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第2章  2月(10)

星杜学園1年 波原小春 168㎝ 60㎏。 けっこう大食い!」の続編となっていますので、当小説で直接的にはわからないエピソードなども出てきます。ご容赦下さいませ~。


及川先輩事件のため、また小春のチョコ投票相手がスタート地点に戻ってしまいました。

このお話はどこに流れていく事になるのか、ご一緒にお楽しみ下さいね~♪

「これこれ、これだよ。やっぱり友哉の手作りお弁当に勝る昼食はないよね~」

 事件?のあった翌日、私たちは久しぶりに教室で机を寄せて、友哉のお弁当を堪能する事になった。私は、友哉のお弁当を食べるのが、本当に大好きで。

(で、でも……) 

 私は友哉にそっと耳打ちをする。

「友哉、……桐生がいるんだけど……」

 友哉は、桐生に目をちらっと向けると、おもむろに目を閉じて何かを思い出しているような様子を見せた後で。

「いいんですよ、小春さん。ぼくが誘ったんですから」

 思わず耳を疑うような答えが返ってきた。

「ええっ!? マジで友哉が桐生をっ!?」

 確か、2人の間には確執があったはずだ。それとも、私の知らないうちに和解したとでもいうんだろうか?

「桐生くんは……ぼくがやりたくても出来なかった事を、あの場で一発かましてくれました。だから今日はそのお礼なんです」

 友哉は目を開くと、続けてそう話す。

「つまり、今日の昼休みは、紫月とは一時休戦ということだな」

「そうですね」

 今の2人の間柄は、とても良好に見えた。でも『一時休戦』っていう単語が飛び出すところをみると……バトっているという事を、お互いに認識しているということなんだろう。

「それじゃ紫月、遠慮なく食べさせてもらうぞ」

「どうぞどうぞ。桐生くんの分も考えて多めに作ってきましたから。今日は単純に炭水化物オンパレードのお弁当ですけどね」

 淡水化物オンパレードのお弁当! それはなんて魅力的な響きなんだろう。私にとっては大御馳走というもの。おにぎり、チャーハン、サンドイッチ、ナポリタン、やきそば、私を魅了してやまないそれらのメニューたちがずらりと勢揃いしている。

 愛してやまない炭水化物たちを見ながらも、同時に私は心の中で3人に改めて感謝の念を抱いてもいた。

 友哉が桐生に対して『お礼』と言ったのは、多分、昨日、桐生が及川先輩を殴った事なんだろうと思う。そして、いつもは、ふわふわであまあまな麻莉子が、これまでには見たことのないような怒りの表情で及川先輩に噛みついていったのを私は見た。また、友哉の怒りは、表面的には冷静に見えたけれども静かな怒りのオーラで及川先輩を圧倒したかと思うと、人としての心の浅い部分を突いて彼のプライドを見事に砕いた。しかも桐生なんて、やっちゃいけない行為なんだけど……及川先輩を殴って床に転がした。


(あたし……友哉や麻莉子にあんなひどい言葉を吐いたのに……)

(まさか桐生が他人を殴るなんて……)

 

 結果、自分自身をコントロールできなくなるという制御不能事件は、ほんの数時間で終了をみることとなり、同時に私の初恋らしきものも、本人が自覚することもなく、たった10日にも満たない日数で強制終了となった。

 でも私は、今回の事を通して心で本当に理解するという意味が理解できた。どんな時にも、いつでもちゃんと私の内側を理解してくれる仲間がいると言う事を肌で実感できたのだった。

(あたし、麻莉子や友哉に出会えて幸せだ)

 ただし桐生については……保留にしておこう。こいつには中学時代からいろいろと思うところがあって、私の中ではまだ消化しきれていない存在なのだ。でも今回の桐生の行動については、いろんな意味でひどく驚かされたけれど、その点については素直に感謝しようとは思っている。


「小春ちゃぁん、なにぼーっとしちゃってるのよぅ。ほら、見てよ。桐生くんがぁ小春ちゃんのお株を奪って、あんなにドッサリ取り分けてガツガツ食べてるって言うのにぃ~」

 麻莉子の声が私に届く。

(人がせっかく感動してるっていうのに、麻莉子ったら)

 麻莉子は、いつも通りの麻莉子だ。

「おいおい久遠。そんな言い方はないんじゃないか。小春よりはマシだと思っているが」

 桐生が笑って答える。が、桐生の言葉を聞いた友哉のこめかみに、怒りマークが現れている。

(あれ、友哉……今、何に反応したんだろ?)

 うーーーん、一時休戦とは言ってみても……なかなか底は深そうだ。


「よぉーーーーし、波原小春、まだまだ桐生程度の食欲には負けないんだから!」

 麻莉子の言葉に、元気よく答える。

「そうですよ、小春さん! 小春さんが美味しそうに食べてくれる顔を見ているだけで、ぼくは作ったかいがあるというものです」

 そう言うと、とりあえず怒りマークを消して、友哉はそそくさとお弁当を取り分け始めてくれる。

「あれあれあれれぇ~? 友哉くんったらぁ~、それって小春ちゃんによそってるのぉ~?」

 麻莉子の問いに、友哉が答える。

「もちろん、そうですよ。だって麻莉子ちゃんもぼくも、どう考えても、こんなには食べられないでしょう?」

「食べられないよぅ、ぜーーーーったいに麻莉子には無理ぃ。でもね、友哉くぅん。麻莉子が言ってるのは、そこんとこじゃなくってぇ」

「はいはい、分かっています、分かってます。小春さんをそんなに甘やかせるな、って言いたいんでしょう?」

「そうそう~」

「麻莉子ちゃん、良いんですよ。だってぼく、小春さんのためなら、なんだってしてあげたいんですから」

「へぇぇ、さらりと凄いこと言っちゃったぁ~。友哉くんったらぁ、そんなにかいがいしく尽くさなくたってぇ~」

 2人が笑う。友哉と麻莉子が笑っている。

「はい、小春さん、どうぞ」

「わお! この点子盛り! テンションあがるよ、友哉!! サンキュー」

 心も、お腹も充たされるというこの幸せ感!


 あっ。

 でもそんな私たち3人のやりとりを見ていた桐生が、ちょっとだけ不機嫌そうになってたのは、見なかったことにしておこう。

 桐生と友哉と麻莉子。この3人の関係は、この先もまだ複雑に続いていきそうな予感びんびん。


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