第十話 情報は正確に?
俺は今一点の非の打ち所がない完璧なDO・GE・ZAを師匠の前で敢行している。
そんな俺を見ながらガザル師匠は楽しそうに俺を嬲る。
「トリオよ、ワシはお前の師匠としては物足りなかったのか・・・大事な弟子が・・・大切に育てた弟子が・・・言いつけを無視するとは・・・」
そう言いながらその目元には光るものが・・・・って、あんた今指につばつけて目元に・・・
「ワシは悲しいのぅ・・・悲しくて涙が・・・」
だからそれはつばだろ、クソ爺・・・
「さて・・・この不肖の弟子にどのようなバツを与えるのが一番いいのか・・・な?」
「な?」って疑問文で聞かれてもねぇ~
「おお!そうだ、いい手がある!」
実にわざとらしい、バツが決まっているならさっさと言えばいいのにと、心の中では思いながらも神妙に下を向いてる。
「お前、3年後に王都の王立学園に行くつもりだったろ?アレの学費を自分で稼げ」
「へ?」
バツの内容を聞いてつい間抜けな返事をしてしまう。
「へ?とはなんだ?何か不満なのか?」
「いや、不満なんてありませんが・・・そもそも王立学園の入学料や授業料、その他生活費などは自分で出すつもりでしたが?」
「ん?ああ、そうか条件が1つ抜けていたな」
と言って意地悪そうににやりと笑う師匠・・・
「そう、その条件はな、それらの費用をこれから、お前1人で王都で稼ぐ事だ」
「なんですと~~~!」
「良いかトリオよ、5日後にリシルドのキャラバンがこの村を発つから、それに便乗させてもらい王都に行って、3年の間に自分の手で稼ぎ、無事に学園を卒業してくる。これがお前に対するバツだ!」
「いや、師匠!それは無理がありませんか?いきなりリシルドさんのキャラバンに同行させてくれなんて頼めませんよ!」
「いや、大丈夫だ、お前なら道中の護衛としても雑用としても問題ないだろうから喜んでリシルドは受けてくれるだろうさ、後でワシの方で連絡をしておく。明日にでも挨拶に行ってこい」
「うう・・・分かりました。謹んでそのバツを受けます。しかし一点だけお願いがあります!って言うか、これだけは譲れないからな!」
「ん?なんだ?」
「アメリアへは、師匠から説明してくれよ!俺は命が惜しい!」
「なんだと!これはおまえ自身の問題とバツだろうが!お前が説明せずに誰がするんだ!」
「そのバツを決めたのはあんただろうが!俺は鬼のような師匠のバツを仕方なく受ける被害者なんだ!」
「誰が被害者だ!あほうめ!これは師匠からの命令だ!」
と師匠が言い終わる前に俺の野生の勘が危険を告げる。
その瞬間俺は部屋の窓を開け、表に飛び出す。
師匠が後ろから「逃げるな~!」と声が聞こえるが無視だ!あのままあそこに居たら絶対に取り返しのつかないことになるはずだ、そう思いながら今日は家に閉じこもって一日中居留守を使い一歩も表に出ない事を決意した。
やれやれ、あの馬鹿弟子めが!と思い後ろを振り返ると、そこには最愛の孫娘が、ニコヤカに笑っている。
「お爺ちゃん、トリオと何を話していたのかしら?」
「い、いや別に何も・・・」
「ふ~ん・・・じゃあどうしてトリオは窓から逃げるように出て行ったの?」
「え~と、急用でもあったんじゃないかな?それよりもアメリアはどうして、ハンマーなんか持っているのかな?」
「う~ん、何となくかな?・・・そう、乙女の勘ってやつね、なんかハンマーを持ってこの部屋に来なくちゃいけないって急に思ったのよね・・・お爺ちゃん、なんか心当たりある?」
「あ、あるわけないだろ!そんな可愛い孫娘がハンマーを持ってワシの部屋を訪ねてくる理由なんて・・・・お、思い浮かばないな!」
「そう?でもどうしてそんなに汗をかいているのかな?」
「う~ん・・・き気のせいだよ、アメリア」
「そう、気のせいならいいけど・・・さて・・・」
そう言ってアメリアは長さ1.2メートル、その先には重さ30kgはあろうかと言う鉄塊が付いているハンマーをガゼルの鼻先に向ける。
「あのーーーアメリアさん・・・何故『話して』」
「いや、なんで『話せ!』」
「いあ、『お爺ちゃん、これはねお願いじゃないの・・・命令なのよ』」
「はい」そう答えた瞬間ガザルは「終わった」と心の中で思った。
10分後、この世のものとは思えない悲鳴がガザルの家から聞こえてきたのだが、村人は全員聞こえない振りをした。
それがこの村の暗黙の掟だったから。
師匠に約束を破ったバツとして王都に行くように言われた翌日、俺は王都までの道のりを共にしてくれる、隊商のリーダであるリシルドさんを訪ねた。
村で唯一の宿屋に泊まっているとのことなので、宿屋へ向かう。
狭い村なので、当然宿屋の主人も知り合いなので、リシルドさんを尋ねたことを告げるとすぐに取り次いでくれた。
リシルドさんは40歳前後の人の良さそうな、笑顔で迎えてくれた。
「はじめまして、リシルドさん。ガザルの弟子でトリオと言います。師匠から話が行っていると思いますが、王都に向かわれるあなたのキャラバンに同行させていただくことになりました。よろしくお願いいたします」
と言って頭を下げると、リシルドさんは軽く笑いながら
「こちらこそ、よろしくお願いいたしますよ、トリオ君。なんでも大好きな彼女の為に、ガザルさんとの約束を破ったバツだと聞きましたよ。お若いのに中々やるようですね」
「ブフォッ!」いきなりの先制パンチに噴き出してしまう。
「アッハッハ、図星ですか?」
と言って笑われるのだが、ここは一旦訂正をしなければと思い
「いや、あまりにも急に突飛なことを言われたので動揺しましたよ、さすが『商人』ですね、凄い先制パンチでした」
「いやいや、先制パンチとかではなく、事実だと聞いていますよ、トリオ君」
とまだニヤニヤと笑いながら攻め立ててくるのだが、こちらもなるべく平静を装い
「リシルドさん、少し訂正をさせてください。大好きな彼女ではなく、大切な妹分です。商人たるもの情報は正確につかまなければならないと思いますよ」
そう訂正するのだが、リシルドさんはニヤニヤを止めずに
「そうなんですか?私が聞いた情報元はこれ以上ないくらい確かなはずなんですが?」
と言われ不思議に思うと、それが顔に出ていたのであろう、リシルドさんは得意そうにその情報元を明かした。
「だって、私の情報元は一方の当事者であるアメリアさんなんですけどね」
と聞かされ、再度「ブフォッ!」と噴き出す。
それを見たリシルドさんは、『勝った!』と言った顔をしながら、「カティ、ちょっと来なさい」と言って声をかける。
すると、さっきまで部屋の隅に座っていた、10歳前後の女の子が立ち上がり、俺の前まで来た。
「カティ、トリオ君に昨日アメリアさんの言った事を教えて上げなさい」
と言うと、カティと呼ばれた女の子は幼いながらもきちんとしたお辞儀をして
「はじめまして、カティと言います。アメリアさんとは同じ年なので、こちらに来るたびに遊んでいるお友達なんです」
と言って自己紹介してくれる。
確かに、アメリアが以前キャラバンの子と友達になったとか言っていたなと思い出すのだが、カティの話は続く
「昨日、アメリアさんが私を訪ねてきて、いきなり泣き出したんですよ。『私のせいでトリオが村から追い出される』って。
どうしたの?って聞くと、『私の誕生日プレゼントを取りに行くために、師匠であるお爺さんとの約束を破ってしまった』って言っていました」
「えーと・・・その話の何処に俺がアメリアを大好きだと言う要素があるの?」
と聞くと、いきなりカティは小芝居を始める。
「すごいね、アメリアさん、そのトリオ君て、アメリアさんの恋人なの?」
「え?えーと・・・今は違うけど将来的には間違いないわよ」
「えー将来的になの?じゃあ分からないんじゃないの?」
「な、何を言っているのよ!あれよ、そう!トリオは私にベタ惚れなの!そうでなければお爺ちゃんとの約束を破ってまでプレゼントしてくれるわけ無いじゃない!」
「ふーん・・・ベタ惚れなんだ、じゃあ将来を誓い合っているの?」
「と、当然よ!お、お互い口には出して約束していないけど、トリオが私にベタ惚れなのは見え見えなんだから!わ、私は仕方なく一緒になってあげることも考えても良いわよ!」
「そうなんだ~でも・・・・おっと!、ここから先は乙女の秘密です」
と言って優雅にお辞儀し、リシルドさんそっくりにニヤリと笑うのだが、その小芝居が終わったときにはリシルドさんは腹を抱え床を転げ周っており、俺はと言うと、敗北感が一杯で膝を付いて頭を抱えていた。