人間性
我々の一挙手一投足に意味が滲み出ないからと言ってあらゆる事象に絶望するほど悲観的ではない。かと言って、我々の前に聳え立つ諸問題が全て一遍に解決されると盲信するほど楽観的でもない。
暴力が最善の手段であるとは当然認められていないが、最悪の手段であると断言することもできない。そんなことは例えお天道様であっても到底認められないのだ。草原の花も風に吹かれて揺れている。知っての通り、暴力とは得体の知れないものだ。私が彼らを害していないなどと誰が保障してくれるだろうか。あの傷は私由来のものでないとどうして分かろう。両手からぽたぽたと滴り落ちるこの赤く毒々しい血は何だ。刺すぐらいなら刺されたほうが何倍もましだ。この重荷には耐えられそうもない。ありもしない架空の積み荷が私の足取りを阻む。身体を引きずって一歩また一歩と進む。苦しさは幻影に違いないのだ。幻聴が洞窟なら、夢幻は泡、幻視はうさぎ。なおさらそうだ。これが現実なら命が幾つあっても足りないではないか。正気を保つコツはただ一つ。私自身を幻惑する正気に蝕まれないことだ。
私の正義が、彼らにとっての悪だとしたら、それらを易々と放棄できるだろうか。我々のそれが暴力でないと誰が言えたことか。白旗が山頂で旗めくのには理由がある。我々の人間性を捧げたまへ。そうでなくとも嬉々として盗人に石を投げつけるのをやめないのだから。