第十四話 アメリアちゃんはお年頃
さて、そろそろヒロインの覚醒ですが、どうでしょうか?
「トリオ!あんた何恥ずかしいことやってんのよ!」
「ア、アメリアしゃん・・・」
アメリアの凄い剣幕に思わずビビッて噛んでしまう
「あんたね、他人のキスシーンを覗き見るならともかく、ガン見とか何考えてんのよ!」
覗き見ならいいんかい!と突っ込もうと思ったが、今は逆らわない方がいいだろう、それよりも
「ところでお前今何で殴った?凄い痛かったんだけど・・・」
「これだけど何か?」
と言って俺の目の前には『世界一の鍛冶屋になるんだもん!17号』様が鎮座している。
「お前さ、それ鍛冶用のハンマーであって、人を殴るものじゃないだろ、ってかそれで人殴ったら死ぬだろ!」
「分かっているわよ、だから柄で殴ったんじゃない、先端で殴らないだけ感謝して欲しいんだけど?」
「いや、だからさ先端で殴ったら俺でも死んじゃうからね!分かっている?」
「う~ん・・・トリオなら大丈夫なんじゃないかな?た・ぶ・ん」
「たぶんじゃねぇよ!死ぬから!ホントマジデやめてください!」
「だったら殴られるような事するんじゃないわよ!そ・れ・よ・り・も!」
「ん・・・何?か・・・・な?」
「何かな?じゃないわよ!お爺ちゃんに聞いたわよ!」
と言って今にも『世界一の鍛冶屋になるんだもん!17号』を振り回す勢いで近づいてくる・・・
「え~と・・・アメリアさん、落ち着いて俺の話を聞かないか?」
と無駄にさわやかに言ってみる・・・ええ・・・言ってみただけなんですが
「大丈夫!ええ!あたしはちゃんと落ち着いているわよ!昨日あたしの家から逃げ出して一日中どこかに隠れていた誰かさんを探し回って、身も心も疲れているけど・・・大丈夫!落ち着いているわ!」
と言いつつ、白目の部分を真っ赤にし、吐息は「フシュッーー!」となるほどだが、言葉では落ち着いていると言っている。
そこへ、意識を取り戻したケーヒルさんが恐る恐る
「あの~お取り込み中すいませんが、勝負の『うっさいわね、12歳の子供に負ける冒険者なんて用は無いわよ!』」
とアメリアが途中でさえぎり黙らせるのだが、それでいきり立つのは隣の彼女さんだ!
「なんだい、この生意気なガキ『ドゴォォォン!』」
最後まで彼女が言い終える前に今度は『世界一の鍛冶屋になるんだもん!17号』で地面を抉り黙らせる。
ちなみに、『世界一の鍛冶屋になるんだもん!17号』は先にも言ったように鍛冶用のハンマーなのだが、全長約1.2メートル、先端は30Kgのグリーン鉱石の鉄塊で柄の部分もグリーンで重さが約8kgととんでもないハンマーである。
約40Kgにもなるこの『世界一の鍛冶屋になるんだもん!17号』をアメリアは片手で軽々と振り回し、
「なんか言った?死にたいの?それとも殺されたいのかしらお・ば・さ・ん!」
そう、実はアメリアちゃんもうすぐ11歳はとてつもない力持ちさんなのだ、村の門を1人で開けることの出来るうちの1人でもあり、単純な力だけなら、下手したら俺をもしのぐかもしれない、使い手さんなのだった。
それを知っている俺は小声で
「ケーヒルさんの彼女さん、死にたくなければここは大人しくしておいてもらえますか?」
と囁くと、ケーヒルさんは真っ赤になり、彼女さんは
「ち、ちがうわよ!誰がこんな弱いやつの彼女なのよ!」
と言い返してくるのだが、アメリアが再び『世界一の鍛冶屋になるんだもん!17号』を振るうと、大きな音と共に
「だ・ま・れ!あたしは、あんたたちのことなんか興味は無い、さっさと消えろ・・・それとも・・・この世『ストォォォォォップ!』」
「アメリア!大事な話があるから、あっちで話そう!ねっ!ねっ!」
と言ってアメリアに一緒に来るように促すと、アメリアは小さく
「手・・・手を引いてくれないと行かない・・・」
と仰ってくれる・・・可愛いじゃないか・・・と思いつつ
「いいのか?」
と聞くと、アメリアは黙って頷きながら鍛冶屋にとって最も大事な右手を差し出してくる。
鍛冶屋にとって大事な右手を預ける事は、命を預ける事と同じ事なのだ。
ちなみに、この世界では職人が握手するときは聞き手ではない方を差し出すのが常識となっている。
しかし、アメリアは躊躇うことなく、聞き手である、右手を差し出し「早く!」とせかしてくる。
俺は宝物扱うように大事にその手を握ると、アメリアは顔を嬉しそうにしながらも、ぶっきらぼうに
「人が居なくてちゃんと話が出来るところに連れて行ってよ・・・」
「また、難しい注文をするな~」
と言うと
「トリオの家・・・トリオの・・・へ、部屋がいい」
と呟くのだが、両親が死んでからあの家には誰も入れたことはない・・・アメリアでさえも遠慮してもらっているのだが、アメリアはあえてそこを指名してきた。
「アメリアそれは・・・」
「理由は分かっている!でも・・・あそこには私だって思い出が一杯あるの!トリオが出て行ったら、あの家は本当に無人になっちゃう!」
確かにそうだなと思う、俺が王都に行っている間あの家をどうするかはまったく考えていなかった。
「おじさんと、おばさんと、トリオの思い出が一杯あるのは分かっているの!でも、あたしにだってあの家には・・・トリオとの思い出が一杯あるの!だ、だから・・・」
それを聞いて、そうだよな・・・アメリアは俺の家族だよな・・・
「そうだな、うん!アメリアは・・・俺の家族だもんな。いいよおいで」
そういうと、アメリアは顔を真っ赤にしながら・・・
「そ、そうよ!わ、私たち・・・家族・・・・(になるんだもんね)」
と後半の声はゴニョゴニュといって聞こえなかったが、アメリアが俺の家族だと言う事は肯定されたと認識できたので、彼女の手を引いて俺の家へと向かう。
家の前まで行く間に村のみんなに生温かい目で見られまくったが、俺が村を出て王都に行く事を知っているせいか、誰も話しかけてこなかった。
今のアメリアを見ると、こんな気遣いはやはりありがたいと思うべきなんだろうな等と考えている間に家についてしまった。
門をくぐり、玄関に入るとアメリアが
「久しぶりにきた・・・5年ぶりくらい・・・かしら」
と呟いたあと、周りをキョロキョロ見回し
「相変わらず綺麗好きなのね・・・まったく男のくせに・・・」
と言われるのだが、綺麗好きで文句を言われるってなんだかな~と思いつつ
「あのさ、女の子なのに部屋も片付け『だ・ま・れ』」
物凄い殺気で俺に最後まで言わせない、アメリアちゃんもうすぐ11歳。
「いいから、部屋へ連れて行って、余計な事は言わなくていいの」
いや、余計な事を言ったのお前ジャン!と突っ込みたいのだが、命が惜しいので黙って二階の部屋へと手を引いていく。
アメリアは久しぶりに来たせいなのか、この家に入ったときから、絶対に離さないとばかりに握っていた手に力を入れてきた。
正直・・・痛いです、アメリアさん・・・
俺の部屋に入り、扉を閉めると、ようやくアメリアは俺の手を離し、勝手にベッドに座り込む。
ベッドを占領されたので、俺は向かいの勉強用の机の椅子に腰掛けようとすると、だまって『世界一の鍛冶屋になるんだもん!17号』を俺に向けてくるので、気を取り直してアメリアの横に腰掛ける。
「この部屋に来るのも、本当に久しぶりだけど、全然変わっていないわね」
「まぁ、普段は朝から晩まで修行だから、基本的にこの部屋は寝るだけの部屋だしね・・・」
そう呟くと、アメリアは少しだけ顔を赤くしながら
「1つ聞きたいんだけど・・・あ、あたしはトリオのこと信じているわよ!でも・・・」
「ん?何?」
「この部屋に来た事のある、女の子は・・・あ、あたしだけよね?」
「なんだそりゃ?」
実にトンチンカンな質問に俺は吹き出して笑ってしまう。
「何笑っているのよ!いいから質問に答えなさいよ!」
「いや、笑っちゃいけない意味が分からんが、えーと・・・なんで?」
「だって、久しぶりに家に入れてもらって嬉しいけど・・・心配なんだもん!」
「ん?何の心配だが良く分からんが、5年前父さんと母さんが死んで、俺以外でこの家に入った人はお前だけだぞ」
そう言うと、アメリアはパァッした笑顔になり
「そ、そうよね、あ、あたしだけなんだ・・・」
と言い「エヘヘ」と笑う。
「そんなことよりも、俺に話があるんだろ?まぁ俺からもお前に話があるけどな、どうせ内容は一緒だろうけど」
「うん、たぶん同じ事だと思うけど・・・」
「じゃあ、俺から話した方がいいか?」
「うん・・・やっぱりこういうのは男の子から言って欲しいかな・・・」
そう言いながら、真っ赤になってクネクネするアメリアはちょっと気味が悪かった・・・