんなデッドスペースがあるなんて普通の生徒は知らないんじゃない?」
「そうなのよぅ。情報通の麻莉子も今までは知らなかったくらいだもんねぇ」
昼休みの図書室、それほど生徒の姿は見当たらない。
「ウチの図書室、けっこう充実してるみたいだけど、あんまり生徒の姿は見当たらないね」
「ううん、本の貸し出し数は多いって噂だからぁ、きっとぉ時期的なものも影響してるんじゃなぁい?」
「時期?」
「そう。女子生徒はたいてい候補者の男子生徒めぐりをしている時期だもんねぇ」
「あ、そーゆーことか」
「そそ。だからぁ、たぶん今回の友哉くんねぇ、自分を見に来る女子生徒たちの目を避けるための避難行動なんじゃないかなぁって、麻莉子的によんでるのよぅ」
私たち2人は、揃って自分たちの視界に友哉を納める。
「確かに……友哉の座ってる場所ってちょうど誰からも目につかない場所だからね。友哉の性格を考えると、女の子からキャーキャー言われて取り巻かれるのは嫌だろうから、ありえるかも」
「それでも友哉くんったら、麻莉子たちにまでこの場所をヒミツにしてるなんてねぇ。なんだかぁ~、麻莉子ぉ、裏切られたって感じぃ~?」
「麻莉子、それはちょっと言い過ぎだよ」
なんて会話を交わしながら、友哉の様子を見ていた。ずーーーーっと見ていた。
「……」
「……」
言葉が出てこない。
「ねぇねぇ麻莉子。友哉の居場所が分かったのは良いんだけどさ、友哉、いったい何をしてるん……だろね?」
友哉は決して本を読んでいるわけではなかった。
「私さ、そっち系は興味ないからよくわかんないんだけど、あれって手芸……の一種なんだよね??」
麻莉子もわからないのか、小首を傾げたまま、友哉の方を凝視している。当の友哉は、誰かに見られているとも知らないで、一心不乱に手元を動かし続けていた。
「麻莉子も、あんまり得意分野じゃないんだよぅ~」
悲しいかな、私と麻莉子は、女の子らしい分野はまるでダメな女子高生だった。
友哉は、時々教本かなにかに目を落としながら、小さな道具を行き来させて作品?でも作っている……ように見えた。
「編み物とは、ちょっと違うようだけど」
「麻莉子、あんな道具、見た事ないぃ~」
友哉は、器用に小さな面白い形の道具に巻かれた細い糸を繰り出しながら、それを手元でいったりきたりさせたりしている。
「あたしがあんなことしたら、絶対に頭痛くなるだろうな~」
「小春ちゃ~ん、麻莉子もだよぉ」
そうしてしばらく物陰から友哉を眺めていたが、特に変化もなく友哉はもくもくと作業を続けているだけだし、私たちはいい加減で教室へ戻ることにした。教室へ戻る途中の廊下で、麻莉子が宣言する。
「小春ちゃーん。麻莉子ぉ、友哉くんが何してたのか調べてみるからねぇ。何かわかったら小春ちゃんにもコッソリ教えるよぅ」
「うん、分かった。ついでに、なんで友哉があんな事してるのか、しかもなんであたしたちにまで内緒なのか、そんでもっておまけに、なんであたしたちと離れてこっそりなのかも、麻莉子、調べておいてよ。だってさ、教室で今まで通り3人でお弁当を食べてさ、その後でやったって良いと思わない? あ……自分を見に来る女子生徒から逃れるって意味もあるのか」
「ん~~~、なんだかぁ、友哉くん謎めいてるよねぇ~」
疑問は深まるばかりだったが、情報通の麻莉子の事だ。近いうちにその理由も分かるに違いないと、この時の私は単純にそう思っていたのだ。
「じゃ小春ちゃん~、今日の放課後は、まず3年生の候補者さんでも拝むことにしよっかぁ~」
「あーー、そういうのもあったね」
昼休みが終わる頃、いつものように教室に友哉が戻ってきた。そんな友哉の姿を見て、視線を交わした麻莉子と私。
(友哉、いったい何考えてるんだか……)
本当の意味を知るのは、まだ一ヶ月半以上も先のことになろうとは、この時には思いもしなかった私だった。