第十七話 メインイベント
いつもよりも長めですが、ここで切りたかった!
反省も後悔もしてない ! キリッ
アメリアと楽しい言い合いをしているうちに、内緒にしていた事つい言ってしまう
「誕生日プレゼント楽しみにしておけよ」
「え?プレゼントってレッドの鉱石じゃないの?」
「ああ、そっか、もう知っているのか・・・情報早いな」
「エヘヘ、お爺ちゃんをね、ちょこっと小突いたら、簡単にウタッてくれたわ・・・」
「いや、おまえ・・・ちょっと酷くないか、それ?と言うかこの村最強の一角を占めるガザル師匠を脅迫できるのってお前くらいだぞ」
「いや~・・・愛するトリオのためだから・・・それにお爺ちゃんを倒すなんて簡単よ」
「いや、簡単って・・・あのガザル師匠を正面から打ち倒すのって正直俺が全力で戦っても無理だぞ・・・どうやるんだ?」
すると、アメリアは両の手を組み、お願いするをするような仕草で
「お爺ちゃん、あたしを苛めるの?」
と目を潤ませながら上目遣いで、言ってくる・・・クッ・・・確かにこれはクるな
「で、これでお爺ちゃんが怯んだ所をゴンッ!とやって、怒ってやり返そうとしてきたら、さっきのポーズを再度とると・・・」
「分かった、皆まで言うな、師匠が不憫すぎる」
「え~~、そもそもこの技はトリオが絡んだときしかしてないわよ!」
「ちなみに、その技は今まで何回くらいつかったことがあるんだ?」
と言うと、アメリアは指を折りながら数えるのだが、両手の指を全て折ったところで、「もういいよ・・・」と言って止めた・・・師匠・・・強く生きてください!そう心に想ったが
「そんなことより、トリオ!プレゼントってレッド鉱石じゃないの?」
「ああ、もちろんそれもあるが、真打は別だ!これについては本当に楽しみしておけ」
「ふ~ん・・・トリオがそこまで言うんなら余程良い物なんでしょうね・・・分かったわ、楽しみにしておく!」
そう言って、アメリアは軽くウィンクすると俺から離れて
「あまり遅くなると、お爺ちゃんが心配するから帰るね、出発は明々後日の朝なんでしょ、準備の方は出来てるの?」
「ああ、ほとんどはアポーツバックに入れていくんで、荷造りは必要ないな、生活用品一式と、ある程度の食料、それに生産関連の工具と素材を少々ってところだな」
「そう、まぁトリオは生活能力も高いし、野生能力も高いから、何処へ行っても大丈夫だと思うけど・・・心配事はただ1つね・・・」
「ん?心配事、そんなもんあるのか?衣食住で俺が困る事はないだろうし・・・生死に関わるような荒事だって、最悪逃げるだけならほとんど問題ないだろうと思うけど?」
「・・・私が何を心配しているのかが分からないって事は、さっきまでの会話はなんだったのよ・・・」
と言って膝を付くアメリアの、肩を叩きサムズアップしながら
「不憫、乙!」
と言った瞬間アメリアは俺に強烈なボディブローを食らわせて、家を出て行った。
いや、本当はアメリアが何を心配しているのか分かっているんだけど、少なくとも俺は4年後に王都で再会するまでは兄妹でいるつもりだからこれでいいんだと心に決める。
アメリアに食らった強烈なボディブローの痛みを腹に残しながら、俺は机の引き出しから2つのシンプルなリングを取り出す。
そして、そのリングを眺めながら、あいつがこれを無事に受け取ってくれるといいなと、心に思いながら窓の外を眺めた。
- 明々後日 -
アメリアの誕生日は、本人の希望もあり、俺の王都への送別会を兼ねて開かれた。
その大きな理由として、長く閉められていたノウラン商会の本館を使う事をアメリアとミルバ姉さんが強く主張したのだ。
俺の両親が死んだ時、ノウラン商会の本館もなくなると覚悟していたのだが、村のシンボルでもあり、両親への想いが強い村人たち全員が反対したためそのまま閉鎖と言う形で残っていたのだ。
久しぶりに開かれた商館は、埃こそ溜まっていたが、調度品や内装の家具もそのままで、簡単に掃除する事で再度使用する事が出来た。
今回のアメリアの誕生日&俺の送別パーティーの主催者であるミルバ姉さんはかなり張り切っており、数日前から周到な準備をしていた。
しかし、主賓であるため、アメリアも俺も手伝う事は許されず、当日時間を指定されその時までこの商館に入ることは禁止されたのだ。
指定された時間に商館に行くと、既にアメリアは着ており、俺の到着と同時に宴が始まった。
主賓の1人である、アメリアの周りには人々が集まり、思い思いにプレゼントを渡しているようだったので、俺もドサクサにまぎれて渡そうと思ったのだが、どうやら俺からアメリアへのプレゼント受け渡しはイベントとなっているようで、最後に執り行われるようだった。
俺も主賓の1人なので、周りに人々が集まり、たくさんの激励をもらったのだが、気のせいかもしれないのだが何故か多くの同情の視線を受けた・・・
ん~こんな同情の視線を受けるのは、釈然としないのだが、あくまでも視線だけで直接的な言葉がないので、放って置くしかないのだが、なんだかむず痒い。
宴も中盤を過ぎた頃にようやく俺はあることに気が付いた。
それは、同年代の女の子が1人も参加していない事だった・・・ん?何故だ?
今日は俺の送別会を兼ねているわけで、細工師のケイトちゃん、薬師のノエルちゃん、大工のキャンベルちゃんなどは必ず来てくれると思っていたんだが、何故か姿が見えない。
不思議に思った俺は、彼女たちの両親を探すと、全員が部屋の角で一塊になっていた。
まぁ、全員が俺の師匠でもあるので、最後に挨拶をするついでに、どうしたのか聞いてみようと思い、近づこうとするとミルバ姉さんに腕をつかまれた。
「何をしようとしているのかしら?ト・リ・オ」
「ああ、ミルバ姉さんか、いや最後に細工師と薬師と大工の師匠たちに挨拶しようかと思ったんだけど、なんかまずいの?それになんで今日はケイトやノエル、キャンベル達はいないの?」
「ああ、彼女たちはね・・・オ・ネ・ン・ネ中よ」
そういいながらニッコリ笑うミルバ姉さんは怖かった。
「あのさ、姉さん・・・少し手を緩めてくれないかな?ちょっと痛いんだけど・・・」
「あら~トリオちゃん、この程度で根を上げるなんて、クルドの教えが悪いのかしら?」
「いや、クルド師匠は関係なくて・・・いや、そうじゃなくて最後に師匠たちに挨拶『待って!』」
ミルバ姉さんはそう俺が言いかけたのを制し
「あら~もうこんな時間ね、メインイベントを始めなくちゃいけないわね、トリオこっちにいらっしゃい」
そういってミルバ姉さんは、俺の手を引きホールの中央へと連れて行くと大きな声で周りに告げ始める。
「さぁさぁみなさん!今日のメインである、トリオ君からアメリアちゃんへの誕生日プレゼント受け渡しのイベントを始めます。最後には驚きのサプライズが待っていますので、ご静粛にお願いします!」
そう言って、辺りを黙らせると、中央にアメリアを呼びだすのだが・・・アメリアさん・・・いつの間にドレスに着替えたんでしょうか?
さっきまで普通の服だったよね?
そうは言っても、着飾ったアメリアは予想以上に綺麗だった、周りの大人の男たちも小さく「ホゥ」とうなり、ガザル師匠にいたっては・・・感激のあまり倒れこんでいた・・・
「さて、トリオ君、プレゼントを持ってこちらまで」
正直に言えば、こんなあからさまな罠に飛び込む気持ちなどさらさらないのだが、ここまでお膳立てされると行かないわけには・・・それに最後のサプライズって・・・あの話はクルド師匠しか知らないはずなのに・・・
「さぁ、トリオ君どうぞ!」
とミルバ姉さんが更に煽るの・・・仕方が無いなと思い、アポーツバックを片手に中央へと進む。
顔を真っ赤にして、恥ずかしさのためうつむいているアメリアに
「アメリア、誕生日おめでとう。まずはこれが誕生日プレゼントだよ」
そう言って、まずはレッド鉱石のインゴットを次々と取り出し、積み上げていく。
30個ほど積み上げたところで、次に少し削って下準備の済んだレッドの鉱石(インゴットの手前)を同じように積み上げていく。
すると会場から、どよめきの声が沸きあがる。
「おい・・・あれ売るとどのくらいになるんだよ・・・」
「すげぇな・・・アレだけあれば1~2年は遊んで暮らせるんじゃないか?」
等と声が上がるのだが、実際にはそのくらいの価値があると思うが、アメリアのスキルレベルをレッドに上げるにはやや足りていないと思うが、時間的な制約により、これが精一杯だった。
当のアメリアはと言うと、俺が積み上げていくインゴットと鉱石をただ呆然と見ていた。
持っているレッドを全部積み上げた後、アメリアに向かって微笑みながら
「これで、全部だ。スキルレベルをレッドに上げるには少し足りないかも知れないけど・・・ごめんな」
そう言うと、アメリアは目に涙を溜めながら、小さな声で「ありがとう」と呟いた。
それを聞き満足している俺にミルバ姉さんが追い討ちを掛ける。
「さて、誕生日プレゼントは以上のようですが、トリオ君にはもう1つアメリアちゃんに渡すものがあるそうです!それではトリオ君、張り切ってどうぞ!」
なんで、ミルバ姉さんがあの件を知っているんだ?クルド師匠しか知らない筈なのに、そう思いクルド師匠を見つけ睨むと、クルド師匠は両手を合わせながら謝るポーズをとっている。
まぁ、いいか、でもこれだけの人間が見ているんだ、どうせなら少しいたずらをしてやろうと、本来の筋書きとは別のやり方で渡すことを決めて、俺はアメリアに近づいていく。
「アメリア、誕生日プレゼントとは別に、しばらくお別れする君に渡したいものがあるんだ」
そう言うと、アメリアはさっきよりも更に真っ赤な顔をしてうつむきながら、小さな声で「はい・・・」と答える。
それを聞いた俺は、小さな指輪を取り出し
「これが、お前への特別なプレゼントだよ」
そう言って、指輪を手渡すとアメリアは不思議そうに首をかしげ、ミルバ姉さんは俺の頭を後ろから殴りつけ
「何処の世界に指輪を手渡す馬鹿がいるんだよ!こういう時は指に嵌めて上げるのが常識だろ!常識的に考えて!」(大事な事なので2回ryu)
「いやいや、ミルバ姉さんもアメリアも勘違いしていないか?その指輪はマジックアイテムだぞ?」
「へ?」「え?」と2人の声が重なる。
「その指輪は、バイダースジェネラルから手に入れたもので、レッド鉱石を掘っているときに見つけたドロップアイテムなんだよ、鑑定の結果D-HIDEの呪文が掛かっているらしく、結構貴重品みたいだからアメリアに上げようと思ったんだよ」
「D-HIDE!」「D-HIDEかよ!」と周りから驚きの声が聞こえる。
さらに、「回数の鑑定は出来たのかい?」との声が上がったのだが
「回数の判定はできていません、まぁそれなりに回数はあると思うんですけど」
そう言うと、ミルバ姉さんが興奮をしだし
「D-HIDEの回数3桁で指輪なら王国金貨1500枚はくだらないよ!そんな貴重品いいのかい!」
そう言いながらもミルバ姉さんはまったく俺を疑う気もないくせに聞いてくる。
「ええ、アメリアの安全のためなら、金貨1500枚でも問題ないでしょう」
と答えると、周り中から冷やかしの声が上がるのだが・・・さて、新しい筋書きを開始しますか
「ところで、アメリア貴重品ではあるけど、折角のD-HIDEだ、使ってみろよ」
「え?いいの?回数だって貴重なんじゃないの?」
「まぁ、回数が何回かは分からないけど、使い方くらい慣れていないと、いざと言うときに使えんぞ?1~2回は使ってみるといいよ」
「うん、やってみるね。トリオ、指輪の場合発動はどうするの?」
「マジックアイテムの発動は大きく分けて2つあるんだ、1つは掛かっている魔法の名前を直接口にする、今回の場合はD-HIDEと言うだけで効果が出るんだけど、D-HIDEは穏行の呪文で姿を消す呪文なのに、声を出してしかも、名前まで言ったら意味が無いだろ?
だから、もう1つの方法で、行ったほうがいいだろう。それは装着することによる発動の方だね。指輪の場合であれば、嵌めるというのが1つなんだけど、これだと嵌めなおすのに手間が掛かりすぎる、そこで指輪を嵌めたまま、半回転回せば発動する事になるはずだよ」
「へぇ~装着にもそんな方法があるのね」
「ああ、指輪やブレスレットはこの方法が使えるんだよ、じゃあまずは指輪を嵌めてみてくれるかな?姿が消えるはずだから」
「うん・・・あの・・・姿が見えなくなった後、どうすればいいの?ちょっと怖いんだけど・・・」
「ああそっか、アメリアはD-HIDEを使った事が無いんだな、えーとアメリアは穏行のスキル無いんだよね?」
「ええ、無いわ・・・無いとだめ?」
「ダメじゃないけど・・・穏行のスキル無しでD-HIDEを使った場合、一歩でも動いたり、声を出せばそれだけで、D-HIDEは解除されるよ」
「え?それだけでいいの?」
「ああ、逆に言うと、声を出したり歩いたりすれば解除されてしまうから、敵から身を隠すときなんかは気をつけてね」
「うん、分かったじゃあやってみるね」
そう言いながらアメリアは指輪を嵌めると、姿が一瞬で消える。
周りから「さすがD-HIDEだ」と声が上がる。
10秒ほどして、アメリアが1歩動いた事で、D-HIDEが解除され
「ね!ね!今私消えてた?」
「ああ、完璧に消えていたよ、D-HIDEだから一瞬だったし、影もちゃんと消えていた・・・匂いも消えるらしいから、相手が獣でも大丈夫なはずだよ」
「凄いわ、トリオ!ありがとう!」
「いや、じゃあもう一回やってみてくれるかな?」
「うん、試すのはこれで最後にしたほうがいいよね、回数が減っちゃうから勿体無いし・・・」
「あ~・・・そうだな、まぁ使い方に慣れるのが目的だしね、じゃあ装着済みの場合を試すために、指輪を回してくれるかな?」
「ええ、やってみるわね」
そう言って、アメリアは嵌めた指輪を回すのだが・・・何も起こらない。
周りがざわめく。
何も起こらないことに焦ったアメリアは、一旦指輪を外し、また嵌めなおした。
しかし、先ほどは発動したD-HIDEの魔法はやはり発動しなかった。
「な、何でなの?何でさっきは発動したのに!トリオに貰った大切な指輪なのに!私壊しちゃったの!」
「落ち着け、アメリア!・・・たぶんアイテムの発動回数がなくなったんだと思う。すまん、ちゃんと発動回数を判定すれば良かった・・・ゴメンな・・・」
「え?じ、じゃあ私が壊したわけじゃないのね?トリオ怒ってないよね?」
「ん?何で俺が怒るんだ?むしろ、アメリアは怒ってないのか?こんな不良品を掴ませたことに」
「え?何で怒るの?だってトリオが私に指輪をくれたんだよ?大事なのはそこでしょ?ねぇミルバ姉さん!」
「そうね、トリオ、D-HIDE付きは凄いことだけど、大事なのはトリオがアメリアに指輪を贈った事実よ!そうでしょみんな!」
「おお!」「そうだそうだ!」「婚約か!婚約なのか!」「トリオ紐付き乙!」等と声が上がる。
そして、アメリアは左手の薬指に嵌めた指輪を高々と掲げる。
「おまっ!いつの間に薬指に!」
「フフ~いいでしょ?もうこの指輪は私のものなんだから、何処に嵌めようと私の勝手でしょ」
そう言いながら、幸せそうにその場でクルクルと周り始める。
「いや、ダメだろ、返せ!D-HIDEの効果が無いなら、その指輪はゴミアイテムだ」
「そう言いながら、俺はアメリアの手を掴み、指輪を外そうとする」
しかし、アメリアの指輪を強引に取り上げようとした瞬間、もの凄い殺気と共に俺の首筋に剣が当てられる。
恐る恐る振り返ると、ミルバ姉さんが、物凄い笑顔で
「何しているのかしら?トリオ・・・1度女の子にあげた指輪を取り上げるつもりなの?死ぬの?死にたいの?死んでみたいの?」
「いや、そんなことは無いんですけど・・・商人を目指すものとして、不良品を掴ませるわけには・・・」
「不良品?不良品かどうかを決めるのは客じゃないの?アメリア、その指輪は不良品かい?」
そう言って手を押さえられ、イヤイヤしているアメリアに問いかける。
「不良品なわけないじゃない!私の宝物よ!絶対に渡さない!誰にも渡さないんだから!」
そう言って、力いっぱい俺を引き剥がそうとする。
「ほら見なさいトリオ、もらった人間がこう言っているんだけど?」
そう聞くと、この場は仕方がないかと、諦める事にする。
「分かったよ、アメリア。そんな指輪を大事にしてくれてありがとうな」
「うん、さっきも言ったけど、この指輪は私の宝物にするから」
はぁ~やれやれ・・・まぁ、それもちょうどいいか・・・と思いながら、俺はアメリアにだけ聞こえるよう、
「パーティーが終わった誰にも知られないようにして、俺の家に来い。いいな絶対誰にも悟られるな」
と耳打ちするとアメリアは、少しびっくりしたようだけど、小さく頷き「分かった」と呟いた。