第三十一話 闇夜の戦闘
「動きました、最初の終結地点を基点に1時の方向から5時の方向までの5組ですが…5時の方向の組はかなり危ない感じがします。気の量と魔力の量が凄いです。その…私やトリオ様以上かもしれません」
「凄腕の冒険者でも雇ったか、ならばまずは1時から4時の方向の4組を早々に潰す方が良さそうだ、その後全力で厄介なやつらを相手にしよう。なるべく殺すなよ」
「そうだな、じゃあ行くぞ!」
- 小一時間後 -
「よし、これで最後だな」
最後の1人の両手両足を縛り上げ、転がし一息つく。
「今のところは順調ですわね」
「ああ、とりあえず、これで最後に残った連中に専念できる」
「ばぁ、じゃなくてエル様、魔力の方は大丈夫でしょうか?」
「ああ、ほとんどがハーネスのパラライズフィールドで終わったからね、私は支援しかしていないから暇なもんだよ…有り余ってしょうがないんだけどね」
「結構です。次は厄介そうなんで、全力の支援魔法をお願いします」
「うむ、任せておけ」
「カーナリア、フェムを補足してくれ、どっちの方向だ?」
「はい、ここから見て、7時の方向です。それほど早い速度での移動はしていないようです」
「まぁ、あちらさんは地形を確認しながらだろうからな」
「トリオ、作戦はどうするんだ?」
「今回はカーナリアも弓で援護を頼む」
「はい」
「これで今日は終わりだから、初手から派手に行っていいぞ」
そう言うとカーナリアは少し困ったような顔をして
「本気で良いんですか?」
「大丈夫なんじゃないか?俺やカーナリア以上の敵みたいだからさ、この程度じゃ死なないだろ」
「しかし、そんな敵に旦那様は突撃されるんですか?」
と少し心配そうな顔をするのだが
「大丈夫じゃよ姫様、こやつらにはこの私が全力の支援をかけるんじゃから、倍くらい強い敵でも渡り合えるさ。それに危ないようなら、手出しさせてもらうさ」
「そうでしたね、婆やお願いしますね」
「分かっておりますとも、お前達姫に心配かけるんじゃないよ!」
「分かっているよ」「分かっています!」
と俺とハーネスが短く答える。
「分かりました、相手は3人のようですから、最初にフォーリンアローを全力で打ち込み、その後チェイスアローを12連射します」
「それで頼む、フォーリンの攻撃が途切れた瞬間、俺とハーネスが突っ込む、ばぁ、じゃなくてエル様は援護と、相手に魔法使いがいた場合の対処をお願いします。」
「お前さん、ワザとだろ?ワザとだよね?死ぬかい?」
「いえいえ、滅相もないですよ、エル様。頼りにしていますよ」
「ふっん!あんたのためにやるんじゃないよ、姫様のためさ!」
「ばばぁ、ツンデレ乙!」
「何か言ったかい?」
「いえ、何も。じゃあ手はずどおり行きましょう」
俺たちはフェムと合流し、フェムに作戦のあらましを伝える。
フェムも俺とハーネス同様、前衛で突っ込む役だ。
「エル様お願いします」
そういうと、エル様は俺たちに身体強化付与の魔法と防御力上昇の魔法をかける。
俺たち3人はやや先行気味に先回りして、彼らを待ち伏せする。
そろそろ接敵かと、思ったころカーナリアがいるであろう地点から1本の光が上空へと飛んでいき、一瞬強く光ったかと思うと、物凄い数の光の矢が地面に降り注ぐ。
こりゃ下手したら、これで終了、又は死んじゃうかもな、と考えていると
「ドォォンッ!」という、地面を叩くような音が響き、地面が盛り上がり庇のようなものを形成する。
その庇に隠れ、フォーリンをやり過ごそうという事らしい。
やるねぇ…カーナリアの見立ては間違っていないようだ。
その庇はアースウォールの変形で、土スキルの一種だろう。
そうなると、相手の1人は上級の土スキル持ちで槌使いだな、ガザル師匠と同じスタイルと思ったほうが良さそうだ。
「ハーネス、俺はあの槌使いをやる。範囲攻撃が来る可能性があるから、一旦仲間と引き離す。残りの2人はこっちの巻き添えにならないよう離れて相手をしてくれ」
「フェム!投げナイフ使っていいぞ、全力でやれ但し殺すな。ハーネス、フェムの援護と牽制を頼む!無理はするな」
「分かりました」「OKだ」そう言って2人は俺から少し離れる。
おそらく、俺たちの動きを見て、カーナリアとバァさんは援護をしてくれるだろうと当たりをつけ、飛び込むタイミングを伺っていると、カーナリアの次の攻撃であるチェイスアローが次々と彼らを襲っている。
今だ!と思い、俺は静かに、そして息を殺して彼らに近づき、暗闇の中でひときわ大きなメイスを振るっている影に横なぎを仕掛ける。
仕掛けられた方は、チェイスアローを捌きながら、俺の横なぎをメイスの柄の部分で受け止めるも、身体強化された俺の腕力に耐え切れず、吹き飛ばされる。
「じぃさん!」「おじいちゃん!」と声が残りの2人から上がり駆け寄ろうとするが、そこへチェイスアローと、フェムの投げナイフの攻撃が打ち込まれ近寄る事ができず、分断に成功する。
それを確認した後、吹き飛ばされた槌使いへと迫る。
槌使いは既に態勢を立て直し、俺を迎え撃たんと、構えをとっている。
先ほどの攻撃の感じからして、それなりに重量のある槌のようなので、こちらはスピードと手数で押すつもり攻撃を仕掛ける。
身体強化を十分に生かした素早い突きを上半身に集中し、意識を上半身に集中させた後、更に速い突きを足元へ繰り出す。
しかし、相手はそれを予想していたかのようにすんなりとステップでかわすと、そのステップを利用してこちらへ重みのある一撃を繰り出してくる。
俺はその攻撃をバックステップで大きくかわし、一旦この槌使いとの闘い方を分析する。
この槌使いは、相当の手練れらしく、こちらの攻撃を予測し、その避ける動作を攻撃の予備動作としてくる。
このような手練れの槌使い相手の重い一撃を棒(棍)でまともに受けるのは、あまり良い手ではなく、避けて空振りさせるか、まだ武器の重量が遠心力に乗る前に出掛りを受けるかが良手ともいえる。
俺は瞬時に戦闘プランをたて、まずは下段払いで足元を狙いガードさせて、俺の棒をはじき返させる、その反動を利用してその場で一回転をし、遠心力を先端にたっぷり乗せた、横薙ぎを放つ。
槌使いはその攻撃を最小限のバックステップで避け、こちらに突進してくるところを俺は体を振り、横回転から立て回転へと切り替え、遠心力を活かしたまま上段からの撃ち下ろしを叩きつける。
もちろん、この動きは完全に槌使いに読まれており、その叩き付けを再度ステップで絶妙に避けると、その避けた動きを利用してメイスを振り上げる。
当然俺はこの動きを待っていたわけで、振りかぶったメイスの先端である、太い部分に先ほどの叩き付けの反動を利用し、棒を半回転させて最小限の動きで突き入れる。
並みのメイスなら、この突きで間違いなくメイスが壊れるか、突かれた反動でメイスが吹っ飛ぶ!はずなんだが…メイスは壊れもせず、吹っ飛びもせず俺の突きを受け止め、ジッとしている。
そして、槌使いが「フンッ!」と気合を入れると、一旦止まっていた、槌が俺の棒を押し返し、加速して俺に迫る。
俺は何とかその攻撃をバック転で回避するが、槌使いはそのまま槌を振り上げると、気合と共に地面に打ちつける。
すると、地面から巨大なツララ状のものが多数俺に向かって飛んでくる。
俺はヤバイと思い、棒(棍)を回転させ弾こうとすると、防御結界が俺を包み、土のツララを粉砕する。
どうやらこの相手では俺では荷が重いと考えたエル様が俺をサポートしてくれるようだ。と考えた瞬間無数の光の矢が相手に襲い掛かる。
すると、槌使いは地面に手を当て、高さ3~4メートルはあろうかという巨大な土壁を呼び出し、それを盾にしたまま、地面を蹴って土壁を登っていく。
おそらく、少し高い場所からサポート役であるエル様を見つけ先に叩くつもりなのだろう。
それにしても、俺の突きをまともに食らっても壊れないメイスを持ち、さらに受け止めて反撃でき、土属性の魔法を十分に使いこなし、かなりの戦闘経験を持っていると思われる。さらにはあの身のこなし…これはもう、確実にガザル師匠と同じレベルと思ったほうがいいだろう。
フルプレートのアーマーと兜を身に纏っているので、どんなやつかは想像が付かないが、これはもうガザル師匠と本気で戦うつもりで行ったほうがいいな。
技もスキルも全快で、かつエル様の反則とも言える補助魔法付きで行けばなんとかなるかな?って所か、まぁこの相手なら死ぬことも無いだろうし…下手して死んだらそれまでだ。
そう、相手を殺す覚悟と殺される覚悟を決めると、俺はガザル師匠モドキを追う事にする。
ガザル師匠モドキはエル様を見つけたらしく、一直線にエル様に肉薄すると、エル様は防御障壁を展開して迎え撃つ。
槌使いはその展開された防御障壁に真正面から向かい
「そろそろおっ死んじまいなぁ~くそ婆ぁぁぁぁ!」
と言いながら問答無用とばかりに槌をたたき付ける。
エル様が障壁ごと後方へ吹き飛ばされるのを見た俺は咄嗟にエル様の後方へと周り、木にぶつかる前に受け止め、エル様に「大丈夫ですか?」と問いかける。
「ほうほう、若い男に抱きとめられるのは嬉しいね。あとで姫様に自慢しておくよ」
「俺でよければいつでも受け止めますよ」
と言うと、エル様は少しだけ、怖い顔をして
「あのクソ爺…次はないさね」
と呟いた後
「トリオ、殺しても文句は聞かないからね」
そういいながら、エル様は高速言語で呪文を唱え、最後に
「死んで私に詫びな、クソ爺!テラ・スラスター!」
その言葉が終わると同時に俺たちの回りに20cm程の光の蝶が20匹程現れる。
いや、良く見ると蝶ではなく妖精のようなもののようだが、それが一斉に飛び立つとガザル師匠モドキの周りを飛び回り
「殺れ!」
とエル様が短い号令をかけると一斉に光線みたいなもので攻撃を始める。
ガザル師匠モドキは土の壁で4方と上方を固めるが、光線は土の壁など無いがごとく貫いていく。
「エル様…あれ、間違いなく死ぬんじゃないですか?」
「だから、文句は聞かないって言っているだろ…なんだい?そんな顔で見るんじゃないよ」
俺はちょっと困った顔でエル様を凝視しつづける
「………………分かったよ、仕方ないね」
エル様はそう呟くと、俺に身体強化を上書きでかけてくれ
「あたしの妖精が殺しちゃう前に、あんたがあいつを捕まえることができれば、それでチャラにしてあげるよ」
「ありがとうございます!」
そう、礼を言って俺は一方的に攻撃を受けているガザル師匠モドキに向かって駆け出す。
ガザル師匠モドキは土壁では防げないと理解したらしく、今は大きなタワーシールドを2枚出し、両手を使い何とかガードしているようだが、防御に手一杯でジリ貧状態になっている。
俺は近づくにつれ、ガザル師匠モドキを観察すると、妖精たちの攻撃を何度かは直撃を食らったようで、鎧に穴が開いているように見える部分もある。
既に満身創痍となっているその状態に俺は後ろからこっそりと近づこうとすると、俺のいる反対側に妖精は固まっていき攻撃を仕掛けはじめる。
ああ言いながらもエル様は優しいらしい、俺が近づきやすいよう、俺の反対側に攻撃を集中し、彼の注意をひきつけてくれている。
『エル様、俺の願いを聞いてくれてありがとうございます』と心の中で感謝しながら、俺は静かに棒(棍)を振り落とし、この戦いにケリを付ける。