第55話 2泊3日ダンジョンツアー4、2、3日目
10年以上前の訓練終盤の夢を見た。
俺の記憶通りの夢だったので、夢の内容は覚えている。
夢の中では思い出せなかったがあの上級騎士の名まえはハイマンさんだった。
亡くなった2人の若手騎士の名は思い出せない。
腕時計を見たら、午前5時40分だった。
予定より少し早いがもう起きてもいいだろう。
バスタオルを丸めた枕にはフィオナがまだ寝ていたが、フィオナの反対側のバスタオルの先に核が2つ転がっていた。
俺が気付かぬ間にタマちゃんがたおしてしまったようだ。
今まで寝ていてもモンスターの気配に気付けなかったことなどなかったのだが、どうも平和ボケしているようだ。
鍛え直すにしても、このダンジョンでは緊張感が足らな過ぎてちょっと難しい。
Sランクになってピリピリした戦いでもすればすぐに平和ボケは治ると思うが、いつになることやら。
転がっていた核はタマちゃんに礼を言ってリュックの脇に置いておいた腰袋に入れておいた。
俺がごそごそ始めたものだから、フィオナも目を覚ましたようで、バスタオル枕の上であくびしながら大きく伸びをした。
かわいいなー。
丸めた2枚の毛布はタマちゃんに収納してもらい、バスタオル枕をリュックにしまってから、歯磨きガムをかんだ。
そのあと諸々をこなした俺は、朝食をとることにした。
朝食はサンドイッチと調理パン。
飲み物は紅茶のペットボトル。
俺がサンドイッチと調理パン2つずつで、タマちゃんがサンドイッチと調理パン1つずつ。
こういったものは久しぶりなのでおいしかった。
フィオナにはハチミツをやった。
食事が終わったところでハチミツだらけになったフィオナの手と口を濡らしたタオルで拭いてやり、ランタンをリュックにしまった。
俺はヘルメットを被り手袋をはめた。
これで準備が整った。
ざっと周囲を見回し何も残したものがないことを確認してサーチアンドデストロイに旅立った。
ディテクターにすぐに反応があり、現場に急行してメイスを1振り。
リュックから伸びたタマちゃんの偽足がモンスターの死骸を処理して、核は俺の左手に。
核は俺の左手からベルトから下げた腰袋に入れられる。
フィオナは俺の肩の上。
ダンジョン内に昼夜の区分はないものの、やはり6時台から9時台は冒険者の数は少なくなるようで、冒険者に遭うことなく3時間ほどサーチアンドデストロイを続けた。
寝ているあいだにタマちゃんが回収した核も含めて、ツアー2日目、ここまでで41個の核を手に入れた。
時刻は9時半。
休憩のため立ち止まり、タマちゃんの偽足から受け取った緑茶のペットボトルのキャップを開けゴクゴクと飲んだ。
緑茶がうまい。
立ったままストレッチして、それから再始動した。
ほかの冒険者を避けながら移動していたのだがどうしても避けられず、途中一度3人チームが大ネズミと戦っているところに出くわした。
さすがに3人がかりなので危なげなく大ネズミは退治された。
彼らは大ネズミから核を取り出してそのまま解体し始めた。
大ネズミの肉も売れることをすっかり忘れていた。
少々重くなってもお金になる以上、冒険者として当然だ。
俺が坑道の端を通って彼らの脇を通り過ぎたら、その3人のキャップランプの光が俺を照らした。
武器を持った赤の他人が近くを通れば警戒するのは当然だと思うが、もう少しランプの明かりを落としてもらいたいものだ。
だからといって俺は何も言うことなくその場を去った。
その現場から10分ほど歩いたところで俺は昼食をとることにした。
先ほどの休憩から2時間ほどのサーチアンドデストロイで核を20個手に入れている。
これで2日目の午前中に手に入れた核の数は61個になった。
荷物を下ろして、坑道の壁にもたれていつものように店開きした。
昼食はおむすびなので、食べながら肩に止まったフィオナにご飯つぶをやり、リュックから伸びたタマちゃんの偽足におむすびを持たせた。
俺たちがそうやって昼食をとっていたら、おそらく先ほどの3人組が前を通っていった。
その際またキャップランプで照らされた。
実にマナーのなっていない連中だ。
少し腹が立ったが、面倒でもあるし、こいつらそのうち痛い目に遭え! とか呪うだけで済ませてやった。
午後に入り今日の上がりと考えている午後9時まで、途中2回の休憩を挟んだ。
その間手に入れた核は72個。
2日目合計で133個
ツアー2日間で、103+133=236個の核を手に入れた。
1個1万円で売れたとすると236万。
今までの累計買い取り額は確か4260万円。
合算すると4500万円弱。
夏休み中の累計買い取り額5000万円=Cランク昇格が見えてきた!
2日目も初日同様袋小路で野営した。
夕食を食べ、片付けたり寝る用意をしたりで、タマちゃんに不寝番を頼んで寝たのは午後10時ごろ。
夜間というか、眠りについて、どれくらい経ったかモンスターらしき気配で目が覚めた。
ツアー2日目にして勘が戻ってきたようだ。
俺は横で眠るフィオナを起こさないように起き上がったところ、タマちゃんの偽足がすごい勢いで伸びていき、おそらくムカデを一瞬で処分してしまった。
伸びた金色の偽足があっという間に戻ってきて、核が1つ俺の手の上にのっかっていた。
手のひらの上にのっかているこの核だが、1万円前後で売れる。
高校生の1カ月の小遣いとすれば多い方だろう。
それが半分寝ているあいだに手に入る。
こんなのでいいのだろうか?
もちろんいい。
金色の核は確かに惜しかったが、タマちゃんが代わりに手に入ったことの方が俺にとっては100倍プラスだな。
タマちゃんに礼を言って、手の上の核を袋に入れ俺は毛布に横になって目をつむった。
次に目が覚めた時、腕時計を見たら午前5時半だった。
ツアー最終日の朝だ。
昨日と同じで少し早かったが、そのまま朝の支度をした。
すぐにフィオナも起きて、俺の肩に止まった。
諸々を済ませた後、朝食をとった。
朝食は昨日と同じサンドイッチと調理パンだが、今日もおいしかった。
飲み物は冷たい紅茶なんだけど、次に機会があるようなら牛乳のパックを用意しよう。
6時少し過ぎからサーチアンドデストロイを始め、途中1度休憩して12時少し前に昼食休憩に入った。
午前中の成果は42個。
30分ほどの休憩の後、ツアー最後のサーチアンドデストロイを始めた。
終業予定の午後3時半まで休憩を取ることもなく駆けまわり、26個の核を手に入れた。
3日目のパフォーマンスは核68個。
3日間のパフォーマンスは103+133+68=304個。
そこから駆け足で40分かけて渦を越えた。
買い取り所の個室。
「モンスターの核を持ってきました、買い取りお願いします」
「トレイの上に核を入れてください」
腰袋をベルトから外してトレイの上に空けた。
その後、レジ袋2つ取り出してそれぞれトレイの上に空けた。
300個を超える核はトレイ一杯に広がり、一部は重なった。
「これをおひとりで?」
「はい。
2泊3日で頑張りました」
「それにしても。
あっ! 長谷川さんでしたね」
長谷川さんですよ。
304個も核があったけれどもそれほど待たされることなく買い取り額が分かった。
304個で306万5千円となった。
累計買い取り額は4571万1千円となった。
フフフフ。
武器を預けて、ダンジョンセンターを後にした俺は4時40分にうちの玄関前に転移した。
「ただいまー!」




