第10話: 絆
「ちょっとあんた、どこ行く気だい!?まさかこのレグナタワーに入る訳じゃないだろうね!?」
なんだこの塔は、とシトがまじまじと見つめていると、木の陰から太ったおばさんが出てきて、いきなり塔を見ているシトに向かって叫んだ。
シトがぼーっとしていると、もう1度叫ぶ。
「……そこの塔には近づいちゃいけないよ!聞こえているのかい!」
さっきから走り過ぎたせいか脱力し、放心状態だったシトははっとした。
「…え!あ!は、はい!…………すみません、この塔なんなんですか…?」
「なんだいあんた、知らないのかい。ここはレグナタワー。悪魔の塔だよ…」
「悪魔の……塔…?」
「あたしも名前は忘れちまったんだけどね、この国の首都であるヴィスレイにも、何とかタワーってばかでかい塔があるんだよ。このレグナタワーはそこの支部さ」
「はあ……でも、悪魔の塔って……」
「この塔の中の誰がやってんのかは知らないけど、野性のモンスター捕まえては生物実験してるんだよ。ま、タチの悪いことに最近は人様のモンスター盗んでまでそんなことやらかしてるらしいけどね」
「そ…そんな……生物実験だなんて…」
「あたしもこの中にいる連中は頭がおかしいと思うんだがね。…だからこの塔には近づいちゃだめなんだよ!」
おばさんは思い出したようにシトに注意した。が、シトは聞く耳を持たない。
「この中にいる奴等……全員倒せばそんなことはなくなるんだよな…」
「何を……!おやめ!何しろ連中は巨大な組織の中の1部分だ。変なことに首突っ込むと痛い目にあっちまうよ!」
「俺が……倒す……」
「………!………あんた、なんでそんなことするんだい?」
声音を静めて、急におばさんが聞いてきた。
「俺は…トーラを…相棒に酷いことを言った……だから……」
おばさんは、しどろもどろになっているシトを暫く見つめて、そして言った。
「……あんたさ、レグナタワー、行ってみたらどうだい?」
「……え?」
「……あたしの夫は冒険家でね。いつも無鉄砲で危なっかしかったが、それでもあたしは楽しかったよ。でも、1年前に1人で出かけてから、ずっと行方知れずさ。それからあたしは冒険を嫌うようになった。危ない橋渡りはしなくなった。でも、この前14歳になった息子が旅に出るなんて言い出してね。それはもう怒ったわよ、あんたは母ちゃんを不安にさせて楽しいかっ、てね……でも、冷静になって考えてみてわかったんだ、あたしゃ臆病な女になったもんだねってさ」
シトは黙っておばさんの話しを聞いている。おばさんの息子と自分がかぶって見えるような気がしてきた。
「初めてのことに挑戦しない臆病さをあたしはこの1年間で作っちまった。でも、あんたは違う。目が輝いてるからね。若いうちはなんでもやっておきなさい。そしていい事と悪い事を体で覚えるのよ。あんたなら出来るさ。結果はどうであれ、レグナタワーに入るのは駄目だとは言わないよ」
「………」
「ただし!一晩待つけど、それでも戻ってこないようなら、あなたの住んでいるところに連絡をとるわ」
「………!………ありがとうございます……!」
シトは名前と連絡先をおばさんに教え、中へと進んでいった。
「気をつけて行くのよー!」
「シト、どこ行ったんだろ……大丈夫かなぁ……」
夜、ラヴィアと別れて1人で宿舎に戻ったリーク。シトのことは一応ヴェントさんに言っておいたが、やはり心配でならない。
じっとしていても、ただ気持ちは焦るばかりだ。
でもなんであんなひどいことを……
……そういえば。
「ブレゼ……あの時の傷は大丈夫か?」
カードを見つめながら言う。
あの時……対リルグ戦の時だ。あの時、ブレゼの四重鎖力は全てかわされ、竜巻が巻き付いて巨大化された剣で倒されたのだ。ブレゼはその時、まともに喰らってしまった。
カードを見ると、イラストはそのままだが……。
「やってみるか……」
リークは宿舎を出ていった。
正面に取り付けられた小さい錆び付いた扉を開けた。ギィィィ、と扉が軋む(きしむ)音がする。
中は……何もなかった。タイル張りの床が、明かりもなく、冷たく感じる。だが……。
シトはこの円柱形に造られた建物の壁にそって、やっぱり錆び付いている、螺旋階段を発見した。既に陽は暮れ、明かりもなかったので、最初入っただけではわからなかったのだ。
目で螺旋階段の先を追う。
(そういえば、外から見た時、もっと塔は高く見えたよな……それに、塔の先端は尖ってたのに平らだ……。…………まさか!)
シトは螺旋階段目掛けて走り、そのまま駆け上がっていく。そして、螺旋階段が地面と水平になり、吹き抜けのように、階段が円を描くように、吹き抜けのようになった。
シトは走りながら上をよく見る。そして……あった。抜け穴が。
そう。シトが直感したものは、隠し通路を通って最上階へ行ける、というものだった。常識はずれだが、これはゲーム、架空の世界だ。これくらい普通に有り得るだろう。
低い天井についた四角い、人1人が調度入れるくらいの、くぼみ。
よく見ると、そのくぼみの手前に、鉄で出来たはしごが造られていた。
シトはそれを上っていった…………
「ようこそ、レグナタワーへ」
はしごを上った先は、ラインサンド研究所が空き巣にあったような…そんな部屋だった。色々な書類やケーブル等が、小さな5つの机から溢れていて、床に散乱している。当然、そこには明かりがあるが、真っ白い電気を使っている為か、冷たい感じは消えない。
「シト。お前は優秀な奴だな。ケルヴォとクラモから身を守り通し、この場所も突き止めた」
はしごがあった場所とは反対側のところに、2人の男が立っていた。1人は、白い稲妻が大きく描かれた、真っ赤なTシャツを着て、下はジーンズなのだが…所々穴が開いていたりするのは、ファッションなのだろう。
髪形はツンツン立てていて、金髪。
手には白いリストバンド。かなり今風だ。が、もう1人は、何色、と言えないような色々な濃さの緑色がちりばめられた模様のセーターを着て、その上に1番濃い緑色で、ほとんど黒に近いような色の、温かそうなベストを着ている。下はクリーム色のズボンだ。花屋の店員なんか、すごく似合いそうだ。対称的だが…この2人が……
-倒すべき2人-だ。
「お前等が……生物実験を……!」
それを聞いて、赤のTシャツを着た男が笑った。
「正義の味方、シト参上、か?」
さっきからずっとこの男が喋り続けている。緑のセーターの男は無言だ。
「…………!」
「お前は一体ここへ何をしにきた?」
赤の男が薄ら笑いを浮かべながら、聞く。
「…相手なんて、誰でもいい…」
「へぇ…面白そうじゃんか…ま、いいや、久しぶりの来客だ。楽しまないとな…なあ、ロズビート」
緑のセーターの男は無言で頷く。
「そんじゃ…ケルヴォ召喚!」
「……コプト、召喚……」
……!2体!
……でも……。
「…トーラ召喚!」
「おいおい1体だけかよ、張り合いがねぇなぁ」
緑のセーターの男……ロズビートが召喚したコプトは、まるで童話に出てくる<花の妖精>だ。
全体が葉のようなもので出来ているからか緑っぽく、襟巻きのように首を淡いピンク色の大きな花びらが囲っている。背は小学生の低学年くらいだ。そして、もう1人の男が召喚したケルヴォは……………!この木の形をしたモンスターは……ティスカヴトーナメントに行く前にヴィルタロードで戦った奴の内の1体だ。
「行くぜ…ケルヴォ!凶根津波<タイドル・ルート>!」
木のモンスター…ケルヴォが根を大量に張る。そして、その根がシトとトーラを襲う。
「トーラ……さっきは悪かった……ごめん……」
シトはトーラに頭を下げた。トーラは無反応だ。
「頼む……潤水貫剣<モイスン・ブレード>!」
トーラは全く動かない。根が迫る……!
ズガァァァン!
シトは攻撃を防げなかった……トーラは攻撃を防がなかった。
ズガァァァァン!
大量の根は、無慈悲にもシトとトーラを突き刺した。
「ぐ……がはぁッ!」
シトはカードを持っている右腕を突き刺され、トーラのカードを落としそうになった。
でも………!落とす訳にはいかないんだ………!
<自分とトーラの信頼>の為に……!
シトは今の1撃で既に身体のあちこちから出血している。だが、目は鋭く光っている。
「ト…トーラ……本当に…悪かった……許して……くれ……」
ボロボロの姿でシトは土下座した。ケルヴォがまた凶根津波を繰り出した。またしても大量の根がシトとトーラを襲う。
その時……トーラがシトに手を差し延べた。
意味がわからず、呆然とするシト。トーラはシトの手を握った。そして、ヴォォッと叫ぶ。
ブシャァァァ!
「……聖域飛沫<サンクチュアリ・スプラッシュ>……?」
トーラが自ら技を発したのだ。飛沫は、トーラと…シトをも囲んだ。が、この技では根を防げない……!
しかし、シトとトーラにダメージは無かった。その飛沫は、今までで1番大きいものだった。
「…トー…ラ……」
シトは間を空けて、言う。だがそれは、故意に造られた間ではない。
「やっと……繋がれた……」
シトは立ち上がる。
「やる…か……!」
ラヴィアは、フェイム宿舎で、カードを眺めていた。傍らには、電子マネーと同じくらいの機械が置かれている。だが、それではない。
「……遅いな……」
そう呟き、ラヴィアはため息をついた。
「トーラ、潤水貫剣<モイスン・ブレード>!」
トーラは、剣にエネルギーを溜めた。
(技…やってくれた…!)
溜まったエネルギーは、リルグと戦った時よりもかなり多かった。
「ケルヴォ!根壁<ベリアー・ルート>!」
ドキバキッ!
床に張った根でケルヴォとコプトの前に壁を造る。
だが、トーラの潤水貫剣は、根壁を粉砕した。剣は2体の真ん中に振り下ろされ、誘爆で2体はダメージを受ける。
「へぇ…こいつの壁を壊すとは……やるねぇ…」
まだ2人は余裕の表情だ。
「でも、ここからが勝負だぜ……ロズビート!」
その言葉にロズビートが反応する。
「ふぅ…やっと出番か。コプトー。花粉霧舞<ブラッサム・ミスト>」
モンスター名:ケルヴォ
ジレイルタワーが、木と獣の魂との融合に成功した。今まで神経融合は、ジレイルタワーの技術を持ってしても不可能とされていたが、ある獣に<木の力>を感じ、迷わず毒性の強い木と融合させ、<Kelvou>を誕生させた。
技:根壁
<ベリアー・ルート>
地面に根を張って、自分の前に根を生やし、壁を作る防御技。
技:凶根津波
<タイドル・ルート>
根を張り、それを相手に向かわせ、突き刺す技。範囲が広い為、避けるのは困難。