プロローグ
俺はソファーの上で目を覚ました。
どうやらテレビで動画配信サービスを再生させたまま寝てしまったらしい。
俺の名前は寺原和也。職業はプログラマーだ。
決まった企業に就職しているわけではなく、フリーのプログラマーとして様々な企業のお手伝いをして生活している。
依頼がたくさん来る時期とそうでない時期があり、今は年度末ということもあり、依頼が殺到している。
動画配信サービスを見ながら、ちょっと遅い夕食を摂っていたのだが、そのまま寝落ちしたのだ。
このソファー、とても座り心地は良いのだが、寝心地がイマイチである。
むくりと上体を起こし、グラスに残っている麦茶をあおる。
今年44歳になる俺にはそろそろ徹夜が続く生活は体にダメージが残り始める。
自動で消えたテレビの黒い画面を眺めていると
「うーん。」
何やら後方から若い女の唸る声が聞こえた。
誰もいるはずのないこの家で、若い女の声がするはずがない。
そう思って振り向いた。
そして俺はフリーズした。
頭が真っ白になったのだ。
視界に入る若い女の尻。
その尻には紙おむつが履かれており、めくれた布団から紙おむつがこちらを見ている。
リビングがあるソファーの後ろには和室があり、そこにはベッドが置いてある。
自慢じゃないが、このベッドは今まで寝てきたどのベッドよりも寝心地が良い。
最強の神器なのだ。
一度このベッドで寝ると、もう他のベッドでは満足できない。
そんなどうでもいいことを考えていると再び尻が寝返りをうつ。
もう3月とはいえ、夜はまだ寒い。
エアコンをつけて、ファンヒーターもつけて、できるだけ家の中を暖かくしている。
この最強ベッドにはもうひとつ、最強の掛布団が搭載されている。
一見、薄くて存在意義を疑われるような安物の掛布団に見えるそれは、とにかく暖かい。
夏は不要の長物になってしまうが、冬はこれ一枚でエアコンもファンヒーターも必要がないくらい暖ることができる。
確かに2980円という近所の激安の殿堂で購入した安物であるが、紛れもなく神器である。
どうでも良い回想に入ってしまったが、尻はその神器を2種類も装備して横たわっている。
「ちょっ!」
俺は慌てて掛布団を掛けなおす。
尻は神器によって隠され、平穏な空間が戻ってくる。
と思ったのも束の間、尻の主と目があった。
起きたばかりなのであろう。声も出さず、眠そうな眼差しをこちらに向けてくる。
状況を理解できていない、警戒した目だ。
そりゃそうだろう。
40過ぎのオッサンが寝ている自分の目の前に立っているのだ。
警戒しない方がどうかしている。
「いや、尻丸出しだったから目のやり場に困って布団かけにきたんだ・・・」
そう言い訳をすると、尻の主は再び目を瞑り、睡眠に戻った。
いつまでも尻の主と呼ぶのはさすがに彼女に失礼なので、軽く彼女のことを紹介しておく。
彼女は青山梨亜。26歳のかわいらしい女の子である。
なぜそんな彼女が40過ぎのオッサンの家にいるのかは追々話をしていこうと思う。
これは天真爛漫でサイコパスな彼女と、フリーのオッサンプログラマーの奇妙な同居生活の物語である。