プロローグ
百年越しの求愛譚のスピンオフ作品です。
夕焼けの中、明日試験の科目の教科書を学校に忘れた少女は脇目も振らず走っていた。
近道する為に車の往来を確認せずに車道に飛び出していた。
大きなクラクションが鳴り響く、少女は迫りくるトラックがいる事に今更ながら気づいた時には遅く。
とある少女の人生は、ここで幕を下ろした。
※
高熱でうなされた状態で、ゆっくりと目が開いたが何かで阻まれている。
まだ結婚も彼氏も行きたい大学も、人生にまだまだ未練がたっぷり残っている。
生きているという、実感に感謝しながら額に載せられていた濡れタオルが目元にズレて視界が隠れていた。
少女は濡れタオルを掴むと、視界をクリアにした。
大きく目を見開き、自身の状況を理解していなかった。
そう、少女の知っている寝室でなく、病院でもない。
少女の視線の先にある部屋は、まるでお姫様が住んでいるようなピンクに統一された謎の部屋の天蓋付きのキングベッドで眠っていたようだ。
少女は上半身を起こして、自身を見下ろす。
シルク素材のフレアのたくさん付いたネグリジェを着ていた。
少女はベッドを降りようと、床に足を下ろそうとしてきょどる。
またもや、ピンク色のフカフカの毛足の長い絨毯に少女のものと思われる室内履きが並べられていた。
室内履きを履くと、立ち上がり部屋の隅にある姿見に歩み寄り固まっていた。
少女の視線の先には見知らぬ美少女が立っていた。
雪のような白い肌に、ピンク色の髪に瞳。
少女は自分の顔を両手でつまみ、首を傾げる。
鏡の中の美少女も同じように、小首を傾げている。
じっと見つめていると、この少女の顔に見覚えがあるが何となくだがよく思い出せない。
「ミレーヌお嬢様、入りますよ」
少女はミレーヌが誰か分からず、固まったまま返事をせずに固唾をのんで突っ立っていた。
寝ているとおもっているらしい、メイドが室内に入ってきた。
「ミレーヌお嬢様?
まだ、熱はございますか?
食事が取れるようでしたら、何かお持ちいたしますが如何なさいますか?」
メイドっぽい服を着た女性が、声を掛けながら近づいてくる。
「あのー。
ここは何処で、
私は誰でしょう?」
少女はまだ現状に理解が追いつかず、メイドらしき女性に質問を返していた。
「ここは永久国の東の果てにある、サリエール男爵領にございます。
貴方様はサリエール男爵の嫡子、一人娘のミレーヌ・サリエール男爵令嬢でございます」
メイドはお嬢様の不思議な発言にも、驚くことなく冷静に少女の質問に答える。
「ミレーヌ?」
少女は自身の名前を復唱すると、頭を抱えた。
名前を呟いた事で、この身体のミレーヌと言う名の少女の記憶と、自身の女子高生の茜としての記憶の混濁する情報が頭に流れ込む事に付いて行けず膝をついてうずくまると意識を手放していた。
無数に氾濫する記憶の断片に乙女ゲーム、龍王の花嫁のスマホアプリの画面が走馬灯のように流れ込んでいた。
そう、『龍王の花嫁』の主人公である男爵令嬢、ミレーヌ・サリエールに転生していた。




