第1章 1月(1)
星杜学園第2弾、書き始めました~。今回は小春たちが1学年を終わる3月までを書く予定です。
星杜学園の第1弾共々、お楽しみ頂ければ、と思っています^^
年も明けて、新学期も無事に始まったんだけど、私にはとまどうことがあまりにも多い始まりとなった。まず、仲京香……いや、もう呼び捨てはしないでおこう。彼女との関係が、まずもって激変を見せる。
「波原さん、おはよー」
新学期が始まり教室に足を踏み入れた途端、そうそうに私は仲さんから挨拶をされた。
「あ~ら、仲さん、おはようございます。今日もお寒いですねぇ」
なんて、いつもの調子で返事を返した私の顔を見た仲さんが、けらけらと笑ったのだ。
「いやだぁ~、波原さんったら。もう映画撮影は終わったんだから、そんな話し方は止めてよ~」
なんて屈託のない、その明るい声と言ったら。
「え? ええ??」
要するに。
仲さんのキャラも、映画用に作っていたということなんだろう。
それにしたって今までの9カ月間、あのイヤミなタカビー女を日常生活においてまで演じ続けてていたとは……いやはや、まったくもって恐れ入るよ、ホントに。
それと、五十嵐……五十嵐クン。こいつも、変わった。
「波原、おまえさ、なかなかがんばったじゃん。俺、おまえの事を陰で笑うなんていう役どころだったけどさ、心の中ではずっと応援してたんだぜ」
「……」
たんだぜ、なんて言われても。こいつも嫌なクラスメート役を演じていたらしい。私の名前と容姿のアンバランスな事をバカにしていたのも、すべては演技だったというわけか。
「あっ、う、うん。そ、それはどうもありがとう」
それ以上、私に言い返す言葉が見つからなくても仕方のない事だろう。だって、冬休みに入るまで、こいつは私を思いっきりバカにしていたんだから。
でも、ま、そんなこんなで、本来4月に入学して始まるはずだった私のごくごく普通の高校生活が、ようやくここにきて始まったと言ってもいい毎日が始まったことになる。いや、始まるまずだった。
そのはずだったんだけど……なんていうか、ちょっとオカシイ。
珍しく今日のお昼は、教室で麻莉子と2人、購買で買ったパンと牛乳だ。2人でもぐもぐと食べながらの会話になる。
「麻莉子、友哉ってどこへ行ったの? お昼休みと同時に教室を出ていっちゃったじゃない。私さ、友哉のお弁当あてにしてたんだよね~」
友哉はお弁当男子で、しかも自分の分を持参の時には、麻莉子と私の分も作ってきてくれるという超いいヤツだ。そして、そんな友哉の好意に甘えてお弁当をあてにしている私は、女性としてはちょっと残念な部類になるかもしれない。
と、そんな友哉が、新学期が始まってからというもの、何やら様子がおかしいのだ。
「うん、なんだか友哉くん、変だよねぇ~」
「あっ、麻莉子もそう思う? ねぇ、思いきって麻莉子には言っちゃうけどさ」
ついでに説明しておくと、映画撮影が終わっても友哉と麻莉子の私たち3人組の関係は崩れていない。ここの部分の友情に関してだけは撮影用じゃなかった、と信じたい。
「あたしね、ほら、気を扱えるじゃない? だからさ、分かるんだよね」
それと、もうひとつ付け加えておくと、私には他の人が持っていないような能力がある。星杜に入学するまでは、その力をコントロールする術を持ち合わせていなかったため、いつ発動するとも、どんな力になるとも分からないものだった。が、ここ星杜学園に入学してから冬休みに入るまでの期間、知らされないままに『学園全体での映画撮影』なる伝統行事に巻き込まれ、幸か不幸か、その中で力をコントロールする必要のある役にいどみ(いどまされ、が正確な表現)、修行に修行を重ねた結果、今ではなんとか力を統べる事ができるようになっている。
併せて、『その力は、むやみやたらと使ってはならない』と、厳として早見坂生徒会長に言い含められてもいた。
「詳しく探ろうと思えば探れなくはないんだけど、そんな事のために力は使っちゃいけない事だから、あえてしないけどさ。でも、こんな体質だから、気はどうしたって読めちゃうんだよね。そこらへんは麻莉子も分かってくれるよね」
私の力のことを、暗に麻莉子にも認識させる。
「小春ちゃぁん、でもねぇ、今の友哉くんはぁ、小春ちゃんの特別な力じゃなくたって、麻莉子にだって分かる事だよぅ。だって最近の友哉くんは、ぜぇーったいにオカシイもん。小春ちゃんと一緒にお弁当を食べない日が続いてるんだよぉ? 麻莉子にはぁ全然信じられなぁい~」
「麻莉子、友哉、どうしたんだろね?」
「んんん、今はちょっと分からないけどぉ、でもねぇ、小春ちゃん。情報通の麻莉子にはぁ、得られない情報なんて無いんだから、友哉くんの情報も入手できると思うよぅ」
そう。決して麻莉子の情報力を侮ってはならないのだ。
……って待てよ、『情報通の麻莉子』というのは、映画の中での設定じゃなかったんだろうか?
(んーーー、あんまり深くは考えないことにしよう)
「そっか。本当に友哉ったら、どうしちゃったんだろ。今も、どこ行ったんだか姿が見当たらないし。ちゃんとお昼ご飯は食べてるのかなぁ、心配だよね」
「うん、そうだねぇ~。麻莉子も心配だよぅ」
麻莉子とそんな会話を交わしてはいるが、実は私にはなんとなく見当がついていた。
私は、よく他人からは『空気の読めないヤツだ』と言われる事も多かったが、私は地球が持つエネルギーが走る気脈を、幼い頃から感じとる事が出きたし、今現在は、その力を自分の中に取りこんで活用することもできる。
そんなわけで、私は自分の肌からうすうす感じ取っていたのだ。
『クラスメートである桐生と友哉の間に交わされる気の流れや、エネルギーの感じが普通じゃない』ということを。
(絶対に、あの二人の間には何かあったんだよね)
そして、かくいう桐生もわかっていただろう。私が、『桐生と友哉の間で何かが起きている』事に感づいていると。
それは、桐生も私と同じように気を扱える人間であるからだ。
私は、思っている事は心の内に隠し、何気ないふうで麻莉子と会話を続ける。
「少し友哉には気をつけていようね」
「うん、そうだよねぇ。友哉くんが困っているんならぁ、麻莉子は友哉くんを助けてあげたいよぅ」
「だよね。なんたってあたしたちは仲良し3人組だからね!」
「そうそう、そうだよねぇ小春ちゃ~ん! 友哉くんの悩みはぁ、小春ちゃんと麻莉子の悩みでもあるんだよねぇ~」
私たちは、話しながらパンと牛乳をたいらげていた。今日の私も、菓子パンを含む5個のパンすべて完食し、我がクラスではこの光景もすっかり珍しい光景じゃなくなっている。
そして、友哉の姿が見当たらないお昼休みの教室には、同じように桐生の姿も見当たらなかった。