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白い銃身

少女、夏咲ミリーナの目の前には、その少し華奢な体格には似つかない大きな剣を左肩に担ぐ少年、ユトがいた。

4匹ほどいるクレジアのうち、一体を斬った彼。

ユトの足元にはすでに息をすることを奪われ、灰のようになったクレジアが無残に転がっていた。


夏咲が言う。


「ユト、じゃあそんな感じで残りのクレジアも片付けちゃって」


それに対してユトは空を呆然と見上げて返事をした。


「今回はたまたま相手が出てきたから見つけられたけど、次からは探さなきゃならないだろ?多分この辺りにいたクレジアはさっきの鼓動を聴いて散らばったと思うぞ?」


とにかく面倒くさそうな彼。

そんなユトに、夏咲が前方に見える十字路を指差して言葉を返した。


「じゃあ、私が東の方角を探索するね。ユトは左に曲がって、西側の探索をお願い。見つけ次第それぞれで攻撃、援護が必要なときはこれを投げること!」


そう言って彼女はユトに30センチほどの高さをした黄色い筒を渡した。


「……なんだこれ?」


「もう!そんなのも知らないの!?『忠告花火』っていう名前で、下の紐を引っ張ると空に黄色い花火を打ち上げるの。普通の使い方は、クレジアに対して言葉通り忠告をするものなんだけど、今はその用法は無視ね」


ユトはいつも通りの素っ気ない返事を返し、それをポケットにしまった。


「じゃあね、ユト。気をつけて」


「お前には心配されたくねぇよ」


「もう!なんなのそれ!」


「うっせぇよ………怪我すんなよ……」


「え?今なんて…?」


「黙れ!さっさと終わらすぞ!」


そうして二人は対になるように歩き始めた。





夏咲の前には崩れた建物が瓦礫と化した光景が広がっていた。

灰色のそれらは道にまで侵食しており、少なからず彼女の足を運びにくくする。


「もう…鬱陶しいなぁ…」


そんなことを言いながら頬を膨らませる夏咲。

普段、不平不満を言うとユトにお子様あつかいされるため、基本的には口にしないがやはり一人となると無意識に言葉に出てしまう。

何も考えずとも口に出てしまうほど道には瓦礫がある、というのが最大の原因なのだろうが。


…と、そのとき


「!?」


その瓦礫がそれほど遠くない距離でひび割れたような音がした。

一瞬、建物が倒壊したのか、と考えた彼女だったが、それほど大きなものが崩れたのであればあんな些細な音ではすまない。

彼女は確信した。


「この先…いるんだね!」


夏咲は靴紐を結びなおすと、捕われる足を跳ねるようにして駆け出した。

少し先にあるトラックのタイヤほどの大きさをした瓦礫を飛び越え、軋む地面も気にせず音のした方角に走る。

そのとき、彼女はまだ崩れていない建物の中からさっきと同じような音が響くのを耳にした。

そして、前歯を見せる。


「隠れてるつもりかな!?ばればれだよ!」


そう言って、彼女はその建物の穴の開いているところに飛び込んだ。

周りを見渡すと、暗く、埃っぽい臭いがする印象を受けるような建物。

一般の一階建ての住宅ほどの高さしかないため、暗さに相乗してさらに圧迫感さえ感じる。

光は彼女が飛びだ穴と向かいにもう一箇所あいているところから流れ込んでいる。

そしてその光が目を暗闇に溶け込ませることを妨害し、彼女は少し反応が遅れた。


「…あっ!」


突然、影から飛び出した『ソレ』。

間違いなくクレジアだろう。

下手をすれば、不意を突かれていたかもしれない。

しかし、クレジアは夏咲に何もせず、そのまま外へと飛び出して行った。


「え…?どうして……?」


と、彼女が呟いた瞬間、ドオン、と音を立てて入り口が塞がった。

瞬時に身構える夏咲。

光を失った今、嫌でも聴覚が尖る。

そんな耳に、いつか聴いたような人ではない声が聞こえた。


「ケケケ!ヴィーターさんよお!!まんまと罠にかかってくれたな!!」


それを聴いた夏咲は自分でも見ることのできないであろう顔をしかめた。

外にいるクレジアが続ける。


「最初からこういう計画だったんだよぉ!お前の相方に仲間の一人がやられたときからナ!!建物の中に誘いこんで、それを確認してから瓦礫で蓋をする、いくらヴィーターでも、女の子のお前にはどかせられまい!!」


そして、高く笑う。

夏咲は笑い声の多さから、外には少なくとも二人以上のクレジアがいることを推測した。


「さぁヴィーターさん、フィナーレだ!!俺らでその天井崩してお前を生き埋めにして、あとは残りの一人も片付ける!!『ボス』と一緒になぁ!!」


『ボス』。

その単語を耳にし、夏咲はにやりと笑った。


「へぇ…やっぱり私の読みも捨てたもんじゃないね……はやくユトに報告しなきゃ…」


そして、クレジアたちには聞こえない声で呟いた。

そうとも知らない外の連中が叫ぶ。


「じゃあな!!馬鹿な奴で本当にラッキーだったぜ、ガキんちょヴィーター!!!」


そしてクレジアたちは口から炎の玉を放った。

宣言したように屋根にぶつかり、亀裂をつける。

そしてそれは広がり、そして


ドン!と轟音を残して崩壊した。


ただし、原形の崩れた屋根は下には落ちない。

変わりに、『空に向かって八方に散っていた』。


「な…!」


声を漏らしたのはクレジアの一匹。

熱気を垂らす口を開いたまま声を出す。


「な、なぁ、今、『内側から何かが』…」


次の瞬間、壁にけたたましい音を立てて風穴を開け、ゆっくりと出てくる夏咲の姿があった。

その手に、『真っ白い光を放つショットガン』を握りながら。


クレジアはいまだに口を塞げず、声を漏らした。


「お、お前、それは…」


それに対して夏咲はどこか自慢げに言う。


「あ、これ?いいでしょぉ、私のビートだよ。ユトのビートが剣なのに対して、私のビートは『銃』。ユトはあの剣しか出せないけど、私はいろんな種類の銃を出せるんだ、へへ」


そして、彼女は銃の真ん中にある筒状のものに手をあて、コッキングした。

それを自分たちを狩るためのサインと判断したクレジアたちは、意識とは関係なく数歩さがる。

夏咲が笑いながら言った。


「あれ?どうしたのさっきまでの威勢のよさは…。まぁいいよ、三体だね。早く終わらせてユトのところに行かなきゃ」


次の瞬間、


「ケハッ…!」


夏咲から見て、一番左側に立っていたクレジアが散った。

炸裂したショットガンの弾によってクレジアの体に無数の穴があいてから、コンマ一秒としない間の出来事だった。

そのクレジアだった物体は後方に赤い光を残しながら吹き飛び、そして灰色の塵になった。


そして、もう一度コッキングをする夏咲。

それを見た右側に位置するクレジアが口に炎を溜めた。


「クッソ!なめんじゃねぇぞぉぉ!!」


そう言った刹那、それを吹き出す。

が、


「うがっ…」


銃声とともに炎弾は砕け散り、そしてそれを放ったクレジアの体も同様に吹き飛び、それは地にかえった。


残りの一体が怯えながら声にならない悲鳴を上げる。

それを見た夏咲はショットガンを投げ捨て、そして『鼓動を響かせた』。

彼女の手には、リボルバーのような物が握られていた。

そして少しだけ微笑み、思わず尻餅をついたクレジアに言った。


「…いい?覚えておいて。私のことを『バカ』とか『ガキ』とか言っていじめてもいいのは…ユトだけなんだからね?」


銃声が空を駆けたのは、彼女が言葉を発してから一秒後のことだった。

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