第二話 修行 世界最高の「○○○○」
- 2年後 -
「うぉらー、小僧!もっと気合を入れて掘らんか!」
「うっせーぞ!くそ爺!ちゃんとやってんだろうが!」
「口答えする暇があったら、さっさと掘らんか!」
「分かってんだよ!くっそ!」
と言いながらツルハシを鉱脈へと打ち込む。
すると少し色の違う岩がボロッと掻き出される。
カッパーか・・・と短く呟いた後、更にツルハシを打ち込み続け、次々と色々な鉱石を掘りだしていく。
あらかたこのポイントを掘りつくした頃合を見て、師匠がこちらにやってくる。
「鉄12、カッパー6、ブロンズ4か、お前にしちゃ上出来だ!さっさとバッグに詰め込めて帰るぞ!」
「分かった」と短く呟くと腰にぶら下げてあったアポーツバッグを広げて、鉱石を詰め込んでいく。
詰め込み終わり、「終わったよ」と師匠に短く声をかけると
「じゃあ、帰るぞ、今日はお前の掘った鉱石を使って、特訓だ」
「分かっている!今日こそちゃんとした武器を作って見せるよ」
「ハッ!まだまだ10年早いわ!まだまだツルハシとか包丁が精一杯だろ」
「何言っているんだよ!もうツルハシは卒業じゃないのかよ!?」
「う~ん?ツルハシが卒業だと?・・・どれどれ」
と言いつつ師匠は俺の使っていたツルハシを片手で振り上げ、岩肌に打ち込むと、『ガキィィーン』と音を立ててツルハシは簡単に折れてしまった。
「見ろ!お前の腕なんざこんなもんだ。たかがツルハシとか言ってんじゃねぇぞ!こんな売り物にもならん物を作って恥ずかしくないのか?」
「う・・・そ、それは師匠の馬鹿力が悪いんじゃないか!」
「だまれ、小僧!反省するならともかく、ワシの力のせいにするとは見下げ果てたやつよ!お前は客にも同じことを言うのか?それでも鍛冶屋か!?」
「違う!俺は鍛冶屋じゃなくて商人になるんだ!」
「同じだろが!お前が作ったものを買ったお客に不良品をつかませた挙句、それを客のせいにするのか、この馬鹿者が!」
「うっっっ!・・・分かったよ!今日は世界最高のツルハシを作ってやるぜ!」
「そうだ!その意気だ!まぁ無理だけどな」
と人のやる気に水をさすクソ爺。
「まぁ、いいから行くぞ!ゲートを出せ」
「はいはい、分かりましたよ・・・まったく・・・」
と言いながらバッグの中からゲートの巻物とある地点の座標が書かれた長さ10cm程のディスクと呼ばれる楕円形をしたプレートを取り出す。
ディスクを地面に置き、その上にスクロールの巻物を重ね、「スクロールオープン!ゲート」と唱えると、「シュィーン」と言うと音と共に青白いゲートが現れる。
師匠はさっさとそのゲートをくぐり行ってしまう。
俺も遅れずにゲートをくぐると、見慣れた仕事場の前に出る。
ゲートから1mほど離れたところで、ゲートが消えるまでしばらく待つ。
ゲートが完全に消えた後、師匠を追って作業場に入る。
「ゲートは完全に消えたか?」
「ああ、ちゃんと見届けたよ」
「なら、よし。こんなところにモンスターなんて出たら目も当てられんからな。気を付けろよ」
「分かっているって、モンスターの危険性は見に染みているから・・・」
「そうだな・・・よし!じゃあ今日の製作の最初はツルハシからだ!」
「おお!世界最高のツルハシを作ってやるぜ!」
「だから、それは無理だって言っているだろうが、馬鹿弟子が・・・」
と言いながら、苦笑する師匠
「そんなのやってみないと分かんないだろ!」
と言うと、今度は大爆笑しながら
「そもそも、世界最高のツルハシにするなら、ゴールドかプラチナを使わんと無理だろうが」
「うっさい!ゴールドやプラチナが掘れるようになるまであとどんだけかかんだよ!」
「そうだな~~~、今のペースで掘り続けて・・・あと5年以上は掛かるな」
「いつか見ていろよ!絶対師匠に『すげー!』って言わせるツルハシを作って見せるからな!」
「はっはっは!楽しみにしているぞ、小僧!」
「小僧じゃねぇ!俺の名前はトリオだって言ってんだろうが!」
「ハッ!ツルハシ1つ満足に作れんお前など小僧で十分だろ!」
「くっそー今に見ていろよ!今日こそ爺を納得させるツルハシを作ってやるからな!」
と言った瞬間「ゴチン!」と音が出そうな拳骨を喰らう。
「なにすんだよ!」と言う前に爺は俺の目の前にしゃがみ込み
「違うだろ・・・お前は商人になりたいんだろ?ならば、ワシを納得させるものを作るのではなく、商人として自分がそれを納得して仕入れる事ができるかどうか?では無いのか?」
「う・・・はい・・・そうです・・・師匠」
「そうだ!いいか、今はお前に採掘と鍛冶を教えているが、お前の目標を忘れるな!亡き両親に誓ったのだろう?メルカトラーを目指すと・・・ならば、お前の思考は全て商人であるべきだ、それを忘れるな!」
「ハイッ、師匠!」
と元気良く返事をして、鍛冶場に向かう。
「おかえり、トリオ!今日はどのくらい掘れたの?」
と幼馴染のアメリアが声をかけてくる。
「鉄12、カッパー6、ブロンズ4だったよ!」
と答えると、アメリアは顔をほころばせて
「凄いよトリオ、今日一日でそれだけ掘ったの?それって一人前の堀師の採掘量に負けてないよ」
と言って手放しで褒めてくれる。
「えっへへ、ありがとう、今日も半分上げるから、その代わり俺の分のツルハシを作ってくれよ」
と言うと、アメリアは少し済まなそうに
「いいの?半分も貰って・・・トリオだって鍛冶の練習したいんじゃないの?悪いから、鉄だけ半分くれれば十分よ」
とアメリアは遠慮するのだが、俺はそう思っていない。
「何言っているんだよアメリア!昔からの約束だろ!俺が掘った鉱石は半分こにするって!それに鍛冶は数と質だって師匠だって言っているだろ!」
昔からの約束だ・・・それに、鍛冶の腕を上げるには1に数!2に質!これは絶対だ。
ここで言う質とは鉱石の質であることと、作成する物(武器や防具)の両方をさす。
「でも・・・トリオだって腕を上げなきゃいけないんだし、私の為に・・・そんなの悪いよ・・・」
と更に遠慮するのだが、そもそもその遠慮が間違っている事にアメリアは気付いていないので、指摘してやる。
「何を言っているんだ、お前は?お前は将来大陸一の鍛冶屋になるんだろ?そんなお前に投資するのは商人として当たり前だろ」
「でも・・・本当に私が大陸一の鍛冶屋になれるか『馬ッ鹿じゃねぇの!』」
「なれるか?じゃないんだよ、アメリア!なるんだよ!大丈夫、お前ならなれるさ、俺は信じているぜ!」
と言ってアメリアの頭を撫でる。
すると、アメリアは嬉しそうに
「分かった!なるよ、大陸一に!」
と元気良く頷く。
そんな仲の良い2人を見ながら師匠であるガザルは微笑ましく思いつつも、ならばこそ厳しく修行をつけることを心に誓い声をかける。
「おらぁぁぁ、小僧共!さっさと炉に火を入れろ、さっさと始めるぞ!」
「はいっ!」「は~い」と2人の返事が返され、今日も修行の一日が始まる。