第十三話 腕試し
やり切れない思いを胸に、仕方が無いかと心の整理をつけると、俺は師匠に手渡された、トリオ製ハルバートを腰ダメに構える。
それを見たクルド師匠は楽しげに「んじゃあ!始め!」の合図を掛ける。
その声と同時に彼らの前衛である、ケーヒルと戦士系体型の男が突っ込んで剣を振るってくる。
あ~ダメダなコリャ、と思いながらハルバートを一閃する。
その際に剣と打ち合われるだろうその一瞬に力を込め、振り切ると「キィーーン」と言う甲高い音を残して、二人の剣が砕ける。
2人は一瞬呆然とするが、その隙を逃すほど俺は馬鹿じゃない、2人ともハルバートの石突の部分で鳩尾の部分を突き昏倒させる。
それを見た先ほどの女性がショートスピアを繰り出しながら接近してくるが、これもハルバートの構造を利用し、ショートスピアを巻き上げて宙に浮かすと、そこへ思いっきりの斬撃を見舞い、ショートスピアを中ほどから断ち切る。
それを見て固まり、呪文詠唱が止まってしまっているメイジ二人を同じように石突の方で突き吹っ飛ばすと、最後に残った槍使いにハルバートを目の前に突きつけ
「終わりじゃないですかね?」
と問いかけてみると、槍使いは槍を落とし、両手を挙げて降参した。
なんともあっさりと片がついたのだが、これはある意味ズルをしたと言わざるを得ない。
そもそも、彼らが使っているのは普通の鉄製の武器、俺が使っているのはバイオレットのグレート品なのだ。
普通の鉄製の武器がバイオレットの武器とまともにぶつかれば、砕け散るのは当たり前で、戦闘になることすらないのだ。
いくらこの人たちが経験をつんだ冒険者でも、バイオレットの武器とまともにぶつかった事など無いのかもしれない。
だからこそ、最初の一撃で2本とも武器破壊を狙ったのだ、前衛2人の武器があっさりと破壊され、瞬殺されれば中衛や後衛が動揺するのは当たり前で、その動揺している間に一気にケリをつけたのだが、ここまではクルド師匠も俺も予想通りだった。
しかし、唯一諦めていないのが、先ほどの彼女だった。
最後の1人が武器を落とし降参したと思ったその時に
「気を抜いているんじゃないよ、誰が終わりだって言ったんだい!」
そう叫ぶと半分になったショートスピアを俺に投げつけ、それに合わせて俺に向かって突っ込んでくる。
ショートスピアを避けて、迎撃しようとハルバートを構えるのだが、考えてみればこれを振るったら・・・殺しちゃうジャン!
と思いつき、ヤヴァイと思った時にはすでに懐に入られていた。
彼女は躊躇することなく、俺の顔面に向かって拳をふるう。
その拳を避け、一旦距離をとろうとバックステップをするが、彼女は俺から離されまいと、蹴りを放ちつつ詰めてくる。
参ったなぁ~と思いつつ、ハルバートのある部分に手を掛け、クルド師匠を伺うが、師匠は黙って首を振るだけだ。
くそ・・・ダメなのかよ・・・
そう思っている間にも彼女の拳や蹴りが飛んでくるので、全てかわしつつ彼女に話しかける。
「あの、もうやめませんか?」
「うるさい!子供に一方的にやられて黙って下がるほどガルムの左腕の名前は安くないんだよ!お前らもさっさと起きて闘え!」
彼女がそう仲間に声をかけると、ケーヒルさんを始めとしたメンバーが全員起き上がり、残った全員が呪文を唱え始める。
くっそーと思いクルド師匠を見ると、腕を組みながらニヤニヤしている。
なるほど、これからが本番ってわけね。
さすがクルド師匠、えげつない試練を課してくるな・・・
明確な敵でないため殺す事も出来ない冒険者たちを無力化するために俺がどんな方法を取るのかを見るつもりかよ・・・ほんと碌でもないな・・・
等と考えていると、呪文詠唱が終わり一斉に魔法が飛んでくる。
まぁ、この程度の数じゃあ無駄なんだけどね、と思いつつハルバートを振るいファイヤーボールやエネルギーボルトを弾き飛ばすと、ガルムの左腕の面々は驚愕した。
俺のハルバートは少し特別で、刃の部分はパープル鉱石で丈夫さと切れ味に特化しており、柄の部分はピンク鉱石を使用しており魔法耐性が抜群なのだ。
このように1つの武器に複数の鉱石を使用している武器は、俺にとっては珍しくないのだが、どうやら彼らには違うようだ。
驚愕している彼らを尻目に俺は身体強化をしたケーヒルさんと戦士の前衛組みへと突撃する。
彼らの直前で地面に向かってハルバートを振るい、大量の土を彼らに向けて浴びせると、とっさに彼らは防御の態勢を取ってしまうのだが、それは今回は間違いだ。
土の目くらましを防御している彼らに一気に詰め寄ると、今度は手加減無しでケーヒルさんの腹を蹴りつけて吹き飛ばす。
「ケーヒル!」
先ほどの彼女が悲痛な声を上げケーヒルさんの下へと駆け寄るが、俺はすぐさま戦士系の男の背後に回りこみ、首筋にハルバートの柄を叩き込み、今度こそ昏倒させる。
今回は先ほどと違って手加減はしていないが、2人とも身体強化の魔法をかけていたからこの程度では死ぬことは無いはずと思ってい、そのまま今度は魔法使いの2人へと向かう。
先程、魔法を叩き落されたショックからまだ回復できておらず、呆然とする2人を簡単に間合いに捕らえると、俺はハルバートを地面に突き刺し、それを支点にしながら回転蹴りを1人の首筋に叩き
込み吹き飛ばす。
更にその勢いのまま、もう1人に後ろ回し蹴りを叩き込んで吹き飛ばすと、呆然としている槍使いの足元から槍を拾った、女戦士が殺意を撒き散らしながら猛然と突っ込んでくる。
槍の一撃をハルバートでなんなく受け止めると、彼女はムキになって打ちかかってくる。
もう既に勝敗は決しているし、なによりも、いくらショートスピアと似ているとは言え本来の獲物ではない普通の槍では攻撃がコナレテおらず簡単に捌ける状態で、これ以上彼女を痛めつけるのは躊躇われる。
しかも涙目になりながら攻撃してくる女性にどうしろと・・・そう思い師匠を見るが、師匠は相変わらずニヤニヤしているだけで、止める気配が無い。
「もう、勝敗は決していますよ、やめにしませんか?」
と話しかけるが、彼女はまったく聞く耳を持たず
「よくも、ケーヒルを!」
と言いながら打ちかかってくる。
俺は少しずつ彼女の攻撃を受け流しながらケーヒルさんの方へと誘導する。
ぐったりとしたケーヒルさんの近くまで来たところで、彼女の槍を強引に地面に打ち付け、後ろに回りこみ両膝の裏側を軽く払う(膝かっくん)と、彼女はその場にペタリと膝を着いてしまう。
更に片手で肩を押さえ、立ち上がれないようにした後
「まずはケーヒルさんの回復が先なんじゃないですか?」
と耳元で囁き、腰のポーチから回復ポーションを彼女の目の前に差し出す。
すると、彼女はポーションの入った瓶とケーヒルさんの見た後
「あんたがやったんだ、礼は言わないよ!」
と言って、俺からポーションをひったくると、急いでケーヒルさんの下に駆け寄り、飲ませようとするのだが、ケーヒルさんが気を失っているため飲む事が出来そうにない。
ポーションは体に降りかけても作用するのだが、飲むのが最も効率が良く回復できる。
彼女は一瞬躊躇し
「子供は見るんじゃないよ」
と俺に釘を刺した後、口移しで飲ませた。
もちろん、俺は近寄ってガン見していたわけなのだが、いきなり後ろから頭を「ゴンッ!」とドヤかされる!
痛いなぁ~と思いつつ
「師匠何するんですか~、こんな時はガン見するのが礼儀だって教えたのは師匠じゃないですか~」
と言って振り返ると、そこには1匹の鬼が居た・・・