第八話 孤独な戦い
俺が蔵の前に着くと、すぐに村長の奥さんである、カタリナが話しかけてくる。
「トリオ、何かあったのかい?」
「ええ・・・見間違いならいいのですが、この先の森で刃物の反射と思われる光を2度見ました」
「あんたが、そう言うのなら見間違いじゃないんだろう」
カタリナがそういうと、主だった大人の女性たちは全員がうなずいた。
さすがは、ザンダル村に住む女性たちだけあって、このような事で動揺するような人はほぼいない。
「さて防衛隊長殿、どうするのかね?」
とカタリナが話しかけてくるのだが、このような場合を想定し、クルド師匠からは対応策をいくつか預かっている。
「防衛隊長の名前については、一旦置いておきますが、クルド師匠からいくつか指示をもらっています。
まず大切なのは相手の戦力を知ることと言うのが一つ目です。昼間ならばともかく、夜なので相手がこちらに来るまでは村の中から確認する方法はありません。
次に、この村の壁はかなり丈夫ですので、門さえ守りきれば、中に被害が出る事はないってことですね。
最後に、最大限でも3日後の夕方まで守りきれば、他のみんなが帰ってくるので、相手を殲滅する必要はなく、そこまで守りきれば勝ちってことです」
「そうだね、その指示どおりにこなすのが無難そうだね」
そうカタリナと話しているときに、自分の裾をつかまれるのを感じ、下を見ると村の小さな子供たちが、不安そうに俺を見上げてくる。
この子達にとっては始めての村への襲撃だ、何より大人たちの緊張がこの子たちには伝わったのだろう。
「心配するな、お父さんたちはいないけど、俺がこの村にいる。あんな盗賊どもなんてすぐにでも追い払ってやるさ」
と強く言うと、子供たちは口々に「本当?」「大丈夫トリオ?」と心配そうに聞いてくるのだが、俺が年に似合わない、重い鉄棒を振り回すと、「ブォン!」と言う音と共に軽く埃が舞う。
「任せろ!」
と言うと、子供たちから声が上がるより先に、おばちゃんたちから「かっこい~」とか「抱いて~」とか黄色い声援が上がり、思わず膝を付いてしまった。
そんな俺を何故か小さな子供たちが慰めると言う奇妙な光景が見ることが出来た話は置いておき、カタリナに
「まずは、偵察として俺が単独で出ようと思うのですが・・・場合によってはそのまま殲滅してくるつもりですが、どうでしょう?」
「また、無茶なこと言うねこの子は・・・クルドならともかく、あんたにそこまで出来るとは思えないけど?」
「あはは、さすがに容赦ないですね、カタリナさんは・・・大丈夫です、ヤバイと思ったらすぐに引き返します、念のため櫓に1人と、門の側にアメリアを待機させて下さい」
「門の閂は締めて良いのかい?」
「当然です、俺が逃げて戻ってくるようなら、閂を開けて俺を入れてください。もし俺が捕まったり、殺されるようならそのまま見殺しにしてください」
「見殺しってあんた・・・」
「相手がここの防備を知った上できているなら大人しく門まで無条件で来させるわけにはいきません。場合によっては破城槌のようなものがないとも限りません。
その場合、俺は率先してその武器か道具を破壊します」
「・・・確かに、相手がこの村の障壁や門を知っていれば、そのくらいの装備はありえるね、過去にも破城槌を持ってきた馬鹿もいたしね」
「ええ、そんなものを村に使わせるわけにはいきません。だからこの際は俺の危険は無視してください。破城槌とかがなければ、門を閉じて防衛するだけで、大丈夫だと思います」
「そうだね、食料などの備蓄は一杯あるから、門さえ無事なら3日なんてあたしたちだけでも楽勝だと思うよ、しかし本当に破城槌なんてあるのかね?」
「分かりませんが、ここ何年もなかった盗賊の襲撃が男手のいないこのタイミングでくるなんて、偶然とは思えません。この村の攻略について準備万端と見るべきじゃないですか?」
「確かに、そうかもしれないね、あまりにもタイミングが良すぎる。確実に男衆がいないことを知っているね」
「ええ、彼らがそう思っているのなら、そこを突き奇襲で彼らの頼りとする破城槌又はそれに類する対城門兵器があるなら真っ先に壊します」
「まぁ、破城槌なんてとんでもないものがなければ、偵察だけしてさっさと引き上げて来るんだよ、本当ならあたしだってお前が1人で行くなんて許しはしないんだけどね」
「とりあえず、頑張ってきますよ。なるべく危ない事はしないようにしますよ」
そう言ってカタリナの側を離れ、アメリアの近くまで行き
「アメリア時間が惜しい、俺と一緒に門まで来てくれ」
「うん・・・」
アメリアは小さく頷くと俺と一緒に正門の前まで大人しく付いてきた。
門の前まで来ると、見張り用の櫓で俺の変わりに外を見張ってくれている女性に異常がないかを確認し閂を片方だけ開け、門を開けようとする。
すると、アメリアが俺の裾をつかみ
「危ない事はするんじゃないわよ!」
「ああ、なるべく危ない事はしないようにするさ」
と答えるのだが、アメリアは疑わしそうに俺を見つめ
「本当に本当でしょうね?あんたって偶に無茶するから信用できないのよ・・・」
俺は、ここは真面目に答えるべき所だろうと思い
「さっき、カタリナさんとも話しただろ、もし相手側に門を破るような兵器なり道具なりが有った場合は・・・無茶するよ・・・」
そう言うと、アメリアにもその可能性が有ることと、その危険性が理解できたのであろう
「うん・・・」
と言いながら、俺の裾を強く握る。
「アメリア・・・俺は俺の大切な物を守るために武を身に付けた、今その真価を問われる時だと思っている。ガザル師匠やクルド師匠が居ない今、この大切な俺の村を、俺の家族達を守るために、命を賭けられないようなやつが商人に成れると思うか?」
と聞くと、アメリアは首を振る。
「だろ?だったら俺を信じろ!俺は絶対に無事に帰ってくるって」
「うん・・・信じるよ、トリオ」
それを聞くと俺は安心して、片方だけ門を開け表に出て、門の扉を閉める。
「アメリア、閂を掛けてくれ、それと俺が戻ったら、門を開けるために、その場で待機していてくれ」
と声を掛けると、「分かった・・・」と声がして、「カチン!」と閂を掛ける音がする。
それを確認した俺は森へと目を向け、辺りを確認しながら進む事へとした。