第60話 Cランク冒険者3、女冒険者
Cランク冒険者の初日は好調な滑り出しだった。
明日も頑張るぞー!
一夜明けてCランク冒険者2日目。
うちを7時に出た俺は肩にフィオナを乗せてダンジョンセンター近くに転移した。
そこからまっすぐ売店に向かった。
人目を気にしても仕方ないと開き直っているのでヘルメットは被っていない。
何となくじろじろ見られているようだが気にしたら負けだ。
食料と飲み物を買ってすぐに売店を出て武器預かり所に回った。
いつも他の武器と一緒に大剣クロも払い出してもらっているのだが、出番が全くないので一緒に払い出されてきたクロは返してメイス2本とナイフだけ受け取った。
背中にクロ用のホルダーを着けていたが、外すのも面倒なのでそのままにして武器類とヘルメットを装備して準備完了した。
そこからエスカレーターで1階に下りて改札を通って渦を抜け1階層に出た。
昨日は歩きながら朝食のサンドイッチを食べたが、今日は5階層に行って食べるつもりだ。
半分駆け足で階段小屋に到着し、改札を通って階段を下り2階層に。
2階層で他の冒険者の目を盗んで3階層の階段近くに転移。
3階層の階段前の改札を通って階段を下り4階層へ。
4階層では誰もいなかったのでそのまま昨日最後に5階層をあとにした坑道に転移した。
渦をくぐって5階層まで約30分。
時刻は午前7時40分。
すぐにディテクターを発動。
それほど遠くないところに反応があった。
俺は荷物を下ろさず、行儀は悪いが立ったまま5分ほどでサンドイッチを食べて牛乳パックを空にした。
さーて今日も元気に行くぞー!
手袋をはめてディテクターで見つけた反応に向かって駆けていき、出会い頭に左右の手に持ったメイスを各々一閃。
そして右手でもう一閃。
頭を潰された3匹の大蜘蛛が坑道の路面に転がった。
すぐにリュックから金色の偽足が伸びて大蜘蛛の死骸が消えて、俺の手元に3個の核が残った。
毎度アリー!
核を腰袋に入れて、次の反応に向かって駆けていく。
……。
午前中のサーチアンドデストロイの成果は核53個。
坑道の中をほとんど駆けていた。
ほとんどというのは、途中冒険者と出くわすと、いらぬ警戒をされてしまうので駆け抜けていくというわけにもいかない。
早歩きでその冒険者を追い抜いたり、次のディテクターの反応にターゲットを変えたりするので時間を取ってしまう。
そこらの冒険者ってなぜか、のっそり歩いているんだよ。
もっとキビキビ、キリキリ動かんかい!
いつものように荷物を下ろし坑道の壁にもたれるように座り込んで昼食のおむすびを食べていたら、向こうの方から冒険者が歩いてきた。
珍しいというか、Cランクの4、5階層で初めて見るソロプレーヤーだ。
体つきからすると女性冒険者。
背負っているリュックは大きくないので俺と同じで核だけを集めているのだろう。
その冒険者は真っ赤な地に黒いラインの入ったフルフェイスヘルメットを被っていた。
防刃ジャケットはその逆で黒地に太めの赤のラインが入っている。
ちょっとカッコいい。
メイスとは違って丸められた先端に向かってわずかに細くなった鋼の棒のようなものを腰に下げていた。
鋼棒のグリップ部分は黒い素材が巻かれて握りやすくなっている。
先端が丸くなっているので叩きつけるだけでなく突いても有効そうな武器だ。
俺のメイスは柄の部分がカーボンファイバーなので重さ的にはその女性冒険者の腰に下げた鋼棒の方が重そうに見える。
ちょっと欲しいカモ?
俺がおむすびを食べながらその冒険者をジロジロ見ていたのが悪かったのか、俺の目の前でその冒険者が立ち止まった。
そして俺の方を見た。
「あなた、フィギュア男?
オホン、いや失礼。
あなた高校生冒険者?」
フルフェイスヘルメットからくぐもってはいるが若い女性の声がした。
それはそうと、身に覚えはありまくりだけど、俺ってフィギュア男なの?
「はい。いちおう高校1年です」
「高校1年でCランク。
どんなトリックを使ったのかしら?」
なんか、妙に上から目線だな。
「トリックの意味は分かりませんが最初にラッキーで大物を引き当てたあとは地道に稼いでますよ」
「あなた今年の4月に冒険者になったとしても今はまだ8月だから、4カ月、いや5カ月か。
それくらいで5千万円なんて稼げるわけないじゃない」
そう言われても、稼げたんだから仕方ないだろ。
なんだか腹が立ってきた。
「上から目線でエラそうに。
あんたが何をどう思おうが今現在俺はCランクの冒険者なんだよ」
なんなら勝負してやろうか? とか考えたが、素人相手に大人げないと思いそこはこらえた。
「ふん。
ならわたしと勝負しない?」
なんだこいつ? 自分から言い出したよ。
「なんで俺があんたと勝負しなけりゃならない?」
「あなたが実力でCランクになったわけじゃないって証明するためよ」
「証明したらどうなる?」
「わたしは不正が大嫌いなの。
あなたの不正を暴けばスーッとするの」
こいつは危ないやつだ。
フルフェイスヘルメットで目が見えないからわからないが危ない目をしているに違いない。
こんな手合にはかかわらないに越したことはないが、ちゃんと対応しないと後々までしつこく絡んでくるに違いない。
「じゃあ、俺とお前で決闘するということでいいんだな?」
「何言ってるのよ。
そんなことできるわけないじゃない。
どちらがより多くモンスターの核を集められるか競うのよ」
「そ。ならそれでいいぜ。
ちなみに俺は午前中、8時前からだが53個核を集めた。
あんたは何個集めてる?」
「なに誰にでも分かるような嘘言ってるの?
午前中だけでそんな数集められるわけないじゃない」
俺は黙ってベルトから外していた腰袋を女冒険者に突き出し、おむすびを頬張った。
女冒険者は、一度首をかしげて最初「?」の仕草をしたがすぐに俺の差し出した腰袋を受け取り中を見た。
「これって、他人に見せるために何日もかかって集めた核でしょ。
騙されないわよ」
女冒険者は、そう言って腰袋を突き返してきた。
こいつには何を言っても駄目だな。
「核を見せても信用できないんならどうやって核の数を競うんだ?」
「そ、それは……。
そうだ、一緒に坑道を回って順番にモンスターをたおすのよ。
たおす時間が短い方が勝ち。
それでどう?」
「別に何でもいい。
昼食を食べ終わったら始めよう。
あんたは昼食べ終わってるのか?」
「まだ」
「ならそこらに座って済ませろよ」
「そうする」
女冒険者は荷物を置いて向かいの坑道の壁に寄りかかるようにして座った。
ヘルメットをとったら、女の子と言ってもいい若い女性の顔が現れた。
黒髪のショート。
化粧気はないが肌はきめ細かく上品な鼻と小さめの口が印象的だった。
「ご飯食べるからこっち見ないでよ」
確かに女性の食事をじろじろ見るのは失礼なので俺は視線を外し自分の食事に集中した。
 




