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12/12

12.エピローグ ~後に伝わる物語~

 その昔、基国の公主・若渓(ルォシー)は、十八歳で婿を得て、ほどなく即位し女帝となった。

 婿がどのような人物であったのかは、記録もなく定かではない。

 無欲な人物で、(まつりごと)に口を挟むことはなく、ひたすら女帝を愛し子どもたちを慈しみ、穏やかに生きたと伝わっている。


 婿の唯一の務めは、朝早く起きて王城の果樹園に行き、女帝のために旬の果実を収穫することだった。

 十年に一度、女帝が巫女姫として豊饒の女神の神殿にこもる際は、必ず付き添い彼女と共に神に祈りを捧げた。

 二人の間に生まれた公主が、女帝に代わって巫女姫の務めを継いだ後は、婿は父として一緒に神殿に赴いた。



 年老いた女帝が病に倒れ、いよいよ命の灯火もこれまでかとなったとき、婿は、女帝を馬車に乗せ豊饒の女神の神殿へ向かった。

 お務めの年ではなかったし巫女姫も代替わりしていたのだが、二人は寄り添い合って礼拝堂に入った。 

 そして、それきり二人がそこから出てくることはなかった。


 二人を案じて礼拝堂へ入った神官たちは、二人を見つけることはできなかったが、豊饒の女神像の後ろで一枚の手巾を発見した。それは、女帝がよく手にしていたお気に入りの手巾であった。

 かつては刺繍が施されていたのであろうが、糸は消え、今は無地になっていた。


 神官たちは、女帝の死期を悟った二人が女神に祈り、その加護を得て仲良く天へ旅立ったのであろうと考えた。  

 だから、手巾を祭壇に供え二人の冥福を祈ることにした。



 時がたち、いつの間にか手巾もどこかへ消えてしまった。


 二人が天へ召された後、巫女姫によるおこもりは一日で終わる形式的なものになったが、基国の豊作は長く続いた。水が豊かで穏やかな気候のその地では、多種多様な果樹が育ち実をつけたが、その中でも、桃はとりわけ薫り高く美味であったために他国の人々からも珍重された。



 戦に巻き込まれることもなく、基国は長きにわたり繁栄を謳歌し、大陸一豊かで平和な国となったのだった――。


                    ―― 終 ――

 最後までお読みくださり、ありがとうございました。

 楽しんでいただけたのなら幸いです。

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