第9話: 言葉
ここのトーナメントは、1回で合計64人が32人ずつの2ブロックに分かれて、両ブロックの優勝者が最後に戦う形となっている。
そして、今は……。
準々決勝。3人共勝ち残っている。シトとラヴィアがレッドブロック、リークがブルーブロックだ。
残っている人数、8人。
「あん時は負けたからなー、今度は覚悟しろよ!」
選手の待ち合い室を繋ぐ廊下でシトとラヴィアが話していた。2人は次のバトルでは当たらないが、お互い準決勝進出を果たすつもりで会話しているのだ。
「えー、次も負けないよーっだ!」
「言ったなこんのやろー!」
ラヴィアがにこにこしながら、剥きになんないでよー、と言う。
ボォォォン……ボォォォン……
「「!」」
「……それじゃあ……」
「……うん、頑張ろうね……」
急に真剣な表情になる2人。お互いが戦う為には、ここで負ける訳にはいかないのだ。
[さあ、勝ち残った8人の戦い!!!!一体どんなバトルを繰り広げてくれるのでしょうか!!!!次の戦いは42番と57番です!!!!]
また自分が最初か……、と呟きながらステージに上がるシト。その間、さっきまで話していたラヴィアと、ブロックが違うために会えなかったリークのことを想っていた。
「やあ、僕はリルグだよ。よろしくね」
ステージに上がって、いきなり相手が名乗り、手を差し出してきた。
「え……あ、ああ、俺はシトだ。よろしく…」
「うん。じゃあ早速やるか……グリオーネ、召喚!」
「あ…トーラ召喚!」
シトは一瞬怯んでしまった。
相手の…リルグのモンスター、グリオーネは、右手にかなり長く、かなり細い剣…レイピアを構えた人型の鳥のようなモンスターなのだが…<人型の鳥>ってすごくわかりにくい………要するに、全体が人型で、顔や肌、足等の細かい部分が鳥なのだ。それだからか、両手はあるが、背中には大きな白い翼が生えている。
「いくよ、グリオーネ……青風<マリンガスト>!」
グリオーネがばさっと翼を動かし、飛行する……といっても、地面から少し浮くだけだが。そして、レイピアを軽くひゅっ、とこちらへ向けて動かす。
!
ぶわっっ!
風圧が……!
一気にシトとトーラは、突風のような一瞬の強風で後方へ吹っ飛ばされた。
「っ……!……強い……!」
ぼうっ…!
カードが青く光った。突然だった。シトが一瞬トーラを見ると、トーラはすぐに分かるくらい怒りに満ちた顔をしていた。
反撃……!
「潤水貫剣<モイスン・ブレード>!」
トーラが持っていた剣を頭上に掲げた。すると、青いエネルギー体のようなものがヴォゴヴォゴと剣に集まってくる。そして、最終的に、青いエネルギー体に包まれたトーラの剣は、シトの身長3人分くらいにまでなっていた。そして………
「行けぇ!トーラ!」
グリオーネに向かって剣を振りかざした。
「……グリオーネ、翡翠旋風<ジェイド・ボルテックス>!」
グリオーネの剣に竜巻が巻き付き、今のトーラの剣と同じくらいの大きさになった。
2本の大剣が……ぶつかった……!
ギィィィン……!
……トーラは、地面に仰向けに倒れている。グリオーネは剣を下ろす。
……負けた……。
[……これはっ!!!!42番のシト選手、モンスターのトーラが一騎打ちに負けてしまった!!!!57番のリルグ選手、準決勝進出です!!!!」
「くそ………トーラ……弱えよ……」
準決勝に進出出来なかった、ラヴィアと対戦出来なかった悔しさを、トーラにぶつけてしまった。
トーラは一瞬驚いた表情をして、消えた。
「シト!なんでトーラにあんなこと言ったの!」
バトルに負け、ティスカヴドームの受け付けの側にあるソファに座って、3人は話していた。あれから準決勝進出したラヴィアも、決勝進出したリークまでが、リルグに敗れ、リルグが優勝したのだった。
「あれは……つい……」
「つい、じゃないよ!モンスターは人の言葉がわかるの……って、今は関係無いや…とりあえず、シトがトーラにああ言ったのがいけないんだから!」
「シト……君は、自分の負けを、トーラのせいにするような、そんな奴だったのか…?」
…暫くの間……。
「俺は……っ!」
いきなりシトがソファから立ち上がり、出口に向かって駆け出した。後ろからラヴィアの声がする。
「モンスターをそんな風に扱うのなら、シトはカードを持つ資格なんてないよ」
抑揚の無い声で、言い放つというよりかは1人呟く感じにラヴィアが言う。
シトは一瞬立ち止まったが振り向かず、そのまま駆けていった。
「!…シト!」
「いいよ。暫くほっとこうよ。頭冷やしてくるでしょ」
腰を浮かせ、シトを追おうとするリークを、さっきと同じ声でラヴィアが止める。
「そんな……」
もう陽が暮れかかっている。シトはどこをどう走っているのかわからないが、とにかく走っていた。忘れる為に……。自分でも忘れようとしているのがずるい、と思う。が、いい事なのか悪い事なのか、さっき自分が言ったこと、そしてその時のトーラの表情は、頭からこびりついて離れない。
自分が悪いことは本当は分かっている。けど、認めたくたい。
……ありがちなパターンだ。
こういうの、本やテレビで何度も見たことがある。
けど、実際自分がその立場になってみると、悔しい程によくわかる感情だ。
この自分勝手に作り出した矛盾。
自分のずるさから生じる矛盾。……憤りを感じる。この思い通りにいかない矛盾が……いや、<矛盾>と言うのも自分のずるさだろう。<矛盾>ではなく<現実>だ。自分がトーラに酷いことを言ったのは<現実>。自分がずるいから<矛盾>が生じる。
が、まだ現実を受け入れるのに時間はかかりそうだ。
走りながらそんなことを考えていたシトは、大分冷静になってきた。
そして、自分が走り過ぎて疲れていることに気付き、立ち止まった。ティスカヴシティの都会部分から大分離れてしまった。いつの間にか道は舗装されていない一本道に。左右は木々に囲まれている。そして正面には……大きな塔が見えた。
「……来たみたいだな。いいか、ロズビート、ランベイル。全力を出すんだ。だが、殺してはならない。貴重な存在だからな。が、万が一お前達が負けた場合……Rの元へ報告を入れろ。いいな」
「「はい、V様!」」
……シトに、現時点では高すぎるハードルが用意された。
モンスター名:グリオーネ
<疾風の隼>と言えばすぐに分かる程、その強力な力を世に知られた風属性モンスター。グリオーネの握るレイピアが生み出す風に対して、動かないでいられるものはない、と言われるまでに強力。
また、グリオーネが空を飛ぶ姿は非常に美しく、美術作品等によく登場する。
技:青風
<マリンガスト>
レイピアを軽く振って突風を起こす技。直接的なダメージは得られないが、相手の自由を奪うことが出来る。
技:翡翠旋風
<ジェイド・ボルテックス>
レイピアに巨大な竜巻を巻き付け風の大剣へと変化させ、敵を切り付ける技。かわされれば隙は大きいが、ヒットすればかなり強力。