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巨星の遺産、五色の神石

慶長三年(1598年)、伏見城の秋は深く、静まり返っていた。


病床の太閤・豊臣秀吉は、その細く衰えた指先で、一つの小さな箱を握りしめていた。


集まった大老や奉行たちは、皆一様に息をひそめ、主君の最期の言葉を待っている。


誰もが「秀頼を頼む」という、いつもの哀願を聞くものだと思っていた。


しかし、秀吉の口から漏れたのは、全く異なる言葉だった。 


「……五大老、五奉行……よう聞け。我が栄華の源、そして日の本の未来は、この『豊臣』とともにあれ」



秀吉が震える手で箱を開けると、中から親指ほどの大きさの、妖しく五色に輝く石が現れた。


その光は、暗い寝所を昼間のように照らし出し、居並ぶ武将たちの目を釘付けにした。


「これは……何にございますか」 


徳川家康が、落とした声音で尋ねる。その眼奥には、隠しきれない欲望の火が灯っていた。


「南蛮の果て、あるいは天竺よりも遠き地より、我がもとへ流れてついた『賢者の石』よ。この石はな、ただの飾りではない。鉄を金に変え、病を癒やし、そして……火薬の威力を数十倍に跳ね上げる『世界の核』となるものだ。我が大坂城を難攻不落たらしめ、明国への出兵を支えた真の力、すべてはこの石に宿る」


秀吉は、弱々しく、しかし悪魔的な笑みを浮かべた。



「徳川殿、佐吉。この石がある限り、豊臣の血は絶えぬ。なれど、ひとたびこの石が日の本を出れば、世界は狂う。これを豊臣の『徳』として、万世に伝えよ。もし、この石を奪おうとする者が現れれば……それが何国であろうと、豊臣の鉄砲がその胸を撃ち抜くであろう」


それが、太閤秀吉の最期の言葉となった。


秀吉の死後、徳川家康は石の奪取を目論み、大坂方に不穏な動きを見せた。


しかし、石の力を解放した石田三成と大野治長ら豊臣旗本衆は、慶長五年の「関ヶ原の戦い」において、徳川軍を未知の破壊力を持つ「神火鉄砲」で圧倒。


家康は戦死し、徳川家は改易となった。


こうして、五大老の合議制を維持しつつも、豊臣家を絶対の頂点とする「豊臣幕府」が成立した。

それから百数十年。


時は下り、元禄、正徳の世。


豊臣の治世が続く日の本は、世界でも類を見ない「超・技術国家」へと変貌を遂げていた。


五色の石——通称「太閤石」から抽出される未知のエネルギーは、蒸気機関を遥かに凌駕する動力を生み出し、巨艦や新型火器を次々と誕生させていた。


だが、その秘密がいつまでも一国の中に留まるはずがなかった。


「日の本の東洋に、あらゆる富と兵器を生み出す『奇跡の石』あり」


その噂は、大航海時代を経て世界を席巻する西欧列強へと伝わる。大英帝国、フランス王国、そして新興のロシア帝国。世界の覇権を狙う海の怪物たちが、その牙を豊臣の日本へと向け始めていた。

大坂城の天守閣。


現・征夷大将軍である豊臣家当主の傍らで、一人の若き青年武将が、南蛮伝来の望遠鏡で遥か水平線を睨みつけていた。


「来るか、異国の軍船ども。太閤殿下の遺産、指一本触れさせはせぬ」


いま、豊臣の天下と「世界の命運」を賭けた、前代未聞の架空戦記が幕を開ける。

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