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Last rewrite  作者: 蒼了一


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白雲城[2]

「何故……そのような虚仮(こけ)を……」


 低く問い質す慶次郎に、平馬は一歩前へ出た。


「工藤内匠頭殿の名をお借りしようと考えたのは、すべて拙者にございます。どうか責めはそれがし一身に……」


「いや、そんなことはどうでも良い」


 慶次郎は手を振って遮った。視線は鋭く、平馬の奥を射抜く。


「儂が知りたいのは一つ。なぜ、そのような嘘をわざわざ世に流したのか──それだけじゃ」


 その瞬間、慶次郎の脳裏に塩屋文内の顔が浮かんだ。この件が虚偽であることを、あの男が知らぬはずがない。むしろ文内も結託し、馬借の口を使って噂を諸方へばらまいている。


 ──狙いは何だ。


 雪深い白雲城の中で、慶次郎の胸に、見えぬ糸が絡み始めていた。



「始まりは昨年の秋、金沢の大納言様(小早川秀秋)が、この城へお越しになったことにございます──」


 川尻平馬の声は低く、どこか重かった。外では雪が絶え間なく降り続き、瓦を叩く微かな音が、語りの合間を埋めている。


 昨年、秀秋はようやく領国の検分を行った。新領主がまず果たすべき務めでありながら、加賀に入って以来それを怠ってきたのは、他ならぬ秀秋自身の怠惰による。酒と女に溺れ、昼夜の別も曖昧な暮らしを続け、政は人任せ。


 平岡石見と歩調を合わせて寝返りを推し進めた重臣、稲葉正成もすでに去り、家政は実質、松野主馬首重元まつのしゅめのかみしげもとただ一人の肩に掛かっていた。


 松野主馬は、忠誠と実務の才を兼ね備えた男である。その手腕はかつて豊臣秀吉にも認められ、秀秋を補佐する重臣として推挙されたほどだ。主君が酒色に耽る日々を送りながらも、小早川家が辛うじて体裁を保っていたのは、ひとえに彼の骨身を削る働きゆえであった。


 だが一昨年、栢谷典膳を側近に迎えてから、秀秋は一変した。


 酒色を控え、政務に顔を出すようになった。当初、松野主馬は胸を撫で下ろしたという。主君がようやく自覚を持った──そう思ったからだ。


 しかし、やがて気づく。


 秀秋の関心は、領民でも、国の安寧でもない。


 ただ、富であった。


 生まれながらの貴族であり、富に困る立場ではない。小早川家は豊臣、毛利、上杉に次ぐ財力を誇る。日本で四指に入る富裕を持ちながら、それでもなお金に執着する。


 その姿は、飢えた狼のそれに近く、松野主馬の胸に言い知れぬ不安を芽生えさせた。


 税は重くなり、治水や土木といった領主の責務は後回しにされる。川は破れ、田は荒れ、民の顔から笑みが消えていく。


 富は積み上がる。だが国は痩せていく。


 そんな主君が白雲城にやって来た。


「……その折、大納言様は我が殿にこう命じられました」


 平馬は一瞬、言葉を切った。


 雪がひときわ強く、屋根を打つ。


「帰雲城に埋蔵されている黄金を、三年以内に献上せよ──と」


 静まり返った室内に、その命令だけが異様な響きを残した。


 慶次郎の目が細くなる。


 帰雲城──山津波に呑まれ、一夜にして地中へ消えた城。土砂に埋もれた黄金伝説は、半ば怪談のように語られてきた話だ。


「城は山津波に飲まれ、地中深く沈みました。流された位置は、ある程度まで絞り込めました。しかし……掘り出す目処は立っておりませぬ」


「ほう……場所はわかったのにか」


「左様にございます。ですが崩れた山は地が緩み、少し掘れば再び山が動くやもしれませぬ。下手をすれば、もう一度山津波を招きましょう」


 慶次郎は無言で頷いた。


 地震で崩れた山体。その不安定な土砂を掘り返すなど、正気の沙汰ではない。脆い地層に鍬を入れれば、地滑りや土石流が起こる可能性は高い。掘削は、ただの力仕事ではない。緻密な計算と、長い歳月と、莫大な費えがいる。


 そして何より──人命が削られる。


「……それこそ、山一つを移し替えるほどの力がいるな」


 慶次郎はぽつりと呟いた。


 山師の知識は持たぬ。だが、話を聞くだけで十分だった。これは宝探しではない。国を賭けた土木事業だ。しかも三年という期限付き。


 三年で山を掘り返せ。


 出来ねばどうなる。


 慶次郎の胸に、ひやりとしたものが走る。

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