第二十五話 意外な才能
- それから約2ヵ月後 -
「どうしたっ!フェム、遅いぞ!」
「ご主人様が早すぎるんです!」
「そんなじゃいつまでたっても、約束は守れないぞ」
「そんなぁ~、少しは手加減して欲しいニャァ~」
「甘えてもダメだ、ほれ」
そう言いながら、軽くフェムに足をかけるとフェムは盛大に転がる。
「痛いですニャァ~・・・ご主人様~」
「だから甘えてもダメだって言っているだろ・・・ほら立って頑張れ!」
「はいです・・・行きます!」
そう言って立ち上がったフェムは再度俺の後を追っかけてくる。
それにしてもフェムにこんな才能が有るとは驚きだった。
フェムに俺が鍛練をつけるようになったのは2週間ほど前の事だった。
俺がいつものように、朝の鍛練に出かけこっそりと棒を振るっていると視線を感じたので振り返ってみると、フェムがこっそりと覗いていた。
「そんなところで見ていないで、こっちにおいで」
「はいです、ご主人様」
「どうしたんだ?お前がこんなに朝早く起きるなんて、珍しい事もあるもんだ」
「あうぅ・・・毎朝ご主人様が部屋を抜け出して、どこかへ行っていれば、心配にもなりますニャァ・・・」
「そうか?ちゃんとお前が起きる前に戻っているんだから心配かけていないつもりだったんだが?」
「ご主人様は分かってないですニャァ・・・朝起きてご主人様がいない時、フェムがどれだけ寂しくなるか、心配になるか・・・」
「何をそんなに心配しているんだか、よく分からんな」
「フェムは・・・フェムはいつご主人様がフェムを捨てるか心配なんですニャ」
「おいおい、何故そうなる?俺がお前を捨てるかもしれないって思っているのか?」
「・・・ハイですニャァ・・・いつかご主人様に捨てられるかもしれないと思ってますニャァ・・・」
「なんでだ?まだ短い期間だが俺はお前を大事にしているつもりだが、何か不満か?」
「抱いてくれないですニャァ・・・フェムはご主人様の役にたってないですニャァ・・・ご主人様は料理も洗濯も掃除も何でもフェム以上に上手にできますニャァ・・・そんなフェムがご主人様に出来る事は、夜のご奉仕しかないですニャァ」
「こっちにおいで、フェム」
そう言いながら俺は地面に座り、フェムを抱きかかえる。
フェムは俺に大人しく抱き抱えられているのだが、いつもの優雅な尻尾が元気なく垂れ下がっている。
「あのな、俺が仕事している時に、フェムが掃除や洗濯をしてくれているのはとても助かっているよ、それに最近は俺の体も上手に洗ってくれるようになってるし、料理だって上達してきているぞ、だから心配しなくていい、フェムは俺の・・・」
「俺のなんですニャ・・・」
「フェムがは俺の大切な仲間だ!まぁフェムもそう思ってくれると嬉しいけど」
「ご主人様・・・とても嬉しいですが、フェムはご主人様の仲間と呼ばれる資格がありません」
「なんで?」
「そもそも獣人は人間の仲間にはなれません、友達にもです・・・女性の獣人がなれるのは奴隷か愛人です。男性の獣人であれば従者にもなれましょうが・・・」
「そんなの気にしなければ『無理です!』」
「それが人間と獣人の歴史です!獣人の治める国があると聞いたことはありますが、そこも人間の国と戦争しているようです。それに私を仲間と言う事でご主人様に絶対に迷惑がかかります、それは私が最も望まない事です、お願いします、私を二度と仲間等と呼ばないで下さい!」
語尾のニャが付かないところを見ると真剣にそう思ってくれているんだな・・・
「分かった、俺の配慮が足りなかったな、じゃあフェムは俺の・・・メイド!ってことでどうだ?」
「メイドですか・・・それならば、喜んでなりますが・・・いつかご主人様がフェムに飽きて・・・」
「そんなことは無いって言っても信じないんだよな?」
「はいですニャァ・・・せめて抱いてもらえれば・・・」
「まったく・・・またそこへ行き着くのか?」
「抱いてくれるって言ったですニャァ!約束したですニャァ!ご主人様は意地悪ですニャァ!」
「な、なんで意地悪になるんだよ!」
「ご主人様・・・私が気付いていないとでも思ってますか?」
「な、何を・・・だ?」
「私知っていますよ・・・毎朝ご主人様がフェムを抱きしめながら・・・その・・・下半身を大きくして・・・」
「ギクリ・・・そ、それはな!男の朝の生理現象なんだよ!男なら誰でもなるんだよ!」
「でも、ご主人様、その時はいつも苦しそうです・・・今はフェムと一緒に住んでいるので、その・・・1人でもしていないようですし・・・」
「な、何故それを知っている?」
「簡単ですよ・・・もし1人で出していれば・・・に、匂いで分かります・・・」
「フェム・・・なんて恐ろしい子・・・」
「もちろん、他の女とやっても・・・いや、こちらの方が遥かに分かりやすいですが、ご主人様から他の女の匂いはしません」
それを聞き俺は敗北を悟り、心の中で号泣した・・・
「ご主人様、我慢は良くないですニャァ・・・」
そういいながら、フェムは抱きかかえられながら、俺の下半身に自分の下半身をおしつけグリグリと刺激してくる・・・ヤバイ・・・ヤバすぎる。
俺はフェムを放り出し、距離をとる。
フェムは優雅に一回転して着地し
「ご主人様、恥ずかしがる事はないです・・・むしろフェムで女を感じていただいて、フェムは嬉しいです」
そう言いながら頬を染めるフェムはじりじりと近寄ってくる。
彼女の視線は俺の下半身へ一直線だ!
「待て、フェム!落ち着け!話せば分かる!」
「大丈夫です、ご主人様・・・怖くないですよ・・・私も初めてですから一緒です」
「お互い初めてなんだから、普通は怖いんじゃないかな?」
そう言いながらじりじりと近づくフェムと、同じようにじりじりと後退する俺。
「大丈夫です、天井のシミを数えている間に終わりますよ」
「どっからソンナ台詞覚えてきた!それにここは中庭だ!天井なんぞない!」
「だったらお日様の眩しさに目を瞑っている間に終わりますよ」
クッ・・・語尾にニャが付かないってことは・・・こいつ本気か?
棒は・・・だめだ、ちょっと離れたところにおいてあるし、何より棒でフェムを叩く事なんて俺には出来ない・・・無手でしのぐしかないか・・・まぁそれでも所詮は 女の 子!
速い!フェムは俺が驚くような速度で一気に距離を詰め、手を俺の下半身へと伸ばす。
咄嗟に俺は伸ばしてきたフェムの手をいなし、前のめりになったフェムの足を払い、彼女の勢いを利用して放り投げる。
投げてしまった後、しまった!と思ったのだが、フェムは先ほどと同様に空中で一回転し、地面に着地した衝撃を器用に推進力に変え、再度突撃してくる。
突撃してくるフェムをかわそうと、俺は右に左にフェイントを織り交ぜ、彼女の突進をかわした・・・と思った瞬間、フェムは地面に足の爪を突き立て強引に方向変換してくる。
これは確実に予想外で、俺は真横から思いっきりフェムのタックルを食らってしまい地面に倒れこむ。
倒れこむ瞬間投げ飛ばす事も出来るのだが、この態勢で投げた場合フェムが怪我するかもしれないことをとっさに判断した俺はフェムが怪我をしないように抱きかかえたのだが、これが返って隙を生み、フェムに完全に馬乗りになられてしまう。
馬乗りになったフェムが興奮して襲い掛かってくるかと思ったのだが、フェムは静かに俺の唇を舐め始める。
それを不思議に思った俺は
「さっきまでの勢いはどうしたフェム?」
「う~・・・ご主人様は意地悪ですニャ・・・」
「何で?」
「さっきのタックルが上手く言ったのはご主人様が、私が怪我しないように、倒れこむ瞬間私の両脇に手を入れて抱え込んでくれたからですニャ・・・」
「ほう、気付いたのか?凄いなフェム」
そう言いながら、フェムのネコ耳を愛でると
「まったく・・・ご主人様は意地悪なんですニャァ・・・だから今日はこれで勘弁してあげますですニャァ・・・」
そう言いながら、フェムは一回俺に深い口付けをすると、スルリと俺の上から降りる。
フェムが降りた事により、自由になった俺は立ち上がり、まじまじとフェムを見る。
「なぁ・・・フェムって黒猫族なんだよな?」
「えーと・・・実はよく分からないです・・・見た目から判断すれば黒猫族なんですが・・・どうも猫族の人には敬遠されてしまって・・・なんででしょうかね?」
「そうか・・・まぁいいや、それにしてもさっきのスピードは見事だったよ、猫族ってのはみんなフェムみたいに速いのかい?」
「どうなんでしょう?私は5歳の頃親元を離れてから、同じ猫族とほとんど話したこともありませんし、わからないです」
「獣人は身体能力が高いらしいけど・・・フェムってなんか鍛練とかしているの?」
「鍛練ですか?いえ、そう言ったことは一切していませんが?」
「う~ん・・・」「う~ん・・・」と2人で唸っていると、そこにハーネスがやってきて
「何を朝っぱらから唸っているんだ?新しいプレイか?」
「お!いいところに、ハーネスおはよ」
「うん、おはようさん。んで唸っている事と俺になんか関係があるのか?」
「ああ、あの獣人族が基本的に身体能力が高いのは知っていたんだが、この子なんの鍛練も無しに、俺のスピードについてこれるんだけど、おかしくないか?」
「ん?う~ん・・・どんくらい速いんだ?」
「そうだな・・・フェム、ここに石があるだろ?コイツを投げるからキャッチしてみてくれ、あっちの壁の上の方に投げるぞ」
「はいです!ご主人様!」
そう言って、俺は10メートルほど離れたところにある、壁に向かって小石を投げる。
するとフェムはそれを見て、小石が壁に到達する直前、空中4~5メートルのところを壁を足場にジャンプして捕まえた・・・投げた俺自身も、もしかしたらと半信半疑だったのだが、本当に取るとは・・・
それを見たハーネスは口をあんぐりと開け・・・
「おいおい、いくら獣人の身体能力が高くたって、アレは無理だ・・・ちょっと待っててくれ」
そう言うと、ハーネスは一旦廊下の方へ戻り、しばらくすると、1人の獣人女性を連れてきた。
おや?この子は・・・
「トリオもフェムも初めてだったと思うが、俺の獣人奴隷のマーチスだ。トリオとフェムってだ、挨拶しなさい」
「初めまして、ハーネス様の奴隷のマーチスと申します。トリオ様、フェムさんよろしくお願いします」
と言って頭を下げるので俺たちも
「初めまして、トリオです。こっちの子が俺のメイドのフェムです」
「フェムです・・・」
と言ってフェムも頭を下げるのだが、何やら雰囲気が怪しい・・・
「なぁトリオ、さっきのやつもう一回やってもらえないか?」
「ええ、いいですが、フェム大丈夫だよね?」
「はい・・・」
そう言って何故か少しうつむくフェムを心配し
「フェム・・・何を心配しているのか知らないけど、お前は俺の自慢のメイドだ、さっきのやつをもう一回見せてくれよ」
そう囁き、フェムの耳の後ろ側を軽く撫でながらホッペにキスすると、フェムはパット明るい顔をして
「ハイですニャァ!上手くできたらご褒美下さいニャァ!」
「現金なやつだ・・・」
「今晩は久しぶりに毛づくろいして欲しいですニャァ!」
「分かった、分かった、上手くできたら今日は毛づくろいな!」
「はいですニャァ!」
フェムはそう元気良く、叫ぶと「いつでもどうぞ!」と言ってダッシュの態勢を取る。
俺は先ほどと同じように小石を拾い、さっきより若干速いスピードで小石を投げた。
しかし、フェムはさっき以上に余裕で小石をキャッチし、得意げに俺の下へと戻ってくると、俺に抱きつき尻尾を激しく揺らす。
俺は「えらいぞ、フェム」と言ってフェムの尻尾を優しくなで上げながら、褒めて上げるのだが、ハーネスもマーチスもフェムの動きを見て固まっている。
「なぁ、マーチスも猫の獣人のようだけど、フェムと同じくらい速いのか?」
そう聞くと、ハーネスは疑わしそうに、そしてマーチスは・・・これでもかって位の勢いで首を振り
「無理無理無理無理!絶対に無理!だいたいその子・・・猫じゃないじゃん!」
「はぁ?」「え?」「えぇぇぇぇぇっ!」と3人の声が重なる。