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新しい場所で

物語の中の時期は、現実の時期と同じになっていません。

時期がわかりづらいときは本文に書きますので、ご理解ください。

菜乃花(なのか)目線】


「少なっ!?」


 私、日野(ひの)菜乃花は、今年度から高校生。


 そして、私は今、明日から通う高校の公式ホームページを見ていた。

 その内容は、こんなものだった。


 *


 咲元(さきもと)女子高等学校

 部活動しかない学校。


 部活動⋯演劇部、吹奏楽部など

 行事⋯学校祭


 場所⋯伊勢先町(いせさきちょう)


 校長⋯後木(うしろぎ)百花(ももか)


 *


「少なぁっ!」


 あまりの情報の少なさに、二度目の驚きの叫びをあげてしまった。

 ここは一軒家で隣の家との距離も結構あるから、大声を出しても近所迷惑にはならない。

 けど、もう驚きが落ち着いてきた。だから、叫ぶのはやめよう。


「少なぁ⋯」


 今度は小さい声で言った。

 これしか言葉が出てこない。ここまで雑なホームページがあるなんて。


 **


 私は、この咲元女子高等学校、略して咲元高校に通うために、ここ伊勢先町に引っ越してきて、一人暮らしをしている。苦手な家事も、頑張って習得したし、両親の反対を押し切って⋯はいない。家事は頑張って習得したけど、両親には全く反対されていなかった。そもそも、私が咲元高校の存在を知ったのは、お母さんが教えてくれたからだ。

 お母さんと咲元高校の校長の仲がいいから、この高校を知ることができた。お母さんの恐ろしいくらいの人脈に感謝した。お母さんが教えてくれなかったら、昨年度1期生を迎えたばかりの新しい学校である咲元高校を、私が知ることはなかったと思う。


 私は、勉強が嫌いだ。決して、できないから嫌いというわけではない。『できるか』と『好きか』は、全く関係のないことだ。私は中学で、全て平均的という素晴らしい成績を残したんだ!これでいいんだっ!!

 勉強なんて、そんなにしなくていい。中学レベルまででいいんだ。高校以上の勉強は、その専門的な方向に進む人じゃないと使わない。もちろん、専門的な方向に進む人とか、そうじゃなくても勉強したい人は、勉強すればいい。でも、私はそうじゃない。


 だから、中卒でバイトするとお母さんに言った。すると、お母さんが咲元高校のことを教えてくれた。


「咲元高校は授業がなくて、部活動だけなんだって。自分が興味がある部活動に入ったら、それに関係することだけをやるらしいよ!」


 無駄な勉強をしたくない私は、すぐにその高校に行くことを決めた。


 それからは、咲元高校がある伊勢先町という小さな町に引っ越して一人暮らしするための準備を進めた。


 伊勢先町は過疎化が進んでいて、ちょうど管理に困っている空き家があったからということで、無料で一軒家をゲットした。


 前に住んでいた奈呉(なご)市から、伊勢先町は結構遠い。車で半日くらい。

 だから、両親はとても寂しがって⋯いなかった。2人とも、明るく玄関で見送ってくれた。小・中学校の野外活動や修学旅行以外では丸1日離れたことがなかったのに、心配じゃないんだろうか。ほんの少しだけ寂しく思いながらこの伊勢先町に来たのを、よく覚えている。


 **


 あれから1週間が経った。

 ご近所さんへの挨拶や荷物の整理など、引っ越し後にすることは多い。だから、時の流れが随分早く感じる。


 そして、学校に行く準備を、登校の前日にやらないといけなくなってしまった。それが今だ。

 ホームページは頼りにならない。今頼れるのは、お母さんしかいない!

 私はお母さんにメッセージを送った。


《咲元高校について、詳しく教えて!!》


 いつも通り、ものすごいスピードで返信が来た。


《もうたくさん教えたでしょ》


 私はすかさず質問する。


《初日に必要な物は?》

《あ〜、筆記用具さえあれば大丈夫でしょ!》


 相変わらず、私のお母さん、日野夏菜(かな)はものすごく雑だ。頼りにしていいのか、よくわからなくなる。

 お母さんは、ウィンクしている自撮り写真をアイコンにしている。その顔を見ると、『まぁ、なんとかなるか』という気になってくるから不思議だ。


 **


 そんなわけで、その次の日。


 私は、スマートフォンとペンケースと小さいノートだけを入れたポシェットをかけて、今、咲元高校の前にいる!


 校門には『咲元女子高等学校』と彫ってある。そして、目線を上げると、白くて綺麗な校舎!

 できたばかりの新しい学校と聞いていたから綺麗だということはわかっていたけど、実際に見ると本当に綺麗だ。私が通っていた小・中学校は、どちらも歴史あるところだったから、新しい校舎を見るとワクワクする。


 ワクワクする要素はもう1つ。私の視界の中にたくさんいる生徒だ。

 咲元高校は校則がとてもゆるく、ほとんどないようなもの。髪型・髪色自由。カラコンもOK。制服がなく、服装も自由。

 私のセンスのなさがバレるから、制服はありがよかったな⋯と思う。

 髪色自由だからって、思い切って金髪にしてゆるい1つ結びにして、紫のカラコン入れちゃったけど、周りもこんなにカラフルだったら浮かなさそう。よかった〜。


「あ、そうだ。きぃちゃんに連絡しよう」


 きぃちゃんは、私より1歳年上の幼馴染で、私の唯一の友達。名前は小森(こもり)喜菜子(きなこ)。どこの高校に行ったのかわからないし、きぃちゃんが忙しいって言うからあんまり会えないけど、ずっと連絡は取り合っている。

 この前、咲元高校に通うことにしたって伝えたときに、「じゃあ、高校に着いたら連絡ちょうだい!」って言われたことを思い出した。

 スマートフォンのアプリを開き、メッセージを送る。


《咲元高校、到着したよー》


 *


 校舎に入るとすぐ、開けた空間がある。ここは玄関ホールだろう。

 その向こうは普通の廊下になっていて、靴箱がない。ここは外靴のまま過ごす学校だ。これも新鮮で、なんだかワクワクする。


 周りを見ると、少し遠くに人だかりがあった。そこには、壁に『部活動一覧』と大きく書いてある紙が貼ってある。人が多すぎて、部活動の種類は見えない。


 ふと校舎の入り口に目を向けると、今、登校してきた生徒たちがいる。その人たちも、部活動一覧を見に行っている。

 でも、その中に1人、部活動一覧を見に行かない人がいる。その人は歩き始めた。

 部活動一覧を見ないと、部活動の種類も、部の活動場所もわからないはず。なのに一覧を見ずに歩いてるってことは、多分先輩だ。おすすめの部活動とか聞いてみようかな。一覧の前の人が減るのを待っているより、多分そのほうが早い。


 話しかけようと決めたときには、もう遠くまで歩いていっていた。遠くから大声で話しかけるのは迷惑だよね⋯。私は、その人を追いかけることにした。


 その人は階段を下っている。学校の玄関は1階だから、地下に向かっているということになる。追いかけて階段を進むと、少しずつ薄暗くなってきた。新しい学校だから汚くはないけど、なんか怖いな⋯。

 階段が終わり、あの先輩を探そうと左右を見ると、右側にいた。教室の前で立ち止まっている。


 そして、先輩が見上げているのは、普通の学校ではクラスが書いてあるところ。


「ミステリー研究部」


 そう書いてあった。

 中学校にはない部活動だったから、思わず呟いてしまった。


「そう。ミステリー研究部」


 先輩がこっちを振り向いて、そう言った。

 ずっと後ろ姿だったからそんなに気にしていなかったけど、この先輩、すごく綺麗⋯!真っ白な髪を背中の真ん中くらいまで伸ばし、横の髪の下のほうだけを大きめのウェーブにしている。そして、琥珀色(こはくいろ)の目。


 この先輩は、ミステリー研究部に所属しているのかな?この先輩がいるなら、ミステリー研究部はすごくいい部活な気がする。

 何の根拠もなく、見た目と雰囲気だけで、私の直感がこの人は信頼できそうだと言っている。私もお母さんに似て、だいぶ雑だな⋯。


「あなたは、ここの部員なんですか?」

「そうなる予定だけど、今はまだ違うよ」


 ん?


「それってどういう⋯?」

「私は、今から入部届を出そうと思ってるんだ」


 え〜っと。


「1年生?」

「うん、そうだよ」


 ええぇ〜。


「私、あなたのこと先輩だと思ってた!」

「そっか。それでついてきてたの?」

「あ、うん」


 あ、バレてたんだ?いや、別に尾行してたわけじゃないからバレててもいいんだけど⋯。静かに移動してたつもりだったし、そんなに近くなかったから気づかれてないと思ってた。

 この人、すごい。やっぱり信頼できそう。


「あ、1年生?うちの部に入部希望?」


 ミステリー研究部と書かれていた教室から、人が出てきた。『うちの部』と言っていたから、今度こそ先輩だろう。

 肩くらいまでの長さの髪は、ほとんど黒だけど下のほうだけ濃い青。グラデーションになっている。青い部分の少し上からは、細かいウェーブがかかっている。目もその髪の色と同じような青。そして、(ふち)が細い楕円形(だえんけい)メガネ。


 白髪(はくはつ)の人が、「はい。ミステリー研究部に入部希望です」と落ち着いて返事をした。

 さっきまで私のほうを向いていたから、黒髪の人が教室から出てきたときは見えていなかったはず。なのに驚いていないのは、私のときと同じように、後ろからの気配にも気がついていたからなのかもしれない。


「ん?入部希望者、来た?!」


 また教室から人が出てきた。この人も先輩かな。

 腰くらいまでの長さの髪は薄紫色。右側の高い位置で1つ結びをしている。目も髪と同じような薄紫色。


「入部希望者が来てくれたなら、部室で話をしない?」

「うん、そうしよう。私もそうしたい」


 紫髪の人の提案に、ものすごい速さで黒髪の人が同意した。


「よし、じゃあ2人とも⋯入って〜⋯」


 紫髪の人が喋っている途中で、黒髪の人が教室に入っていく。教室の中から、ガタッという音が聞こえた。椅子に座った音かな⋯?

 紫髪の人が「もう、ユナ⋯」と呟いたのが聞こえた。『ユナ』というのが、黒髪の人の名前だろう。


「⋯うん、2人とも入って〜!」

「はい、失礼します」


 白髪の人が歩いていった。

 私も、「ほら、黄色い子も!」と紫髪の人に呼ばれ、教室に入る。


「あ、失礼しまーす⋯」


 教室の中は、さっきまでいた廊下と同じくらい⋯いや、1階からの光が入ってこない分、廊下より暗い。電気がついていないからだ。


 私が、「あの、電気、つけないんですか?」と聞くと、「まぁ、それも含めて今から説明するから、とりあえず座って!」と、紫髪の人が元気に言ってくれた。


 私はこの教室の中を見回した。

 ここには、机と椅子のセットが4つある。それが縦に2つ、横に2つになるようにくっつけられていて、全員が黒板に対して横向きに座るようになっている。

 黒髪の人が、教室の後ろのほうの、廊下から遠い席に座っている。その隣に、紫髪の人が座った。白髪の人が黒髪の人の向かいに座ったから、私は紫髪の人の向かいに座った。


 紫髪の人が「よし」と呟き、話し始める。


「では!これから、ミステリー研究部、部活動説明を始めます!」

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