第五話 師匠の勘と掘り師の勘
お気に入り登録が少し増えたのでうp
「どうした、トリオ!動きが鈍いぞ!」
と武の師であるクルドに激しく打ち据えられてしまう。
「いいか、今お前が使っているハルバートは見た目以上に繊細な武器なんだぞ、そんな集中を切らした状態で扱えば、かえっておまえ自身が怪我する事になる」
と注意され、「はい」と言ってうつむいてしまう。
「どうしたんだ?普段のお前らしくないぞ・・・フム・・・なんだ、アメリアに振られたのか?」
「はぁ?」
と間抜けな声を上げてしまう。
「なんだ、違うのか?まぁアメリアがお前を振るなんて想像できないがな」
と言って笑い出すのだが、この不器用な人らしい気の使い方だと思うが、俺をからかうとは良い度胸だ・・・よしこの人に巻き込もうと心に決める。
「クルド師匠、お願いがあります!」
「ん、どうした?お前がお願いとは珍しいもんだ」
「俺の武の実力もそれなりになってきたと思いますので、そろそろ一段上の狩りに連れて行って欲しいんです!」
と言うと、クルドは少し驚いた顔をしたが、しばらくするとニヤリとして
「そうか、お前もついにそこまで思えるようになったか、うんうん!師匠としてはうれしいぞ!」
と言いながら俺の背中をバンバンと叩く・・・「痛いよ、師匠」
「今のお前の腕なら、よほどの敵でない限り、十分闘えるだろう」
「よほどの敵とは?」
「そうだなー、ワイバーン以上の竜種とかリッチ以上のアンデッドとかだな。バイダースやネーキスが相手でも不意打ちさえできればアヴェンジャーにも勝てるだろうから、その2種ならジェネラル以上、いやジェネラルもいけるだろうからキング以上かな?まぁなんにしても一般のフィールドに出るモンスターならほぼいけるだろう」
「なら、バイダースを狩りに行ってみたいのですが」
「ん?バイーダースか?ふむ、バイダースならお前本来の武器である棒とも相性がいいし、良いんじゃないか?」
「本当ですか!ならば早速行きましょう!」
「まぁ、いいけどえらく張り切っているな・・・何かあるのか?」
「まぁ・・・あ、あと出来れば鉱山の近くがいいんですけど、心当たりありますか?」
「そうだな・・・バイダースが出る場所で鉱山の近くか・・・うん、あるぞ」
「本当ですか!じゃあそこでお願いします!」
「ああ、それじゃあ準備をしてもう一度ここに1時間後に集合だな」
「ハイ!」
クルド師匠と別れ一旦部屋に戻り、準備をする。
今回の本命はあくまでもレッド鉱石なので、ツルハシと・・・空のディスク、そしてディスクセットの巻物、転移の巻物、ゲートの巻物等を用意する。
そう、今回俺はレッド鉱石のポイントをディスクに記録するつもりなのだ。
今回行く場所をディスクに記憶してしまえば、いつでも自分で掘りに行ける。
それが俺の真の目的だった。
準備が整い、鍛錬上に戻るとクルド師匠が待っていてくれた。
師匠はオーソドックスな長剣とサークルシールドを装備していた。
「お待たせしました師匠、それでは行きましょうか」
と声をかけると、師匠は「ああ」と一言短く答える。
師匠はバックからディスクブックを取り出すと、ページを開きスクロールを載せ、呪文を唱えるとゲートが現れた。
「では行くぞ」と俺に声をかけると、すぐにゲートをくぐってしまう。
俺は一拍おいてから、ゲートをくぐる。
ゲートから出ると、そこは岩肌がむき出しとなっている山道だった。
道幅も広く6メートルはある。
さすが師匠、ディスクに記録するには良い場所だと思った。
この場所なら俺も記録したい・・・正直に言ってみるか・・・
「師匠!この場所を俺も記憶したいのですがいいですか?」
と尋ねると、師匠は少し考えた後
「それは構わないが・・・1人でこの場所へ来ないと約束できるか?」
「やはり、ここは危険なんでしょうか?」
「ああ、この道を登って行くと洞窟があるのだが、地下5層しかないらしいのだが、その分かなり広くてな、その・・・ドラゴンの巣窟となっているんだ」
「ドラゴンですか!」
「ああ、1層目から雑魚としてでてくるのでワイバーンだ、4層目にはエルダードラゴン、ナイトシェイドドラゴンとか洒落にならんのがいる」
「まさに、ドラゴンの巣窟ですね・・・ちなみに5層目には?」
「いや・・・4層目を突破したものはいないから誰も確認した事がないようだ」
「ん?それなら何で5層目があると言えるんですか?」
「ああ、それはなエルダードラゴンが5層目に降りる道の前に陣取っているからだよ」
「良くそれが確認できましたね」
「俺も聞いた話なんだが、エルダードラゴンにボロ負けしたパーティーが生かして返す代わりに忠告を届けるように言われたらしい」
「え?ドラゴンってしゃべれるんですか?」
「らしいな、エルダーやナイトシェイド等は知性があるようで、念話とかできるようだ」
「すごいな!是非一度『ストップ!』」
「いいかトリオ、もっと大きくなって強い仲間を揃えたら挑戦するのは構わないが、今のお前なら1層目で即死だ。間違ってもガザルの爺さんやアメリアを泣かせるなよ」
と俺の胸を軽く小突き、真剣な眼差しを向ける。
「分かっています、俺がガザル師匠やアメリアを悲しませる訳無いじゃないですか、あの2人に恩返しして、俺は商人になるんです!それまでは絶対に死にませんよ」
「そうだな!その為にも、早くレッドを掘りたいんだろ?」
「あ・・・ばれていました?」
「ばれいでか!お前の考える事なんか一発で分かるさ、どうせあれだろ?アメリアの誕生日プレゼントだろ?」
「アッハッハ・・・そこまでばれていますか?」
「ああ、すぐにピンときたね、まぁお前の気持ちは分かるからな、さっさと掘りに行くぞ。ただし俺には掘りのスキルは無いから見張りくらいしかできないからな!」
と言うとクルド師匠は俺に背を向けてスタスタと歩いて行ってしまう。
俺もあわてて追いかけようと思ったのだが、ディスクに記憶をしていない事を思い出し、その場で空のディスク、そしてディスクセットの巻物を取り出し、呪文を唱え、ディスクに記憶を行った。
これで少なくとも今回の目的は達成する事ができたので、急いでクルド師匠の後を追う。
道が一本道のため、しばらく急いで進むとすぐにクルド師匠に追いつくと
「ディスクに記憶してきたのか?」
「はい、師匠とほぼ同じ場所を記録してきました」
と答えると、クルド師匠は岩肌の一角を指差し、「どうだ?」と聞いてきた。
俺は師匠が指差した岩肌を見つめ、鉱石が出るポイントを探す。
「ここと、ここと、ここですね」と言って3箇所を指差す。
「ほう、そうなのか?俺には分からんが、それが掘り師の勘なのか?」
「いや、勘と言うよりも経験ですよ」
と言って笑いながらバッグからツルハシを取り出すと、クルド師匠はそのツルハシを見て、少し驚きながら
「お前それ・・・グリーンじゃないのか?」
「ええ、そうですけど?」
「いやお前さ!グリーンをツルハシに使うとか、どんだけ贅沢なんだよ!」
「いや、バイオレット以上の鉱石に普通の鉄のツルハシを使うとすぐに折れちゃうんですよ・・・だから仕方なくグリーンを使っているんです」
「そうなのか?まぁ確かにグリーンから硬度が格段に上がるからな・・・じゃあ今度俺の剣も作ってくれよ」
「ええ、いいですけど、俺の作品で良いんですか?グリーンならおそらく頑張ればグレートが出来ますが、バイオレットなら精々グッドがいいところですよ」
「うーん・・・じゃあもう少し待つわ、できればバイオレットのグレート級が欲しいな」
「まぁ、クルド師匠ならそれくらい必要だと思いますよ、俺がレッドのグレートを製作できるようになるまでもう少し待っていてくださいね」
「ああ、楽しみにしているよ、じゃあ俺はここで見張っていてやるから、掘っていていいぞ」
と声をかけると、クルド師匠はやや山頂よりに座り込み、目を閉じる。
それを見て俺は、採掘のポイントに自慢のツルハシを打ち込み始める。
ディスクへの記憶には条件があり、どこでも記憶できるわけではありません。
また、街中などの記憶は基本的に不可能となっており、簡単にはできないようになっています。(記憶を邪魔するアイテムがあり、どこの町もこれを設置しています)