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第49話 池の底


 サイタマダンジョン1階層内の通称山田池のそばで俺は秋ヶ瀬ウォリアーズの3人と一緒にレジャーシートの上で昼食のおむすびパックを開けておむすびをぱくついた。


「そういえば、ここのところ階段小屋が閉まってBランク以上の人が下に潜れなくなってたけど長谷川くんはどうしてたの?」

「雑用したり、あとトウキョウダンジョンに一度行ったんだ」

「トウキョウダンジョン、どうだった?」

「ここと変わらなかった。

 なぜかあそこにも下から上がってきたモンスターがいたから結構儲かった」

「そのモンスターって大トカゲだったの?」

「大トカゲもいたけどオオカミもいた」

「どれも複数で?」

「オオカミは1度だけだったけど10匹だったと思う。大トカゲは何匹だったかなー」

「10匹一度にたおしちゃったんだよね?」

「たくさんいればいるほど効率いいんだけど、なかなかまとまって出てくれないんだよ」


 斉藤さんが目頭の間を片手で揉みながら、

「長谷川くんが嘘を言ってないとは分かってるけど、大抵の人はびっくりを通り越して呆れるよ」

 そうかもしれないけど、事実そう思ってるんだから仕方ない。


 俺はおむすびパック2つ食べ終えて緑茶のペットボトルを一飲みした。

 3人も食べ終えたので、

「歩きながらの腹ごなしでいいだろう。

 そろそろ出発しようか」

 タマちゃんは俺の言葉で自分からリュックの中に入っていった。


 3人は感心して、

「タマちゃんかしこーい」

「すごい」

「さすがはテイムドモンスター」

 などと言いながら昼食の後始末をした。



 まだ午前中だったけれど、俺たちは身支度を整え午後からのモンスター狩を始めた。

 特に方向を定めず行き当たりばったりの徘徊モードだ。


 ディテクターオーン!


 午後からのモンスター狩を始めてすぐにディテクターを発動したら、池の中に何かを見つけた。

 池の真ん中なので手出しはできないのだが、気になる。

「池の真ん中に何かいるみたいだ」

 池の水は透明なので目を凝らせば何か見えるかも知れないと思ったが、光線の加減で全然見えなかった。

 池の中には魚の類はいないという話だったのに、ディテクターでは何かがいることは分かるが何がいるのかは分からない。

 いったい何がいるんだろう?

 気になるなー。

 秋ヶ瀬ウォリアーズの3人も目を凝らして池を眺めているが、何も見つけられないようだ。


 何かいい手はないか?

 池に潜って調べてみるか。

 幸い池の周りに冒険者は少ないし、タオルもあるからパンツになって泳げばなんてことなさそうだ。


「気になるから調べてくる」

 俺はリュックを下ろして防具を外して脱ぎ始めた。

「「キャー」」

 とか言いながら秋ヶ瀬ウォリアーズの3人は両手で顔を覆い、指の間から俺をじろじろ見てる。


 上下を脱いでいきとうとうパンツ一丁になったら、

「「ステキー」」

 キャーからステキーに代わってあからさまに俺の体をガン見し始めた。

 彼女たちが大きな声を上げたから、池の周りにいる他の冒険者の注目を集めたかと思ったがそうでもなさそうだ。


 普通に池に飛び込んでしまうとパンツが脱げてしまうので、俺は足から池の中に飛び込んだ。

 なるべく音を立てないように意識したものの、ちゃんとドボーンと大きな音がした。

 さすがに他の冒険者たちの注意を引いたと思うが、今さらどうしようもない。

 俺は次善の策として潜ったままでディテクターで見つけた何かに向かって泳いでいった。


 この辺りだというところで池の底を探ったところ、白い池の砂の上に何かが突き出ていた。

 見た感じは剣のグリップだ。

 そのグリップを持って足を池の底について引き抜こうとしたのだが、俺の力をもってしても引き抜けなかった。

 これ以上頑張ってしまうと潜水したままでは戻れなくなりそうなので、俺はやむなく引き返して岸に這いあがった。


「長谷川くん、潜って泳いでいったところは見えたけど、そのうち見えなくなっちゃったから心配したよ」

 もしも溺れてどざえもんにでもなってたら、山田池が長谷川池に改名されたかもしれなかったわけだ。

 ちょっと軽率だったかな。


「それで、どうだった?」

「ハー、ハー。

 池の底から剣のグリップのようなものが突き出ていたから、引っこ抜こうとしたんだけど抜けなかった」

「長谷川くん、それでどうするの?」

「諦めるの?」

「いや。タマちゃんに取ってきてもらう。

 タマちゃん」

 タマちゃんを呼んだらリュックの中から金色のタマちゃんが這い出てきた。


「タマちゃん、あの辺りの池の底に剣が突き刺さっている。

 それを収納して持ち帰ってきてくれ」

 俺は池の一点を指さしてタマちゃんに剣の回収を頼んだ。

 タマちゃんは一度震えて、池に向かって這っていきそのまま池の中に沈んでいった。


 タオルで体を拭きながら待つこと30秒。

 タマちゃんが帰ってきた。

 文字通りあっという間だ。

 最初からタマちゃんに頼んでおけば、……。

 いやいや、池の中に何があるか分からないから、俺が泳いでいったことには意味があったのだ。


「タマちゃん、剣を収納してたら出してくれ」

 一度震えたタマちゃんの体から剣のグリップが浮き上がってきた。

 剣のガード(剣のツバ)まで現れたところずいぶん長いグリップだ。

 それから剣身が現れ始めた。

 剣の排出が終わると剣がたおれてしまうので俺がグリップを持って支えておいた。

 タマちゃんから排出された剣は、大型の両刃の剣、いわゆる大剣だった。

 剣身は黒ずんでいたがさびなどはなく黒ずみも元からそういった色だったように見える。

 グリップやガード、剣身に装飾などは施されていないばかりか両刃とも刃引きされていたが、ただものではない気配が漂っていた。


 一言でいえば、こんなダンジョンの1階層で見つかるような剣ではない。


「すごい」

「これって大事件じゃない?」

「どうして?」

「だって、池の中でこんなのが見つかったって知れ渡ったら、池の中冒険者でいっぱいになっちゃうよ」

「そうよね」

 ……。


 彼女たちが議論しているあいだ、俺は濡れたパンツをタオルでよく拭いてなるべく水分を落としてその上からズボンをはいた。


 うーん。非常に気持ちが悪い。

 彼女たちがいなければノーパンでズボンをはいたのだが。

 30分も俺の体温で温めれば乾くだろ。


 すっかり服を着終わり、防具も着け終わった。

 やはり股間がしっくりこない。


「この大剣は武器預かり所に預けないといけないんだったよな?」

「武器のたぐいを見つけたら、買い取り所で売るか、売らない場合は預かり所に行って登録したうえで預けるって講習で習ったわ。

 それはそうと長谷川くん、こんな大きな剣使えるの?」

「どちらかというと、メイスより大剣の方が得意かな」

「長谷川くん、大剣を扱ったことがあるんだ?」

「うん。まあ、それなりにね」


 斉藤さんが目を細めて俺の顔を覗き込んできた。

「ふーん。何て言うか、長谷川くんて謎が多いよね」

「それ言える」

「わたしもそう思ってた」

 日高さんと中川さんが追撃してきた。


「人生いろいろだから」

 確かにその通り。いい言葉だなー。


「「何よそれ?」」

 誰も知らなかった。

 親父が好きな歌で、子どものころ一緒に風呂のなかで歌っていたから俺は今でもよく覚えてるんだけどなー。


 来週の木曜は盆にかかるので秋ヶ瀬ウォリアーズの3人はそれぞれ帰省したり、帰省されたりするそうだ。

 そのため、1回休みとなり、その次の木曜日、一緒に活動することになった。



島倉千代子 - 人生いろいろ https://www.youtube.com/watch?v=ZNUGTZaBI74

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― 新着の感想 ―
うちは母さんがそれ好きでカラオケの時に歌ってたな〜
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