第六話 監視者
今日から本気出す・・・
- 4時間後 -
3つのポイントを掘り終えた俺の足元には鉱石がゴロゴロと転がっている。
一応種類別に分けてあるのだが、結構な量を掘る事が出来たのは僥倖だ。
それに・・・目的だったレッドも運よくインゴット1つ分を手に入れることが出来た。
この採掘場はピンクが多く排出されるようで、ピンクの鉱石だけでもインゴット40個分ほど手に入れることが出来た。
結果に満足しながらアポーツバッグに鉱石を詰め込んでいる俺をクルド師匠は興味深そうに見ていた。
「どうしたました、クルド師匠?」
「いや、これだけ掘ったお前を見ていると、本当に掘り師の修行もしているんだな~と思ったのさ」
「いやいや、本当にもクソもガザル師匠の下で修行しているんですよ、やるに決まっているじゃないですか」
「いや、別に悪く言ったつもりは無いんだがお前さ、掘り・鍛冶の他にも裁縫や木材加工系もやっているんだろ?」
「ええ、まぁ・・・目指すは商人ですから、それくらい出来ないと・・・」
「まぁ、そうなのかもしれないが、それにしてもそれだけ多様なスキルに手を出して大丈夫なのか?」
「と言いますと?」
「いや・・・所謂器用貧乏にならないかと心配でな、お前なら分かっているとは思うが、職人の修行は何と言っても数だ!次に質だ!」
「ええ、それは分かっていますよ、その上でやっています」
「まぁ、確かに12歳でバイオレットの掘り師なんて聞いた事も無いしな・・・」
「どうしたんです?クルド師匠」
「いや、お前がメルカトラーを目指しているのは知っているんだが、もし本気でお前が冒険者を目指すならば、この先の洞窟の5層目をクリアしてくれるんじゃないかと思ったんだけど・・・・」
「そうですか?別に冒険者じゃなければクリアできないわけじゃないですよね?ならば俺は商人としてクリアして見せますよ」
「エルダードラゴンを商人が倒すのか?それは無理があるんじゃないか?」
「誰も倒すとは言っていませんよ、言葉を交わすことが出来て、意思の疎通が出来るのであればエルダードラゴンと交渉して5層目への道を開けてもらうのも1つの方法ではないですかね?」
と言うと、クルド師匠は驚きながらも
「確かにそうだな、闘うだけが5層目クリアへの道とは限らないか・・・うん!やっぱりお前は商人が一番向いているな!」
と声をかけられると、自然と顔が緩んでしまう。『お前は商人に向いている』か・・・俺にとっては何よりの褒め言葉だ、それだけで元気が湧いてくる。
「クルド師匠、今日はこれで戻りましょう。今日はピンクの鉱石が一杯掘れたので何かご希望の物を作りますよ!」
「そうか、そいつは嬉しいな、ピンクの特性って何だっけ?」
「魔法に対する耐性です、熱や冷気耐性ではないのでブレスには聞きませんが、純粋な魔法なら効果が期待できますよ」
「そうか、ならば・・・盾が欲しいな・・・」
「なるほど、いいですね~師匠の戦い方だと盾も消耗品になるでしょうから、それなりの出来の物が数あったほうが良さそうですね」
「ああ、そうだな、是非頼むよ」
「ええ、分かりました、形は・・・ピンクですからカイトの方が良さそうですね」
「そうか?サークルの方が使い慣れているんだが・・・」
「いや、魔法を受け流す事を考えれば、薄い四角錐のカイトシールドがいいと思いますよ」
「まぁ、試しに使ってみてください、グッド品でよければ4~5つは作れますよ、グレート品だと1~2つだと思いますが・・・」
「いや、今回はお前のお勧めのカイトを試す意味もあるから、グッド品で十分だ、グレートを作ってくれるなら、ロングソードが欲しいな、それもバイオレットのやつだ、本当はレッドが欲しいが、それはもうしばらく待っていてやるよ」
と言って笑うのだが、目が笑っていない・・・
「師匠~、バイオレットのロングソードでグレート品って・・・普通に買うといくらすると思っているんですか!」
「いや、折角弟子がプレゼントしてくれるって言うから、言ってみた・・・ワリとマジで!」
「無理です!と言うか、そんなものが出来たらガザル師匠に取り上げ食らって速攻でミルバ姉さんの店に直行ですよ!」
「黙っていれば分からんだろう!」
「いや、間違いなくアメリアがチクリます、無理です・・・」
「そうか、そうだよな・・・お前はアメリアとミルバに監視されているもんな・・・無理だな」
「ええ・・・無理です・・・」
「帰ろうか?」
「はい、帰りましょう」
と言ってスゴスゴとゲートを出して帰っていく2人であった。
- 数日後 -
クルド師匠に手間賃として、いくつかの武器や防具を渡すことでレッドの採掘ポイントをこなし、レッド鉱石も少しずつだが溜まっていった。
アメリアの誕生日まで後4日、このペースで行ければ、アメリアの誕生日には十分な量の鉱石を渡すことができそうだ。
そう考えると、嬉しくなるのだが、ひとつだけ心配事がある。
それは、ガザル師匠に内緒にしていることだ。
孫であるアメリアの誕生日だ、当然お祝いの席にはガザル師匠もいるに決まっているし、俺から貰ったプレゼントの事をアメリアが師匠に話さないわけは無い・・・
やばい・・・今になってこんなことに気付くなんて・・・レッド鉱石の数については失敗しながらも掘り続けたことによって、掘り師スキルも上がったことでかなり確保できている。
今更これを無かったことにはできないし・・・と悩んでいると、いつもの様にクルド師匠がやってきた。
「よう、トリオ!今日はグリーンのロングソードって・・・何しているんだ?」
「おはようございますクルド師匠、何しているって?いや・・・悩んでいるんですが、そう見えませんか?」
「悩んでいるって、おまえ・・・さっきから見ていたら嬉しそうに笑ったと思えば、いきなり難しい顔をして頭抱えたりして・・・正直気持ち悪いぞ」
「酷いですよ、クルド師匠。真面目な青少年が悩んでいると言うのに・・・」
「真面目な青少年かどうかは置いておいて、何をそんなに悩んでいるんだ?」
「それがですね、アメリアの誕生日が4日後に迫って、まずい事に気付いちゃったんです」
「まずい事、なんだそれ?レッドの鉱石も順調に集まっていたんじゃないのか?」
「ええ、鉱石は順調に集まったんですが・・・」
「ん?お前まだガザルさんに言ってなかったとか?」
「ええ・・・」
「そりゃだめだろ、手遅れかもしれんが、さっさと言った方がいいぞ、なんだったら俺が付いていってやろうか?坊主」
と言いながら笑う。
「坊主ですか・・・随分久しぶりにそう呼ばれましたね・・・大丈夫です、1人で言いに行きますよ」
そういって、今日の鍛練は中止にしてもらい、ガザル師匠の下へといく事にした。
ガザル師匠の下へ向かう途中でクルド師匠に坊主と呼ばれていた自分と、ちゃんと名前を呼んで貰える様になった事件について思い出していた。
当初主人公のチートを抑え気味にしようと考えていたのですが、今の時点で十分生産系のチートでした・・・すいませんでした m(_ _)m