第52話 吉田先生2。2泊3日ダンジョンツアー
昼食の後片付けをして、装備を身に着け、吉田先生と2人で午後からモンスター狩をすることになった。
午後からの成果は2人で山分けだ。
「モンスターの気配が、遠くから分かるから先生は僕についてきてください」
「そんなことが本当にできるとは思えないけど」
「適当に歩いてもそのうちモンスターに遭遇するわけだから、偶然だと言われればどうしようもありませんけどね」
既に俺はディテクターでモンスターのアタリを掴んでいるし、そのモンスターはこっちに向かってきている。
「坑道の向こうから何かくる」
吉田先生も気づいたようだ。
わずかだが足音がするので大ネズミだろう。
予想通り大ネズミが1匹坑道の曲がりから現れた。
「先生どうします?
俺がたおしますか?」
「手伝わなくてだいじょうぶなの?」
「はい。ただのネズミですから」
俺はクロを引き抜かず、最初に買ったメイスを腰から外して構え、俺たちを目にしてこっちに向かって走り出した大ネズミに向かって駆けだした。
そして右手に持っメイスを軽く一振り。
頭蓋をカチ割られた大ネズミが坑道の路面に転がった。
「すごい」
後ろから吉田先生が呟く声が聞こえた。
ヤヴァい。
何も考えず、普通にたおしてしまった。
やり過ぎた。
少しぐらい苦戦した振りをして立ち回ればよかったけど、もはや後の祭り。
先生の前でタマちゃんを使う訳にはいかないので、久しぶりにナイフを抜いて大ネズミの胸を割き中から核をえぐり出した。
先生が大判のウェットティッシュを差し出してくれたので、核をそれで拭いて先生に手渡し、手袋とナイフも拭いておいた。
「ねえ、長谷川くん、今の目にもとまらぬ一撃って……。
まあいいわ。
とにかくすごかったわね」
先生も何かを察してくれたようだ。
これならだいじょうぶかも? いや、逆か。
次のアタリも掴んでいたので、俺は先生を誘導してそっちに向かっていった。
「長谷川くん、坑道の分岐でも迷いなく進んでいくのもさっき言ってた気配がするから?」
「はい、そんなところです。
だいぶ気配に近いけど、足音がしないからムカデか大蜘蛛かスライムか。
おそらくスライムじゃないかな。
今度は先生がたおしますか?」
「そうね。もしムカデだったら長谷川くん頼むわよ」
スライムらしいふくらみがこっちに這い進むのが見えてきた。
気配はその一つだけなので、もちろん天井とかにムカデは潜んでいない。
先生もスライムを視認したらしくメイスを構えて近づいていき、3度メイスを振るったところで手が止まった。
ここのスライムは1階層のスライムより幾分丈夫かもしれないけれど先生でもスライムに3度メイスを振るうのか。
秋ヶ瀬ウォリアーズの3人が特別だったわけじゃなかったようだ。いい勉強になった。
たおされると液状化するスライムだったこともあり先生が核を回収した。
「長谷川くん、ホントにモンスターの気配が分かるんだね」
「一応」
「生まれながらの冒険者なんだ」
「それなりに苦労しているもので」
「そうなんだ」
「そうなんです」
「高1で苦労と言っても高校受験くらいじゃないの?」
「それも含めて」
そこから先も安定してモンスターをたおしていった。
時刻は3時過ぎたので、そろそろ帰りましょうと先生に言った。
「そうね。
2時間半で16個も核を回収できたなんて驚きだわ。
冗談じゃなく、ほんとに長谷川くんは本物の冒険者なんだ」
それには何も答えなかったが、おだてられればうれしいもので、ついニヤニヤしてしまった。
1時間ほどかけて渦を抜け、2人で買い取り所の個室に入った。
午後からの16個の核で15万8千円。
折半して1人7万9千円。
その後俺が午前中手に入れた30個の核を腰袋からジャラジャラとトレイの上に出したら先生が驚いた。
その買い取り額が、31万2千円。
午前午後合計で39万1千円。
ちなみに先生の午前中の成果は核が3個だった。
これで俺の累計買い取り額は4264万6千円となった。
教師の給料がどれくらいか知らないが、先生が喜んでいたところをみるとそれなりの収穫だったのだろう。
先生とは武器預かり所で武器を返したところで別れた。
曰く、
「教師と生徒がプライベートで一緒にいると変なうわさが立つから」
確かに先生は美人だし、独身かどうかは知らないけれど、ソロプレーヤーのところをみるとおそらく独身だろう。
後もう1つ。
「長谷川くんのそのフィギュア、動いていない?」
「動くようなギミックは付けてませんよ」
「そうかなー」
先生がしきりに首をかしげていた。
この調子なら、フィオナはリュックのポケットの中に隠れなくても、俺の肩に止まっていてよさそうだ。
Cランクのハードル累計買い取り額5千万円まであと、750万円。
夏休みはあと18日。
1日あたり40万円ちょっと。
明日からは2泊3日のツアーだ。これなら夏休み中に達成できるかもしれない。
そして翌日。
2泊3日の泊りがけダンジョンツアー初日。
ツアー用に調達した食料は、今日の昼食から明後日の昼までの7食分。
夕食用に巻きずしといなりずしのセット×6、昼食用にいつもとは違うがおむすびセット×9、朝食用にサンドイッチと調理パン×6。
俺とタマちゃんの食料の比率は2対1で考えている。
フィオナ用にハチミツの瓶が1つ。プラスチックの小皿とコーヒーかき混ぜ用のプラスチックの小さなスプーンを用意した。
飲み物は炭酸水のペットボトル×6、緑茶のペットボトル×6、紅茶のペットボトル×6
いずれもタマちゃんアイテムボックスに収納している。
午前7時。
「いってきまーす」
『気を付けていってくるんだぞ』
『フィオナちゃん、いってらっしゃーい』
母さん、フィオナがいない分、父さんと仲良くやってくれ。
ツアーは2泊3日なので俺が丸1日うちにいないのは1日しかなかったけど父さん母さんは仲が一段と良くなり、弟、妹ができても俺は驚かないし、ウェルカムだよ。
口にはしないけど。
いつもより1時間早くうちを出た俺は、玄関先でダンジョンセンターの少し手前のわき道に転移した。
今日は売店に寄る必要はないので直接武器預かり所に行き、クロとほかの武器を受け取った。
クロをホルダーに固定して他の武器も装備してリュックを担ぎ直し、ヘルメットをかぶって準備完了。
俺は颯爽と改札を抜けて渦をくぐった。
フィオナは知らぬ間に俺の肩に止まってフィギュアしてた。




