第62話 氷川涼子
わたしの名まえは氷川涼子。
東京府中にある第1ダンジョン高校、通称1高の6期生。
ダンジョン高校は東京の第1ダンジョン高校の他に全国に6つ。全国に第1から第7まで7つある。
わたしはその第1ダンジョン高校を今年の春首席で卒業し晴れてCランク冒険者になった。
歴史の浅い学校ではあるが、教師からは歴代最強とまで言われていた。
1高の卒業生はトウキョウダンジョンか出身地近くのいわゆる地元ダンジョンをベースにして活動する者が多いのだが、わたしは父の実家、祖父母の家に厄介になり、サイタマダンジョンをベースとすることにして活動を始めた。
ちなみにわたしの実家は東京だ。
Cランク冒険者が活動する4、5階層はモンスターが複数出現するため、通常数名のチームでの活動が推奨されている。
他人とツルムのが嫌いなわたしは最初からソロプレーヤーとして4、5階層で活動を始めた。
特にピンチになることもなく、1日あたり10数個の核を手に入れていた。
年間300日活動するとして、早ければ1年以内、遅くとも1年半もあれば累計買い取り額5000万、ダンジョン高校優遇で5000万円のかさ上げ分を含めて1億の大台に乗り、Dランクプレーヤーになれると意気込んでいた。
そんな中、7月の末に入り2階層、3階層に4階層から多数のモンスターが侵入したため2階層以降に下りられなくなってしまった。
8月の初日、わたしの母校から3年生が派遣されて2、3階層の掃除をしたところ、数名の負傷者が出たそうだ。
死亡とか回復不能の傷を負ったわけではなかったようだがふがいないものだ。
そのころわたしは、Bランク冒険者に全国でただ1人高校生がいることを知った。
うわさでは、その高校生Bランク冒険者はわたしと同じサイタマダンジョンをベースにしているという。
いくら何でも高校生が1階層のような場所で1000万円を稼ぎ出せるはずはない。
誰かにダンジョンの成果を譲ってもらった金持ちの子女だろうと思った。
実力もないくせに上のランクに上がればいずれ痛い目を見ることは確実だ。
そのうち、その冒険者が肩に可愛い妖精のフィギュアを付けていることが掲示板に載っているのを見た。
まかり間違えればケガでは済まず死ぬことだってあるダンジョンにフィギュアとは呆れたものである。
そして今日、そのフィギュア男に出会ってしまった。
あろうことか、フィギュア男はCランク冒険者の領域である5階層でのんきにおむすびを食べていた。
防刃ジャケットの首から緑のネックストラップがのぞいているのがわずかに見える。
フィギュア男はまた何かの手を使ってCランクになったのだ。
よく考えれば、いくら何でも複数のモンスターが現れる5階層をソロで移動することは素人では自殺行為だということをその時のわたしは頭に血が上って思いつけなかった。
頭に血の上ったわたしは、不正行為でBランク、Cランクに上がった化けの皮を剥がすつもりでフィギュア男に考えもなく勝負を挑んだ。
当然フィギュア男はわたしの挑戦を言を左右にして断るかと思ったが、いとも簡単にわたしの挑戦を受諾した。
そのときのわたしは、この男は潔いとかではなく、無知なのだと思った。
フィギュア男はわたしの挑戦を受け入れた時、午前中に53個核を集めたと言ってわたしに核の入った袋を差し出した。
中を確かめるまでもなく53個の核が入っていたのだろう。
だがそんなものは金で何とでもできる。
いわゆる見せ核だ。
そんなハッタリ、誰にだろうと通用するはずがないだろう。
勝負の仕方を考えていなかったが、お互いの見守る中で、出会ったモンスターをたおしてその時間で競うことになった。
そのときわたしは昼食前だったので、勝負は昼食後ということで、フィギュア男の前で祖母の作ってくれた特大おむすびを食べた。
人さまの前で見せたくはなかったが、せっかく祖母が作ってくれたおむすびを恥ずかしがって食べてはバチがあたるのでわたしはありがたくいただいた。
わたしが遅れて昼食を食べ終えたところで、勝負が始まった。
「モンスターの気配なら俺が分かるからついて来てくれ」と、フルフェイスのヘルメットを被ったフィギュア男がとんでもないことを言った。
意味不明だが自信ありげなフィギュア男について歩いていったら本当にモンスターが現れた。
それもオオカミ3匹。
オオカミは連携が得意なため危険度が高いが、ソロだと簡単に周囲を囲まれるので危険度がさらに高くなる。
フィギュア男は少しはビビるのかと思ったけれどそんなそぶりもなく、2本のメイスをそれぞれの手に持ってオオカミに向かって駆けだした。
わたしにはまねのできないような凄いスピードだった。
フィギュア男が何かしたと思った時には3匹のオオカミは坑道の路面の上に転がっていた。
うそ。
それがその時のわたしの正直な感想だ。
振るわれたはずのメイスがわたしの目では見えなかったのだ。
フィギュア男はその場でしゃがんでオオカミから核を抜き出し始めた。
わたしは転がったオオカミを見たが、どのオオカミも正確に頭を割られて即死していた。
そんな芸当ができる冒険者なんて聞いたことがない。
抜き取り作業を終えたフィギュア男はわたしに『次はお前だ、ターゲットは見つけている』と言って先に立って歩き始めた。
この時謝ればよかったが、わたしは何も言えずフィギュア男、いや彼のあとについていった。
それほど間を置くことなく、彼の言った通り次の獲物が現れた。
大蜘蛛3匹。
連携を取った戦いのできるオオカミ3匹に比べればたおすのは容易だが、だからと言って簡単というわけではない。
近づいてくる大蜘蛛3匹に対してわたしは高校時代から慣れ親しんだ鋼棒で戦った。
最初の1匹目をたおすまでそれなりに苦戦したが、2匹目、3匹目は簡単にたおせた。
わたしとすればまずまずの出来だったが、彼に比べるべくもない。
わたしは黙って敗北をかみしめ、自分の浅はかさを恥じた。
そのわたしに向かって彼が厳しく評した。
曰く、自分を100点とすればそこらの冒険者は1点。わたしは3点だそうだ。
何も言い返せない。
真実だから。
彼が去っていこうとしたとき、彼に名まえを聞いた。
「長谷川一郎」
この名は一生忘れない。
わたしの一生の目標だ!
【付録】女性キャラ表
本作もだいぶ女性キャラが登場しています。
中村結菜:主人公の幼馴染。さいたま女子高校1年生。テニス部員。
秋ヶ瀬ウォリアーズの面々
斉藤陽子:主人公の中学時代の同級生。桜川女子高校1年生。
日高早苗:桜川女子高校1年生。斉藤陽子の同級生。
中川春奈:桜川女子高校1年生。斉藤陽子の同級生。拙作『異世界で魔王と呼ばれた男が帰って来た!』https://kakuyomu.jp/works/1177354054894079776 のヒロインと同名。もちろん関連はありません。
氷川涼子:第1ダンジョン高校6期生で今春春卒業したOG。Cランク冒険者。
吉田茜:さいたま高校の国語教師、Bランク冒険者。主人公の担任。
2学期に入るとぼちぼち男性キャラが登場します。
200話までにはあと数名女性キャラが増えます。
最後「はせがわいちろう」と聞こえただけですが、間違えようが少ない名まえなので氷川涼子の頭の中で「長谷川一郎」と、正しく漢字に変換されています。




