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第61話 Cランク冒険者4、女冒険者2


 妙な女冒険者に絡まれて、モンスターをたおすスピード競争をすることになった。

 俺にとっては全く差がないが、ソロで戦う場合、敵の数が2、3と複数になると格段に難易度が上がる。

 そういったところに目の前で食事している女冒険者は気付いていないのか、俺並みに何とも思っていないのか。

 競争が始まればすぐに結論出るよな。


 彼女は俺の正面で坑道の壁にもたれるように座って昼食をとっているのだが、ちょっとだけ何を食べているのか見たところ、すごく大きなおむすびだった。

 それも海苔の巻かれていない塩おむすび。

 豪快なおむすびを小口でハムマムしている。


 彼女の食事は10分ほどで終わり俺と同じ緑茶のペットボトルをごくりと飲んで、

「そろそろ始めるわよ。

 準備して」


 俺の方は昼食の片付けは終わっていたので諸々(もろもろ)を装備しリュックを背負った。

「準備完了」


「それじゃあ行くわよ。

 適当に歩いていればそのうちモンスターに出会うから。

 最初はあなたからでいいわね?」

「了解。

 モンスターの気配なら俺が分かるからついて来てくれ」


 俺がそう言ったらあからさまに嫌そうな声で返事が返ってきた。

「あなた、なにいい加減なこと言ってるのよ。

 モンスターの気配ってどこにもないじゃない」

「あんたに分からなくても俺にはわかるんだから仕方ないだろ。

 黙ってついてこいよ」

「これでモンスターが現れなければあなたどうするの?」

「モンスターがいないことはあり得ないから、何もしない」


 彼女は諦めたのか俺の後を黙ってついてきた。

 ターゲットの位置は150メートルほど先。

 おそらく坑道の分岐が途中にあってその分岐を少し進んだところにモンスターがいるはずだ。


 俺は少し歩みを速め、ターゲットに向かって進んでいった。

 ターゲットも俺たちの気配に気づいたようで、こっちに向かってきている。

 俺は左右のメイスをベルトから外して駆けだした。

 彼女の方もモンスターの気配を感じ取ったのか何も言わず俺の後を追ってきている。


 現れたモンスターはオオカミ3匹。

 そのオオカミが牙をむきだして向かってくる。

 先頭で向かってきたオオカミのこめかみに右のメイスを叩き込み、2匹目のオオカミのこめかみに左のメイスを叩き込んだ。

 やや遅れてきた3匹目のオオカミには右手のメイスを振り下ろして脳天を叩き割った。

 3匹目のオオカミは脳天を砕かれた衝撃であわや目玉を飛び出しそうだったが、かろうじて踏みとどまってくれた。

 3匹をたおすのに0.3秒もかかっていなかったんじゃないか?


 後ろの方で彼女が『うそ』と呟く声が聞こえた。


 俺は腰のナイフを引き抜いて淡々とオオカミの胸を割いて右手を突っ込んで中から核を取り出した。

 しまった!

 ウェットティッシュくらい用意しておけばよかった。

 仕方ないがここはタマちゃんに以心伝心だ。

 俺は一度リュックを下ろして、タマちゃんがおとなしくしているリュックの中にナイフと核を持ったままオオカミの血で汚れた右手を突っ込んだ。

 タマちゃんはすぐに俺の意図をくんでくれ、核とナイフと手袋に着いたオオカミの血の汚れを偽足で舐めとってくれた。

 その後俺はタオルを取り出して拭いたふりをして核は腰袋に入れ、タオルはリュックに戻した。


「次は、あんただ。

 モンスターの気配はもう掴んでるから俺が次も案内してやるよ。

 上から目線で適当なことを言ってくれたあんたの実力を俺に見せてくれ」

 そう言って俺は既に見つけていたターゲットに向かって歩き始めた。

 彼女は健気かどうか知らないが俺の後を黙ってついてきている。


 次のターゲットは300メートルほど先だった。

 200メートルほど進んだあたりから気配が伝わってき始めた。

 坑道の曲がりの先だ。

 今度は大蜘蛛、数は2匹か3匹か。

 俺にとっては多い方がいいんだけど。

「おそらく大蜘蛛だ」

 俺はそう言って、腰から鋼棒を外して両手で構えた彼女の後ろに立った。


 すぐに大蜘蛛が3匹坑道の曲がりから現れ、軽いけれども耳障りな音をたてて彼女に迫った。


 最初の大蜘蛛に向かって彼女が鋼棒を突き出した。

 鋼棒は大蜘蛛に掠っただけだったため、もちろん致命傷にはならなかった。

 そのすきに残りの2匹の大蜘蛛が彼女に迫ったが、突きの姿勢からすぐに体勢を立て直した彼女が鋼棒を振り回したことで、その2匹はいったん引きさがり、仕切り直しになった。

 仕切り直しになったが、彼女自身は3匹に囲まれている。

 とにかく最初の1匹目をたおして負担を減らしていかなければずるずると時間だけが経ってしまう。


 彼女は意を決したらしく、無傷の大蜘蛛を無視して最初の大蜘蛛に突進し、上から鋼棒を叩きつけた。


 その一撃で大蜘蛛は動きを止めた。

 残る2匹の大蜘蛛のうち、1匹が彼女のすねに近づいてきたところを彼女が蹴飛ばし、その大蜘蛛は後退した。

 3匹目の大蜘蛛は彼女の後ろから彼女を襲おうとしたが、彼女が素早く振り向いたことで後ろに下がった。


 今度は彼女の蹴飛ばした大蜘蛛が彼女の顔目がけて飛んだ。

 大蜘蛛は空中で軌道を変えることはさすがにできず、彼女がタイミングを合わせて突き出した鋼棒で貫かれた。

 これで2匹。

 1対1になり余計な警戒をする必要がなくなった彼女は、最後の大蜘蛛に鋼棒を叩きつけて頭部を潰してしまった。

 彼女は黙って自分がたおした大蜘蛛から核を回収し、ウェットティッシュで核と手袋を拭いていた。


 時計を見ていたわけではないが、大蜘蛛3匹たおすのに1分近くかかっていたのではないか?

 少しは体を鍛えているようで、この程度の戦いでは彼女の息は切れてはいなかった。



 俺は彼女の近くまで歩いていき、彼女について講評してやった。

「俺はなるべく目立たないように冒険者やってるんだが、上から目線で絡んできたのはあんただ。

 少し辛口であんたのことを講評してやるよ。

 あんたはそこらの冒険者に比べれば、動きもいいし隙も少ない。

 だがそれだけだ。

 50歩100歩の域を出てはいない。

 上には上がいるんだよ。

 俺が100点だとすると、そこらの冒険者は1点。

 あんたは良くて3点だ」


 うつむいた彼女の顔はヘルメットで隠れている。

 なので何を考えているのか全く分からない。

「俺が勝ったってことでいいだろ?

 じゃあな」


 俺が彼女をその場に残して次のターゲットに向かおうとしたら、彼女が俺に向かって声をかけた。

「そのうちあなたに追いついてみせる。

 わたしの名まえはひかわりょうこ、あなたの名まえを教えてよ」


 名まえを教える義理はなかったのだが、なんとなく答えてしまった。

「俺の名まえは長谷川一郎、じゃあな」

 いずれダンジョン王になる男だ!

 当たり前だが最後の言葉は飲み込んだ。



 その日は変な女冒険者に絡まれたが、1日を通して88個の核を手に入れた。

 買い取り額は171万6千円。

 累計買い取り額は)5265万3千円+171万6千円=5436万9千円となった。



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― 新着の感想 ―
中々のつわものだったけど、勇者と比べてたら格が違ったか~
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