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プロローグ

これは星杜学園シリーズの第二弾になります。

創立記念前夜祭の翌日、クリスマスから始まります。小春たちと一緒に星杜学園の面白い伝統をお楽しみ下さいね♪

☆☆☆

「だいたいさ、わけわかんないよね。なんで、私があんな目に合わなきゃならなかったわけ?」

「ぼくだって全体の流れを知っていたら、小春さんをあんな目には合わせませんでしたよ。だって、小春さん、かわいそすぎるじゃないですか」

「ちょっと待ってよぅ、2人ともそんなこと言ってるけどぉ。そのおかげで小春ちゃんは、ミス星杜の次点にまでのぼりつめられたんじゃないよぅ~。ミス星杜の次点だなんて、名誉なことじゃなぁい?」

「ミス星杜の次点だぁ? 次点になったのがなんだって言うわけ? 麻莉子ね、あたしはミス星杜になんてちーーーっとも興味ないし、ついでにいうと、なりたいなんてこれっぽっちも思った事はないからね。だいたいこのあたしがミス星杜だなんてどうなのよ? 腹で茶をわかすってもんよね」

「小春ちゃあん、そこは、臍で茶を沸かす、だよぅ。でも、まぁ、確かにそう言われてみれば……ねぇ」

(えっ? 麻莉子、こういう場面では、普通お世辞にでも『そんなことないよ』って否定してみせるところだよ?)

 

私の名前は、波原小春なみはらこはる星杜学園ほしのもりがくえんの1年で、170㎝の60㎏。体育会系の女の子で、特技?は大食い、女らしい事は全般的に苦手としている。見た目と名前のギャップに少々のコンプレックスを持っている事は……他人には秘密だ。それと、私はの気を操るという特殊な能力を持っていたりもする。

また、今ここでクリスマス会と称して、共にクリスマスケーキを食べているのは、私のクラスメートの紫月友哉しづきともや久遠麻莉子くどおまりこの二人。

 昨日の12月24日は、世間一般でいうところのクリスマスイブだったわけで、そして我が星杜学園の創立記念前夜祭でもあった。

前夜祭という名がついている通り、本当の創立記念日は12月25日なのだが、25日から冬休みに入るため、例年クリスマスイブに創立記念前夜祭が開催される。しかも今年は、創立100周年ということもあって、大々的な創立記念前夜祭ではあった。

 星杜学園について少しだけ説明すると、ここは一風変わった高校で(実は、私はそういうことについては何も知らないで進学した)、他の学校には無いようなおかしな行事が、伝統という事で脈々と受け継がれていたりする。

ゴールデンウィーク中に開催される『寮棟をひたすらに激走するだけの寮祭』や、『テスト首位者の新校則発布権』、『部費争奪戦・部活対抗秋の体育大会』等々、とにかくいろいろ盛りだくさんなのだ。

そしてかくいうこの私、まんまとその伝統行事のひとつに騙されるハメとなり、4月に入学してから12月24日創立記念前夜祭に至る昨日まで、聞くも涙、語るも涙の学園生活を送らざるを得ない状況に陥っていた。

が、この私の苦しみや悩みが、実は『学園全体で1年をかけて映画を撮る』なんていう、おかしな学園の伝統行事?のための作り話だったなんて、一夜明けたぐらいでは消化できるはずもない。

ってことで、私は今、仲良し組を演じていたこの二人に、憤りをぶつけているところなのだ。他にも何人か、私の憤りをぶつける先の心当たりはある事はあるんだけれど、彼らにはまたおいおいと。


「だいたいだよ? 映画のタイトルが、『星杜学園を救う者、その名は波原小春! ~クローン人間は誰だ!?~』って、なに!?」

 友哉と麻莉子が、同情するようなそぶりを見せながらも、笑いをかみ殺している。

「そ、そ、そうですよね。まったくもってヒドイタイトルですよねぇ。でも、まだ仮タイトルだという噂もありますし」

「ぷぷぷ、これはあんまりだと麻莉子も思ったよぅ~」


(ホントにこの二人の反応ったら! ちょっとくらい反省の色をみせてもいいんじゃないの?)


「入学して早々から、あたしをワナにハメるみたいな事をしてきてさ。あたしたち3人が楽しく過ごしてきた今までって、全部決められた通り、台本通りだったってことなわけ? あたし一人だけが何も知らされないままに?」

 見ると、お皿に切り分けられたクリスマスケーキは、私の憤りのとばっちりを受けて、ぐちゃぐちゃだった。もう元が何だったのか、この状態で推察できる人はいないだろう。

「その話はおいといてね、まずぅ、小春ちゃぁん。それ……、友哉くんが焼いてきてくれたのに、そんな食べ方しちゃ、せっかくのケーキちゃんがかわいそうだよぅ」

 なにげに、友哉の表情も複雑そうではある。

「ちっがーーーーう! かわいそうなのは、『ケーキちゃん』じゃなくって、この波原小春でしょーよ!」

 私は怒っている。たぶん、同じ目に合っていたら、誰だって怒るところだと思う。

が、怒ってはいるんだけど、被害者のフリをして二人を責めて、その反応を楽しんでいたりもする。こういう時の私は、いつもと違って表情にはちっとも出ないのか、2人とも本気で私が怒っていると感じているようなのが、ちょっと面白い。

「小春さん。もう許してくれませんか。ぼく……おわびの意味を込めて、夜中じゅうかけて一生懸命にケーキ焼いたんですよ」

「そうだよぅ、小春ちゃ~ん、昨日で種明かしもされた事だしさぁ、そろそろ水に流してくれてもいいんじゃないかと麻莉子も思うよぅ~」

 ケーキを焼いてきたと話すこの友哉は、料理上手な、いわゆる草食系男子である。身長は私と同じくらいなのだけれど、体重は私よりもずっと軽そうに見えるところが、気に入らない部分ではある。

「しょうがないなぁ。麻莉子も泣きそうだし、あたしの好きなケーキを、こんなに目の前に並べられちゃあねぇ」

 麻莉子、大きくコクコクと頷いている。

「そうだよ、小春ちゃん。友哉くんの作ったデコレーションケーキも、ベイクドチーズケーキも、ガトーショコラも、アップルパイも、その辺に売ってるのとは比べ物にならないくらい美味しいんだからさぁ~」

(麻莉子、なぜにドヤ顔?)

 で、この麻莉子。私とは見た目も性格も正反対な女の子で、身長は156㎝、体重は秘密。ちょっとぽっちゃりで、色白・ぱっちりお目々・えくぼ有りの、ふわふわくせ毛のかわいい女子高生だ。しかし見た目とは裏腹に、その情報力の凄さは自他ともに認めるところであり、その動物的直観も決して侮れない。

「でもねぇ。確かにケーキは好きだけど……確かに他の女の子に比べればあたしは食べる量も多いけど……さすがに、このケーキたちは多いと思われるよね」

「ん~~~~、小春ちゃんったら、またまたぁ~。他の女の子に比べれば、じゃなくってさぁ、他の男の子と比べても、っていうのが正確な表現でっしょ~。3人でいる時は、全然遠慮する必要なんてないんだからぁ、もう、じゃんじゃんいっちゃってよぅ~」

「あっ、ま、麻莉子ちゃん、それはちょっと……」

 麻莉子の発言が私の怒りに油を注いだのでは……と案じて目を白黒させている友哉に対し、私の心にヤリを突き刺した当の麻莉子はけろりとしている。気遣いの友哉が、順にケーキを切り分けながら、フォローしようとする姿がなんとも痛々しい。

「あっ、あの、小春さん。ぼく、小春さんにたくさん食べて貰おうと思って、がんばって焼きましたから、ホント、遠慮なんてしないで食べて下さいね」


(ま、そろそろ許してもいいかなぁ)


「んーー、まぁ麻莉子の発言はいつもの事かっ」

 友哉の作る料理は、どんなものでも本当に美味しいのだ。ついでながら言うと、私と麻莉子のお弁当まで作ってくれちゃうくらい料理上手な友哉なのである。今回焼いてきたケーキだって玄人はだしで、その辺のお店に並べたって決して見劣りしない。

が、そんなケーキたちも、私の皿の上では、憤懣やる方ない怒りの矛先となってぐちゃぐちゃになっていた。キレイに飾り付けられていた生クリームも苺も、ふわふわなしっとりスポンジも、目も当てられない姿になり果てているのが何とも哀れを誘う。味噌もなんとかも一緒というのは、こういう状況を指すのかもしれない。

「小春ちゃ~ん……あぁぁ、ホントにそのケーキ、どうするのよぅ。そんなことしちゃったら、もう食べられないじゃないよぅ。っていうか、どんなにおいしい友哉くんのケーキでも、そんなふうになっちゃったら麻莉子は食べたくないなぁ~」

「いやいやいや。麻莉子は、食物が最後に到達する真理をまだまだ分かっちゃいない。口に入ってしまえば、遅かれ早かれ、すべてはこの状態になるのだよ。どぉれぇ」

 私は、大きく口をあーんと開けると、そのケーキの残骸をバックリと口に放り込んだ。

もぐもぐ、ごっくん。

(やっぱりおいしい! ほっぺた落ちそう)

「うん! やばい、友哉、やばすぎる。マジで美味しいわ、これ!」

 思わず称賛の言葉が、口から出てきた。

「友哉は、いいお婿さんになれるよ。うん、私が保証する」

「えぇっ!? そ、そ、そうなんですか。ぼ、ぼく、お婿さんになれますか?」

 友哉は恥ずかしそうに頬を赤らめた。そこへいつものように麻莉子が口をはさんでくる。

「だから小春ちゃんさぁ~、友哉くんに誤解させるような発言は慎んだ方がいいんじゃないかと、麻莉子は思うんだよねぇ~」

(誤解?)

 でも。

昨日あの場面で、この2人を失った(と思った)私は、身が引き裂かれるように辛かったのだ。まだその気持ちが胸の中に残っている。その時の気持ちを思い出せば、こうして3人でまた一緒の時間を共有できるという事が、なんて幸せな事なんだろう。


「ぷぷぷっ」

 

堪え切れずに笑いがこぼれる。

「あーーーーーっ! 小春ちゃんったら、笑ってるよぅ。友哉くん、見てよ、見てぇ。小春ちゃんたらぁ、今まで怒ってるフリして、友哉くんや麻莉子を騙してたんだよぅ~」

「小春さん、ぼくからもお願いしますから、もう意地悪はおしまいにして下さいよ」

 そうなんだ。この2人がいてこその、波原小春の星杜学園生活なんだ。


「ごめん、ごめん。あんなに大変だったんだもん、ちょっとくらい2人に八つ当たりしたって罰はあたらないでしょう? でもさ、友哉の美味しいケーキを口にしたら、気持ち全部でハッピーになっちゃったから、うん、これでオシマイね!」

 心底安心したように見える友哉と麻莉子の表情を見て、私にも笑みがこぼれる。

「うわぁ、良かった、良かったよぅ。やっとここからは3人で楽しいクリスマス会だねぇ~」

「良かったです! さぁさ、気分を切り替えて、ここからは小春さんも麻莉子ちゃんも、美味しく、たくさん召し上がって下さいね!」

「さぁぁ、友哉に麻莉子、どんどん食べるよー!」

 

私たちは、この後は短い冬休みを実家で過ごすべく帰省する予定でいる。星杜学園の1年生は、全員が校舎に直結の寮で生活しており、連休があると実家に戻る生徒が多く、ましてや年末年始の年取り・元旦はやはり家族の元で迎えるのが、日本の良き風習というものだろう。しかし、近年はあちこちでカウントダウンライブなどもあるそうで、日本の伝統も少しずつ崩れつつあるようだけど。

 だが、かくいう私に家族はいない。小学生の頃に両親を亡くし、子供のいなかったおじさん・おばさんに引き取られ、育てて貰った。地元から遠く離れたこの星杜学園に思うところがあって進学したのだが、ゴールデンウィークも夏休みも帰省しなかった事だし、さすがに年末年始くらいは帰省しようと思っていた。


「も、もうダメ……。友哉、さすがのあたしでもこの量は無理だわ~。これ以上は、お腹が破裂しそう……うぇっぷ」

「友哉くぅん。麻莉子も……もう食べられないよぅ~」

 麻莉子と二人で音を上げると、友哉も私たちに同調してくれた。

「ぼっ、ぼくもです。さすがに、ホールケーキ4個は多すぎましたね……」

 私たちは、残ったケーキをそれぞれ手土産に貰い、私たちはクリスマス会をお開きにした。


「それじゃ、友哉に麻莉子、よいお年をね」

「はい。小春さんも麻莉子ちゃんもよいお年をお迎え下さいね」

「小春ちゃんに友哉くぅん、また新学期にねぇ。よいお年を~」


 年が明けてから、またまたすったもんだに巻き込まれることになろうとは、この時にはまったくもって想像もしていない私だった。


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