第47話 タマちゃん4、収納
部屋に戻ったら、タマちゃんは相変わらず段ボール箱の底で広がって四角くなっていた。
フィオナは自分の段ボール箱に敷かれたフカフカのバスタオルの上で寝ていたみたいだけど、俺が帰ってきたので起きたようだ。
俺は荷物を片付けてから、ベッドに横になって一休みした。
少しばかり精神的に疲れたようだ。
そしたらフィオナが飛んできて俺の枕の上に座った。
横を向けばフィオナ。
かわいいなー。
癒されるなー。
その日はそれくらいで終わった。
父さんは遅いそうだったので、ケーキは夕食後しばらくして母さんと食べた。
夕食にはフィオナも付いてきていたので、フィオナにもケーキのクリームをやったのだが、ハチミツ同様手を突っ込んで手に付いたクリームをなめるものだから、口の周りがクリームだらけになった。
かわいいなー。
翌日。
俺はフィオナに癒されたおかげで、やる気満々でサイタマダンジョンに出勤した。
ダンジョンセンターの脇に転移で現れ、駆け足で売店に直行。
おむすびセットを3つと緑茶のペットボトルを2本買って、本棟に入り武器預かり所に回って武器を払い出し、ヘルメットをかぶり準備完了した。
1階の改札を通って渦を越えた。
太陽はないが1階層は今日もいい天気だ。
同じように階段小屋を目指す冒険者たちを駆け足で追い抜きながら階段小屋に到着。
改札機に冒険者証をタッチしてから手袋をはめ、階段を駆け下りて2階層へ。
階段下から少し進んで人目のないことを確かめ3階層に転移した。
最初から転移で3階層に跳んでいかないのは、自動改札を通ることで、俺がちゃんとダンジョンに入ったことを証明するためだ。
買い取り所に核を持ち込んだ時、1階層の改札を通過した記録がないとマズそうだものな。
今回転移した場所はモンスターハウスのあった坑道あたりだ。
俺が崩したはずのモンスターハウスへの穴を少し探してみたが、穴は塞がっていた。
これもダンジョンあるあるだな。知らんけど。
そこから俺は例の出てこい音頭を歌いながら坑道徘徊を始めた。
出てこい、出てこい、モンスター。
……。
そろそろ昼かなと思い腕時計を見たら12時近かった。
ディテクターで近くに何もいないことを確かめて昼にすることにした。
やはりあのビッグウェーブは去っていたようで、午前中の成果は、核が16個だけだった。
もちろん、下から上がってきたようなモンスターは皆無で3階層モンスターの核だけだ。
核は全部レジ袋に入れている。
意外と核は丈夫でレジ袋の中に入れてお互いぶつかりあっていても割れはしないようだ。
これだけでも15万円近くで売れるはずなのでBランクの冒険者とすれば十分な金額なのだろうが、ビッグウェーブに一度乗った俺にとって物足りないのは事実だ。
リュックを置いて坑道の壁に寄りかかって座り込み、弁当のおむすびパックと緑茶のペットボトルをリュックから出す。
フィオナはリュックを置いたところでポケットから飛び出して俺の右肩に止まっている。
タマちゃんも一緒に出ている。
タマちゃんの場合はここまで核の数と同じ16匹のモンスターを食べているからお腹が空いているということはないはずだがちゃんとおむすびは食べる。
肩に止まったフィオナにご飯つぶをあげながら俺はおむすびにかぶりついた。
思うに、階段からつながっているこの坑道とは隔離された坑道があればだれにも邪魔されずにモンスターを狩れるはず。
現にモンスターハウスは俺が穴を開けなければこの坑道につながらなかった。
そう考えると、隔離空間があってもおかしくない。
それこそ俺のダンジョン、プライベートダンジョンだ。
ディテクターで見つけられればいいのだが。
何か便利な魔術はないだろうか?
あったとして俺が魔術を編み出せるわけでもないからどうしようもないけど。
よく考えたらSランク冒険者になってほかの連中がついてこられないような深い階層まで潜ってしまえばこっちのものか。
ということは早めにSランクへの切符となる10億稼がねば。
結局そこに行きつくわけだ。
昼食を食べ終えて一休みした俺は、少し休憩したあとプライベートダンジョンを念頭に置いてさまよい始めた。
当然のごとくプライベートダンジョンは見つからないまま、撤収の目安としている3時半になった。
午後の成果は13個の核。
午前と合わせて29個。
ソロプレイヤーとしてはまずまずの成果だと思う。核を1個タマちゃんにご褒美にあげている。核を1つ食べていいと言ったら、体を震わせたので多分喜んだのだろう。
駆け足で戻っていき、4時20分には買い取り所の個室で核をカウンターの上のトレイの上にレジ袋からコロコロと出していた。
28個の核の買い取り総額は27万8千円。
累計買い取り額は4060万円ちょうどとなった。
あと1千万円弱。
夏休みは残り25日。1日当り40万。
ビッグウェーブ中だったら楽勝だったが、今だときつそうだ。
何かビッグウェーブに続くイベントがないものか?
武器預かり所にメイス2本とナイフを返した俺は、ダンジョンセンター本棟から出て適当なところでうちの玄関前に転移した。
風呂に入って夕食を食べ終え、部屋に戻って机の椅子に座ってゆっくりしていたら、斉藤さんから明日のリマインダーメールが届いた。
前回同様「楽しみにしている」と返信しておいた。
そう言えば斉藤さんたちと潜るのは明日も含めて8月中にあと4回ある。それを考えると夏休み中に5000万円達成するには1日50万必要になる。
無理とは言わないがかなり厳しい。
そうだ!
泊りがけでダンジョンに潜るのはどうだ?
2泊3日。
初日は9時から午後9時。
2日目は6時から午後9時
3日目は6時から午後3時半。
これだと12時間+15時間+9時間半-昼休憩3日分(3時間)=33時間半
いつもは実質6時間労働だから3日で18時間。
普段の1日の2倍近く稼げる! はずだ。
そう言えば、タマちゃんはアイテムボックスの下位互換だと思って妖精女王のフィアからアイテムボックスではなく転移を貰ったわけだけど、タマちゃんの収納能力を利用しない手はない。
容量については心配していないが、中でおむすびパックが腐ったりしてはアイテムボックスとしての利用が制限されてしまう。
そこで俺はよく聞く、時間停止機能がタマちゃんの体内にあるかないか確かめることにした。
方法は簡単。
俺の机の上に置いてある卓上時計をタマちゃんに飲み込ませ、時間を置いて吐きださせ、時計が進んでいるか確かめれば一発で時間停止機能がついているかどうか判明する。
ではさっそくやってみよう。
机の上の卓上時計を持って、段ボール箱の底で四角くなって伸びているタマちゃんの上に置いた。
「タマちゃん。それは卓上時計と言うんだが、これを体の中に入れて吸収せずにしばらくそのままにしてくれ」
すぐに卓上時計はタマちゃんの体に沈んでいき見えなくなった。
3分ほど待って、タマちゃんに、
「さっきの卓上時計を吐き出してくれ」と言ったら、すぐに卓上時計がタマちゃんの体から湧き出てきた。
卓上時計の表示時刻を俺の腕時計と比べると3分遅れていた。
なんだ、時間停止機能がついてるじゃないか。
やったぜ!
「タマちゃん、さっきみたいに吸収せずに体に入れることをこれから収納って呼ぶから、俺が収納してくれと言ったら渡された物を吸収せずに体の中に入れたままにしてくれ」
タマちゃんにそう言ったら、タマちゃんが体を震わせた。
タマちゃんは実に頭がいい。
これでかなりの物を持ち運べるはずだ。
ワクワクしてきたぞ。




