第二十七話 匂いにご注意を
10/17 改編及び改定しました。
カーナリアとの会話も少し変えていますので、できればお読み直しください。
- 更に3ヶ月ほどが過ぎたある日の深夜 -
闇の中に静かにうごめく影が1つあった。
その影は音も無く移動し、トリオの部屋の前で止まる。
そしてトリオの部屋のドアを静かに開け、中へスルリと滑り込む。
「ご主人様がいけないんですよ…あなたの奴隷となって、もう半年近くたつのに手を出されない…年頃の娘としてこんな屈辱はありません…」
何故かこの影は哀愁を身にまとい呪詛を呟いているようだった。
「私が今だに手を出されていない事を知った砦の中の奴隷たちがどれだけ私を蔑んだ事か、ご主人様は知るべきです。そして、ご主人様は自分の過ちを知らなければならないのですよフッフッフ…」
そう言いながら影はトリオの寝ているベッドに忍び寄り、布団に手を伸ばす。
「大丈夫ですよ、ご主人様。痛くないですよ~」
そう言って影が布団をソーット剥ぎ取ると、そこには『はずれ』と大きく顔に書かれた藁人形が一体寝ていた!
「ご主人様の馬鹿ーーーー!」
と言った声が砦内に響いた頃、トリオは人気の無い廊下を疾走していた。
「甘いなフェム、俺は細工師でもあるんだぞ、お前が部屋を抜け出した瞬間に俺に知らせる仕組みを作っていないとでも思っているのか?自分の身は自分で守る…この世は無常だな…フッ」
とは言え、今日はおそらくフェムが俺のベッドで不貞寝しているのは確実だから、どこか別の場所で寝ないとな…それにしても奴隷に貞操を狙われて、逃げ出す主って…なんか情けなくて、涙が出そうだなホント…
俺はそう思いながらも、今晩どこで寝るかを考え砦の中庭に出ると、1つの人影を見つけた。
その人影はまるで地面をすべるように動き、中庭を突っ切り裏門の方へと向かっているようだ。
こんな夜更けにあんな動きが出来る人間が外に向かう?
怪しすぎるな…この砦に対し何らかの敵対行為であるならば…そう思い、後をつけることにする。
裏門の横にある小門の鍵をそっと外し、外に出た人影は真っ直ぐに森の中へと消える。
俺は気付かれないようにしながらも、見失わないよう慎重に付いていくと少し開けた場所へとたどり着く。
その人影は開けた場所にある大きな石に腰掛け、ジーット上方、つまり月を見ているようだった。
俺もつられて月を見上げると、なるほど、確かに今夜は良い月だ。
こんなに月が近くに見えるのは久しぶりだな。
どうやらこの人影は月見に来たようだ、そう判断し引き返そうとすると、歌声が聞こえ出した。
透き通るような歌声と言うのはこんな声を言うのではないだろうか?
ザンダル村にも年に数回ほど歌い手さんが来て歌っていたのを聞いた事があるが、ここまで綺麗な声は聞いた事がない。
俺は驚きと共に、この歌声をいつまでも聴いていたいと思い、その場に腰を下ろし、静かに聴き惚れる。
歌は2曲・3曲と進み、その度に俺は驚きと共に感嘆の息を吐く。
そんな素晴らしい歌が途中で途切れ、影が静かに語りかけ出した。
「そこに隠れている人、私をどうするつもりですか?」
え?俺のことか?気配は消していたつもりなんだが…そう思い、立ち上がろうとすると
「なんでぇ、幽霊の噂がでていたからどんな幽霊かと思ったら、小娘じゃねぇか。ほう…小娘と言ってもかなりの上玉だな」
そういいながら森の中から何人かの男たちが出てくる。
「夜分に騒がせて申し訳ありませんでした、私は幽霊でもモンスターでもありません、そこの砦に住むただの人間です。今宵は月があまりにも綺麗だったので、出てきてしまいました。本日はもう戻りますので、これで失礼いたします」
そう言いながら、丁寧にお辞儀をしその場を離れようとすると
「まぁ、そうツレナイこと言うなよネェちゃん!折角の綺麗なお月様だ、あんたの色んな姿を見てもらおうぜ」
そう言いながら男たちは影、いや女性を取り囲む。
おいおい、あまりにもテンプレ過ぎるだろ、何か?悪党ってのは台本でもあるんかね?
「それにしても、ネェちゃん、砦の人間だって言ったけど、俺たちはあんたの事見たこと無いぞ、なんでだ?」
「さぁ、それは存じ上げませんが『クッ』」
どうやら、話しかけながら女性に手を掛けようとした男が手厳しく手を払われたようだ…プッ
「おいおい、ネェちゃん、優しく扱ってやろうとしたのに、そいつはいただけないんじゃねぇか!」
「申し訳ありませんが、両親から知らない殿方に肌を触られてはダメだと教わっていますので、ご容赦下さい」
そう言いながら丁寧にお辞儀する様は実に優雅だった。
アレは良いとこのお嬢様の所作だな、実に素晴らしいお辞儀だ…こんな女性を見捨てることは人類に対する損失だろう JK
そう判断し、アポーツバックから静かにハルバートを取り出し、近づいていくと件の女性が奇妙なことを言い出す。
「あなた方の目的は理解しましたが、直ぐに引いたほうが良さそうですよ、直ぐそこに怖~い鬼がいるようです」
「何言ってんだこのネェちゃんは!俺たちが怖くて頭がおかしくなっちまったのか?まぁ、それでも楽しめれば俺たちは構わないんだけどな!ガッハッハ」
そう言って下卑た笑いをするのだが、女性はまったく動じることなく
「そこのあなた、早く私を助けてくれると嬉しいのですが」
そう言いながら、彼女は俺に向かって体を向け話しかける。
凄いなこの人、俺の穏行に気が付いていたのか…じゃあ仕方が無いな
「おい、お前らその辺にしとけ、その女は俺もんだ」
「ゲッ!お前は…なんでお前がこんなところに居るんだよ!」
「ああ?そいつが月見をしたいと言って散歩に出たんでな、心配になって後を付いてきたんだ。自分の女が心配だったから付いてきた。何か問題あるか?」
「ねぇけどよ!お前自分の獣人奴隷すら満足させていないのに、別の女も囲っていたのかよ、大したガキだぜ!」
「大きなお世話だ…ほれ、そこをどいてくれ」
そう言いながら歩を進めると、こいつらのリーダーらしき男が俺をさえぎり
「なぁ、こんないい女は初めてなんだ、ちょっと俺たちにも貸してくれよ、いいだろ兄弟」
そう言いながら俺の肩に手を回してくる。
その時、俺は始めてこの娘を月明かり中見たのだが…絶句した。
年は俺と同じか、少し上だろうか?流れるような綺麗なエメラルドの髪は月を反射し、白い肌を一層と際立たせ、端正な顔の目は何故か閉じられているのだが十分以上に美しすぎた。
白いワンピースはその豊かな体を隠してはいるが…その見事な胸までは隠しきれていない…どこからか『ナイスおっぱいレボリューション!』と言った電波を受け取った。
まいったなこりゃ…こいつらの気持ちも分からないではないな等と考えていると
「なぁ、いいだろ?兄弟!明日の朝には返すから、少し貸してくれよ」
そう言いながらも、やつは俺の肩に掛けている手に力を入れる。
別にこんなやつら、ここで全員オネンネしてもらってもいいのだがと考えていると、沸々といたずら心が湧き上がる。
「そうだな…いいぞ」
と言った瞬間目の前にいた女の子が一瞬で消えると、俺の後ろから『グハァ』という悲鳴が聞こえた。
その声が3度4度と続くと、いつの間にか俺の肩に手を掛けていた男以外は全員地面でオネンネしていた。
最後に残った男はそれに気付いた瞬間、俺から手を離し逃げようとしたようだったが、後ろから当身をくらい静かにその場に沈んだ。
へぇ、俺でさえ目で追うのがやっとか…恐ろしく速いなと感心していると、首筋に恐怖が走り、その場にしゃがみ込むと一拍遅れて鋭い蹴りが俺の顔面に向けて放たれる。
その足を避けた後、蹴り戻しを掴み空中に放り投げる。
その瞬間、瞬顎の辺りに悪寒が走り、とっさに顎をガードすると…直ぐに衝撃が襲ってくる。
やるなぁ、あそこから投げられつつ、俺の顎を狙ってくるとは…何者だコイツ?
「凄いですね、あの攻撃も防ぎますか?あなた何者ですか?」
「それはこっちのセリフかな?君こそ何者だ?今のところ俺が分かっていて言えるのは……『パンツくらい履けよ、でも下もエメラルドで綺麗だったよ』ってことだけど」
そう言うと、彼女は真っ赤な顔して蹴りを放とうとするのだが、俺の視線に気付き急いで離れる。
「いい判断だ、それにしてもこいつらはともかく、俺にまで攻撃してくるのはやりすぎじゃないか?」
「さて?か弱い乙女のピンチに駆けつけたかと思えば、逆にこのような者たちをけしかけるような発言をする人ですから、仕方ないのではないですか?」
「か弱い?大の男数人を一瞬で無力化できる人間がか弱いわけ無いだろ?もう少し言葉を選ぶべきだな」
「こういう時に身を呈してでも助けようとするのが立派な殿方だと父に言われて育ちました。あなたは立派な殿方だと思ったので、その機会を差し上げようと思ったのですが?いりませんでしたか?」
「なるほど、俺に君を助けるチャンスをくれたわけか…そいつは済まない事をしたね、綺麗なお嬢さん」
「なぜあの者達をけしかけるような真似をしたのですか?」
「そいつはお互い様だろう、君は俺の存在に最初から気が付いていたのに、何故最初から俺に助けを求めなかった?」
「あなたが、どうやって私を助けてくれるのか興味があったからです。あなたの気は…なんとなく懐かしい方を思い出させる気だと感じたからです」
「気?へぇ~凄いな君は…気配だけで気をある程度読み取れるのかい?」
「ええ…まぁそうですね。あなたの気は少し複雑です。明るさの中にほの暗い部分がありながらも中心は光輝き…何者にも屈しない光を放っている。何者ですかあなた?」
「さっきから気になっているんだが、君は目が見えないのか?」
「ええ…この目は二度と光を見ることは出来ないでしょう。その代わり私には人に見えないものが見え、感じることができるのです」
「なるほど、その代わりに人の気を詳細に見たり、感じたりすることが出来るってわけか…じゃあここに転がっている連中はどう見えるんだ?」
「どうも見えません。単純に黒い輪郭として、中身が空っぽの存在として感じるだけです。見るにも値しませんね」
「辛らつなお嬢様だな。まぁいいや、君の危険も去ったようだし、俺はこれで引かせてもらうよ。今夜は良い物が見れたよ、感謝する」
「待ってください!先ほども聞きましたが、あなたは何者ですか?」
「君が何者であっても俺には関係ないと同様に、俺が何者であっても君には関係ないだろう。確かに君は非常に魅力的な女性だと思うけどね…正直言うと、俺の勘が告げるんだ、君に関わると碌なことにならないとね」
「私に関わると碌なことにならないですか…そうですわね、その通りだと思いますわ。おそらくあなたの仰るとおりでしょう」
そういって彼女は寂しそうに笑い俯いた。
「まぁ、そういうわけだ。今日のところはお互いに何も無かった、知り合うことも無かったということで流させてもらうよ、じゃあね!」
と言って、駆け出そうとすると
「待ってください!本当に待って!」
「ん?まだ何か?」
「お願いです!せめて、せめて名前だけでも!」
「あのさ…それを聞いてどうするんだ?できれば俺は君に関わりたくない。なのに名前を教えると思うか?」
「だめですか?」
「ふぅっっっ。正直に言うと俺は君にウソの名前を教える気がない。何故か君にはウソをついてはいけないと俺の勘が言っているんだ…だからウソを付く気が無い。そして、俺の勘は君に名前を教えてはいけないと告げている」
「ウフフ…面白い事を仰いますね、何故でしょう?」
「分からない、でも…そうだな、理論的に自分の気持ちを説明するのは難しいんだけど」
と一旦切り
「君はその…物凄く魅力的だ。そして危険だ。その危険に立ち向かうためには俺の人生を賭ける必要がある…ような気がする」
「クスクス、凄いですわね。本当に…」
「とにかく!これ以上君と話す気はない!君に転びそうになる自分が怖いしね。そうだな、君を一言で言えば、正に傾国の美女といったところか…いや、美少女かな?そんな君に金輪際近づく気は無いよ、それじゃあ!」
そう言って脱兎のごとく駆け出す俺を彼女は…黙って見送るつもりは無いようだ…後ろから殺気、違うな闘気のようなものを感じ、それが段々と絞り込まれる。
この感じは、弓だな。まるで母さんの弓のようだ、闘気を込めて弓を射ることができるのかよ。ますますあの女何者だ?
さてどうする?今俺は森をジグザグに逃げて彼女からは木が邪魔で見ることも射る事も出来ないはずなんだけど等と考えていると、一瞬だけ辺りの木がざわめいた。
なんだこれは?今の感覚は…俺の勘が最大限の危険を告げる。
彼女は確実に攻撃を仕掛けてくる?
なんだ?追いかける矢か、降りしきる矢か?
トレースなら迎撃するし、フォーリンなら避けるんだけど…
気の収束が収まり、攻撃が来る事を体が理解し、身構えると…一筋の矢が光を帯びて俺の上空へと到達する
フォーリンか!そう思い回避運動に入ろうと目を凝らすと矢は…爆発した!
馬っ鹿野郎…こんな場所でビッグバン・アローーかよ!
そう思った時に俺は爆発の渦に巻き込まれ気を失った。
目が覚めたら知らない天丼だった…う~ん…なんか頭がおかしなことになっているようだ、字の変換が上手く行っていない。
それにしても、なぜこんな状況なんだ?落ち着けトリオ!大丈夫だ俺はCooLだ。
さて、状況を整理しよう。
まず、なぜか俺はどこぞの部屋のベッドで寝ている。
ベッドの品質は俺の実家のベッドに劣らないほどいいものだろう、こんなベッドで寝起きが出来るのは幸せなんだと言う事を今更ながらに理解した。
次に、どうやら俺は全裸らしい。
らしいと言ったのは視覚による確認をしておらず、触覚による確認だけしか出来ていないからだ。
さらには、どうも俺は1人でこのベッドに寝ているわけではないようだ。
右半身になにやら柔らかい感触がある。
どうやら誰かに抱きつかれて寝ているようだ。
そう、先程視覚による確認が出来なかったのは、この右半身に感じる異様な感触のためだ。
俺の全理性が全力で見ることを拒否しているのだ。
さてどうしよう…
「クスクス、もう目覚められたのですね。素晴らしい回復力です。それでこそ我が夫に相応しいお方…」
っ!そうだ!俺はビッグバンアローを食らってその場で意識を失ったんだ。
ということは想像したくは無いが、俺の右半身の感触は…
「寝た振りをされても、あなたが起きていらっしゃる事は気で分かりますわ、諦めて目をお開けになってください」
そういいながら彼女は俺の前髪をすくように撫でる。
「これでもまだ、目をあけてくださらないのですね。存外に強情な方…ああ!そうですか、そうですわね!こう時にはお約束と言うものがあるのでした。昔爺に教わりましたよ。まったく可愛いお・か・た」
そう言いながら彼女は俺の顎に両手を添えて…深い口付けをする!
遠慮がちにだが、しかっりと舌も入れてきた。
その心地よい感触に流されそうになりながらも、俺は慌てて飛び起き
「こらっーーーー!何てことするんだ!」
「クスクス、ようやく起きていただけましたわ」
「女の子がこんなことするんじゃない!君は何を考えているんだ!」
「あらあら…私としては非常に嬉しいのですが、まだ朝も早いことですし…いえ!ここでしっかりとお勤めを果たすのが妻の役目なのですね」
そう言いながら、彼女は真っ赤に頬を染めながらおずおずと俺の股間に手を伸ばし、朝のおかげでオッキした俺の何を優しく握りしめる。
「何しトンじゃ!こらーーーー!」
彼女のあまりの反応に俺は一足飛びにベッドから飛び降り後退すると、俺たちを覆っていた毛布が完全にめくれ、今の俺が最も見たくないものが目に入ってしまった。
「えーっと…お嬢さん、いくつかお聞きしたいのですが…」
「嫌ですわ、そんな他人行儀な。カーナリアと及びください、だ・ん・な・さ・ま!」
「それではお嬢様教えていただきたいのですが…まず…何故あなたも私も裸なんでしょうか?」
そう聞くと、彼女はその美しい顔を困った表情に変え、顎に指を一本当てて答えてくれる。
クソ…本当に可愛いじゃないか、クラッとくるぞ。
「夫婦の営みをするのに、お互いが裸になるのは当たり前ではないのでしょうか?それとも、旦那様は着たままするのがご趣味だと…ハッ!ばあやに聞いた事があります!着衣のままするほうがお好みの殿方もいると」
「違うわ、ボケッーーー!そもそも、夫婦の営みって、ひょっとして、まさか君は…」
「あらあら、ようやくお気づきですか?いえ違いますわね、先ほどから気付いておいでなのにあえて、そこから視線をお外しになってますもんね」
そう、先程から俺は気付いていたのだが、そこに決して視線を合わせようとしなかった。
彼女は俺の視線を外していた、場所…そう、そこにははっきりとした赤いしみが…彼女はそっと手をあてて
「昨日の睦言の証がこちらに。初めてのとき女性は痛いだけだと聞きましたが、存外良いものでした」
その言葉を聞いた瞬間俺は全てを悟り、床に膝をついた。
終わった…ごめんアメリア…ごめんフェム…
「そんな、嬉しさのあまり泣いてもらえるなんてカーナリアは幸せですわ」
そう言いながら、彼女は自分の頬に手を添えて、イヤイヤをするように顔を振るのだが
「違うわボケッーーー!落ち込んでんだよ!悲しんでいるんだよ!それで泣いているんだよ!」
「あの…旦那様は、私のような女はお嫌いなのでしょうか?そうですよね、こんな盲の女など好きになられる殿方などいるわけありませんものね」
「え、いや」
「分かっております、私のような女が旦那様に愛していただけるなどありえないことを!でも、そんな女でも夢を見ることを…旦那様に愛していただける事を夢見る事は罪なのでしょうか?」
そう言って、彼女はその開かない目からハラハラと涙をこぼす。
その様は非常に儚く美しかった
「ご、ごめん…言い過ぎた。その、前にも言ったけど、君は本当に綺麗だし、可愛いと思うよ」
しかし、彼女は首を振ってイヤイヤと言ったそぶりをするだけだ。
「いや、本当ごめん!君のような可愛い子を泣かすつもりはなかったんだけど…」
「カーナリア」
「へ?」
「カーナリアとお呼び下さい」
「あ、ああ…カーナリアはとても可愛いよ。ホントに俺になんか勿体無いくらいだ。本当だよ…だから、その泣くのは」
そう言いながら、彼女に近づくと、彼女はいきなり俺の胸に飛び込んできて
「本当ですか?」
「う、うん…本当だよ」
「ならば、ならば証を…」
そう言って彼女は顎を上げ、俺に顔を上げる。
ぐ…どっかで見たような光景だな。
ヤバイな本当に吸い込まれそうな可愛さだ…もう仕方ないのか、そう思いつつ躊躇していると
部屋のどこかからガタッ!と音が聞こえた。
その音で俺の勘が新たな道筋を示す。
俺のキスを待ち受ける彼女の額にキスをし、軽くハグをしながら辺りを見回し、気配を探ると…先ほどまでは気が付かなかったのだが、クローゼットの中に人の気配がする。
かなり集中した上に、そこの場所をピンポイントで探らなければ分からなかったのだが、確かにそこに誰かいる。
そして、彼女の片耳だけに装着されているイヤリング…なるほどね…
「カーナリア、あまり慣れないことはするもんじゃないな…それにしても上手なお芝居だったよ」
そう言って、彼女を優しく離し、俺は一気にクローゼットへと駆け寄り、一気に扉を開け放つとそこには
・
・
・
・
・
・
「はずれ」の文字が顔に書かれた藁人形があった。
自分もやっといてなんだが、これ流行っているのか?
そう思った瞬間、俺は後ろから足払いをくらい、床に倒れこむ寸前に受身を取り、床に膝を付く態勢になると、カーナリアがそっとイヤリングを俺の前にかざす。
「さすがはカーナリア様が見込んだ男だね、この仕込みに気付くとは…しかし、まだまだ甘いよ。こうも簡単に引っかかるようじゃ精進が足りないようだね」
とイヤリングから声が漏れる。
「ばあや、旦那様をそのように悪く言わないで下さい。私の大切なお方なのですよ」
「そうかい、そうかい。カーナリア様は本当にその小増が気に入っているんだねぇ~」
「ええ、この方は先ほどから、一切私に邪な気持ちを持ちませんでした。女としては少々残念では有りますが、1人の男性として見れば非常に強い自制心と責任感をお持ちのお方のようです」
「そんなことまで分かるのか?」
「ええ、大まかにですが、分かりますよ。何故分かるのかは…秘密ですけどね」
「ふ~ん…じゃあ、こういうのはどうだ?」
そこまで分かるなら、そして既に取り返しの付かない事をしてしまっているのであれば…こうだ!
俺は素早く彼女に近づき、彼女を抱き上げベッドに押し倒す。
彼女の両手を俺の両手で拘束し、上からのしかかり、無理やりキスするような態勢となる。
しかし、彼女は動揺する素振もなく
「どうぞ…既に私はあなたのものです。そしてあなたも私のものです。我が守護の騎士よ…」
「何故だ?こんな事をしてまで、何が君をそうさせるんだ?」
「あなたもご自身で仰ったでしょう。私はこれから面倒なことに巻き込まれるでしょう。そんな私があなた様な者を味方につけるには…もうこの身を差し出すしかないのです」
「…馬鹿だろ?お前…じゃあ、俺と同等、又は俺以上のやつがいてそいつを味方にしようとしたら、またその身を差し出すのか?」
そう言った瞬間 『パシィ!』 と音がして、彼女を抑えていた手が、圧倒的な力によって引き剥がされ、俺をひっぱたく。
「馬鹿にしないで下さい…もうこの身はあなた以外を受け入れる事はありません。私は、私の一生を…私の全てをあなたに賭けたのです…」
「そうか、悪かったな…こいつはお詫びだ」
そういって、俺は彼女に長く・深く・優しい口付けをする。
彼女は俺の口付けを素直に受け入れうっとりとした表情になる。
「フフ…初めて殿方からキスされましたわ…少し、いえ、かなり嬉しいものですのね」
「そうか、君みたいに可愛い子にそう言ってもらえると男冥利につきるね。ところで…なんでそんなに俺にこだわるんだ?」
「おかしな方ですね。あなたはあなた自身の価値を理解しているでしょうに、逆に何故そのような事を?」
「いや、そうだな。仮に俺がおれ自身の価値を理解していたとしても、何故君が俺の価値を理解している?たったあれだけの戦闘で分かるものでもないだろ?」
「フフフ…『運命の出会い』ではダメですか?」
「なるほど、確かにそれもいいだろうけど、もう少し君は計算高いはずだ。君は何を知っている?」
「あら、どうして私は計算高いと?ちょっと悲しいですわ」
と言って、少し悲しそうな顔をするのだが、その奥にある表情は隠せていない。
「そうだな、君が計算高い証拠だけど、実に簡単だよ。だって今ここでこうして話していること全てが茶番だからさ」
「何故今の私たちの会話が茶番なのでしょうか?」
「ん?いや、冷静になって、考えてみて、ついさっき、そう君とゆっくりと口付けした時に気が付いたよ」
「何に気が付いたのでしょうか?」
「う~ん…いやホント大した演技だよ、処女のお嬢さんにしては」
「いいかい?お恥ずかしい話だけど…俺も初めてだったんだ。それでね、君は知らないかもしれないけど男が童貞を卒業すると鼻の頭が少し割れるんだ」
そう言って、俺は自分の鼻の頭を軽くこする。
「うそ!そんなのばあやは教えてくれなかったわ!」
・
・
・
・
・
・
・
「そう、うそだよ。でも間抜けは見つかったみたいだな」
「あらあら、私の負けか…まさかこんな簡単な手に引っかかってしまうとは。参りました。どこで気付かれました?」
「いや、いくらなんでも不自然すぎるだろ、君が俺のことどれくらい知っているか知らんが、君のその…初めては一回しかないんだ。俺のことを有る程度知っていたとしても、君自身を賭けるにはまだ早すぎる」
「なるほど…」
「それにさっきも言ったけど、君は決して馬鹿じゃない。と思う…ならば茶番を仕組んで俺を取り込むか、再度俺を測ろうとするほうが自然なんだよ。そこにたどり着いたときに、ちょっとしたブラフを掛けて見ただけなんだけどね…」
「そっか~、さすがトリオ・ノウランですわね」
「げ、そこまで知っているのかよ?」
「いえ、知ったのはあなたをこの部屋に運んでからよ」
「最初に会ったときは分かりませんでした。本当に純粋にあなたに一目ぼれしましたの。目は見えませんけど…」
「君のような美少女にそう言ってもらえるのは光栄だね、それに」
そう言って照れ隠しに、軽く頭をかきながら
「君のように、可愛らしくて面白いお嫁さんが手に入るなら、俺の全てを賭けてもいいかもと一瞬思ったのは事実だしね。だからこそ途中まで本当に騙されたし、どうやって責任を取ろうか本気で悩んだよ」
「別に今からでも責任を取ってくれても遅くないですわよ。だって私の初めての口付けは、間違いなくあなたに奪われましたし」
「いや!奪ってないだろ!俺が寝た振りをしている時にしたのは君だろ?」
「カーナリア!カーナリアって呼んで下さい、旦那様…」
「いや、もう演技は良いからネ!」
「演技じゃないです、トリオ・ノウラン様。私は本気であなたが欲しいのです…私の守護の騎士として」
「その名前で呼ぶのはやめて欲しいかな。ただのトリオって呼んでほしいな。それに旦那様はヤメレ!」
「嫌です!旦那様は旦那様です。それと私のこともカーナリアと呼んでくださいね」
「ホント旦那様は止めて欲しいんだけど…カーナリア。これでいいかい?守護の騎士ってのは良く分からんが…友達からってのはどうかな?」
「良いのですか?私に関わると…厄介な事になると仰ったのはあなたですよ。それに私自身もそう思いますし…」
そう言いながら彼女は顔を背けるのだが、その背中は少しだけ…本当に少しだけ震えていた。
俺は顔を背けた彼女を強引にこちらに向かせ、もう一度ゆっくりと口付けをする。
「友達と言っておいてなんだが、今のキスで十分にお代は貰ったよ。厄介ごと?まぁいいんじゃないか?それもまた修行さ…そうだろ?ばあさん!」
そういうと、イヤリングから、老人特有の快活な笑い声が聞こえ
「そうじゃの、人生はこれすべて修行じゃろう。そう割り切れるならそこの坊主はカーナリア様を本気で助けられる人間になるかもしれませんな」
「良いのですか本当に?たぶん私は凄くあなたに迷惑をかけてしまうかもしれません」
「う~ん…あのさ、俺の幼馴染がさ、こう言ったんだ。
『危険も責任も悪い?も全部まとめて吹き飛ばすのがトリオ・ノウランだって』さ。だからさカーナリアも気にするな。今度からは厄介もその中に含めて全部まとめて吹き飛ばしてやるさ」
「クスクス、本当に変わった旦那様。でも最高に頼もしいですわ私の守護の騎士よ」
そう言った彼女は本当に嬉しそうに、そして寂しそうにつぶやいた後、再び俺に口付けをしてきた。
「あのさ、口付けはこれで終わりな。もう友達なんだから、勝手にしないこと!」
「何故ですか?私としては『無理!俺がモたないの!』」
「ああなるほど」と短く呟いたカーナリアは俺の下半身に手を進めるのだが、俺はその手を優しく振り払い
「分かったろ?ホント勘弁してください!」
「良いではないですか、私はトリオなら…いつでも受け入れる覚悟はできましたよ」
「いや、俺の覚悟ができていないから!ネ!」
俺は急いで服をかき集め、服をぞんざいに着ると「じゃあ、またな!」と言って脱兎のごとく部屋を脱出し、一目散に自分の部屋へと駆け戻る。
部屋に戻ると、いきなりフェムが抱きついてきた。
「ご主人様!どこ行っていたニャァ!フェムは捨てられたかと心配で心配で!」
「ごめんよフェム…大丈夫だよ俺がおまえを捨てる『待ってください!』」
あれ?フェムはクンクンと俺の体の匂いを嗅ぎ始める。
最初は胸近辺を、次に手を、そして顔の近辺は匂いだけでなく、ペロリと舐められ、最後には下半身を…
すると、フェムはどす黒いオーラを全開にし
「ご主人様…フェムが捨てられたかと思い、泣いている間に女と逢引して朝帰りですか…」
「いや待てフェム!確かに女性と会ったのは否定しないが、やましい事はなにもないぞ!」
「ほうほう、確かにご主人様の童貞は守られたようですが、口づけをされた上に手淫まで…」
「え?手淫?何それ?」
「ご主人様の手の指先から、メスの匂いがします。どこのメスですか!」
そう言いながらフェムが俺の首筋に爪を当てる。
「何それ!俺知らない!ホント知らないって!」
「ホウホウ、さすがはご主人様。シラをきりますか…しかしその指先のメスの匂いはごまかせませんよ」
カーナリア!俺の手で何してくれるんだ!アホォォォォ!
その日はフェムのご機嫌を取るために、1日フェムと付き合い、夜は風呂に一緒に入り、一時間くらいかけて毛づくろいさせられた。
ちなみに手淫もさせられたのだが、フェムが可愛かったし、なんとなく俺も満足できたのでよしとした!